3人のお子さんを育児中の
歌手・一青窈さんが聞き手になり、
こどもたちが健やかに育つための
ヒントを探っていきます。
ゲストは、教育や言語学の専門家で、
慶應義塾大学・環境情報学部教授である
今井むつみさんと、
ファッションモデル&建築家で、
セクシャルマイノリティの問題に取り組んでいる
サリー楓(かえで)さん。
慶応義塾大学SFCにゆかりのお三方に、
自由にわいわい語り合ってもらいました。

動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>一青窈さんプロフィール

一青窈(ひととよう)

歌手。
1976年生まれ。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、
幼少期を台北で過ごす。
慶應義塾大学 環境情報学部(SFC)卒業。
2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。
翌年、同曲で日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞、
NHK紅白歌合戦初出場。
2004年、5thシングル「ハナミズキ」が大ヒット。
現在も国内外問わず様々なアーティストにより
カバーされている。
また、映画「珈琲時光」、音楽劇「箱の中の女」で
主演を務めるなど女優としても活躍する一方、
著書の発表、他アーティストへの歌詞提供など、
活動の幅を広げている。

一青窈オフィシャルサイト
Twitter
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Instagram

>今井むつみさんプロフィール

今井むつみ(いまいむつみ)

慶應義塾大学環境情報学部教授。
認知科学、特に認知心理学、発達心理学、言語心理学の分野
の研究者であり、教育に関する研究、活動も行っている。
アジアで初めて国際認知科学会(Cognitive Science Society)
の名誉研究者(Fellow)に選出される。
また、同学会の運営委員(Governing Board member)も務める。
1989年に慶応大学社会学研究科博士課程を修了、
1994年にアメリカノースウエスタン大学心理学部より
博士号取得。
1993年に母校である慶應義塾大学環境情報学部で助手となり、
その後、専任講師、助教授を経て2007年より教授に。
著書に、「ことばと思考」 (岩波新書)、
「ことばの発達の謎を解く」(ちくまプリマ―新書)、
「ことばを覚える仕組み」(ちくま学芸文庫)、
「レキシコンの構築」 (岩波書店)、
「ことばの学習のパラドックス」(共立出版)、
「人が学ぶということ―認知学習論からの視点」 (北樹出版)、
「学びとは何か――〈探究人〉になるために」(岩波新書)、
「英語独習法」(岩波新書)など。
教育や学習に関する学術の成果を一般社会に伝えるための
ワークショップABLEを2012年より行っている。

慶應義塾大学 環境情報学部 今井むつみ研究室

>サリー楓さんプロフィール

サリー楓(さりーかえで)

建築家、ファッションモデル。
1993年生まれ。
建築デザイン、ファッションモデル、
ブランディング事業を行う傍ら、
トランスジェンダーの当事者として
LGBTQに関する講演会を行う。
建築学科卒業後、国内外の建築事務所を経験し、
現在は建築のデザインやコンサルティング、
ブランディングからモデルまで、多岐にわたって活動。
2021年には、サリー楓を主人公に据え、葛藤や家族との対話、
将来の夢に対する思いを描いたドキュメンタリー映画
息子のままで、女子になる』が公開された。
また、パンテーンCM「#PrideHair」起用や、
ABEMA News」コメンテーターとしても出演。
Forbes JAPAN 2022「世界を変える30歳未満30人」に選出される。

KAEDE Official (サリー楓オフィシャルサイト)
Twitter
Instagram

  • 人間の赤ちゃんとチンパンジーのちがい

    一青
    私には、5歳、4歳、2歳
    2022年1月の収録当時)
    の3人の子どもがいて
    いままさに子どもが言語を習得して、
    人間になっていく過程で、
    どんな学びや知識を与えたら、
    この子たちが健やかに生きていけるのかを、
    実験しながら、自分も学びながら
    子育てをしているところなので、
    お二人から知恵を授けていただけたら
    うれしいなと思っています。

    私は慶應大学の環境情報学部出身で、
    今井先生は、慶應大学に
    今井むつみ研究室を持ってらして、
    サリー楓さんは、この間、
    超鴨池祭でコメントを出されていて、
    私はそれを拝聴して、
    こんな面白い建築家がいらっしゃるんだと知って。
    そういったつながりで、
    今日はこちらにお呼びしました。

    ※超鴨池祭
    慶應大学SFC卒業生有志によって開催された
    配信イベント
    一青
    まずは「言語認知学」について、
    ‥‥というとちょっと硬い感じがするんですが、
    今井先生は、
    赤ちゃんとチンパンジーを比べた研究も
    なさっているんですか?
    今井
    チンパンジーは専門ではないんですが、
    ごく最近出版した研究で、
    チンパンジーを専門に研究している先生と
    共同研究、コラボでやったんです。
    普段は子ども専門です。
    赤ちゃん、幼児、あと小学生。

