いまなお、世界中で多くのファンに
愛されている『MOTHER』シリーズ。
全3作品のことばをすべて収録した本、
「MOTHERのことば。」も発売されました。
本の発売をきっかけに、ファンの人たちに
『MOTHER』のなかで思い出に残っている
ことばはなんですか? とうかがったところ、
たくさんの方が回答してくださいました。
そのなかから印象深い7つのことばについて、
『MOTHER』の作者、糸井重里に取材しました。
最初は「ちゃんと憶えてるかなぁ?」と
言っていた糸井重里でしたが‥‥。
『MOTHER』ファンの代表として
聞き手を務めるのは、ほぼ日の永田です。
写真:東 京祐
- ──
- それでは、つぎのことばです。
今回選んだ7つのことばは、
『MOTHER』ファンのみなさんから募集した
「心に残っているセリフ」を参考にしています。
数を厳密に集計したわけではありませんが、
このことばもとても多くの方が選んでいました。
1作目の『MOTHER』に登場したことばです。
きっと また かえってくるのよ。
くるしいときに ここに‥‥
みんな あなたを
すきなんだから。
- 糸井
- ああー、これですか。
これも、大きいことばですね。
- ──
- マジカント、クイーンマリーのところで
聞けることばです。
このセリフについて、
「学校や日々の生活でうまくいかなかったとき、
ゲームのなかのこのことばで救われた」
とコメントしていた人が多かったです。
- 糸井
- ああ、なるほど。
「みんなあなたをすきなんだから」
のところがいいんだね。
それは、大きいですよね。
敵キャラも含めて「みんな」、
あなたを好きなんだもの。
- ──
- そうですね。ゲームの後半は
マジカントに行く機会も増えますから、
行くたびにそう言ってもらえると、
うれしいでしょうね。
- 糸井
- こういうのを書いてるときは、
なんにも考えずに書けてる。
そういうことばは、やっぱり力があります。
- ──
- ひとつめのことばの
「えらいひとや おかねもちに‥‥」と同じで、
こころにすっと入ってくることばですね。
- 糸井
- こういうことばは、歌やドラマなんかに、
よく出てくるような平凡なものなんだけど、
ゲームのストーリーの中で読むと、
とってもうれしいんですよね。
そして、このことばも、「母」ですねぇ‥‥。
「クイーンマリー」というのは、
はっきり説明されてはいないんだけど、
世界というか、すべてを象徴する
「母の母」みたいなものなので、
自己肯定感を耕してくれる存在なんですよね。
みんなが、時間を超えて
『MOTHER』というゲームを好きになる理由は
こういうところにあるのかぁという気がします。
- ──
- ああ、なるほど。
- 糸井
- へぇー、こういうことばを
みんなが憶えてくれているんだね。
なんか、それは、よかったな(笑)。
ああー、おもしろいなぁ。
このゲームはなぁ、やっぱりなぁ。
- ──
- 糸井さんがそういうときは、
どの立場から言ってるのか
わからなくておもしろいです。
- 糸井
- (笑)
- ──
- それでは、つぎのことばです。
つぎは、ガラッと雰囲気が変わりまして、
こころにしみる、とかじゃないんだけど、
みんながものすごくよく憶えていることば。
『MOTHER2』に出てきた、これです。
ようこそ ムーンサイドへ。
よムうこ そーンサイドへ。
ムよーン サうイこドそへ。
- 糸井
- ああー、これ、ヤだよねぇ(笑)。
- ──
- 強烈でした。
トラウマのように憶えてます。
- 糸井
- これはねぇ、戸田(昭吾)くんと
ふたりで手分けしてつくったと思う。
- ──
- シナリオアシスタントの戸田昭吾さんと。
- 糸井
- どっちがどれをどう書いたか、
みたいなことは、もうわからない。
「こういうことをしよう」
って決めてやってたから。
- ──
- 「こういうこと」というのは?
- 糸井
- コンセプトとしては「ひずみ」ですね。
ムーンサイドはBGMがひずんでますけど、
ああいう音のひずみのように、
ことばもひずませているわけです。
ことばそのものに
ディストーションをかけるというか。
どせいさんのことばも
方向性はまったく違うけど、
エフェクトされてますよね。
あそこまでいくと、もう、
フォントまでひずむわけです。
- ──
- ああ、なるほど、なるほど。
- 糸井
- ムーンサイドは闇のひずみ、ゆがみ。
こういうゆがみは、のちに
『マルコヴィッチの穴』なんかにもあったね。
ファンタジーの世界に意外に相性がいいんですよ、
ゆがみとかひずみっていうのは。
『MOTHER3』のタネヒネリじまでも、
もっと爆発させましたよね。
- ──
- はいはいはい、そこも憶えてます。
あそこは、もっとこころの深いところに作用する、
えぐるような、あの感じが‥‥。
- 糸井
- ほんっとにイヤだったですよねぇー。
- ──
- じぶんでつくったのに(笑)。
- 糸井
- そうなんだけどねぇ。
- ──
- でも、「MOTHERのことば。」という
本にまとめてみて意外だったんですが、
ムーンサイドのことばって、
ページ数にすると、そんなに多くないんですよ。
全体にくらべるとちょっとしかない。
ただ、ゲームの中での体感時間が
ものすごく長い、という。
- 糸井
- ああーー、そうだねぇ。
イヤだから、長いんだろうね。
- ──
- あそこから「出たい!」という気持ちで。
まだなのか、いつまで続くんだ、って。
- 糸井
- 「ここはどこなんだ?」
っていうイヤさもあるよね。
じぶんのいる場所に定点をつくれない、
っていうイヤさかなぁ。
で、こういうのはね、
つくってる立場としては、
もう、ものすごくおもしろいです。
- ──
- (笑)
- 糸井
- つくっててたのしかったですよ、ほんとに。
絵を描いてる大山(功一)さんも、
いろいろと遊んでましたよね。
チシャ猫みたいな、歯の抜けた男の
笑い顔とかがすごく怖いんですよね。
- ──
- トンチキさん。
あのひとの終わり方も、
なんだかはっきりしなくて
怖いんですよねぇ。
- 糸井
- そうだねぇ。
しかし、へぇー‥‥。
みんな、ムーンサイド、
イヤだった、イヤだったと言いつつ‥‥。
- ──
- みんな、憶えてます。
- 糸井
- そうですか。
それは、よかった、よかった(笑)。
- ──
- はい(笑)。
- 糸井
- ムーンサイドは絵がそうとう変だけど、
じつは表のフォーサイドも
描き方のルールを変えてるんですよ。
ほかの町は、水平に描かれた横の道と、
ななめの道でできてるんだけど、
フォーサイドは、水平方向の道がない。
ななめの道とななめの道で、町が描かれてる。
- ──
- え‥‥ああ、そうだ、そうですね、
ななめの道だけで構成されてるんですね。
- 糸井
- 『MOTHER』シリーズって、
ゲームのなかの独特の法則性があるんだけど、
その法則も案外平気で壊しちゃうんですよね。
そういう意味では、何度もプレイした人でも
けっこう気づいてないことも多いかも。
- ──
- それは「MOTHERのことば。」を
まとめていてつくづく感じました。
プレイ&チェックをしてくださった
かなり濃い『MOTHER』ファンの人たちも
「遊びつくしたと思ってたのに、
知らなかったことばがたくさんある!」
って言ってましたから。
- 糸井
- ああ、それはうれしい感想ですねぇ。
(つぎのことばにつづきます!)
2021-01-29-FRI
-
MOTHERのことば。