元テレビ東京の名物プロデューサー佐久間さんは、
どんな企画書を出し、いかに人をまとめ、
現場で何をして、どう仕上げてきたのか。
ご本人の口から惜しみなく!ぜんぶ教えてくれました。
「面白い!」だけで企画は通らない。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の一部を読みものでご覧ください。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
TVプロデューサー。
1975年、福島県いわき市生まれ。
早稲田大学卒業後、テレビ東京入社。
『ゴッドタン』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』
『あちこちオードリー』『青春高校3年C組』
『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』など
数々のバラエティ番組を手がける。
2019年よりラジオ「オールナイトニッポン0」
(ニッポン放送)パーソナリティ。
2021年にテレビ東京を退社、フリーに。
YouTubeチャンネル「NOBROCK TV」など
新たな分野に挑戦している。
-
若手の企画書は所信表明
- ほぼ日
- どうやってテレビ番組が出来ているかを知らない方に、
「テレビはこんな世界」というのを
知ってほしいなと思って、
さまざまなことをお伺いします。 - テレビ番組って、
そもそもどうやって作られるのでしょうか?
- 佐久間
- きっかけは色々なパターンがあります。
テレビ局にいたときは、
放送枠に対して企画募集があるのがベースでした。
「金曜20時が空きます。ターゲットはここです。
この枠に番組をください」という感じに。 - 以前は(枠やターゲットが)明確だったのですが、
テレビ局もどんどん変わってきているので、
KPI達成目標が視聴率だけでは
なくなってきている傾向があります。 - 今は、枠ごとに達成目標が異なっていて、
それに合わせてみんなが企画を
作ってくるという感じですね。 - 「配信に強い番組を作ってください」とか、
「視聴率が取れる番組で、その中でも
コアターゲットを取ってください」とか、
「年配の方もひっくるめて世帯視聴率が欲しいです」とか。 - 昔は一律で世帯視聴率だったので
考え方としては簡単でしたが、
ここ3、4年で番組作りのはじまり方は
大きく変わってきました。
- ほぼ日
- 目標がものすごく細分化されたのでしょうか。
- 佐久間
- そうですね。
10代から20代の頃は、僕は「企画募集」にめがけて、
「自分が面白いと思うモノ」に
「それが、なぜ世の中に受け入れられるのか」
といった理由をくっつけていました。 - かつ「それがテレビ東京だったら当たる、当たらない理由」
まで落とし込んだ企画書を作って、出すのが基本です。 - それ以外にも、通らないかもしれないけれど、
若手が所信表明をできる場所って企画書しかなかったので、
「俺はこういうタイプのお笑いやりたいんだ」という
企画書は毎回作って出していました。 - 企画が通らなくても、その球を投げておくと
ゆくゆくチャンスをもらえることがあります。 - たとえば、急にお笑い好きのスポンサーが見つかったときに
「こんなお笑いを作りたいと言っていた若手いたな」
とかって、あるじゃないですか。 - それのために、毎回通らなくてもいい
ビーンボールみたいな企画書も作っていました。 - 結果的に、そういう企画書が
社内で自分のキャラクターやブランドを理解してもらう上で
ほんとうに役に立ちましたね。 - 「毎回通らないコント番組の企画書を出しているヤツがいる」
みたいな評判が、20代の頃から立っていたので、
お笑い番組の企画が始まりそうな時、
すぐにチャンスをもらえたというか。 - 「お笑い好きなんですよ!」ってただ言っているより、
毎回クレイジーなお笑いの企画書を出してくるっていう方が
社内で覚えてもらえます。 - あの時は意識しないでやっていたけれど、
今思うとやって良かったなと思いますね。
あれやってなかったら、人生変わってたんじゃないかな。
- ほぼ日
- どのくらいの枚数を、どのくらいの頻度で書くんですか?
- 佐久間
- 企画書の枚数は、20代の頃は
「これが面白いんだ」「これが面白くないですか?」
としか書いていなかったので、3〜4枚です。 - 最初は、
「この人でこの企画をやって、だからこれが面白い」
だけの内容だったのですが、
それでは通らないと分かるようになってからは、
「こういう時代だから、
こういう要素を入れると観てもらえる」とか、
「僕の面白いと思うここの部分を掛け合わせると、
番組として新しいものになりますよね」
と、書き方を変えて。
それから企画が格段に通るようになりましたね。 - 「面白い」ってそれぞれの価値観だから
伝えるのがすごく大変で。
僕の経験上、僕が本当に「面白い」と思って
当たった企画ほど、最初はみんなキョトンとしています。
だから、企画書に「面白い」だけを書いても
絶対に通らないんですよ。 - 半分建前だけど、マーケティングを企画書の1枚目につけて、
「マーケティング」の要素と「面白い」要素を組み合わせて、
誰にでも分かるように企画書の前段を立ち上げておかないと、
「面白い」ところまで読んでもらえない。 - 「ここまで理屈通っているんだったら、
面白いか分からないけど
佐久間には見えているんだろう」って。
それで通った企画書もあります。
誰が見ても分かる企画書づくり
- ほぼ日
- 今日は企画書をお持ちいただいていますか?
