中学卒業後、トヨタの企業内訓練校で学び、
自動車製造の仕事についた三浦さんは、
「世界青年の船」日本代表に選出され20カ国を旅しました。
そして、いま、若者が
「自分の人生を自分で選択できる社会」を
目指して活動中です。
その原点には、ひとりの友人の死がありました。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>三浦宗一郎さんプロフィール

三浦宗一郎(みうらそういちろう)

一般社団法人HASSYADAI social理事。
1995年生まれ。愛知県出身。
中学卒業後、
トヨタ自動車の企業内訓練校・トヨタ工業学園に進学。
卒業後、トヨタ自動車に就職し、自動車製造にかかわる。
2017年に内閣府「世界青年の船」日本代表に選出。
その後、トヨタ自動車を退職し、約20カ国を旅する。
2018年より株式会社ハッシャダイ入社、
ヤンキーインターンの講師を務め、
2020年より一般社団法人HASSYADAI.socialを設立し、
理事に就任。

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一般社団法人HASSYADAI social
note

  • 根っこにある幼なじみの存在。

    ぼくは、田んぼがいっぱいある、
    田舎町に生まれ育ちました。

    そんな田舎町で生まれ育った僕には、
    すごく仲の良かった幼なじみの友人がいました。

    その友人は、Tシャツに穴があいてたり、
    ちょっと臭いがしたりすることがありました。
    ただ、一万円札を持ってたりして。
    「アイス食うか、お前ら!」 なんて
    ぼくもアイスをおごってもらうことがあったりして。

    ですが、じきに悪い先輩たちと付き合いはじめ、
    学校に来なくなってしまいました。

    たまに会う彼は、金髪で。
    ほんと見間違うくらい顔も変わって。

    会えば、「元気でやってるのか?」なんて
    話はしたんですけど、高校になると
    ぼくは全寮制の学校に入ったので、
    会うこともなくなってしまいました。

    彼がどうしてるか、知らなかったんですけど、
    「彼のお葬式がある」と連絡が来たんです。

    彼は結果的に、自殺という形で人生を終えました。
    後から聞いた話によると、経済的な理由が原因でした。

    お金がなくて、よくないところから借りて、
    どうしようもなくなって、
    彼は自殺という選択肢を選んだ。

    でも、彼は昔は、一緒に遊んだりして
    ぼくの隣にいたんですよね。
    確かにいたんです。

    ぼくは「運良く」なのか、
    今の家族のもとに生まれて、
    いろんな機会をもらって、今こうして生きている。
    トヨタという会社に入ることができて、
    HASSYADAI social(ハッシャダイ)という
    会社にも出会えて。
    今こうして、しゃべらせてもらっている。

    ぼくと彼、何が違ったのかなと考えたときに
    「生まれた場所だけだったのかな」と思っていて。

    そうなると、「ぼくの役割って、なんなんやろ」と。
    「彼が得られなかった、自分が得たものをどう残せるか」
    みたいなところを、すごく考えるようになりました。

    「存在」を知れば、思いやることができる。

    ヤンキーインターン事業に関わったり、
    ハッシャダイで、少年院や児童養護施設、
    いろんな高校に行ったりすると、
    「生徒の半分以上が母子家庭」
    「生徒の1/3が生活保護を受けてる」
    というようなことが
    めちゃめちゃいっぱい、あるんですよ。

    ※ヤンキーインターン事業
    中卒・高卒の若者が参加できる
    無料のキャリア支援サービス

    東京に戻ってくると、
    そういう人がいないんですよね。
    少なくとも、ぼくの周りには。

    去年5月に、あるツイートをしたとき
    ものすごくバズったんです。
    3万いいね 、1万リツイートとか。

    そのツイートの内容なんですが、
    まず、ぼくの友だちから、
    「東京大学の大学院生の友だちが、
    幼児教育に興味があって、
    宗一郎の話を聞きたい、って言ってるんだけど、
    つなげていい?」と話をされたんです。

    その友だちに「全然いいよ」と 返事をして、
    その東大大学院生の方と実際に話したら
    めちゃめちゃ仲良くなれました。

    その人が、シンプルに好奇心から、こう言ったんです。
    「私ね、失礼な言い方に聞こえちゃうかもしれないけど
    高卒で生きてる人と初めて会った」って。

    ぼくは、「そうだろうな」と思いました。
    だって、ぼくの周りには、
    大卒の友だちいなかったし。
    東京に出てくれば、大卒の人は大卒の人たちとつるむから、
    高卒の人たちは、周りにいない可能性が高いだろうな、と。

    ぼくは、ここに、
    「今の社会をよくする可能性があるな」
    と思ったんです。

    彼らが、官僚になったり社会の要職についていくときに、
    その人たちの周りにいなかった人たちの声を
    ぼくたちがちゃんと届けることができそうだな、と。

    人はきっと、「存在」を知れば
    思いやることができると思うけど、
    知らなければ思いやることもできない。

    そういう、いろんな人たちののことを
    思いやることができたらいいな、と考えながら
    活動しています。

    選択格差をどうするか?

