大泉洋さんというひとは、
ほんとうに不思議な人生を歩んでいます。
こどもの頃から俳優に憧れていたわけでもなく、
人を笑わせるのが好きな「おもしろ洋ちゃん」。
大学時代に“ウケ狙い”としてはじめた
演劇にのめり込み、TEAM NACSの一員に。
学校の人気者から、北海道の人気者へ。
そして、紅白歌合戦の司会者を務めるような
日本を代表する人気俳優になった大泉さん。
「努力はしていない」と公言してきましたが、
糸井の質問をきっかけに半生を振り返ります。
ほら、大泉さんはきょうも
よくわからないまま、ここまで来たようですよ。
この対談は「ほぼ日の學校」でも見られます。
大泉洋さんが先生になった授業
「努力だと思わなくていいような
好きなことを見つけなさい。」
表情豊かな大泉さんの授業、どうぞご覧ください。
1973年4月3日生まれ、北海道出身。
演劇ユニット・TEAM NACSに所属し、
北海道テレビ制作のバラエティ番組
「水曜どうでしょう」出演後、数多くの作品で活躍。
主演を務めた『探偵はBARにいる』（2011）で
第35回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。
以降、『しあわせのパン』（2012）、
『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』（2013）、
『ぶどうのなみだ』（2014）などに出演。
『青天の霹靂』（2014）では、
第6回TAMA映画賞最優秀男優賞を受賞。
そして『駆込み女と駆出し男』（2015）にて、
第39回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞、
第58回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞する。
その後『アイアムアヒーロー』（2016）、
『東京喰種トーキョーグール』（2017）、
『鋼の錬金術師』（2017）などに出演。
『探偵はBARにいる3』（2017）で、
第41回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を再び受賞。
近年の主な出演作に、
『恋は雨上がりのように』（2018）、
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』（2018）、
『そらのレストラン』（2019）、
『グッドバイ～嘘からはじまる人生喜劇～』（2020)、
『新解釈・三國志』(2020）、
『浅草キッド』（2021）など。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では源頼朝を演じた。
- 大泉
- ぼくはこれまで、
人に言われてやってきたことばかりだから、
恐れずにやりたいことをやってみようかなぁって
気持ちもあるんですよ。
- 糸井
- うんうん。
- 大泉
- でもやっぱり、
なんかめんどくさいんだよなぁ。
- 糸井
- それは、よくわかる。
- 大泉
- 「めんどくさい」がすごくあるんですよ。
- 糸井
- 「めんどくさい」は、ぼくも遺言に残したいぐらい。
- 大泉
- はっはっはっ！！
あーっ、そんな遺言ないわ。
- 糸井
- 心拍数のグラフが途切れる直前に、
「めんどくさい」って言ってみたいですよ。
それは本音ですね。遺言って、先の約束ですから。
- 大泉
- むかし、ぼくが舞台の台本を書いていて、
台本には自分のやりたいことを書きますよね。
後半のこの場面でこういう会話が必要だ、
というイメージはあるんですよ。
でも、その会話をこれから書くぞというときに、
「ああーっ、めんどくさい！」って。
- 糸井
- うんうん。
- 大泉
- 自分でイメージはできていて、
ここまで持っていきたいって思いがあるんです。
それだけに、そこまで持っていくとなると、
いやこれは大変だぞ、めんどくさい！ って。
- 糸井
- 自分の首を締めるアイデアですよね。
- 大泉
- 理想のところまで持って行かずに、
