漫画家・浦沢直樹さんと、
かつて漫画家に憧れていた糸井重里が
正面から語り合いました。
とにかく漫画に関しては、どういう話題になっても
浦沢さんからの話は熱い、そしてほんとうにおもしろい。
漫画を描くために生まれてきた人は、同時に、
漫画を愛すために生まれてきたのかもしれません。
いくらでも続きが聞きたくなるような
時間が流れていきます。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>浦沢直樹さんプロフィール

浦沢直樹(うらさわなおき)

漫画家。
1960年、東京生まれ。83年に『BETA!!』でデビュー。
代表作に『YAWARA!』『MONSTER』
20世紀少年』(小学館)など。
小学館漫画賞、手塚治虫文化賞など
国内外での受賞歴多数。
現在、最新作『あさドラ!』を
小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて
連載しながら、ミュージシャンとしても活動。
浦沢直樹の漫勉neo」(NHK Eテレ)では
プレゼンターと構成を務める。

Twitter

  • 思いついた瞬間に漫画は始まる

    浦沢
    糸井さんは、映画監督は誰が好きですか?
    糸井
    監督だと誰だろう‥‥。
    フォレスト・ガンプ』の主演をした
    トム・ハンクスにハズレなしと思って、
    ある時期にずっと追っかけてたんだけど。
    浦沢
    うんうん。
    トム・ハンクス作品が好きだと思った時に、
    マンガを描ける能力があると、
    トム・ハンクス主演であのような映画を、
    ここ(紙)に描けるんですよ。

    糸井
    はぁ‥‥。
    浦沢
    まず想像してみてください。
    糸井さんが『フォレスト・ガンプ』のようなものを
    ふっと思いついたら、
    ここに、どんどんどんどん描けるんです。
    それは、かなり描き込むでしょ。
    細かいところまで思いついちゃってるから。
    糸井
    はあぁー。
    浦沢
    アップル社から手紙が来て、
    公園がこうで、郵便ポストがこうでと
    描き込むじゃないですか。
    そういうのをどんどん思いついて描く能力がある。
    その能力を身に付けてしまった人間は、
    描いちゃうんですよ。
    そうなると思いません?
    お金かかんないんだもん。
    紙とペンだけでいいんだもん。
    糸井
    まさしくその時間がうれしいんですね
    浦沢
    まだこの世にないものでも画面がどんどん出てくるし、
    描こうと思ったら描ける能力がある。
    そしたら、一晩中寝ないで描くでしょ。
    糸井
    うん。
    浦沢
    その能力を身に付けてしまった人たちが命を削って、
    描いて、描いて、描き続けてるのがマンガなんですよ。
    糸井
    その説明はしびれるなぁ。
    はあー。

    浦沢
    ちょっと思い浮かべてほしい。
    絵を描けない、話も思いつかないというみなさんも、
    もし自分にその能力があったら、
    それは描くことをやめないだろうな、と。
    糸井
    しかも、浦沢さんみたいに描けなくても、
    絵を描く能力を持っている人だらけなんで、
    描けてねえじゃねぇかと人に言われようが、
    描けてるわけだから。
    絵の種類が違うだけでね。
    浦沢
    そうそう。
    自分はこのスタイルでOKって言って、
    伝わればいいわけだから。
    糸井
    うわー。
    浦沢
    映画はまず思いついて、やろうとなったら、
    誰と作る、お金はどうする、スポンサーを募って、
    配給をどうしてみたいなことを
    ぜんぶ背負わなきゃいけないわけでしょ。
    マンガは、ペンと紙だけですよ。
    思いついたら、その夜に始まるんです。
    糸井
    すごいよねぇ。

    自分を曲げずに作品を出す方法

    糸井
    浦沢さんの場合、デビューした時から、
    普通の漫画の文法の「笑い」みたいなものを、
    上手に入れてましたよね。
    浦沢
    そうですよね。
    糸井
    あの技術力みたいなものは、命を救いますね。
    浦沢
    うん。
    糸井
    もし、『ガロ』に掲載してたら、人生変わったかもね。
    浦沢
    そう。
    ガチでぶっ込めるからね。
    糸井
    笑)
    浦沢
    つげ義春のもっとものすごく描き込んだもの
    みたいなのを始めちゃったりしてね。
    糸井
    小学館だったから、
    ◯◯なのぢゃ」とか、そういうセリフだったり。
    浦沢
    小学館に拾ってもらったおかげで、
    お客さんがエンターテイメントの世界の
    こっちにいるということがあって。
    みなさんにちゃんと見てもらえる体裁を
    整えなきゃいけない。
    小学館のおかげで、その技は身に付けました。