    3年間ほど「選択格差」という課題と向き合ってきて、
    最近、ぼくなりに解決方法の糸口を見つけた、と
    強く感じていることがあります。

    「選択格差という課題に対して、
    ぼくたちは何ができるのか」と。
    その『ぼくたち』というのは、
    ハッシャダイの『ぼくたち』ではなく、
    皆さんも含めた『ぼくたち』だと思って
    聞いてもらえたら、と思うんですが。

    選択格差はどんな要因で作られているのか、と
    考えてきました。
    『経済格差』が、まずありそうです。
    お金の問題です。

    それから『地域格差』 。
    移動のしやすさも含め、
    周りにどれだけ友だちがいるか、とか。

    それにともなう『情報格差』もあります。
    そこに『教養』とか『学歴』がついてきて、
    選択格差が完成してるのかな、と思っていました。

    それが、「どうやら違う」と
    最近すごく思うようになったんです。

    経済の問題を解決しても、
    住む場所の問題を解決しても、
    全然幸せにならないじゃん!って。

    逆説的にいうと、
    「お金があって、都心に住んで、情報があれば
    人は幸せになれるか」 というと、なれないんです。

    「どうやったら幸せになれるのか」と
    もっと最短距離で考えたときに 、
    「自分は生きていていい、という感覚がある」とか、
    なんかもっと、『愛』とかなのかな、と思ったんです。

    必要なのは『愛』!

    逆に言うと、
    お金がなくても、住む場所が『ど田舎』でも、
    情報がなかったとしても、
    「『愛』があれば、人間は生きていけるんじゃないか」と
    思いました。

    ただ、今は資本主義の社会なので
    「『愛』だけで生きていく」なんて無理ですけど。

    だから『知性』は要るわけです。
    この資本主義社会の中で生き抜くために、
    『知性』とか『教養』とかは、
    もちろん必要なんですけれども。

    でも、そこに『愛』が抜け落ちてしまうと、
    「人は幸せになれないな」と思ってるんです。

    『愛』ってなんなんだろう、とか
    どういう風に人は『愛』を獲得しているのか、
    どうしたら人は『愛』を得られるんだろうか、と
    考えたときに、それは
    人と人との間でしか、生まれないな、と思ったんです。

    「この人は、自分の話を聞いてくれるんだ」、
    「自分が興味のあることに、興味を持ってくれるんだ」とか
    「条件付きじゃないんだ」とか。
    そういう感覚を得ていく中で、
    人はすごく強くなれるな、と思いました。

    果たして、その無条件の愛が、どれだけあるだろうか、と
    今の学校や家庭を見ていくと、
    ぼくは少ないな、と思うんです。

    社会にある愛の総量が少ない。
    今のあらゆる社会課題の根本が、
    そこにある気がしているんですよね。

    ぼくは、いろんな高校に行きます。
    いろんな高校で先生が生徒と話してるのを見たり、
    先生が生徒を叱ってるのを見たりして、
    悲しくなることがあります

    できない前提で、 ダメな前提で
    「だからお前らダメなんだよ」とか、
    「どうせお前らには無理だから」とか、
    普通に言ってしまう人たちも、たくさんいて。
    そんな状況で、人が幸せに生きることなんて
    できないのではと思います。

    彼らが幸せに生きられないってことは、
    きっと彼らの周りも不幸せにしてしまうだろうし。
    ぼくは、それをなんとかしたいな、と思っています。

    なんとかする方法は、全然わかってないんですが、
    1つだけわかってるのが、まず
    「自分がそうする」ということです。

    しんどいときは「言葉」に頼る。

    ここからは、会場の参加者からの質問に、
    三浦さんが答えてくださいました。

    質問:
    しんどくなった時、辛くなった時は
    どうしてますか?

