アレンジャー(編曲家)、音楽プロデューサー、
音楽監督として、数々の名曲、名アルバム、
名コンサートを手掛けてきた瀬尾一三さん。
中島みゆきさんの音楽活動のすべてを
支える存在としても有名ですが、
永らく表に出て語ることはありませんでした。
そんな瀬尾さんが、
名曲『糸』のアレンジがどう生まれたのか、
じっくりと語ってくれました。
音楽界のレジェンドが奏でる言葉は、
そのメロディ同様、胸の奥に響きます!
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の
一部を読みものでご覧ください。
瀬尾一三(せおいちぞう)
編曲家(アレンジャー)、作曲家、
音楽プロデューサー、音楽監督。
今までの作・編曲は約2,900曲。
1947年9月30日生。兵庫県出身。
1969年フォークグループ「愚」として活動。
1973年ソロシンガーとしてアルバム『獏』を発売。
同年に『LIVE`73』を吉田拓郎と共同プロデュース。
その後、中島みゆきをはじめ、吉田拓郎、長渕 剛、
德永英明他、100をゆうに越えるアーティストたちの
作品のアレンジ(編曲)やプロデュースを手掛け、
34年目の音楽パートナー中島みゆきにおいては
楽曲制作のみならず コンサート、『夜会』、
『夜会工場』の音楽プロデュースも務めている。
2017年、自身初の作品集第1弾
『「時代を創った名曲たち」
~瀬尾一三作品集 SUPER digest~』を発売し、
コンピレーションとしては異例の1万枚出荷と好評を博す。
2019年に第2弾、2020年に第3弾が発売。
2020年自伝的書籍『音楽と契約した男 瀬尾一三』
を出版。
書籍:『音楽と契約した男 瀬尾一三』(瀬尾一三 著)
CD:『時代を創った名曲たち~瀬尾一三作品集SUPER digest~』1~3
『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』
-
中島みゆきさんの曲づくりのはじまり方。
- ――
- 『糸』のアレンジが生まれるまでについて
お話を伺えればと思っております。 - 普段、曲をつくっていく時は
どういう流れなのでしょうか。
- 瀬尾
- 一番最初に「デモ」をつくります。
- デモをつくる時は、
まず中島さんがメロディー譜と詩を持ってきます。
そこにピアニストを呼んで、
スタジオでピアノと歌だけを収録します。
それがデモです。 - 基本的には、
「4小節とか8小節適当なイントロをつけて歌って終わり」
みたいなものを、デモテープとして録ります。
- ――
- そのデモを録る時には、
瀬尾さんのところには
前もって譜面が来てるんですか?
- 瀬尾
- 来てません。
- ――
- 当日はじめて見る!?
- 瀬尾
- 当日スタジオで見ます。
スタジオで会って、
そこではじめてぼくも譜面を見ます。 - 『糸』のデモ収録の時も
「EAST ASIA」というアルバムの中の1曲でしたので
アルバムの他の曲のデモと一緒に録っています。
ぜんぶピアノと歌だけです。 - まずそれで
デモというものができあがって、
それをぼくは家に持ち帰ります。 - それから一曲一曲録音する順番を決めますので、
一日で2曲録りたい時は
この曲とこの曲の組み合わせようとか
色々と調整していきます。 - ビートの強い曲と一緒に録るのは
ビートの強くないバラードにしようとか、
同じような感じが重ならないように工夫して。 - あと中島さんが疲れないようにとか
いろいろなことも考えますね。 - そして、「今度録る曲は、これとこれ」というふうに
前もって彼女に伝えておきます。
音からデッサンを描いていく。
- 瀬尾
- それからぼくのたのしい
空想時間がはじまるわけです。 - デモを録音してる時から
ぼくの頭の中でイメージが回転し始めるんですね。 - そのファーストインプレッションを
大事にしたいので、
デモの段階での曲調 や彼女の歌い方
詩の内容とかを見ながら聴きながら
そこでも軽く荒いデッサンをしていきます。 - それを具体的にしていくために
うちに持ち帰って、
録音する予定の曲を
集中的に何度も聴いていきます。 - 録音をする一週間ぐらい前からは
根性を入れていくんですけど、
もっと妄想がひどくなります。
どんどんと頭の中で
イメージがうわーっと広がっていくんです。 - 広がり過ぎて
あまりにもイメージがばらけるとよくないんで
ちょっと修正もしながら。 - そして頭の中で切磋琢磨させて、
そうすると自分の中で大体ストーリーがまとまってきて、
映像もまとまってきたら
譜面を広げてスコアに書く
という作業をはじめます。
中島みゆきさんを天女にしよう。
- ――
- 「デッサン」ということばを使われましたけど
具体的にはことばのメモを作るんですか?
