近畿大学皮膚科の大塚篤司先生による、
アトピーとかゆみの授業です。
アトピーはいま研究がすすみ、
どんどん新しい治療法が出てきている分野。
最新情報を交えつつ、
普通の人が知っておきたい
基本的な情報について教えてくださいます。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の
一部を読みものでご覧ください。
大塚篤司(おおつかあつし)
近畿大学 医学部皮膚科学教室 主任教授。
1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。
2003年信州大学医学部卒業。
2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て
2017年より京都大学医学部特定准教授。
2021年4月より現職。皮膚科専門医。
がん治療認定医。アレルギー専門医。
がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、
AERA dot.・京都新聞「現代のことば」連載をはじめ、
コラムニストとしても活躍。
医師・患者間の橋渡し活動を行っている。
著書に『最新医学で一番正しい
アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)
『教えて!マジカルドクター
病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)
『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)がある。
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『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)
『教えて!マジカルドクター 病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)
『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)
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アトピーに強い興味を持ったきっかけ。
近畿大学皮膚科の大塚といいます。
今日はまず、
「アトピーとは、どういうものか」
ということを理解していただこうと思います。ぼくは、2003年に医者になったんですが、
その翌年の2004年ぐらいから
本格的にアトピー性皮膚炎を診はじめました。
アトピー性皮膚炎に
もともと興味があったわけではなくて、
病気としてはガンのほうに興味があって、
特にメラノーマという
ホクロのガンを研究していました。2004年に田舎の病院に赴任したんですが、
その病院のすぐ近くに、
「ステロイドを使わずにアトピーを治しましょう」
とうたっている、全国的に有名な病院がありました。そこで治療を受けている患者さんが、
ときどき脱落して、ぼくの病院にやってくるんです。そういう患者さん達には、
ちょっと偏った知識が入ってしまっていて
「ステロイドが怖い」という人も多いんです。
アトピーに対しての知識が、
ちょっと間違ったほうにいっている、と思いました。そういった方々に、30分とか1時間かけて、
アトピーについてじっくり説明する中で、
「この患者さんたちは、何を感じて、
どうして、そういう治療にいっちゃったんだろう」
ということに興味を持ちはじめました。そうして「間違った認識を修正したい」と思うようになり、
アトピーをじっくり診るようになったんです。「もしかしたら、正しい治療にたどり着けない患者さんが
たくさんいるんじゃないかな」と思って、
ブログにいろいろ書くこともはじめました。そこから、薬もつくろうと思って、
いろいろと研究をしてきました。今、アトピーの治療って、
すごく変わってきています。昔は、ステロイドを使った治療だけが
メインだったんですけど、
2018年から新しい薬がたくさん出てきました。どんどん進歩している領域なので、
みなさんに最新の話題も
お伝えしたいな、と思っています。アトピーについて、今どこまで分かっているか。
まず アトピーのことが、
今どこまで分かってるか、という話です。みんな普通に「アトピー」って
言いますけれども、
もともと語源はギリシャ語で、
「奇妙な」という意味なんです。アトピー性皮膚炎というのは、
「奇妙な皮膚炎、湿疹である」というのが
もともとの語源、ということになります。当時、まったく何もわかっていなくて、
「何だかよく分からない病気だけど、
体中に湿疹ができてしまう」、というのが
アトピー性皮膚炎だったんです。これが、今ではどこまで分かってきたか、
という話をします。「アトピーになりやすい人」というのは
何となくわかってきています。ですが「どうしたらアトピーに絶対になるか」とか、
アトピー性皮膚炎のなる人、ならない人の
タイプの見定めとか、
そこまではまだわかっていないです。「こういう人はなりやすい」
「こういう人はなりづらい」
まではわかってきました。「病気のいちばん大事なところが、どこにあるか」
というところが、少しずつわかってきています。アトピーの大事な3つのポイント
アトピーには、大事なポイントが3つあります。
まず一つ目が「かゆみ」なんです。アトピー性皮膚炎の診断基準に
「かゆい」というのは絶対に入ります。
もう「かゆい」=「アトピー」と言ってもいいぐらいです。診断基準には、ほかにも