    人間って、『言葉』という
    すごい発明品を持っているので、
    それを使ってほしいと思ってるんです。

    ぼくレベルになると、挫折したときに
    頭の中で大河ドラマのナレーションが流れます(笑)。
    『この少年が、未来で天下統一を果たす!』
    来たな!だよな!と。

    そこまで言わなくてもいいですけど。
    「言葉で脳みそのスイッチは変えられる」と思っていて、
    しんどいな、と思ったときに、ぼくが好きな言葉は、
    「それでも、なお」なんです。
    めっちゃ好きなんですよね

    「それでも、なお」と書くんですよ。
    そしたら、やれるんですよ、人間。
    自分の脳内のスイッチを変えられる。
    絶望を受け入れて「それでも、なお、やろう!」って。

    だから絶望したとき、しんどいときに、
    「それでも、なお」って、いったん言ってみるとか。

    あともう1つ好きな言葉に「今はね」があります。
    「しんどい…。今はね!」
    ね、ちょっと未来が明るくなるでしょ?

    自分の言葉によって、自分を励ましていくのは、
    今日からできることかなって、思います。

    運気を上げるためにやってること。

    質問:
    運が良かったほうだとおっしゃっていましたが、
    運を引き寄せるためにやっていることはありますか?

    「口角を上げること」は、めっちゃ意識してます。
    ぼく、上唇の上に縫った痕があるんですよ。
    口角を上げるために、手術したわけじゃないですよ(笑)。

    中学校2年生の時、サッカーの試合中に、
    水筒のステンレスの口から、氷を食べてたら
    ボール飛んできて、当たって、切れちゃったんですよ。
    両方の口角のところを縫ったんです。
    そのとき、母親に言われたんです。
    「縫った痕があっても、口角上げときゃいいよ、
    よかったね、口角が上がってみえる」って。

    そこから、口角を上げるように気をつけてるんです。
    これがけっこう良くて。

    18歳で、工場に行くのが毎朝つらかったとき、
    出勤する車に割り箸を積んでたんですよ。

    朝5時とかに運転して工場に行く途中、
    車に乗ったら割り箸を噛むんです。
    そうすると、口角が上がるじゃないですか。
    工場までの10分、運転しながら噛んでるだけで、
    口角が上がって、気持ち明るくなるんですよ。

    「運気を上げるために、明るくいた方がいいよ」というけど
    「明るい」って性格だから、変えるのは難しい。
    だけど、「口角を上げる」のは行動なので、できるんです。

    しかも今って、マスクつけてるから、
    どんだけ口角上げてもバレないんです。
    だから、ぜひ、口角上げてたらいいと思います。
    電車の中で、割り箸半分に折って
    マスクに収まるサイズで(笑)
    そこまで必要ないかもしれませんんが、
    ぼくは、口角を上げることは大事にしています。

    悩みは、聞ける範囲で聞く。

    質問:
    自分の心に余裕がない時、人の話を聞くのがつらいです。
    相手にどう向き合ったらよいでしょうか?

    聞ける範囲でいいと思ってます。
    その上で、自分にできることは、
    「聞けるキャパをいかに増やすか」だと思います。
    自分が精神的に豊かだったら、
    たぶんいくらでも聞けると思うんです。

    「聞ける範囲で聞く」というのは大前提です。
    自分まで不幸になったら、元も子もないんで。

    そこを大前提として 、
    「聞けるキャパをいかに増やせるか」は
    考えた方がよさそうだな、と思います。

    ぼくは、毎朝散歩をしたり、白湯を飲んだり、
    っていうことをやってみてます。
    ちょっといい感じ、じゃないですか?

    幸せだと余裕があるので、人の失敗も許容できる。
    そっちに力を使えると、よさそうだなと思ってます。

    アドラー心理学のカウンセリングでは、
    悩みや課題を聞く時、相談者の前に
    3つのトピックをそれぞれの面に書いた
    三角柱を置くそうです。

    ①かわいそうな私の話
    ②嫌いなあの人の話
    ③これからどうするか

    この3つのトピックの中で、
    「今の話の内容は①②③のうち、どれですか」って
    相談者に聞くそうなんです。

    基本的に、悩み相談ではほとんどの場合
    ①かわいそうな私、あるいは、
    ②嫌いなあの人、の話をしているそうです。

    でも、その三角柱を置いて、
    「どの話をしたいですか?」と聞くと、
    みんな「これからどうするかの話」を
    したいらしいんです。

    ヤンキーインターンの面談でも、
    この方法はすごく活用しています。
    過去の話をしても現状は変わらないので、
    「これからどうするかの話」をいかにさせてあげるか、
    いつも考えるようにしています。

    「どうする?」というような感じで投げかけて、
    未来に目を向けさせてあげる、というような
    コミュニケーションがとれたとき、
    いい方向にこれから動きそうだなって感じます。

    その人が、自分の悩み自体を
    自分が変われない言い訳に使っているな、
    と思うときには、強く伝えることも
    優しさだったりするのかな、と思います。
    そんなときは「ひとつ言っていい?」みたいな感じで
    伝えるのもアリかなと思ってます。

     


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