動物学者の今泉忠明さんが監修を手掛ける、
大人気シリーズ『ざんねんないきもの事典』。
クスッと笑える動物の特性を紹介するユニークさが、
子どもにも大人にも人気を博しています。
そんな今泉さんは、
「動物を知ることは、人間を知ることにつながる」
と言います。
この授業では、「ざんねんないきもの」のお話を通して、
わたしたち人間が生きやすくなるヒントを教えていただきます。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>今泉忠明さんプロフィール

今泉忠明(いまいずみただあき)

動物学者。
1944年、動物学者である今泉吉典の二男として、
東京に生まれる。
東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、
当時、国立科学博物館に勤務していた父の誘いで、
特別研究生として、哺乳類の生態調査に参加。
その後、文部省(現・文部科学省)の
国際生物学事業計画調査、
日本列島の自然史科学的総合研究などにも参加した。
伊豆高原ねこの博物館館長、
日本動物科学研究所所長などを歴任。
監修をつとめた『ざんねんないきもの事典』
高橋書店)は、
2018年、「こどもの本総選挙」で第1位に選出された。
動物関連の著書が多数あるほか、
たくさんの動物本の監修も行っている。
兄、息子ともに動物学者という“動物一家”の一員である。

おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典(高橋書店)
けもの塾

  • 人間は生きていくのが大変な動物。

    ほぼ日
    先生の動物のお話をお聞きしていると、
    人間と結びつけて考えていらっしゃるのが、
    すごくおもしろいです。
    人間を動物として見たときのおもしろさって、
    どんなところなんでしょう?
    今泉
    春になると、ふらふらと、どこかに行きたくなるよね?
    特に若い人は出て行きたくなる。
    これは、動物の本能そのものなんです。
    春というのは、動物にとって繁殖期なんです。
    特に目的もなく、うろつくんですよ。
    高校生とか中学生とか、
    なんで新宿行くの?」っていう(笑)
    目的があるわけじゃなく、ただ、ぶらぶらする。
    それは、動物ですよね。
    動物の部分が根底にあるんだけど、
    人間は脳が発達していて、新皮質という新しい部分が
    古い脳の上にかぶさってるんです。
    古い脳が、本能に従って行動を起こす。
    かわいい人、いねえかな?」なんていって
    探し回ったりするのが、本能部分。
    その上に、知識が入ってくるんです。
    特に脳の前側、前頭葉の部分が抑制をかけます。
    そんなことやっちゃいけない」「今日は勉強だよ」
    とか、そんなふうに本能的な行動を抑えるわけです。
    それで、ちょうどいい大人になってるわけ。
    ところが、抑えられない人がいっぱいいるんです。
    今日はもう仕事はやめた」と出て行っちゃう。
    抑えられずに、本能部分が強く出てしまう。
    人間は、本能と知能、そして社会的行動、
    この3つを持って、動いています。
    みんなとうまくやっていかなきゃ」
    1人で勝手にやっちゃいけない」、という
    自分で抑える気持ちが、はたらくんですね。
    だから人間はね、
    こういうことやりたいんだけど、今はまずいな」
    というような、ストレスが大きいわけです。
    これはね、人間は大変ですよ。
    ほぼ日
    動物の本能的な脳の指令は
    生きることに直結してますよね?
    危険だからこうするとか、
    威嚇しないと襲われてしまうとか‥‥。
    人間も、本能に従ったほうが、
    生きるという意味では強くなるんでしょうか?
    今泉
    そうですね。
    でも、本能だけに従っていると、
    社会的には「あいつはダメだ」ってなるよね。
    本能のままいる人は、電車の中で急に騒いだりして‥‥、
    これじゃ、まずいよね。
    でも1歳ぐらいだと、まだ本能だらけなんです。
    だから泣くんですね。
    まわりのことは気にしない」ーそれが本能部分です。
    まわりがあるから我慢しなきゃ」ーそれが社会性です。
    人間は知能が高いだけに、生きていくのは大変なんです。
    ほぼ日
    動物が本能に従ってやっていることを
    うまく応用できれば、
    人間も生きやすくなるのかな?と思うんですが。
    今泉
    なるでしょうね。
    あまり上から命令で抑えつけると、
    ダメになっちゃうというのは、その部分ですね。
    あまり本能が抑えられすぎると、どこかで爆発する、
    っていうことがあります。
    ほどほどに出させてあげないと、
    いけないんだろうなと思います。

