しなやかであること。
これからを自分らしく、
楽しく生きていくには
大切なキーワードなのかも知れません。
「こんなはずじゃなかった!」というような
不測の事態が起こったり、
あるとき突然やってみたいことが
湧き上がったり。

一方で、たくさんの“選択肢”から
選べる時代にもなってきています。
だからこそ、強く、柔軟に、
竹のようなしなやかさで
自分らしい時間を選びとれたら。
2024年に能登半島を襲った大地震。
そのなかにあって、
しなやかに生きる人に会いにいきました。
三人目にご紹介するのは、
石川県珠洲市で「すずなり食堂」の料理長で
立ち上げスタッフのひとり、
和田丈太郎さんです。

  • 能登半島のいちばん先、石川県珠洲市にある
    道の駅すずなりを訪れると、
    販売所の横に、すずキッチンとすずなり食堂
    という2つの店舗が見えてきます。

    すずキッチンはお弁当を販売するお店、
    すずなり食堂はイートインで
    おいしい食事を気軽に楽しめる場所です。
    前者は2024年の9月1日にオープン、
    後者は5日遅れて9月6日に開店しました。

    すずなり食堂で迎えてくれたのは、
    同店の立ち上げスタッフのひとりで、
    料理長をつとめる和田丈太郎さんです。
    「私は被災するまでは、珠洲市で旅館と
    飲食業を手がけていました。
    でも震災があって、
    金沢に二次避難しているときに、
    信子さんから声をかけてもらったんです」

    “信子さん”とは、同じ市内で
    古民家レストラン
    「典座(てんぞ)」を経営している
    坂本信子さんのことです。

    「金沢には家族と一緒に避難していました。
    でも、私は地元のために
    役に立てればと思って
    信子さんの声がけに応じました。
    まだ何が起きるか分からないから、
    まずは私ひとりで戻ることにしました。
    今もなお家族は金沢にいます」

    珠洲市に戻ってから、すぐにすずなり食堂が
    始まったわけではありません。

    「この場所がスタートするまでは、
    飲食業の方々を中心に、
    私を含めた7つの事業者が一緒になり、
    避難所にいる人たちのための
    お弁当を作っていたんです。
    一日におよそ1,500食を作って、
    みなさんにご提供していました」

    その後、信子さんが代表となり、
    合同会社すずキッチンを立ち上げます。
    一緒にお弁当を作っていた
    7事業者のうち3つの事業者は、
    自分の店を始めるために抜けて、
    全部で4事業者で会社を
    スタートさせることとなりました。

    そして、
    おいしい食材を使いながら、
    あたたかくてホッとでき
    人が集まる場所をつくるべく、
    すずなり食堂の構想に着手します。

    「この場所は、イベント用の広場として
    使われていました。
    道の駅だから人の目に触れやすいし、
    何かをやるにはいいなと思っていたんです」

    目をつけていたスペースを
    めでたく借りることができた後、
    行政からは仮設のプレハブを借り、
    自分たちの店から調理用具や什器を
    持ち寄りました。

    「被災しても、それぞれの店の中には
    まだ使えるものがありました。
    各店舗からそれらを持ち寄って、
    まだ足りないものは、
    みんなでお金を出し合い、
    購入して揃えたんです。
    しっかり売り上げて、
    投資したお金を回収するのは、
    大変そうですけど」

    そう言うと、あっけらかんと笑う和田さん。

    それぞれが飲食業をやっていたから、
    メニューを考案するときに意見の違いが
    生じることもありますよ。
    提供するメニューの構成だったり、
    値段のことだったり、さまざまです。
    でも、いい店にしたい気持ちは
    みんな同じですし、それぞれの
    いろんな考えを出し合いながら、
    いい場所にしていきたいんです。
    みなさんのおかげで
    店ができていると思えば
    腹なんて立ちません」

    再び、にこやかな表情を見せる和田さん。
    食と集まれる場所が、
    能登に暮らす人たちの気持ちを明るくして、
    食事を楽しむその姿が働く人たちの力になる。
    ポジティブな好循環が
    能登の街をより活気づけるのかも知れません。

    写真 |幡野広志

    • すずなり食堂

    道の駅すずなりの販売所横にオープン。庄屋の館、典座、グリル瀬戸、レストラン浜中の4店舗が協力して切り盛り。隣接する「すずキッチン」はお弁当の販売所。珠洲市野々江町シ部15-1/11:00~14:30(14:00LO)17:30~21:00(料理20:00LO、ドリンク20:30LO)/不定休/0768-84-5100

    • すずキッチン

    5:00~15:00/日曜休/電話番号は同じ

    • 和田丈太郎

    能登観光ホテルと庄屋の館を営む有限会社のとかんの代表取締役。経営者でもあり料理人でもある。被災後、合同会社すずキッチンの立ち上げメンバーのひとりとして、すずなり食堂とすずキッチンを盛り上げる。

    ※仮設店舗の「すずなり食堂」を
    たのしくデコレーションすべく、
    珠洲と深く関わり続ける
    アーティストのひびのこづえさんと
    神田のほぼ日本社ビルにて、
    2024年11月1日(金)に
    ワークショップを開催します。
    詳しくはこちらのページからどうぞ。