イッセー尾形さんが演じてきたのは、
あこがれの人」なんだそうです。
ただそれは「立派な人」ではなくて、
どちらかというと「絶滅危惧種みたいな人」や
しょうもない人」。
日常の暮らしの中から、文豪の作品のなかから、
そういう人を見つけては演じてきたのだとか。
初公開の一人芝居「絶滅危惧種人」を鑑賞したあと、
そのあたりのことについて、
糸井重里とたっぷり語り合っていただきました。

動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>イッセー尾形さんプロフィール

イッセー尾形(いっせーおがた)

俳優。
1952年福岡県生まれ。
1982年より現在まで「フツーの人の日常を描く」
一人芝居を継続中。
映画出演作。
1999年「ヤンヤンの思い出」(エドワードヤン監督)
2003年「トニー滝谷」(市川準監督)
2005年「太陽」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)
2016年「沈黙」(スコセッシ監督)
2021年「ONODA一万夜を越えて」
アルチュール・アラリ監督)
TV出演。
2018年NHK「未解決事件警察庁長官狙撃事件」
2019年NHK連続テレビ小説「スカーレット」
2020年福岡放送「天国からのラブソング」
2020年NHK BS{ワタシたちはガイジンじゃない!}
2021年WOWOW「トッカイ」
テレビ東京「神様のカルテ」など多数。
NHK大河ドラマ「青天を衝け」
この他にも舞台「ART」(小川絵里子演出)
・雑誌「モンキー」にて
シェークスピアのカバー小説を掲載し
シェークスピア・カバーズ」となり発売中。
現在、雑誌「coyote」にて「宮沢賢治再訪」を連載中。

公式サイト
公式YouTube

  • 一人芝居「絶滅危惧種人」を鑑賞して

    イッセー
    お邪魔します。
    糸井
    いまの一人芝居の続きの話をしましょうか。
    イッセー
    はい、そうですね。
    糸井
    見てて思ったんですけれども
    昔から、ああいう人はいっぱい
    イッセーさんの芝居に出てきてるんだけど、
    たしかに、このごろ見ないなと。
    イッセー
    そうです。
    ああいう、いわゆる「間に入る人」が、
    いまは本当になくなっちゃって、
    若者と偉い人だけ。
    中間層がいなくなったんですね。
    でも、ドラマになるのは中間層、
    やっぱりあの辺ですね。
    葛藤してる人というか、針が振れる人。
    糸井
    上と下の両方を
    うまく何とかしたいんですよね。
    イッセー
    そうなんです。
    どだい無理なんですけど。
    糸井
    どだい無理なんですよね。
    その人がいたからといって、
    とんでもないことが起こるわけでもない。

    イッセー
    うんうん。
    糸井
    かと言って、うまくいくわけでもない。
    イッセー
    そうなんですよ。
    あいつはしょうがねえなぁ」で済んだり、
    事がうまく運べば、
    存在なんか忘れられちゃうような人。
    糸井
    あれがこじれると、
    ちょっと面倒くさい人になるんですね。
    イッセー
    そう。
    あれが表の顔だったら、
    きっと裏の顔があって‥‥、逆忖度。
    糸井
    うん‥‥。
    イッセー
    忖度される側を望むから。
    糸井
    あー、そっか。
    イッセー
    どうして、俺のことが分からないんだ」
    みたいなのをあちこちで
    まき散らしていると思いますね。
    糸井
    笑)
    イッセー
    家族とかね。
    糸井
    頑固になって、
    こんなこともわからないのか」って言いそうな。
    イッセー
    そうです、そうです。
    糸井
    みなさんの中にもありますよね」
    って言いたいんだけど、
    たぶん若い人の中にはもう
    あまりないんじゃないですかね。
    イッセー
    どうなんだろうなぁ。
    これは文化で‥‥
    ぜひ伝えていきたい文化ですね。
    糸井
    ぷっ(笑)
    一同
    笑)
    糸井
    ま、それは、
    なんとか後世に踊りを伝えておきたいようなね。
    イッセー
    ええ、ええ。
    イッセー
    ああいう人の存在って何なんだろう
    というのは分からないままに残る。
    イッセー
    うん、DNAですね。
    糸井
    笑)