    人間は「修正」がきく。

    ほぼ日
    先生の子育てもユニークですよね。
    人間の動物としての本能を生かした子育てをされてて。
    それと同時に、人間にとっては、
    人との付き合い方を教えるのも
    すごく大事だと思うんですが‥‥。
    今泉
    子育てに関しては、年齢にもよりますけど、
    3歳ぐらいまでに必要なのは、愛情だけです。
    叱らない。
    ダメ」を言わない。
    何でもやらせてあげる。
    危ないと思ったら、スッとどけてあげるとか、
    ダメ」と言わずに、危ないものを隠しちゃうとか。
    できるだけ抱きしめてあげる。
    スキンシップですね。
    そういったことを、5歳ぐらいまでは大事にする。
    愛情をかけて育てれば、そういう風に育つのが
    当たり前だと思うんですね。
    だから、その人は大人になると、
    同じように人と接すると思うんです。
    たとえば、ゴミ袋に入れられて、テレビの前に置かれて、
    スナック菓子だけ放り込まれて、
    お母さんはどこかに出て行っちゃう、
    そういうのが当たり前で育てられた人。
    そういう人が、大人になってから
    まずいことを起こすケースがあります。
    子どもを育てるというのが、どういうことなのか、
    わかってないんでしょうね。
    でも、人間って賢いから、そうやって育った人が
    100%そういう人になるかというと、違うんです。
    友だちです。そして、大人になったら仲間。
    和気あいあいと話し合える友だち、目標が同じの仲間、
    そういった人たちが修正してくれるんです。
    人間が複雑なのは、そういう環境で育った人でも、
    ほとんどは修正ができて「うまくいく」ということです。
    いい友だちや仲間と出会うことができれば、
    かんたんに修正できて、ちゃんとした人になります。
    これが、人間の知能のすばらしさです。
    修正がきくんです。
    動物の場合は、修正がきかない。
    ツルの子どもがいじめられて育った場合、
    そのツルは、いじめるツルになっちゃいます。
    単純ですから、修正はきかないんです。
    人間のすごいところは、
    修正がきくというところだと思います。

    3歳を過ぎたら親は友だちになる。

    ほぼ日
    大人になってからも
    人間関係で悩むことは多いですが、
    そういうことにも応用できますか?
    今泉
    できると思いますね。
    悩んでいるときは、普通はスポーツをやったりして
    気を紛らわすんですね。
    その紛らわし方を教わってない、
    身につけてないがゆえに、追い詰められちゃう。
    子どもたちを育てるときは、
    3歳過ぎたら、親じゃなくて友だちになるんです。
    親が、親ヅラしちゃいけない。
    親には、育てる義務が法律的にあります。
    子どもは「育てられて当たり前」で、義務はない。
    だから、法律的にいうと、
    子どもは親の言うことを聞く必要はないんです。
    小学校に入ったぐらいから、お父さんお母さんは、
    子どもを自分の家来だと思わないで、
    友だち、仲間のように接するんです。
    そうすると、子どもが信頼してくれますね。
    信頼できないと、子どもは親に隠し事をします。
    信頼し合っていれば、そんなに大きな悩みには
    ぶつからないと思いますよ。
    それにはなにしろ、親ヅラをしないことですね。
    その頃までに、人に対する態度というか
    接する行動が決まってくるんです。
    人を敬う」とか「尊敬し合う」とか、
    そういう気持ちがちゃんと育ってるから、
    うまくいくんです。
    そこまでに、その気持ちが育ってない人は、そこで急に
    人をバカにしちゃいけない」とか言われても、
    そんなこと知らないから、
    最初からうまくいかないんです。
    ほぼ日
    仲間だったり、出会った人たちからの
    フィードバックというか関係性を
    自分で吸収していくことが大事なんですね?
    今泉
    大事ですね。
    そういう環境で育った人でも、良い上司に出会えば、
    ちゃんとできるようになります。
    逆に、悪い上司に出会ったら、よく育った人でも
    ダメになっちゃう。
    対人関係や社会的な位置は、
    すごく大事なことなんですね。
    子どもが小さい頃から、そのことを親は意識して
    そんなことしちゃいけないよ」っていうことは、
    あまり言わないで、のびのびとさせてあげてほしいです。
    ここだけはダメ」というとこだけ、
    修正すればいいと思うんですけどね。
    ほぼ日
    その判断が難しいですよね。
    今泉
    そう。やたら「ダメ」が多いですね。
    ダメ」と「○○しなさい」っていうのは、
    命令ですよね。
    それでは、うまくいかないです。
    ほぼ日
    注意する時の言い方も大切だということですね。
    今泉
    そう、顔つきもね(笑)。
    真面目な顔で言うと、もう怒ってると思われちゃうから。
    そういう時は、やっぱり優しく言わないとダメですね。

    今泉忠明さんの授業のすべては、
    ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


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