趣味って、おもしろくて、きりがなくて、
個人的で、手間がかかって、夢中にさせて、
「わからない」と「わかった!」を
行ったり来たりして、時間が過ぎていく….。
そんな趣味、お持ちですか?
「羽釜でごはんを炊くとおいしいんですよ」
という写真家の幡野広志さんと、
「コーヒーを淹れるのに凝りだしたら、
焙煎機まで買ってしまって」という
株式会社ポケモンの石原恒和さんを、
糸井重里がほぼ日のキッチンにお呼びして、
炊いたり淹れたりしながら、
のんびりたっぷりおしゃべりしました。
とりとめもなく、3人で語る、趣味のこと。

>石原恒和さんプロフィール

石原恒和(いしはら・つねかず)

株式会社ポケモン代表取締役社長。
株式会社クリーチャーズ代表取締役会長。
1957年三重県生まれ。
1996年、『ポケットモンスター 赤・緑』をプロデュース。
1998年、ポケモンセンター株式会社
(現在の株式会社ポケモン)を設立し、代表取締役社長に就任。
以後、「ポケモン」ブランド全体のプロデュースを手掛ける。

>幡野広志さんプロフィール

幡野広志(はたの・ひろし)

写真家。1983年、東京生まれ。
2004年、日本写真芸術専門学校中退。
2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事。
2011年、独立し結婚。2016年に長男が誕生。
2017年、多発性骨髄腫を発病し現在に至る。
著作・写真集に、
『ぼくが子どものころ、
ほしかった親になる。』(PHP研究所)
『ぼくたちが選べなかったことを、
選びなおすために。』(ポプラ社)
『なんで僕に聞くんだろう』(幻冬舎)
『写真集』(ほぼ日)など。
最新刊は、2022年7月に発売したばかりの
単行本『ラブレター』(ネコノス)。
Twitter @hatanohiroshi

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第2回 Amazonで買えるものだけで

糸井
石原さんとコーヒーについて話してたときに
いいなと思ったのは、
「ぼくはできる程度のことしかしてないから」
っておっしゃっていて。
それはアマチュアのひとつの理想だなと思って。
石原
そうですね。わかりやすくいうと、
自分は、Amazonで買えるものだけでやってる
っていう感じなんです。
幡野
ああ、いいですね。
平等ですよね、公平ですね。
石原
それでだいたいのことはできてしまう。
で、そこから先にちょっと踏み出すと、
いきなりこう、ガーンと。
糸井
ブラジルに行かなきゃ、みたいな(笑)。
幡野
インドネシアでは、とか(笑)。
石原
だからもう、そっちは違うなって。
その先がはっきり分かれるので、
「ここまででいい」っていう感じですね。
糸井
そこに落ち着くまでには、
どういう分かれ道があったんですか。
石原
まあ、いちばん最初は、
コーヒーのこの種類の豆はおいしいな、
っていうところですよね。
それで、いろんな豆を探しはじめました。
スターバックスで探して、丸山珈琲に行って。
そうやっていくつか手に入るようになると、
だんだん、あ、こんなに高いんだ、とか、
このコスパはどうよ、とか考えるようになる。
で、そのうちに、そもそもこの豆って
どういうふうにして私の手に渡ったんだろう? 
みたいなことを考えるようになる。
そうすると、こういう地域でつくられて、
こういうプロセスでここにあるんだなと
わかるようになる。

糸井
なるほど、なるほど。
石原
で、道具も、最初は粉で買っていたのが、
豆を買うようになるので、挽くものを買って、
だんだんだんだん、そろえていって、
もうちょっと苦味のないものが
飲んでみたいとか思うと、
一気に焙煎機を買ってしまって。
そうなると、焙煎前の生豆を買うわけですね。
それも全部Amazonで買えるんですよ。
幡野
Amazonで売ってるんですね。
石原
はい、全部買えます。
そうやって、少しずつはみ出しつつ、
いろいろ研究をやりはじめて‥‥
という感じです。
糸井
いま言ったような流れが、
時間的にはどのくらいなんですか?
石原
えーっと、どのぐらいですかね。2年?
糸井
ああ、ちょうどいい感じだ。
石原
そうですね(笑)。
その2年のなかで、コーヒーの淹れ方も
どんどん変わっていって。
サイフォンで淹れてみるとか、
ドリップで淹れてみるとか、
フレンチプレスで淹れてみるとか。
いまは「エアロプレス」っていう、
ちょっと注射器みたいなものつかう
淹れ方に落ち着いてるんですけど。
糸井
そういうのは、どんどん行くよね。
できることについてはやる、
っていうあたりのアマチュアリズム。
仕事に差し支えるような
地獄には突っ込まないけど。
石原
そうですね。
この範囲ってだいたい決めますので。
幡野
それはそうですね。
糸井
と、そんな話をしながら‥‥
じゃあ、ぼくは、火をつけます。
今日は、羽釜と土鍋でごはんを炊きます。
お米はすでにといであります。

石原
おっ。
幡野
いいですね。
糸井
‥‥よいしょ。こんなもんかな。
吹くまでに、ぼくのほうの話をすると、
まあ、めずらしくないつき合い方なんですが、
まずお米を選んでる時代があったんです。
どこどこのあの米、あのナントカさんのあの米、
すごいなあ、あれはうまいなっていう時代があって、
それは、なんていうんだろう、
料理というより買い物に近いですよね。
ふつうに電気釜で炊いてましたし。
で、お米だけでも、話を聞くと、
ものすごくいろいろあるんだよね。
あの田んぼは、斜面で、水はけがどうだとか。
幡野
ああー、言いますね。
糸井
日当たりが午前中だけ当たるんだとか、
聞けば、説明してくれるんですよ。
石原
はいはい、わかります。
糸井
で、いろんな米試すんだけど‥‥全部うまいの。
一同
(笑)

幡野
そうそうそう、そうですよね。
糸井
よっぽど、これはダメっていうのがあったら、
おいしくないんだろうけど、
まあ、ちゃんとしたお米は全部おいしい。
幡野
そうですね。
石原
そうなんですね。
糸井
お米の欠点はおいしすぎることだ、
っていう説明を聞いたことがあって。
だから、食べ過ぎちゃうし、
栄養を全部お米で賄おうとする、って。
幡野
わかります。
おかずがそんなに必要なくなるっていうか。
ふつうは食事って、肉とかお魚とか、
おかずがメインじゃないですか。
でも、ごはんを羽釜で炊くと、
漬け物とかみそ汁があればもういいし。
糸井
そう。土井善晴先生のあの
「一汁一菜でいい」という提案が、
おいしいごはんがあれば成立するんだな。
幡野
お米が料理っていうかメインになって、
うちは結果的に、食費が下がっちゃいましたね。
肉とか魚も食べるんですけど、
どっちかというと子どものためにという感じで。
ぼくと妻は、漬け物とか塩辛とかみそ汁とかで。
とにかく、おかずの量は減りました。
石原
へえーー。
糸井
すごいでしょう(笑)?
幡野
昔の、明治とか江戸時代って、
庶民は質素な食事をしてたイメージが
あるじゃないですか。
でも、あれで完成してたんだなあっていうのは、
おいしいごはんを炊くと、ちょっと感じます。
おっと。
糸井
お、吹いてるね。
幡野
わあ、すごい。
そっか、吹きこぼれないんですね。土鍋だと。
糸井
あ、羽釜も吹いてきたね。
石原
おおーーー。

(つづきます)

2022-09-14-WED

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