    私がなぜチンパンジーを実験したいと
    思ったかというと、
    チンパンジーは非常に興味深くて、
    いろんな色の積み木を使って、
    赤はこの記号」
    緑はこの記号」
    青は記号」
    と教えると、
    それを覚えることができるんです。
    ところが、逆転させると‥‥、
    つまり記号を見せて、
    この記号の色はどれ?」と聞いた途端、
    まったくできなくなるんですね。
    一青
    へえー。
    今井
    人間の子どもだったら、
    赤ちゃんでもできることですよね。
    一青
    そうですね。
    今井
    これは何と聞いて?」
    うさぎ」って答えられるのなら、
    うさぎはどれ?」と聞かれて、
    いろんな動物の絵の中から
    うさぎの絵」を取ることができる。
    これは人間の子どもだと当たり前なんですが、
    チンパンジーはそれができないんです。
    つまり、一方向性で覚えることはできる。
    うさぎの絵を見せられて、この記号、
    いぬの絵を見せられて、この記号
    という一方向性、
    これを「連合」と言いますが、
    連合は覚えることができるんだけど、逆はできない。
    要するに、私たちの多くは
    連合を覚えれば、言葉を覚えたと思ってるけど、
    実はそうではなくて、
    言葉というものは、
    もっとずっと奥が深いものなんです。

    日本の建築は過保護?

    一青
    私は建築が好きで、
    いろんなところを見に行ったりするんですが、
    サリーさんと以前お話しした時に、
    建物について、
    海外だと自由に作れるところが、
    日本の建築法は厳しいから、
    あんまり大胆な建築ができないと
    おっしゃってたんですが、
    それって日本人の人種とか、
    そういうことに関係してるんでしょうか。
    サリー
    なんでしょうね。
    ちょっと過保護なのかもしれないです、
    建築のユーザーに対して。

    例えば、手すりや建物の隙間に関する制限が
    すごく厳しかったりしていて、
    建物よりも、まず人を守らないといけない
    という考え方で、
    安全に安全に作っていくんですが、
    どちらかというと、それは、
    工業製品の考え方だったりするんです。
    例えば、手すりの場合、
    人が寄りかかる体重の6倍以上の力に
    耐えないといけないとか、
    いろんな決まりがあって。
    一青
    それは日本が?
    サリー
    日本だけなんですよね。
    一青
    日本だけ!
    サリー
    建築物を、車などの工業製品のように
    耐久物として考えるのは、
    世界でも珍しい特徴かなと思います。
    一青
    ムンケゴー小学校のお話もお聞きしたいんですが、
    そこを訪問なさったのは、インターンの時代ですか?
    サリー
    はい。
    インターンをコペンハーゲンの
    デザイン事務所でしていたんですが、
    コペンハーゲンの郊外に行った時、
    なんか素敵な小学校があるなと思って入ってみました。
    一青
    コペンハーゲンに行ったのは、
    もともと、そのデザイン事務所に興味があって?
    サリー
    そうです。
    行ったのが、18、19歳ぐらいの時で、
    すごく若かったんですが、
    それまで日本の大学で受けていた建築教育が、
    工学的な内容で、
    そもそも工学部建築学科というところが多いんです。
    工学で建築を勉強する、という。
    1年ぐらい授業を受けて、飽き始めていた時に、
    自分の中に新しい風を取り込むつもりで、
    かなりアーティスティックな事務所を選んで
    インターンに行きました。
    どれくらいアーティスティックかというと、
    家が完成すると、窓ガラスをはめるんですけど、
    窓ガラスがきれい過ぎて気持ち悪い」って言って、
    わざとヒビを入れて、細かく砕くんですよ。
    一青
    へぇー!
    サリー
    強化ガラスに砂利みたいな細かいヒビが入って、
    すごくきれいなんですよ。
    それをまたガラスで挟んで崩れないようにして、
    それがすごく美しかった。
    一青
    きれい過ぎるから割ってみようか」と、
    割って、危なくないように強化して。
    サリー
    そういうことを現場の判断でやっちゃうような
    事務所でした。
    仕事も刺激的で、ずっと粘土をこねていて、
    試行錯誤のことをスタディというんですけど、
    スタディをするのが私の役割でした。
    一青
    粘土こねてたんですね。
    サリー
    粘土こねたり、
    発泡スチロールでいろんな形作ったりしてました。
    一青
    子どもを学校に入学させるのに、どこがいいかなと、
    私もいろいろ見学して、もちろん建物も見るんですけど、
    ムンケゴー小学校は圧倒的に自由と聞いて。
    写真を見せていただけますか。
    サリー
    これがムンケゴー小学校で、
    中庭を空から撮った写真です。

