よく晴れた、陽射しのあたたかな冬の午後、
ウッドストックの服を着た渡辺真理さんが、
たくさんのお菓子を持って、
谷川俊太郎さんのお宅を訪ねました。
「ほぼ日」の連載「マリーな部屋」で、幾度となく
スヌーピーのお菓子を取り上げてきた真理さん、
かねてから谷川俊太郎さんとお話ししたかったのが、
スヌーピーの登場するコミック
『PEANUTS』のことだったのです。
ふるくから親交のあるふたりですが、
真理さんが谷川さんに『PEANUTS』のことを
ちゃんとお聞きしたことはなかったのだそうです。
谷川さんは、詩人であるとともに、
スヌーピーが登場するコミック『PEANUTS』の
日本語への翻訳を、ずっと手がけてこられたかた。
2000年の連載終了後も未訳だった作品の翻訳を続け、
2020年に、約50年をかけての
『PEANUTS』全作品の翻訳が終わりました。
『PEANUTS』との出会い、
作者シュルツさんのこと、
詩と翻訳のこと、
キャラクターへの思い、
詩とAIのこと、
谷川さんの「いま」のことなど、
たっぷりお話しした１時間。
７回にわけてお届けします。
谷川俊太郎（たにかわ・しゅんたろう）
1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ『PEANUTS』シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
現代を代表する詩人のひとり。
渡辺真理（わたなべ・まり）
アナウンサー。
1967年、横浜生まれ。
横浜雙葉小中高、ICU国際基督教大学卒業。
1990年にTBS入社、アナウンサーに。
1998年、フリーとなり、現在に至る。
「ほぼ日」では創刊時から連載「マリーな部屋」で、
好きなお菓子にまつわるエッセイを執筆、
「ほぼ日の學校」では
「渡辺真理の見るラジオ。」をはじめた。
ヘアメイク 相場広美
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- 真理
- 車の運転をなさらなくなって、
それとは別の楽しみって、なにか出て来ないですか。
私、30の時は30の時で大変だったけど、
ある意味、楽しかったし、
50過ぎて、もう60近くなって。
- 谷川
- 本当？ 嘘でしょう。
- 真理
- 谷川さん、私あと３年くらいで還暦ですよ（笑）。
最初にお目にかかったのは
20代ですから、もう40年ぐらい前になるんですね。
- 谷川
- そうかあ。
- 真理
- そう、もうすぐ60代に近いけど、
そのほうが楽しいところもあって。
- 谷川
- そりゃ、そうですよね。
年をとって、いろいろ体に不都合もあるんだけど、
やっぱり自由になってますよね。
- 真理
- まさに。
そんなふうに想像してなかったんですけど、
前よりも楽しいです。
なんでなんだろうと思って。
- 谷川
- それは、要らないものを
捨ててきたからなんじゃないの。あはは。
- 真理
- そうか、要らなかったものを。
でも、要らなくても持っておこうかなと
思っちゃったりもしますけれど。
- 谷川
- 物はそうだけど、
考えはそうはいかないでしょう。
捨てちゃいますよね。
- 真理
- そうですね。
「あれ、仕事、来ないな」とか、
「私、ほんとにダメだな‥‥」なんて葛藤もあったし、
それが波みたいに寄せては返したりもしたけど、
今は、「無くてもあってもそれはそれ、
１個１個大事にしよう」っていうふうに思います。
毒舌マネージャー嬢には、仕事が無くてもブーブー言うし、
仕事があってもブーブー言うって、
30年来、言われてますけどね（笑）。
- 谷川
- それがまともなんじゃない？
- 真理
- もっと谷川さんのところに近づきたいですけど。
谷川さんには、90歳代の楽しさとか、
100歳代の楽しさとかも、もっともっと
教えていただきたいから。
- 谷川
- いやあ、やっぱり車椅子に乗ると、
そこまで楽しくないよね。
そんな意識はしないんだけど、
前に吉本隆明が車椅子になった時に、
彼は舞台上で話をしながら車椅子で
ぐんぐん、ぐんぐん回ってるんですよ、
舞台上を曲乗りみたいにして、けっこう上手くて。
- 真理