    原点は憧れ

    糸井
    だけど、イッセーさんは、
    実際には、ああいう人じゃないですよね。
    イッセー
    ちがいますね、ぜんぜん。
    ただ、だからこそ憧れるのかな。
    糸井
    憧れる‥‥。
    イッセー
    そう、僕の原点は憧れなんですよ。
    僕のやる人物は全部、
    どこかに憧れてる部分がある。
    いいなぁ」みたいなね。
    糸井
    ほう。
    イッセー
    揺れてていいなぁ」とかね。
    憧れの気持ちがあるんですよ。
    糸井
    ああー。
    イッセー
    この〇〇のネタのもとは、
    何かのテレビで、
    皇室の方がセレモニーをやる場面に、
    ホテルの人がちょっと映ったんですね。
    あっちの花が、こっちじゃなきゃいけないようで
    走って行って‥‥
    花をこうやって(移動させて)‥‥
    そういう映像があったんですよ。
    その時にパッ!と。
    糸井
    あれだ!と。
    イッセー
    あれだ!と思って、
    この一人芝居につながるんですけども。

    糸井
    原点はそれなんですか。
    イッセー
    それなんですよ。
    ほんの一瞬テレビで見かけただけの人。
    あ、いるんだこの人は」と思った。
    こういう人たちが、
    映らないようにしながらも、
    まわりを動かしてる。
    糸井
    ああー。
    人が大勢集まってるところに、
    遅れて入ってくる人で、
    邪魔しないように、すっごくかがんで、
    静かにしてる様子が大袈裟だから、
    それがうるさいっていう人いますよね。
    イッセー
    います、います。
    目立たないようにすればするほど、
    目立つ人いますよね。
    糸井
    それは大いにありますよね。
    イッセー
    だからといって、
    遅れてきたのを、なんでもないように、
    平気で入る度胸はないしね。
    糸井
    うんうん。
    イッセー
    やっぱり「腰をかがめる」のがね、
    まず最初に選ぶやり方ですよね。
    糸井
    つまり文化という。
    イッセー
    文化ですよね。
    ちょっと腰をかがめる。
    糸井
    笑)
    それはもしかしたら、
    みんなが「イッセー尾形」を
    無意識でやってるとも言えるんですね。
    イッセー
    うん、そうですね。
    逆に、そういう人たちを
    僕が拾ってるということかもしれない。
    でも今日のみなさん、
    すごくいいお客さんでしたよ。
    一同
    笑)
    糸井
    そうですか?
    イッセー
    うん。
    あのネタは、
    まだどこでもやったことないネタで、
    頭の中で稽古して、
    実際にやったのは、ここが初めてなんです。
    そういうネタはだいたい、
    シーンとしてるんですよ、最後まで。
    それで猛反省するんですね。
    よせばいいのに、笑いに走ったりして、
    もっと大怪我を負ったりしてね。
    糸井
    はあ、はあ。
    イッセー
    ただ今日は、ほんとに思った通り。
    イメージ通り。
    糸井
    ちょうどよかった。
    イッセー
    本当に。
    糸井
    なんなんだろう。
    イッセー
    いやー、文化度高いなと思いました。