    設計したのはヤコブセンという
    家具の設計などで有名な、
    デンマークを代表する建築家です。
    建物が網目状になっていて、
    縦列の部分が廊下、
    横列の部分が教室になってるんですね。
    一青
    へえ。
    サリー
    左下から右上にかけて高学年から低学年に
    上がっていくんですけど、
    高学年と低学年で休み時間の過ごし方って
    変わるじゃないですか。
    一青
    ああ、そうですね。
    サリー
    低学年だと、
    走り回ったり、無茶な遊び方をしたりするので、
    中庭は芝生を敷いて柔らかくして、
    よじ登って遊べるような大胆なアートを置いたり、
    植物を植えて名前を覚えられるようにしたり。

    基本的なアートへの触れ方、自然への触れ方が
    できるように中庭ができているんですが、
    少し上級生になると、
    偉人の石像が置いてあって、床は石畳になっていて。

    一青
    美術館みたいですね。
    サリー
    あまり大胆な遊び方はできないけど、
    知的な好奇心は刺激される、
    こういうアートの庭になってたりして。
    アートや素材を、
    成長の段階に合わせて使い分けてあるんです。
    一青
    最初は子どもが、草をつかんだり、
    元気に自然と戯れる遊び方をしてたのが、
    だんだん知識を持って鑑賞するようになって、
    成長の段階に合わせている。
    とても素敵。
    サリー
    小さい頃はアートによじ登ってるんだけど、
    成長するにつれて、ちゃんと鑑賞したり、
    文字も書いてあったりして。
    一青
    日本の建物だと、
    絶対これは登りたくなるよね」
    という形をしてるのに、
    登っちゃいけません」となっているのが、
    公共の場でよく見られて。
    砂場のフェンスにしても、
    これ絶対、よじ登って入りたいよねと
    思うようなフェンスで作られてて、
    もし自分が子どもだったら、
    絶対よじ登りたいんだけど、
    お母さんが子どもに一生懸命、
    ここは登っちゃいけないんだよ」
    って言ってますよね。

    フィンランドの保育園

    一青
    今井先生はフィンランドに行かれてますけど、
    子どもの知的好奇心を満たすような環境というのは、
    実際、どんな感じなんですか?
    今井
    私が行ったところは、とにかく全部手作り。
    子どもが自分で作る。
    フィンランドは有名な建築家がいたり、
    デザインでも有名ですけど、
    私が行った保育園や幼稚園は、
    建物やデザインが凝っているというわけではなく。
    実は、デザイン大国のフィンランドを支えているのは、
    Do it yourself なんですよね。
    子どもの時から「自分で何でも作る」
    という精神を、ものすごく大事にしています。
    フィンランドの小学校のカリキュラムでも、
    一番のコアは「自分でする」ということ。
    日本で言うと、なんと言えばいいのか‥‥
    おそらく「図工」みたいなことなんです。
    一青
    これ何を作ったんですかね?

    今井
    これは何だろう。
    たぶん、飾りを作ったんじゃないですかね。
    一青
    こういうものが、庭や、
    いたるところにある感じですか?
    今井
    そうですね。
    あと遊具も自分で作ってるんですよ、子どもが。
    一青
    へえー。

    今井
    先生がお手伝いして、
    丸太や、木の枝や、車のタイヤなどを、
    その辺から子どもが自分で探してきて、
    それでブランコを作ったり、
    遊具も自然の中から全て自分で作ったもので。
    いわゆる工業的に作って設置したもの
    というのはぜんぜんお庭にないんですね。
    一青
    ジャングルジムとか、すべり台とか。
    今井
    そういうのはないんです。
    あと、私がすごくびっくりしたのは、
    フィンランドってとても寒い国で、
    冬は零下20度以下になるんですけど、
    毎日必ず、外で遊ぶっていうんです。
    一青
    どんなに寒くても?
    今井
    どんなに寒くても。
    雪が降っても、雨が降っても、外で遊ぶ。
    一青
    へえ。
    今井
    着込めば大丈夫」って先生は言い切っていて。
    一青
    笑)
    今井
    園庭だけじゃなくて、
    園庭が森までつながっていて、
    森に行って遊ぶことができるんです。
    子どもが本当に自然の中で育って、
    自分で何でも作る。
    そういう感じなんです。

    一青窈さんさんの授業のすべては、
    ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


    ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
    あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
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