なにもかもが
「これまで通り」ではいかなくなったこの1年。
演劇界でもさまざまな試行錯誤があり、
それはいまもなお続いています。
お芝居の現場にいる人たちは
この1年、どんなことを考えてきたのか、
そして、これからどうしていくのか。
まだまだなにかを言い切ることは難しい状況ですが、
「がんばれ、演劇」の思いを込めて、
素直にお話をうかがっていきます。
第1回目にご登場いただくのは、
俳優の八嶋智人さんです。
演劇を主に取材するライター中川實穗が
聞き手を務めます。
八嶋 智人(やしま のりと)
1970年生まれ。俳優。
1990年に劇団「カムカムミニキーナ」(主宰・松村武)の旗揚げに参加。
以来、ほとんどの劇団作品に出演している。
劇団の看板俳優としてはもちろん、映画、テレビドラマ、舞台、バラエティと多方面で活躍中。
現在、テレビは、NHK Eテレ「チョイス@病気になったとき」、BS朝日「百年名家」にレギュラー出演中。
舞台は、2月1日(月)から17日(水)まで東京・新橋演舞場にて、2月21日(日)~27日(土)まで大阪・南座にて、松竹『喜劇 お染与太郎珍道中』(作:小野田勇、演出:寺十吾)に出演。
- ――
- 八嶋さんが
「ほぼ日」にご登場いただくのは
約16年ぶりです。
- 八嶋
- 16年ですか!
- ――
- 前回は『武田観柳斎の小さな野心。』というコンテンツで
NHK大河ドラマ『新選組!』のお話を。
- 八嶋
- ああ、そうでした。
糸井さんと話しましたね。
- ――
- 今日はドラマではなく、
演劇のはなし、
特にこの1年の演劇のはなしを
うかがいたいなと思っています。
よろしくお願いします。
- 八嶋
- はい、よろしくお願いします。
- ――
- 奇しくも今日(1月7日)は、
2度目の「緊急事態宣言」が出され、
明日から緊急事態措置が実施されることになりそうです。
新型コロナウィルスの国内での感染初確認から
約1年が経ちますが、世界中が大変な状況で、
当然、演劇界も大きな影響を受けています。
- 八嶋
- そうですね。
- ――
- 八嶋さんはこの1年で
出演者としては5作の演劇作品に関わられ、
1作は公演期間中に公演中止、
1作は完全な公演中止、
2作は初日から千秋楽まで上演し、
1作は現在お稽古中、というところですね。
- 八嶋
- 今、改めて振り返ると、
その都度全然違います、感覚が。
- ――
- ああ、そうですか。
- 八嶋
- 去年2月に急遽公演中止になった
『泣くロミオと怒るジュリエット』の時はまだ、
僕の想像力も足りなくて、
こんな大変なことになると思ってなかった。
(※『泣くロミオと怒るジュリエット』は
2月26日の公演が最後となりました。
本来であれば3月4日まで東京公演、
その後、大阪公演をする予定でした)
- ――
- そういう方のほうが多かったと思います。
- 八嶋
- そんななかで、「公演中止」という判断を、
よくわからないまましなきゃいけなかった。
- ――
- 『泣くロミオと怒るジュリエット』が
公演中止になった日は、
劇場の扉が次々と閉まっていった時期でもありました。
そこを境にパタッと静まり返って。
- 八嶋
- だから5月末から上演予定だった
『パラダイス』という作品は、
もう、顔合わせもできないまま、
メンバーの誰にも会わないまま、
中止になりました。
思い入れが生まれる前だったぶん、
ふてくされずに済んでたけど‥‥。
でもやっぱり、
はなっからなくなるなんていうことが
あるんだってことに驚きました。
- ――
- はい。
- 八嶋
- その時期は、
「人が集まるのはとにかくダメ」
という感じでしたが、
それが段階的に変化していって、
7月には、僕は出演していないんですけど、
うちの劇団「カムカムミニキーナ」は公演を行いました。
(劇団旗揚げ三十周年 第一弾公演『猿女のリレー』
2020年7月2日から12日まで上演)
- ――
- その頃、演劇界は、
無観客公演の配信に切り替えているところが多くて、
劇場にお客さんを入れての上演はまだ少なかったです。
どうして「やる」と決断することができたのですか?