    糸井
    それは自分自身だけでは探せない場所ですよね。
    浦沢
    そうですね。

    左肩を壊したから

    浦沢
    20年間そんな生活をしていて、
    ある朝起きようと思ったら、
    左肩が取れちゃったみたいになって。
    肋骨と鎖骨が固まったようになり、
    そうなっちゃったらしいんです。

    左側をぐっと固めて、
    右手でガーッと自由に絵を描く、
    というふうにやってたんですけど、
    左側の肩が外れたような形になっちゃって、
    あの激痛たるやなかったですからね。
    こんなんじゃ描けないと思って、
    編集部に「痛くて描けません」と言ったら、
    目の前の原稿を描き上げてから倒れてくれ」
    って言われて。
    痛くて机に覆い被さって描けないので、
    医者に行って、全部麻酔で感覚なくして、
    画板を買ってきて後ろに寄りかかって。
    そうやって一本描き上げました。
    それ以来20年以上リハビリを続けながら
    仕事をしている感じです。
    糸井
    そうですか。
    浦沢
    根詰めると症状が出てきちゃうんで。
    糸井
    右手で描いてるのに、左側に症状が出るというのが、
    素人には分かんないね。
    浦沢
    やっぱりスタンスなんですよ。
    スタンスを固めて描くので、
    固めてる側の方がおかしくなっちゃう。
    糸井
    絵を描くことにおいては、
    バッティングの下半身に当たるのが左なんだね。
    浦沢
    そうそう、そうなんですよ。
    それまで、ダーッと走ってきて、
    思いついちゃうから描いちゃうという世界を
    繰り広げてたのを、ちょっと待てとなって、
    すっと一回お休み状態になった。
    あれがやっぱり命拾いだったなと思いますね。
    糸井
    ああー。
    浦沢
    左肩が悲鳴をあげたことで、
    命にかかわるようなことにならなくて済んだのかな。

    描けば描くほど上手くなる

    糸井
    そこまで追い詰めて行ったのは、
    たのしい」「うれしい」という気持ちもあるから、
    後悔にはならないわけですよね。
    浦沢
    ならないですよね。
    描けば描くほど上手くなるんですよ。
    糸井
    笑)
    浦沢
    思いついたことが、
    もっともっと描けるようになるんです。
    この間描けなかったことが、今は描けるようになった。
    じゃあ、こんなこともできるんじゃないかと、
    また思いついたことを描いて。
    糸井
    喜びが絶えずあるんだ。
    浦沢
    カメラスタッフの技術が上がって、
    美術さんの腕がすごく上がって、
    役者さんもいい演技するようになって、
    という状態がずっと続くわけですよ。
    そういう撮影現場ですよ。
    そしたら、もっともっと!次これ撮ろうよ!
    となっちゃうんですよね。
    糸井
    今まで自分にはできないと思ってたことが、
    できるようになるわけだ。
    浦沢
    そう。
    糸井
    はぁー。

    浦沢
    YAWARA!』の最初の柔道シーンと、
    終わりの柔道シーンでは、もうぜんぜん違う。
    糸井
    描けるようになっちゃった!
    浦沢
    そう。
    全日本の監督に言われましたもん。
    最初は教本を写してるだけみたいな、
    ぜんぜん使えないようなものだったけど、
    最後の方は、選手たちに教本として
    見せてもいいぐらいの絵になったもんね、なんて。
    柔道選手権の体重別選手権みたいな大きい大会の時、
    審判席の端っこに座って、
    じーっと試合を見てる僕の姿が。
    よくテレビ画面の端っこに映ってました。
    糸井
    現場で見るんですね。
    浦沢
    現場で。
    本当に選手がザッザッと動いていく、
    そのリズムみたいなものを掴む。
    糸井
    空気が動くのを、わからないとダメなんだ。
    浦沢
    そうそうそう。
    それを憶えてるうちに、
    急いで家に帰ってブワーっと描くみたいな。
    糸井
    描ける!みたいな。
    浦沢
    そう。
    俺、柔道強くなったんじゃないの」
    なんて思うんですよ。
    糸井
    自分が(笑)。
    浦沢
    そう。
    俺、投げれるね、いま」なんて。
    糸井
    いや、その場合は強くなってるんじゃないですか。
    浦沢
    ねぇ(笑)。

     

     


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