帰国子女でもなく、海外在住歴もない、
徳島県の高校生だった松本さん。
「世界中で自分にしかできないことへの挑戦」という
強い思いから、アメリカの大学への進学を目指します。
超難関スタンフォード大学の合格を勝ちとるまでのこと、
そしてその先にある夢について、語ってもらいました。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の一部
読みものでご覧ください。

>松本杏奈さんプロフィール

松本杏奈(まつもとあんな)

2003年徳島生まれ。
2021年3月に徳島文理高等学校を卒業し、
その後9月より米国スタンフォード大学に進学。
機械工学・プロダクトデザイン専攻予定。
柳井正財団5期生。
「誰も取り残さない社会と技術と芸術を。」
を理念として掲げ、
コミュニケーションにおける障壁の克服を目指す。
座右の銘は強行突破。

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著書『田舎からスタンフォード大学に合格した私が身につけた 夢をつかむ力』

  • 合格したら髪をピンクに!

    松本
    松本杏奈です。
    今年(2021年)の春に徳島県の
    徳島文理高等学校を卒業して、
    今年の秋からスタンフォード大学に入学します。
    ほぼ日
    髪の毛ピンクにしたんですね!
    どうしてピンク色に?
    松本
    もともとピンク色がすごく好きで、
    「絶対ピンクに染めてやろう」と思ってました。
    大学受験の時に、
    友だちに合格・不合格の結果を伝えるのが、
    「すごく気まずいな」と思って。
    「第1志望校受かったらピンク!
    第2志望なら赤、第3志望なら紫ね」
    って言ってたんです。
    私から写真が送られてきたら、
    髪の色でどこの大学に受かったかわかるので、
    いい考えだ、と思ったんです。
    だけど私、大学19校に出願したんですが、
    ひとつ目の合格が出た時点で、
    「出した大学全部、第1志望だから!」って言って、
    早々にピンクにしちゃいました(笑)。

    なんか馴染めない「問題児」

    ほぼ日
    まず、どうしてアメリカの大学を
    めざそうと思われたんですか?
    松本
    私、もともと問題児気質で、
    「なんか馴染めない」というのがあって。
    「机に座ってペンを持って勉強すること」
    よりも、自分が得意なのは、
    「自分で手を動かして作ること」や、
    「学んだことを使うこと」なんです。
    そちらの方が重宝されるアメリカの大学が、
    私には合っているんじゃないかと感じて、
    アメリカの大学をめざしました。
    ほぼ日
    どんな問題児だったんですか?
    松本
    「何でもやってみよう!」という精神が、
    たぶん根本的な理由なんですけど、
    「普通そんなことしないでしょ?」
    と言われるようなことが多くて。
    「『普通』って何だろう?」と、
    よく思ってました。
    ほぼ日
    どんなところが違うって、言われたんですか?
    松本
    たとえば、何かひとつ疑問があったとき、
    答えを聞いて「これは、こういうものだ」と、
    そのままとらえて納得する人が多いと思うんですが、
    私の場合は、「なんで?なんで?」と思っちゃうんです。
    それで、「ちょっと変わってるね」って
    言われたりだとか。
    たとえば、モノって重さにかかわらず、
    同じ速度で落ちるんです。
    私はそれが信じられなくて、
    「椅子と私が一緒に落ちたら、どっちが速いんだろう?」
    と思って実験しようとしたり。
    実際に確かめようとした時点で、
    ちょっと変わり者だと思われちゃう、
    というような感じです。

    アメリカの大学ってどんな感じ?

    ほぼ日
    アメリカの大学に出会うきっかけは
    なんだったんでしょう?
    松本
    UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の
    学食がおいしい、というのをテレビ番組で見て、
    「学食がおいしくてロサンゼルスにある
    大学なんて、すごいカッコいい!」と思って。
    それが、最初にアメリカの大学の存在を
    認知した瞬間です。
    それから、電子辞書とかでUCLAを調べまくって
    「ああ、こんな感じなんだ!」と。
    そのブームはしばらくして去ったんですが、
    中3とか高1の時に、もう1回ふと頭をよぎって。
    「アメリカの大学ってどんな感じなの?」
    と思って、自分の進路の選択肢に、
    勝手に盛り込まれていきました。
    ほぼ日
    UCLAも進学先の選択肢に入ってたんですか?
    松本
    はい、そうですね。
    でも、UCLAは落ちました。
    ほぼ日
    海外の大学への進学を、
    「自分には無理だな」と思わずに
    挑戦できたのはなぜでしょう?
    松本
    もともと、そのUCLAに興味を持った経緯の中で、
    マサチューセッツ工科大学(MIT)が、
    「芸術と科学を融合させて、
    テクノロジーの力で社会を豊かに」
    ということを掲げているのを知ったんです。
    それで憧れて、MITを目指していたときに、
    MITに行った日本人の方が、ご自身のブログに、
    「MITの学生は、国際科学オリンピックとか
    アジアサイエンスキャンプに参加するよ」
    と書かれていたのを読んで。
    国際科学オリンピックとか、
    絶対に手が届かないじゃないですか。
    「そういう人しかMITには行けないんだ」って
    思ったんですけど、同時に
    「サイエンスキャンプっていうのは、
    キャンプだから行けるんじゃないか」って、
    すごくバカなことを思って。
    アジアサイエンスキャンプという
    「ノーベル賞受賞者が、次のノーベル賞受賞者を育成する」
    というキャンプの日本代表に応募して、
    合格して参加しました。