- 八嶋
- まず、劇場が開けてくれたからです。
そして、ガイドラインが出てきたからです。
- ――
- ガイドラインが。
- 八嶋
- もちろんやるかどうかに関しては、
劇団でもミーティングを何度も重ねました。
でも国が、東京都が、(劇場のある)杉並区が、劇場が、
ガイドラインを出してきたので、
それに則ってやれば大丈夫だろう、という判断でした。
それでも足りないと感じる部分は
劇団独自でも考えましたね。
その時は、自主的に、
千秋楽後も劇団員は
2週間自宅待機をしようと話し合って決めました。
なにかあった時に
責任の所在が遡れるようにしたわけです。
- ――
- そこまでやられたんですね。
その一方で「劇場クラスター」という
ニュースもあって。
- 八嶋
- ありましたね。
でもそれも、よくよく調べてみると、
いろいろなことがあってのことだとわかったので。
そういうことも経て、
「どうやらこうするのはよくないぞ」
「これもしないほうがいいかも」
と情報が次々と出てきて、蓄積されていって、
少しずつ、ひとつの流れのようなものは
できていったと思います。
- ――
- だんだん整理されていきましたよね。
わたしの取材の現場も少しずつ変わっていきました。
最初はリモートやアンケート取材だったのが、
今日のようにしっかり距離を取れば、
直接お話しできるようになって。
- 八嶋
- で、今は、僕らキャストもスタッフも
何回も何回もPCR検査を受けて、
陰性という診断結果を重ねたうえで
稽古や本番をやっています。
それでも微熱が出たら一回帰ってもらうとか、
そういうことも繰り返して。
そんな努力の結果が少しずつ出てきて、
その結果も含めた情報がまた集まって。
- ──
- はい。
- 八嶋
- だから僕は、やはり、
「劇場は安全だ」と言いたいんです。
もちろん、僕ら演者も、運営側も、
まだまだ十分に気をつけなければと思っていますが、
お客さんにとっては安全な場所だと思っています。
その最大の理由は、全員が「すげぇ努力してるから」です。
- ――
- はい。「すげぇ努力」、劇場に行くと実感します。
- 八嶋
- 状況はどんどん変わっていくし、
これからもさらにやらなきゃいけないですけどね。
- ――
- 八嶋さんご自身はその日々を、
キャストとしても、劇団公演ではスタッフとしても、
体感されてきたわけですよね。
具体的に、どんなことを感じていましたか?
- 八嶋
- まずはやっぱり、7月の劇団公演『猿女のリレー』の時に、
僕も連日客席にいたんですけど、
お客さんが誰も、1ミリもしゃべらないんですよ。
- ――
- それは、感染防止に、お客さんも協力している。
- 八嶋
- そうです。シーンとした状態で。
みんな緊張もあったのかもしれないけれど。
まず劇場に来てくださっていることもそうなんですが、
「来たからには作品を成立させる」というような想いは
僕らと変わらないんだと感じました。
「観せているほう」「観ているほう」ではなくて、
劇場でね、この空間で作品をつくる仲間、みたいな。
そういうものがすごく感じられました。
- ――
- わたしは正直、こうなってはじめて、
観客である自分の責任を意識させられました。
- 八嶋
- ああ、でも僕らも
結果論でそういうふうに思ったことで。
お客さんのほうも、
「そうは言っても“観たい”のほうが勝った」
という人たちがまず足が動いて、心が動いて。
で、動いた先で、
「壊しちゃいかん」
「一緒につくんなきゃいかん」と思って、
座席に座っているんだと思います。 - まあ、こういうふうに言うと、
「おい、演劇ってそんなしんどいんかい」
と思う人もいるかもしれないけどね。
(つづきます)
2021-02-09-TUE
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八嶋さんが渡辺えりさんと主演する舞台
『喜劇 お染与太郎珍道中』は
2021年2月1日から2月27日まで上演中です。