どこかで止めたら楽なんでしょうけど、
でも、まだ見ぬものがあるってわかってるから、
絶対に大変だと思って、めんどくさいんでしょうね。
- 糸井
- ぼくもそういうことを言いますよ。
それはしょうがないです。
人のことだと、すごくよくわかりますね。
めんどくさいと思っても、諦めてやったほうがいい。
- 大泉
- ぼくが舞台を作るとなったときのイメージは、
すっごく太い丸太から
仏像を彫り出すようなものなんですよ。
その仏像が簡単なかたちならいいんですけど、
俺は千手観音をイメージしちゃっているから。
これは大変だぞって尻込みするんです。
もうちょっと楽なイメージが持てればなぁ。
- 糸井
- 千手観音をイメージするんだけど、
実際に進んでいくプロセスで、
五百手観音ぐらいにはなるじゃないですか。
- 大泉
- 五百手観音！
たしかにまぁ、そうかもしれません。
- 糸井
- だんだんとやっていくうちに、
ちょうどいいのがわかっていくんですよ。
つまらなくないものができて、
「大変なんだけどやってよかったな」
みたいなものが理想ですよね。
- 大泉
- ああ、そうですね。
- 糸井
- でも、ぼくらから見ていると、
大泉さんはもう、
そういうことばっかりしているんじゃない？
- 大泉
- そうかもしれないですね。
糸井さんぐらいになると、
これぐらいがちょうどいいっていう
加減が見えてくるものですか。
- 糸井
- いや、相変わらず見えないです。
でも、人のことだといいなぁと思う。
大泉さんはきっと、
これからもめんどくさいことをするんでしょうね。
- 大泉
- そうなんですかねぇ。
- 糸井
- 極端な話、大泉さんが
早くに隠遁するとは思えないんですよ。
役者さんの中には、
早く隠遁しちゃいたい人もいると思うんです。
- 大泉
- うんうん。
- 糸井
- いい仕事するなぁと思っていた人が、
最近はあんまり働きたくないんだ、
となってもおかしくないわけです。
でも大泉さんの場合、
隠れたふりをしていてもまだなんかしていた、
みたいになりそうで。
- 大泉
- 引退するっていうのは、
あんまり考えにくいかもしれないですね。
ぼくはワーカホリックではないと思うけど、
何かを作っていたかったり、
何かおもしろいことをしていたいって、
ずっと思っているかもしれないです。
- 糸井
- こどものときにお笑いを吸収していた、
その気持ちを今も味わうには、
自分が作らないとできないですよね。
受け手だけじゃ、満足できなくなってますよね。
- 大泉
- あっ、たしかにそうかもしれません。
- 糸井
- いまに至るプロセスも全部おもしろいし。
でも、大泉さんに影響を受けたみんなが、
そういう人になっちゃったら困るのかな？
- 大泉
- はっはっはっは。
- 糸井
- ふと「みんながそうなればいいのに」って、
言いそうになったけど、本人はイヤですよね。
つまり、「大泉洋ズ」っていうグループがいて。
- 大泉
- あぁ、それはイヤだなぁ。
大泉洋みたいな連中だったら誰も何もしないですから。
- 糸井
- そのグループに難問を出すと、
ピクミンみたいに動きだして。
- 大泉
- 「わっ、なんだ！？ 冗談じゃないよ！」って言いながら
じわじわ動き出すっていう、ほんっとヤダなぁ！
大泉洋みたいなヤツらばっかりだったら、
その国は滅ぶね（笑）。
- 糸井
- 元気そうに見えるんだけど、
くたびれちゃうでしょうね、きっとね。
- 大泉
- あっ、これもぼくらしいんですけど、
「元気ですね」とか言われるのは嫌いなんです。
- 糸井
- へぇー。
- 大泉
- 常にね、同情されていたいんですよ。
- 一同
- （笑）
- 糸井
- はい、はい、はい。
- 大泉
- こないだ病院に行きましてね、血液検査をしたわけです。
癌だなんだとかいろんなことも、
血液検査をすればわかるんだそうで。
するとお医者さんが言うんです、
「大泉さん、若いなぁ。ものすごい元気ですよ」って。
いや、ぼくそんなに元気じゃないですけど。
- 一同
- （笑）
- 大泉
- ぼくがちょっと不機嫌みたいになってるから