    一同
    笑)
    糸井
    客席が忖度したんですか。
    イッセー
    かもしれない。

    意味だけじゃコミュニケーションが生まれない

    糸井
    イッセーさんの一人芝居を
    もともと見たことある人にとっては、
    予感がもうおかしいんですよね。
    イッセー
    うんうん。
    糸井
    予感が終わってから、
    本当におかしいところに入った時には、
    済んでるんですよ、ちょっと。
    その「先食い」していく感じが、
    僕が今までイッセーさんの芝居を見てきた
    客席」なんですよ。
    イッセー
    ええ。
    糸井
    んっ!おかしいぞ、
    っていうところで、楽しみなんですよね。
    たぶん、イッセーさんもそれに慣れてるから。
    イッセー
    うん、そうだね。
    先食いしない人達が、たまにいるんですよ。
    糸井
    困るよね。
    イッセー
    でもそれは、
    大事な反応だなと思うんですね。
    そういう熱に浮かされて‥‥
    と言うと表現悪いですけど、
    先食いした状態でおもしろいのと、
    すっごく冷めてて、
    本当に初めて見る人の反応と。
    一人でなんかやってる、
    それがどうした」みたいなね。
    それも大事な反応だと思います。
    糸井
    流れがとにかくおもしろいから、
    ここが笑うところ」というよりは、
    流れを楽しむ」っていう。
    それは、なかなか台本には書けないことですよね。
    イッセー
    そうですね。
    すごく分かります、言ってること。
    それは僕も身体で学んだこと。
    糸井
    ああ。
    イッセー
    一番最初は、
    台本書いて、その通りを再現する、舞台の上で。
    でも、お客さんが笑ったりすると、
    一回止めなきゃいけない。
    糸井
    うんうん。
    イッセー
    ‥‥なんで笑うんだ!」みたいなね。
    そんな目で客席を見て。
    一同
    笑)
    イッセー
    もう、忘れちゃうじゃないか!」みたいな、
    そんな時ありましたよ、ずいぶん。
    ブツ、ブツ、ブツっと切れて、セリフの意味だけ。
    流れではないの、それはね。
    糸井
    うんうん。
    イッセー
    あと海外でやると、
    意味は全部同時通訳ですが、
    意味以外のものは、身体でやんなきゃいけない。
    音とかニュアンスとか。
    その時に、なんかこう‥‥
    初めてコミュニケーションが生まれる。

    意味だけじゃ、コミュニケーションが
    生まれないんですよね、どうしても。
    劇場が活性化していかないと言うか。
    それが財産だなとは思います。
    やり取りはニュアンス、身体の流れなんだと。
    お互いの「行って来い」の流れ。
    糸井
    まるで踊りの話みたいですね。
    イッセー
    ああ、踊り、いいなぁ。
    糸井
    やっぱり。
    イッセー
    踊りたい。
    糸井
    僕はしばらく一人芝居を見てなかったので、
    久しぶりで、すごく楽しかったんですけど、
    典型的な話で思い出すのは、
    ビルとビルの隙間に入っちゃった男いるじゃないですか。
    イッセー
    はいはい。
    糸井
    あがけばあがくほど、
    逆に奥に行ってしまった‥‥」っていう。
    あの匂いがいつもあるんですよ。
    イッセー
    うんうん。
    糸井
    だから「先におもしろがっちゃう」というのは、
    そこなんですよね。
    イッセー
    わかります。
    糸井
    それは台本で書けないなぁと思ってて。
    イッセー
    ビルとビルの隙間に入っちゃう男の話なんですね。
    寒いから。
    あれも舞台の上で、
    まだもう少しセリフ作ろうと思えば作れるな、
    みたいなことの繰り返しで。
    現場で作ったようなもんなんです。
    最初は、ビルとビルの隙間に入って、
    すぐ終わるネタだったんです。
    で、もう少し奥に行ってみよう、みたいなね。

    糸井
    もともと寒いからといって、
    隙間に入ろうということ自体が
    飛躍してるんだけど(笑)。
    イッセー
    けっこう隙間があったんですよ、
    ビルとビルの間に。
    あのネタやった直後に、
    北海道新聞がたまたま届いて、
    同じように隙間に入ってる人がいました。
    本当にビルの壁を壊して助けたとか、
    そういう事件が載ってました。
    糸井
    はぁーー。
    イッセー
    いるんですよ。
    糸井
    なくなっちゃいそうなもののところ
    ばっかり目が行くような気がする。
    イッセー
    行くんですね。
    糸井
    ねぇ。
    イッセー
    絶滅危惧種を守れ」みたいなの
    ありますね。

    イッセー尾形さんの授業のすべては、
    ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


    ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
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