ひとつの教室に、昆虫博士がいて、
魚釣り名人がいて、
鷹匠までいる高校があるんです。
群馬県立尾瀬高校、
自然環境科3年生のクラスです。
みんながみんな、それぞれに、
好きなことをやっていて、
たがいのことを尊敬している。
偏差値とかとはちがうところで、
じつにのびのびと
才能を発揮している高校生たちに、
あこがれさえ感じました。
大きな自然を前にして、
先生と生徒が一緒に学ぶ関係性に、
あこがれたのかもしれません。
みんなこの3月に卒業、
それぞれの道を歩きだすその前に、
ギリギリ間に合いました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。

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第3回 なぜ、糞虫は美しいのか。

──
昂くんは、この3年間、
ずっとこのあたりの山に入っては。
谷島
はい、死ぬほど虫を探しまくって。

──
どういうところが好きですか、虫。
谷島
もともとは生態への興味です。
どうやって生きてるんだろうって。
いちばん専門的に調べているのは、
「糞虫」なんですけど。
──
フンチュウ?
谷島
はい、動物の糞を食べる虫ですね。
糞虫って糞を食べているのに、
色や形が、すっごく綺麗なんです。
──
それは不思議ですね‥‥たしかに。
谷島
どうしてあんなに綺麗なのかって、
ずっと考えてたら、
いつのまにか好きになっちゃって。
──
ウットリしちゃう。
谷島
ええ。
──
糞虫に。
谷島
はい。
──
何かもう恋のようですね(笑)。
でも、糞虫って、
そんなにも美しい虫なんですか。
谷島
ふつうっぽいのもいるんですけど、
綺麗なやつは、本当に綺麗。
──
何か理由があるんですかね。
谷島
糞虫そのものについては、
けっこう研究が進んでるんですが、
美しさについては、
まだ、それほどでもないんです。
ですから、そのあたりの研究は、
今後の課題として、
おもしろいかもなあと思ってます。
──
糞虫は、糞を食べているのに、
なぜウットリするほど美しいのか。
谷島
はい。
──
糞虫が好きのは、昔から?
谷島
いえ、小学校のときは
オサムシっていう虫が好きでした。
その後、中1か中2くらいのとき、
糞虫の美しさに目覚めました。
──
ひとことで糞虫といっても、
たくさん種類がいるんでしょうね。
谷島
種類自体は100後半くらいです。
日本に生息しているものでいうと。
なので相対的には少ないほうです。
──
以前、昆虫学者の人に、
蝶の学会は男の人ばっかりだって、
聞いたことがあります。
で、その理由について
「蝶が美しいからじゃないかなあ」
っておっしゃっていたのが、
なぜか印象に残ってたんですけど。
谷島
ああー、なるほど。たしかに。
蛾類学会は女の人で賑わってると
聞きました、ちなみに。
──
へええ‥‥ガルイ。蛾の類。
谷島
かわいいという視点みたいです。
──
なるほど、それはあるかも。
モフッとしてるもんね、全体に。
谷島
そうそう。触覚とかも。
──
あ、小川くんが何か持ってきたよ。
えーっと、これは‥‥。
小川
谷島コレクションです。

──
え、これ昂くんのつくった標本?
谷島
はい(笑)。
──
うわー‥‥すごい。わっ、本格的。
自分でつくったんだ、これ。
谷島
はい。小学生のころから、
『ファーブル昆虫記』を翻訳した
奥本大三郎先生が代表をされている
「日本アンリ・ファーブル会」
に通っていて、
そこで、標本の手法を学びました。
──
すごい‥‥(嘆息)。

谷島
このへんにいるのが、糞虫ですね。
このへんはぜんぶクワガタ。
──
へえ、これってクワガタなんだ。
ずいぶんちっちゃいけど、これも。
谷島
この種類のクワガタムシはブナ帯、
つまり比較的、
標高の高いところに生息してます。
──
こう並ぶと、宝石のように見える。
谷島
ありがとうございます!
そうですね、はい、うれしいです。
こっちが中学校のときハマってた
オサムシってやつで、
こいつ羽がなくて飛べないんです。
──
へぇー‥‥飛べない虫というのも
いるんですか。
虫って、飛ぶイメージだったけど、
ああ、ふつうのアリとかも飛ばないか。
谷島
そう、だから、飛べないせいで、
川のあっちとこっちでは、
同じオサムシでも、
ぜんぜんちがったりするんです。
──
ほー、互いに見える距離なのに、
まるで別人みたいな。
谷島
そうなんです。
近いのに別の種になっちゃったり、
各地に、
固有の種や亜種が形成されていて、
集め甲斐のある虫なんです。
──
でも、こうしてまじまじと見ると、
飛ばないときは
羽が格納されているわけで、
虫というのは、
非常にメカメカしい生き物ですね。
谷島
生きていくためだけに設計された、
無駄のない形をしてますよね。
──
谷島コレクション‥‥すばらしい。
こんなすごいとは思ってなかった。
谷島
ありがとうございます!(笑)
──
卒業したら、大学へ行くんですか。
谷島
はい、虫の研究で有名な
山形大学の農学部で研究をします。
──
じゃあ、ゆくゆくは、研究職に。
谷島
はい、なりたいと思っています。

(つづきます)

2020-03-14-SAT

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