- 佐久間
- 『SICKS』っていう深夜ドラマと
コントドラマをやったことがあって、
その企画書を持ってきました。
ギャラクシー賞を頂いたことがあります。
※『SICKS』
2015年にテレビ東京系で放送されたコントバラエティ - コントなんだけど、そのコントが繋がって
途中でドラマになっていく、
みたいな企画だったんですよ。 - 僕はめちゃくちゃ面白いと思ったけど、
なかなか伝わらないじゃないですか。
だから、「コント番組なんだけど途中でドラマになる」
という企画を、前段をつけて説明しています。 - 前段でまず、『魔法少女まどか☆マギカ』も
『進撃の巨人』もビックヒットしたコンテンツは、
視聴者の予想を裏切るってことを伝えたんです。
たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』は、
雑な可愛いキャラクターで
一見「魔法少女モノ」って思わせるけど、
実は3話で残虐な展開が始まります。 - このアニメの方法論をコント番組に持ち込みたい、
そしてそれは他でちゃんと当たっているんです
という前段をつけて企画を説明します。 - 『進撃の巨人』や『まどマギ』と同じ方法論で
コント番組を作りますよ、と。
それで「コントからドラマになる手法は
テレビ番組ではやっていませんが、
面白くないですか?」と続けました。
まずその前段で大人を安心させます(笑)。 - それぞれのコントの内容は全部自分で書いたんですよね。
実際に放送しているコントとは全く違うけど、
企画書上は実際に放送しているコントより
キャッチーで分かりやすくしようと思って。
- ほぼ日
- 企画書の段階で、ここまでもう落とし込んでいるんですね。
実際そうなるかは別として。
- 佐久間
- 勝負と思った企画書は、そのぐらいまで作ります。
僕が説明しなくても分かるレベルにしないと
誤解されていくので。 - 難しいんですよね。
映画やドラマのプロットまで書いても
まだ誤読されるというか。 - ちゃんと分かってもらえる人と
分かってもらえない人がいるから
企画って誤解されるんですよね。
- ほぼ日
- この企画書を見る人は、企画書だけを見るんですか?
佐久間さんのプレゼンなどは?
- 佐久間
- もちろん僕のプレゼンもつけますが、
僕のプレゼンがなくても流布するものだと思って書きます。 - 最終的にはプレゼンしますが、
一次予選はプレゼンできないじゃないですか。
企画書だけで回って行くから、
多少読んでもらえるような「ケレン」をつけるというか。
- ほぼ日
- それでも誤読されたり、
うまくいかなかったりすることもありますか?
- 佐久間
- あります。
『あちこちオードリー』という番組はそうですね。
※『あちこちオードリー』
2019年からテレビ東京系で放送されている、
オードリーが、ゲストと台本無しで話すトークバラエティ。 - 『あちこちオードリー』は本当に分かりやすくて、
「今は事前アンケートをとるトーク番組が全盛期の中で、
本当のことを聞けるフリートークの方が、
カウンターカルチャーとしていいのではないか」
というのが明確な方法論だったんです。
しかもオードリーがやるという。 - ただ、みんなオードリーがあんなに
フリートークができるって知らないんですよね。
僕はラジオリスナーだったから知っているけれど、
それを伝えるのが大変で。 - 『あちこちオードリー』の企画書は、
「アンケートなし、打ち合わせなし、
ゲストが来てフリートークです。
オードリーがやります」と、
3行くらいで終わってしまいます。 - この企画は
「誰が出てくれるんだよ」
「怖くてゲスト出てくれないだろ」
みたいなことを最初に言われました。
- ほぼ日
- 予測ができない、と。
- 佐久間
- そう。
あとは「面白くなるかどうか分からないから、
この企画書は通せません」とか。
僕は見えているんだけど。 - だから、企画書の頭に
「今、テレビは嘘ばかりだと思われている」
とかを何ページかつけないと、
その「面白さ」まで辿り着いてもらえないっていうか。 - 例えば「トーク番組は今このくらいあるけど、
90数%がアンケートをもとに番組を作っていて、
フリーのモノはない」とか数字をつけたり、
「ラジオを聴いているファンの熱はすごい」とか
理由をいくつかつけて。 - 「だからこの企画は他と違うんです」
「テレビ東京でやる意味があるんです」
まで企画書で落とし込まないと、読んでもらえない。
そうしないと
「誰が出てくれるんだよ。フリーなんて怖いだろ」
となってしまう。
- ほぼ日
- ラジオで、佐久間さんがいまだに
「企画書書いてるんだよね」
とおっしゃっているのを聞いて、
不思議に思っていて。
佐久間さんでも、今も企画書が通らないことも?