    ノーベル賞受賞者も、みんな「人間」

    松本
    アジアサイエンスキャンプには、ノーベル賞受賞者や
    アジア各国の理系のトップ頭脳が集まるんですよ。
    実際に、すでに世界で活躍してる
    同世代の子たちがたくさんいる。
    やっぱり、その経験が一番大きいですね。
    その時に、みんな普通にご飯食べて、
    普通にしゃべってて、私の目の前で
    普通に『人間』として生きてて。
    全員人間なんだと思った。
    ノーベル賞受賞者も、MIT生も、
    インドの一番頭いい子も、みんな人間で、
    ご飯食べるし、しょうもないことで笑うし、
    「全員人間なんだ」
    「同じ状態で生まれてきてるんだ」って
    アジアサイエンスキャンプで気づいて。
    私だって努力したら、
    みんなと同じようになれるかもしれない!
    だって、みんなスタートラインは、
    同じ赤ん坊の状態だったから。
    努力したら、ノーベル賞受賞者にだって
    なれるかもしれない!
    だって私も同じ人間だから、って思い始めて。
    「自分には手の届かないもの」という考え自体が
    あらゆる方面に対してなくなりました。
    ほぼ日
    「キャンプならハードルが低そうだ」
    というのは実際に間違ってなかったですか?
    松本
    全然、大間違いでした(笑)。
    そのキャンプの選抜というのも、
    国際科学オリンピック日本代表とか、
    そんな子たちしか受からないところに
    なぜか、異物混入で私が受かってしまって。
    それで参加できたのが、本当に私の転機でした。

    科学者になって、地方女子の星になる!

    ほぼ日
    世界で活躍する同世代が集まるキャンプの
    日本代表に、なぜ合格できたんですか?
    松本
    応募書類で、課外活動や受賞歴、
    エッセイや小論文を書くんですが、
    私は、課外活動も受賞歴もなくて
    実績欄を白紙で出したんです。
    多分、これが合格の決め手だったかなと思うのは、
    応募書類の中で、
    「SDGsの17目標からひとつ選んで、
    その科学的な解決方法や研究方法を
    小論文で述べる」という課題があって。
    みんな「エネルギー」とか「海」とか「山」とか、
    科学で解決できることを選ぶんです。
    でも、私が選んだのは「ジェンダー問題」。
    「ジェンダー問題を、私は科学で解決します」
    という出だしから始まって、
    「私が科学者になることで、自分の背中を見せて
    地方女子の星になります」
    「私がいることで、前例が出来さえすれば
    もっと増えるんです。どうか将来性を認めてください」
    ってことで応募して、受かりました。
    地方の女性って、理工系に行く人が本当に少ない。
    その要因の一つが、まわりからの圧力なんです。
    「女性で理工系は、つぶしがきかないから」と。
    私もそんな理由で理工系への進学を
    多方面から反対されました。
    「女性は体力がないから、つぶしがきかないから
    絶対にそんなことしちゃダメ」
    みたいな感じで、理工系から離されていたことに
    すごく違和感を持って。
    かつ、ロールモデルが少ないから
    夢があまりに漠然としすぎていて、
    道の途中でフェードアウトしてしまう子がいたりして。
    結果的に、日本全体の女性の理系人材が減っているんです。
    やっぱりロールモデルが必要だな、と。