それとも頭の中だけで絵を描くんでしょうか。
- 瀬尾
- 頭の中だけです。
まず写真のような情景をパッと描きます。
静止画ですね。 - 1番なら1番の静止画。
2番、3番とつづきます。 - 1番の静止画をもとに
ここの世界をどうするかというのをパンっと決めたら
そこから今度はそれを動かしていくというような流れです。
- ――
- この『糸』に関して言うと
どんな情景が浮かばれたんですか?
- 瀬尾
- まず一番最初にデモを聴いた時に
パンっとひらめいたのが
「中島さんを天上人にしよう」ということです。 - 「天女にしよう」と。
- 天女が地上に向かって
息を吹きかけるように、包み込むように歌う
という世界をまず考えました。 - 2番でその主人公が変わって
地上の人間になります。 - 最後のほうでその地上の人間が
だんだん浄化されて
もとの天女になるという
そういうストーリーをまず決めました。 - なんだかよく分かんないでしょ?
でも自分の中ではそういうふうに思い浮かべました。 - まず天上人や天女が
地上の人たちに向かって包むように歌って、
2番で血の通っている人間になり、
それから最後に3番でその人間が
また天上に戻って天女に変わっていく形にしようと。
- ――
- 確かに歌詞とすごくリンクするお話で
納得がいきますね。
- 瀬尾
- そういうふうに言わなきゃだめというのも
ちょっと寂しいんですけど(笑) - 本当こんな後出しじゃんけんみたいな話をしても
しょうがないですけど、
はじめにそうやってぼくは
イメージをつくっていきました。
- ――
- その天界のイメージと
音色、いわゆるアレンジや
使う楽器のぜんぶがリンクしていくわけですね。
- 瀬尾
- そうですね 。
- だから、どうしたらそういう天上人になるかなと
フッと考えた時に
「あっ これは雅楽でいこう」と思って。 - 天上人ですから
日本の天上人から連想して、
雅楽っぽくいこうと。 - 西洋音程ではないので
雅楽の音程ではじまって
笙(しょう)のような音が鳴っていく。 - ただ、天上人だってギリシャ神話も
北欧神話もいろいろとあるので、
あんまり日本とか中国とか東洋に
決めつけないほうがいいよなとも思いました。 - なので、雅楽ではじまるんですけども、
合いの手からは竪琴みたくなっていって、
その竪琴をお花畑へというイメージに広げて
和なのか洋なのかが分からなくなるような
天上の情景をつくり、
そこから地上に向かって天女が歌っていく。 - もしも、はじめから中島さんが扮してる主人公が
人間として地上に足を踏ん張って、
「な~ぜ~♪」と歌ったら、
すごい説教じみてしまうというか‥‥ - そうならないように、
上から女神がフワーっと歌うような情景にしようと思って
『糸』のアレンジをしていったんです。
瀬尾一三さんのスペシャル授業開催!
中島みゆきの音楽が生まれる時
~音楽プロデューサー瀬尾一三「ほぼ日の學校」番外編~
スペシャル・トークイベント日時:2022年6月5日(日)
第1部 13:15開場 / 13:30開演
第2部 16:15開場 / 16:30開演
場所:ヤマハ銀座店 6F ヤマハ銀座コンサートサロン参加方法など、くわしくはこちらをご覧ください。
このイベントは満席となりました。ありがとうございました。瀬尾一三さんの授業のすべては、
「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。
「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
授業(動画)の視聴はスマートフォンアプリ
もしくはWEBサイトから。
月額680円、はじめの1ヶ月は無料体験いただけます。