低迷していた社会人ラグビーチームを8度の全国優勝に導き、
黄金時代を築きあげた名キャプテンが、なにをしたのか。
強いチームは、どこからどうつくるのか。
元ラグビー日本代表・東芝ブレイブルーパス元監督である
冨岡鉄平さんが、経験から語るリーダー論とは?
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の
一部を読みものでご覧ください。
冨岡鉄平(とみおかてっぺい)
元ラグビー日本代表・東芝ブレイブルーパス元監督。
1977年福岡県田川市生まれ。
中村学園三陽高校、福岡工業大学卒業。
2000年に東芝入社、
東芝府中ラグビー部(現東芝ブレイブルーパス)に所属。
ポジションはセンター(CTB)。
レギュラーではなかったにもかかわらず、
25歳で主将に抜擢。
主将2期目に発足したトップリーグで3連覇、
また日本選手権連覇など、計8度の優勝にチームを導く。
06-07シーズンはトップリーグMVPを受賞。
2011年に現役引退。
中国電力ラグビー部監督、
東芝アシスタントコーチを経て、
2014年東芝ブレイブルーパスの
ヘッドコーチ(監督)に就任。
2015年にはトップリーグ準優勝などの戦績を残すも、
2017年退任。
現在は、東芝の関連会社で新入社員研修など
人材育成をするかたわら、
全国の高校・大学・社会人チームやジュニアに向けて
ラグビーを指導している。
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強いチームに必要なこと。
僕がキャプテンになって最初の頃、
東芝は優勝できるチームではなくなっていました。自分が何かをするのではなく、
「東芝」という組織が
何かしてくれると思っている選手が多かったのです。そうではなくて、
自分が組織にどうやって参加していくのかが
大事だろうと思っていたので、
キャプテン時代は、そのあたりを
みんなに伝えていくことから始めました。チームには、
「”いい男”が集まるといいチームができる」
「東芝というチームは”いい男”が集まった集団に
ならなきゃいけない」と言い続けました。“いい男”とは、他人のせいにせず、
自分でコントロールできることに
全力を注ぐ人のことです。
そういう人は”いい男”だよねと。あとは「知行合一」ができる人です。
※知行合一(ちこうごういつ、ちぎょうごういつ)
中国の明のときに、王陽明がおこした学問である
陽明学の教えのひとつ。
知識は人間の感覚・心情・経験・実践(行)をとおしてこそ
初めて本当の知となるという思想。この2つは、
常に伝え続けてきたと思うんです。チーム1人ひとりは、人体のパーツである
チームって、「生きているもの」だと
みんな思っているんです。だからチームが「何か自分にしてくれる」
と思っています。「これがダメだ」とか
「こんなんじゃ勝てない」とか
勝てない時って、何か理由をつけて
文句ばかり言いますよね。だけど、私がチームにも伝えてきて、
ずっと思っているのが
チームというのはもともと
人の形をした無機質なものだということ。人体は無機質で、
それだけで動くものではないけど、
血液がめぐり、臓器が機能することで、
人の体は動きます。からっぽで無機質な人体(チーム)。
そこに所属するメンバーたちが、
心臓・臓器・ 骨・脳・手足になります。彼らが意思をもって血液が流れて、
それで初めて
チームは動き出すと思うんですよ。僕自身は、その中で心臓になろうと思いました。
チームの心臓になって、常に動き続ける。
心臓がとまったら人体(チーム)は終わりです。
僕がポンプになることでみんなが活きる。
そんなキャプテンになろうと。やっぱり本物のチームが勝つ。
キツい時にキツい顔をするのは、
“いい男”ではありません。対戦相手もファンも、
チームメイトもそういう顔は見ています。
でも、どうしてもキツいのは顔に出てしまう。どうしたらいいかと考えた時、
ニュージーランドの選手から
ヒントをもらいました。キツい時ってどうします?こうしませんか?