お医者さんは驚くんですよ。
だってぼくね、元気じゃないですもん。
すっごい疲れてるんですよ。
「ほう、でも数値的に元気なんですよ。
こんなに元気な人はいない」
みたいなやりとりをしたんです、病院で。
- 糸井
- やだねえ（笑）。
- 大泉
- 「ストレスも感じてない」って。
いやいやいや感じてますよ！ ストレス！
ぼくのこと、バカみたいな言い方しないでくださいよ。
- 一同
- （笑）
- 大泉
- 「数値的にストレスをくらってないです、大泉さんは」
って、くらってるよ！！
俺ほどストレス感じるヤツいないよって
ぼくは言うんだけど‥‥。
やだよねぇ、ぼくはどっかで病気自慢したいというか。
- 糸井
- 指圧とかマッサージをする人は
「相当きついですね、これは！」って
たぶん全員に言っているんだけど、
あれ、お世辞ですよね。
- 大泉
- わははは！ そうですよねぇ！
凝ってないって言われるの、嫌ですよね。
- 糸井
- 「よくこれで今日まで我慢してきましたねぇ」
とか言われると、あっ、そう？ って
ちょっとうれしくなりますよね。
たぶん、ほかの人にも言ってると思うなぁ。
- 大泉
- そうなのかぁ。
- 糸井
- 医者はそこをわかってないんですよ。
- 大泉
- うん、わかってない。
ぼくらがよろこぶと思ってるんだよね。
- 糸井
- マッサージの人はまた来てほしいけど、
医者はまた来るのはよくないと思ってるから。
- 大泉
- それが「漢の中の漢」だったらね、
同情されたくない人が多いじゃないですか。
ぼくはね、同情ウェルカムだから。
- 糸井
- 同情を得るということは、
もう花束を得るみたいなことですね。
いや、でもそれじゃあお見舞いか。
- 大泉
- （笑）
- 糸井
- 大泉さんはお見舞いされたいのかもね。
おめでとうと言われるよりは、
大変でしたね、みたいな方が向いているんですね。
- 大泉
- いや、ほんとにそう。
「ほんと大変ですね、大泉さん」って
言われていたいんですよね。
- 糸井
- こうやって励ましていけば一生働くね、この人は。
- 大泉
- いやいや、そんなことないですよ。
- 糸井
- そう言うと「そんなことない」って言うんだよ。
- 一同
- （笑）
- 糸井
- いや、今日はたのしかったです。
大泉さんってひと言で言うと、
手の掛からない人ですよね。
全部ほっといても成り立つと思うんです。
別にぼくがここにいなくても、
たぶん今日は成り立ったんじゃないかな。
- 大泉
- わははは。
お話しできてうれしかったですよ。
- 糸井
- かっこよく言えば、
平原に大樹がそびえているみたいに、
すばらしい人なんじゃないでしょうか。
ただ、その木は疲れてますね。
- 一同
- （笑）
- 大泉
- うまいこと言うなぁ。
すごいな、コピーライター。
- 糸井
- 疲れた大樹。
どうもありがとうございました。
- 大泉
- ありがとうございました。
（おわります）
2022-12-08-THU
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大泉洋さんが主演を務める映画『月の満ち欠け』が
12月２日より、全国の映画館で公開されます。
佐藤正午さんによる純愛小説を実写映画化した
この作品の魅力について、
大泉さんはこのように語ってくださいました。「私はこれだけ陽気な男ではあるんですが、
今回演じている役は、
事故でいっぺんに妻もこどもも失うという、
近年、私が演じた中では相当つらい役でした。
そこに『生まれ変わり』という要素が絡んできて、
男がその呪縛から解き放たれて、
一歩前に進もうかなと思える映画です。
生まれ変わりという話と、すべてを失った男。
そこに、有村架純ちゃんが演じる
叶わなかった恋に生きた女性の話も絡み合います。
ずっと大泉が『なんかやるよ、なんかやるよ』と思って
見ていてほしくはないですけど、笑いのない私も、
ぜひ見ていただきたいなという映画でございます」『月の満ち欠け』12月2日（金）全国公開
配給：松竹株式会社©2022「月の満ち欠け」製作委員会