「左右対称性に湿疹の病気ができる」というのがあります。
だから、腕の内側とか、ヒザ裏とか、首とか
体にも左右対象で両側に湿疹ができてきます。さらにもうひとつ、
「ずっと続く」ということ。
大人の場合は「半年間以上続いている」というのが
診断基準として入ります。これらが、アトピー性皮膚炎の診断基準ですが、
その中でも大事なのは「かゆみ」です。アトピーの3つの大事なポイントに戻りましょう。
もう一つ重要なのが 「肌の乾燥」、
ドライスキンですね。
カサカサ肌のことです。そして、最後に「免疫」です。
免疫の異常があげられます。「かゆみ」「肌の乾燥」「免疫」
今この3つが、アトピーに関して大事だと言われています。この3つが全部作用しあって、どれも影響しあうんですね。
そうして悪循環になっていくのが、アトピー性皮膚炎である、
というふうに言われています。「かいちゃダメ」と言うのをまずやめよう。
さて、ご家族の方に、もしアトピー性皮膚炎の方がいたら
ぜひ、聞いていただきたいお話をします。たとえば外来受診で、
アトピー性皮膚炎のお子さんの患者さんと、お母さんが
一緒に診察室に入ってこられたとします。
かゆい子は、そこでボリボリ、ボリボリかくんです。その時、お母さんはだいたい、
「かいちゃダメ」って叱る。これはたぶん、ぼくら医者の前で
お子さんがかいてるところを見ると、
ぼくたちに対して、ちょっと申し訳ない気持ちになって
「かいちゃダメ」と言ってしまうんだと思うんです。でも、それは逆効果だなと思ってて。
僕はこれを
「『かいちゃダメ』と言っちゃダメ運動」
と名付けています。これは皮膚科の先生たちにも、ずっと話していますが、
「診察室で患者さんに『かいちゃダメ』と言うのを
まずやめましょう」と言っています。なぜ、そんなことやってるかというと、
患者さんは、みなさん「かいちゃダメ」というのが
よくわかっているからです。「かきむしって血だらけになって、
アトピーが悪くなったのを後悔する」
それを、もう全員、ほぼ全員、経験してるんです。あらためて、ぼくらが「かいちゃダメ」と言っても
逆効果にしかならない。
それが、よくわかっているので
「言わないようにしましょう」と言っています。心理学では、
「心理的リアクタンス」という言葉で言われていて、
「カリギュラ効果」という別名もついてます。アメリカで上映された『カリギュラ』という映画が
由来だと思いますが、
内容がすごく過激すぎて、公開中止になったんですね。
そのせいで 逆に人気が出てしまったんです。人間「やるな、やるな」と言われると、
ついやってしまう。たとえば『鶴の恩返し』もそうです。
「部屋をのぞかないでください」と
ずっと言われ続けると、
あんなに心優しい人でも、
最後は部屋をのぞいてしまう。アトピー性皮膚炎の患者さんも、
「かくな、かくな」と言わていると、
だんだんかきたくなってくるんです。だから、ぼくは
「まずは『かくな』と言わないようにしましょう」
と言っています。じゃあ、何ができるんだろう?
では、他に何ができるかというと、
「メントール」です。
メントール入りのもの、
というのは、かゆみを抑えます。それから「冷たいもの」というのも同じ効果があります。
だから、冷やすのもいいんです。余談ですけど、「痛み」の場合は、
逆に温めた方がいいと言われています。「かゆみ」の場合は冷やす。
「痛み」は温めます。
そのほうが治まると言われています。もう一つ、まだこれは実験レベルで、
実際どれだけ効果があるかわからないですけど、
「色でかゆみがコントロールできる」
と言われていています。赤色系のものを見ると、かゆみが増す。
青色系のものを見ると、かゆみが治まると言われています。今、バーチャルリアリティで、ゴーグルをつけて
いろいろ空間の中に入れますよね。
バーチャルリアリティの中で
青色系の空間と、赤色系の空間に分けて、
「どっちがより、かゆみを感じるか」
という実験をしているんです。実験の結果、 青色系の空間に入っていた人のほうが、
実際にかゆみは治まっていて、
赤色系の空間に入っていた人は、かゆみが増したんです。
だから、「青色系のものを見るといい」と言われています。ただ、バーチャル空間の中で視界を覆われている状態と、
実際に目の前で青のものを見るのと、
どれだけ差があるかは、まだわからないので、
ここでは「少し参考程度に」という感じでお話しました。「アトピー」と「アレルギー」。
「アトピー」と「アレルギー」の違いは
なんでしょうか。
「アレルギー」というのは大きい括りです。
アトピー性皮膚炎も、喘息も、花粉症も、
食物アレルギーも、みんな「アレルギー」の中に入ります。だから「アレルギー」は大きい括りで、
その中の一つがアトピー性皮膚炎、
ということになります。研究が進んでわかってきたことですが、
アトピーのかゆみは、蕁麻疹のかゆみとは違って
少し独特です。今までは、蕁麻疹とアトピーのかゆみは、
同じものだと思われていました。でも、分子の話までわかってきて、
それぞれのかゆみは、ちょっと質が違う、
ということが、最新の医学でわかってきたんです。
ここからは、そのお話をしていきます。
大塚篤司さんの授業のすべては、
「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。
「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
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