(腰を屈めながらキツそうな表情を見せる)
これがキツい時の人間の姿です。でも必ずこういう姿勢になるかというと、
そうではありません。
いくらでもこの姿勢は変えられます。だから「キツい時、膝に手をつかない」
というルールを作ったんです。
手を腰、もしくは頭の上に乗せようと。自分で自分にキツい顔をしろと指令を出すから、
キツそうな顔になるんです。
あえて違う顔をしろと脳に指令を出せば、
違う顔にもなるわけですよ。下を向いていたのを、上体を起こす。
顔に気持ちは出さない。
で、呼吸をします。フーッと。キツそうなチームと、キツそうに見えないチーム、
どちらが”いい男”か話した結果、
「キツさを顔に出さない方だ」となりました。
「じゃあそうしよう」と。もしもキツそうな所作を取った人がいたら、
みんなで厳しく「そうじゃないだろ!」と指摘をします。キツい練習をすると、
人間性がぜんぶ出てくるんですよ。例えば、20往復する練習があるとします。
フィットネスのトレーニングとして
長い距離を何度も走るわけです。するとどこかのタイミングで、
5センチや10センチ
誤魔化すんですよ、人間って(笑)。
「誰も見てないだろう」と思うんですよね。これを、監督・コーチがチェックして
「ダメ」と言うのではなく、
チーム内で「それは違う」と指摘します。「アゲイン(もう一度)」という言葉が
ラグビーでよく使われるのですが、
「アゲイン!」と叫び、
しんどい中もう1本走るなど、
さまざまなことを行いました。僕は「心臓」として、
先頭でこの姿勢を貫きました。寒い時も暑い時もキツい時も、
自分が先頭になって、
最初にグラウンドに出ていきます。当時の東芝の名物は、
試合以上にキツいタックルの練習です。1時間から1時間半、毎日行います。
精神的にめちゃくちゃこたえるんです。
またやるのか?と、
頭がおかしくなりそうな練習でした。そんな時に、
最初に僕が出てきて
何食わぬ顔でスパイクを履いて、
ストレッチをして、
毎回バチーンと当たっていきます。すると「俺もやんなきゃ」と
みんな思うわけですよね。このように、心臓として
チームのスタンダードを上げる役割を
担おうと思ったんです。「足が速いから、ここをやってくれ」
「お前は司令塔だ」など、
役割を投げっぱなしにしないで、
僕が血液の流れに乗って
スクラムを組むポジションの人のところ、
チームの屋台骨となる体の大きな選手のところなど、
さまざまなところへ行って色んな話をしました。僕だけじゃなく、
東芝ブレイブルーパスは、
こういうチームなんだということを浸透させて、
みんなでチームを回せるようにしました。
東芝ブレイブルーパスは、
「”いい男”が集まる組織でなければならない」
これがチームの基準です。
それ以外は、
それぞれが自分の持ち場に散って戦いました。「これをやったら絶対勝つ」
と思ってやっていたら、勝てたんです。
トップリーグで優勝したんですね。
めちゃくちゃ嬉しかったです。
やっぱり本物のチームが勝つんだ、と。こどもの頃から大切にしてきた目的。
こどもの頃から大事にしてきたのは、
「エナジーの震源地になること」です。
僕はエナジーの源になりたいのです。東芝ブレイブルーパスに入って試合で勝ちたかった理由は、
育ててくれた親や仲間、
これまでの足跡に付随する多くの人に対して
「こいつやりよったな!」
と思わせたいからです。みんな、地元の福岡で
僕がどれだけ駄目だったか知っていますから。それが「東芝?」「日本一?」「連覇?」
「えっ、日本代表!?」
そのサプライズをどんどん届けることで、
みんなが元気になります。勝利することは目的ではなく、
あくまで目標です。目的は、ラグビーファンや
必死に勝とうと挑んでくる対戦相手、
多くの観客に対する敬意をメディアを通して伝え、
みんなを元気にすることです。マスコミには、
どれだけ対戦相手が素晴らしいかを語ります。「あのチームはここがすごい。
勝つのは非常に難しい。
でも、我々の方がこういう思いを持って
取り組んでいるから勝つと思うし、
勝たなければならない。
いい試合になると思います」
と伝えるんです。試合終了後も、
「やりましたー!」で終わらずに、
いかに相手が素晴らしかったかを伝え、
この会場を彩ってくれたサポーターが
いたからこその勝利だと伝えます。お客さんの熱が
我々選手たちに伝染して、
その熱がまたお客さんに伝わり、
相乗効果が生まれ、
会場が最高の空間になったと。そういうふうに優勝インタビューで伝えると、
みんな「ラグビーっていいね」と思うわけです。みんな元気になって、帰ってもらえる。
テレビで観ている人もきっとそうだと思います。
それが僕の目的だと思っていたので、
自然にメディアに伝えることができました。
これが、私のやり方です。
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「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。
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