- 佐久間
- テレビ局の場合は、通らないことが多いです。
今は局の方から
「ここの部分のこれで(番組を)作れませんか」
と発注されることもありますけど。
でも企画書をちゃんと作って提示するってことはしますよ。
- ほぼ日
- それが通らない時は、なぜ通らないんでしょうか?
- 佐久間
- 自分の「面白い」が
まだ理解されてないというのが大半です。 - 「だから言ったじゃん」
みたいなことが実はあるんですよ。
他局のゴールデンでバリバリやっている番組と
同じ企画書を実は出していたっていうこともある。 - ディレクターはみんな経験あると思うんですけど、
企画の最終審査まで残って落ちたけど、
他局でバリバリゴールデンで放送されている様子とか見ると
「あれ俺出しましたよね?」となります(笑)。
- ほぼ日
- 企画が通ってうまくいったら、
「ほら見たことか」って(笑)。
- 佐久間
- 「ほら見たことか」はあまり言わないですけどね。
大人気ないんで。
20代の頃は言ってましたけど(笑)。
今は、心で思うだけですね。
先輩に楯突いた新人研修
- ほぼ日
- 佐久間さんは、新人研修のときに
企画のプレゼンで上司に楯突いたとお聞きしました。
- 佐久間
- よく調べましたね(笑)。
そうなんですよ。 - どのテレビ局もそうだと思うんですけど、
20年前の僕が入った頃、テレビ東京の新人研修は、
新人25人が5-6班に分かれて、
班ごとに企画を1つ作ってプレゼンで発表する、
というのがあったんですよ。 - その時、僕の企画が通って、
僕が代表してプレゼンをしたんです。 - 「1度も会わないお見合い」のような企画で、
ネットやデジタルツールなどを使って相手を絞り、
会った時にはもう付き合う、みたいなお見合い番組です。
絶対面白いと思ったんですよね。
20年前ですけど。 - めちゃくちゃ褒められると思って
意気揚々とプレゼンしたんですけど、
「は?」「会わないで物語なんて、作れないでしょ」
と何回も言われました。 - それで最初は我慢していたんですけど、いつの間にか、
「いや、だからぁ」
って言ってたんですよ(笑)。 - 「いや全然分かってないですけどぉー」
とか言ってたらしいんです。
頭に血が上っていたからか、覚えてないんですけど。 - 最終的に僕が1番揉めたのが
カワハラさんという人なんですけど、
そのカワハラさんが僕を
採用してくれたらしいんです(笑)。 - 就職活動中に「あいつ面白いな」と選んでくれた人に
めちゃくちゃ楯突いてたという(笑)
あとで「カワハラさんだったんですね。すいません」
と謝りに行きました。 - 今はマッチングアプリがあるじゃないですか。
でも当時はまだ無いので、その時の企画では、
基本的にメールなどを使って連絡を取り合うことにして
ある程度何人か残ったら、
テレビ電話はOKという内容にしていました。 - みんなメールだと嘘つけちゃうから、
デジタルツールで出てくる文章とかでも
どれだけ自分を飾っているのかを見抜く企画は、
面白いなと思ったんですよ。 - 今やっても面白いんじゃないかなと思うけど。
逆に今だと普通になっているのかな。
みんなやってるから。
マッチングアプリでプロフィールを盛ったり、
画像加工をしたり。 - 当時は、それが面白いっていう企画書だったんですよね。
- ほぼ日
- 早すぎたんですかね。1999年くらいですもんね。
- 佐久間
- 入社1か月くらいの頃じゃないですか。
早々にめんどくせえヤツ、と思われた(笑)。
分かってもらえなかったですね。