しなやかであること。
これからを自分らしく、
楽しく生きていくには
大切なキーワードなのかも知れません。
「こんなはずじゃなかった!」というような
不測の事態が起こったり、
あるとき突然やってみたいことが
湧き上がったり。
一方で、たくさんの“選択肢”から
選べる時代にもなってきています。
だからこそ、強く、柔軟に、
竹のようなしなやかさで
自分らしい時間を選びとれたら。
2024年に能登半島を襲った大地震。
そのなかにあって、
しなやかに生きる人に会いにいきました。
一人目にご紹介するのは、
石川県輪島市を拠点とする
「ハイディワイナリー」のオーナーで
醸造家の高作正樹さんです。

  • 「僕は“日本のワイン”がつくりたかった。
    日本を代表する食べものといえば
    寿司ですよね。
    だから僕は海産物に合わせる
    ワインをつくりたくて、場所を探しました。
    結果、海にも近くて土壌が適切なこのエリアに
    ワイナリーを構えることにしたんです」
    と朗らかに笑うのは、
    ハイディワイナリーの高作正樹さん。
    もともと高作さんは、能登ではなく、
    横浜の出身。

    横浜から能登に行き着くまでも、
    自分がやりたいことを軸に
    あちらこちらに足を運んだそうです。

    「中学を卒業して、
    高校から単身スイスに渡りました。
    英語も何もわからないままの渡航です。
    そのときに見た現地の村のようすが
    どうにも印象的で、
    いまハイディワイナリーで
    やろうとしていることは、
    そのころに見たスイスの村のつくり方を
    お手本にしています。
    その後は、葡萄作りを学ぶために新潟へ、
    ワインの醸造方法を習得するべく
    フランスはブルゴーニュへ行きました」

    ハイディワイナリーの名前の由来は、
    人気アニメ『アルプスの少女ハイジ』。
    日本人に一番なじみのあるスイスといえば
    ハイジだと考えた高作さんは、
    自分のワイナリーにその名前をつけました。

    「スイスの村には、おいしい料理を
    提供する魅力的なレストランがあって、
    ハイキングを楽しむための登山口がある。
    宿泊もできるから、
    村にはたくさんの人が集まっていて。
    そんな楽しい場をイメージしながら、
    ハイディワイナリーをつくっています」

    美しい日本海を望む小高い丘に広がる葡萄畑、
    ワインをつくる醸造所とオフィス、
    将来宿泊施設になる予定の場所。
    まさにそこは、高作さんが話す「スイスの村」
    の要素が詰まった場です。
    高作さんのイメージが順調に
    でき上がってきたところで、
    2024年1月1日に震災が襲います。

    「パッと見たらレストランはしっかり
    残っているように思われるかも知れませんが、
    建物を支える柱が折れて全壊です。
    オフィスも半壊の状態。
    近々、両方とも取り壊して建て直します。
    2つある葡萄畑のうちひとつは
    土地が波打ってしまい、
    葡萄を支える棚を打ち直さなくてはなりません。
    さらにもうひとつには地割れができてしまって」

    震災は、場所へのインパクトのみならず、
    さらに高作さんを大変な状況に追い込みます。
    「震災からしばらくは
    流通がストップしてしまいました。
    ご注文をいただいても、うちのワイナリーから
    出荷できない状況が続いたんです」

    困った高作さんは、ワイン用ラベルの制作で
    長年のお付き合いがある
    金沢の印刷会社さんへ助けを求め、
    輪島のワインを金沢から出荷することに。

    「自分のクルマに載せられるだけ
    ワインを載せて金沢まで運びました。
    注文が入るたびに、
    流通がしっかり機能している金沢から
    発送作業をしてもらったんです」

    難局をしなやかに、なんとか乗り切る
    高作さんに、明るいニュースが舞い込みます。
    日本ワインコンクール2024
    欧州系品種白ワイン部門で
    「CLARA 2021」がなんと金賞を受賞!
    こちらは、畑で育ったシャルドネを使い、
    樽発酵させてつくられた白ワイン。

    「大変なことはたくさんありましたが、
    おかげさまで売り上げも伸びています。
    金賞をとった『CLARA 2021』も
    (2024年9月現在で)売り切れです。

    僕は横浜出身で、
    能登は商売をするために選んだ土地。
    そんな意識でいます。
    レストランが壊れたり、畑も手がかかる
    状況になってしまったのですが、
    売り上げが伸びているなら
    商売が続けられるということ。その限りでは、
    この土地に居続けるつもりでいます。
    だって、商売をするために
    能登にいるわけですから」

    震災にも負けず、
    ポジティブな視線で将来を見つめる
    高作さんの次なる展望を聞いてみると、
    広大な日本海を眺めながら
    ぽつりぽつりと答えてくれました。

    「もちろん、まずは
    壊れた設備を復旧させることですが、
    近い将来にやってみたいことがあって。

    隣接する黒島地区には
    古き良き街並みが残っています。
    黒島には、船問屋が集まっていて、
    北前船も停泊したと聞きます。
    そんな歴史的な背景もあるので、
    ランドマークとして
    大きな橋桁をつけたいと思っています。
    そこから海の方向を撮影してもいいし、
    僕たちのワイナリーがある山側を
    撮ってもらってもいい。

    あとは、このエリアを“宿泊の街”として
    売り出せればいいですね。
    海側には黒島の歴史を感じられる
    宿が多く残っていて、
    古き良き能登の雰囲気を感じられる場所。
    歴史を感じながら宿泊したい方は
    黒島に宿をとってもらって、
    新しい雰囲気のステイ先がよいのであれば、
    僕たちサイドの宿を選んでいただく。
    そのような選択肢を
    ご用意できればと思っています。
    観光でいらした方々が
    宿を“選べる”っていうことは大事ですから。

    結果、たくさんの方々に
    このエリアに足を運んでいただければ、
    こんなうれしいことはありません」

    高作さんがつくる、これからの“村”には、
    楽しいことがたくさん詰まっていそうです。

    写真 |幡野広志


    • ハイディワイナリー

    「海のそばで生まれた葡萄」の個性をよく引き出すことにこだわったワイナリー。直売所も併設していて、ワインの購入も可能。オンライン販売もおこなっているので、ホームページも要チェック。石川県輪島市門前町千代31-21-1
    heidee-winery.jp

    • 高作正樹

    1982年、神奈川県生まれ。ハイディワイナリー代表、醸造家。高校時代をスイスで過ごした後、醸造に興味を持ち、新潟とフランスのワイナリーで学ぶ。2012年にハイディワイナリーをオープン。現在では黒葡萄を含めて7品種を育て、ワインを醸造する。

    ※高作正樹さんは2024年11月3日(日)の
    「能登のこと、知ろう&味わおうの
    トークの会」イベントにも登場!
    詳しくはこちらのページからどうぞ。