- アクロバティック（笑）。
- 谷川
- 彼はそれが楽しいらしいんですよね。
それは、一つ自慢でもあって、
「俺は車椅子でもこんなことするんだぞ」みたいなね。
あれは、すごく印象に残ってますね。
- 真理
- 「できるんだぞ」って。
そう言えば、糸井さんも、
「自分がいつか車椅子に乗るようになったら、
その頃にはスイッチひとつですごいスピードが
出せるような車椅子が開発されてるだろうから、
そういうのに乗ってビュービュー動くんだ」
っておっしゃってました。
- 谷川
- 他力本願ね。
- 真理
- ふふふ。
ビュッてスイッチ押したらビューッて進むから、
「糸井さん、待って～！」っていうのをやるんですって。
- 谷川
- まあ、問題は砂利道ですね。
板の間ならOKだけどね。
- 真理
- うちの母方の祖母は
享年106歳でしたけれども、
甘い物が大好きで、
100歳を超えてもプリンをぺろりと。
「ああ、楽しそうだな」って、
孫としては見てました。
- 谷川
- 体がある程度利けば楽しいですよね。
やっぱり体の問題がいちばん大きいんじゃないかな。
でも、それを気にしないでいる、
っていうこともあるわけだけどね。
それは、なかなか、まだ、僕には無理ですね。
- 真理
- あんまりジェンダーで分ける気はないけれど、
もしかしたら、女の人のほうが
そういうところ、大雑把かもしれないです。
- 谷川
- なんか、そんな感じ、する。
- 真理
- ふふふ。
「ああ、もう別に白髪とかいっか」とか思いますもの。
‥‥ぜんぜん話が逸れましたね、またしても（笑）。
- 真理
- 最近、甘い物、ちょっと召し上がったりは？
- 谷川
- してますよ、相変わらず、はい。
- 真理
- よかった！ じゃ、ケーキやクッキーなど、
よろしければ、このあと召し上がっていただければ。
- 谷川
- ありがとう。
- 真理
- だってね、ほら、
こんな可愛いんです。
- 谷川
- おお、ちゃんとデザインされてるんだ。
- 真理
- もうね、いろんな種類があるんです、
スヌーピーのお菓子って。
- 谷川
- ああ、本当。
- 真理
- ありがとうございました。
いやあ、まるまる１時間ぐらい、
いっぱい話しちゃった。
- 谷川
- いえいえ、ぜんぜん。楽しかったです。
- 真理
- ありがとうございます。うれしかったです。
谷川さんに一個だけ‥‥、
サインがお好きじゃないのに、
お願いしていいですか。
- 谷川
- はい、好きじゃないっていうより、
字がちゃんと書けないんですね。
なんか、字がだんだん小さくなったんです。
- 真理
- 「俊」‥‥うれしい。
ほんとにありがとうございました。
もう、お話したくてしょうがなかったんです。
- 谷川
- なんで？ だって、
もう何年も付き合ってるわけじゃないですか。
- 真理
- そうなんですけど、
『PEANUTS』のことに特化して
おしゃべりしたことがなかったから。
- 谷川
- そうですね。
車のことをしゃべってたね、一時は。
今、何に乗ってるの？
- 真理
- 今、うちにセントバーナードがいるんですけど、
あ、そういえば、その子、スヌーピーにちなんで
「スヌー」っていうんです、顔が白いから。
彼を乗せるために、
母のために乗っていた介助車にちょっと手を加えまして。
- 谷川
- どういうふうに手を加えるの。
- 真理
- 後ろの席をどかして、犬の大きいベッドを載せて、
そこでスヌーが寝られるようにしているんです。
- 谷川
- なるほどね。
- 真理
- あぁ、ほんとは今度ドライブにも行きたいなぁ。
久しぶりに遊びに来られて、嬉しかったです。
- 谷川
- 本当によかった、来てくださって。
糸井さん、お元気？
- ──
- すごく元気です。
「何でもない時に遊びに来させてください」
って言ってました。
- 谷川
- もう、何でもない時が少なくなってるから、
気をつけて来てって言っておいて。
なんかあるからね、常に。
- ──
- わかりました。伝えておきます。
- 真理
- 宝物のようなひととき、
ありがとうございました。
また何でもない時に、
お邪魔できるのを楽しみにしてます。
（おわります）
2024-02-19-MON