    英語の勉強は「ひとりごと」と「電話」

    ほぼ日
    その応募の時、英語は必要でしたか?
    松本
    英検2級以上が必須だったんですが、
    当事、私は英検2級。
    まわりは本当に英語がペラペラの人たちばかりで、
    「異物混入してしまったな」と。
    現地に行ってから、がんばりました。
    ほぼ日
    その時はどの程度しゃべれたんですか?
    松本
    講義の内容は、本当に必死になって聞かないと
    わかんないし、半分ぐらいは何を言ってるか
    よくわかんない状態でした。
    しっかり事前調べをして、単語を全部調べて行って、
    初めて理解できるぐらいでした。
    ひっついて、ひっついて、がっついて、がっついて、
    何とかって感じでした。
    とにかく事前準備をしっかりして、
    その場で全部吸収しきろうとして、
    かつ、終わったら絶対に質問に行く。
    英語の勉強については、
    私はペンを持ってテキストを解いたりするのが
    あまり好きじゃなくて。
    椅子に長時間座るのがあまり好きじゃなかったので、
    テキストを開かずに、ペンを持たずに勉強できないかな
    って考えた時に、英語って言語だから、
    話す時につっかえてたら、よくないなと思って
    じゃあ「ひとりごと」を言おう!と。
    夜中にひとりごとを言うのを始めたら、
    日本語を英語に変換する速さがだんだん上がってきた。
    英語力の直接的な向上には、
    これが一番役立ったのかな、と思ってます。
    確かにテキストも解いたんですけど、
    それよりも実用的な英語力が伸びた理由は
    この「ひとりごと勉強法」ですね。
    この勉強法にはデメリットもめちゃくちゃあって、
    自分の発音が正しいかどうか、わからない。
    構文や言い回しが正しいかどうかも、
    そんなの自分ではわからない。
    でも、高2まではそうやって勉強するしかなくて、
    それをずっと続けてました。
    高3になって、受験で必要な英語試験の
    スピーキング練習をしなきゃいけなくなると、
    日本からアメリカの大学を受験する子たちと
    電話をつないで、一緒にスピーキングをやって、
    お互いに指導し合う、というのをやってました。
    ほぼ日
    外国人の人と練習できる場面はなかったんですか?
    松本
    アジアサイエンスキャンプとかで知り合った友だちと、
    電話はしてました。今だによく話します。
    ただ、英語に対する英語のアドバイスを
    理解するのって、なかなか難しいですよね。
    日本語だったら、
    「本当はこう表現したかった」と説明できるけれど、
    英語だと、それができないので。
    英語の正しさに関するアドバイスは、
    日本語でもらったほうが効率的かなと思います。
    でも私は、あまり英語に正しさを求めてない、
    という面もあって。
    「伝わるなら、何でもいいや!」と思ってます。
    ほぼ日
    もともと勉強は得意だったんですか?
    松本
    勉強は全然 得意じゃなかったです。
    特に文系分野がすごく苦手で。
    「なんで?」というのを自分の目で
    確かめられる分野がわりと得意でした。
    たとえば数学なら、「なんで?」と思ったら
    大体、自分で調べたりすれば理解できるんですけど、
    国語だと、「なんで、この答えなんですか?」
    ってなった時に、自分で解答を読んでもわからない、
    というようなことが増えてきて。
    納得いかないと、理解できないんです。
    そうしているうちに、
    文系科目がめちゃくちゃ苦手になってました。
    ほぼ日
    文系科目は、どうやって克服したんですか?
    松本
    克服できませんでした。
    だけど英語に関してはなんとかなった。
    国語より英語の読解力のほうが高いみたいで。
    センター試験の国語の読解力問題は
    そんなに点数よくないんですけど、
    アメリカの英語の読解力試験だったら、
    普通に全米上位2%って出てきて驚きました。
    母国語かどうかは関係なく
    自分に合う言語、合わない言語があるんだ、
    と思います。
    たぶん、私は助詞が苦手なんです。
    「を」「に」「が」とかが、めちゃくちゃ苦手で。
    英語でエッセイを書いて気づいたのが、
    「を」とかの助詞を使わなくていいのが、
    めちゃくちゃ楽だなって。
    しかも、英語はあとから付け足せる。
    「こんな本買った。赤で、茶色っぽくて」
    みたいな感じで、あとからどんどん付け足せるのが
    私のしゃべり方に合ってるって感じです。
    日本語が昔から、下手くそだったんですね。

    原動力は、見つけた問題への使命感

    ほぼ日
    苦手なことや嫌いなこと、
    どうやったら興味を持って、取り組めるでしょうか?
    松本
    集中しようと思ったら、
    とりあえずやり始めないと集中できないじゃないですか。
    「やる気を出すために、充電期間が必要だ」
    と思ってたこともあったんですけど、
    実は、全然そんなことなくて。
    「やり始めたら、やるんだから、とにかく、やらないと」
    と思って。もう、嫌でも何でもテキストを開けて、
    「もう嫌だ!」と思いながらやってました。
    以前テレビで「頭の中で3つ数えたら、立ち上がれ!」
    というのを見て、「なるほど」と思って。
    頭の中で『ハリー・ポッター』のハーマイオニーみたいに、
    「ワン、ツー、スリー」って言って、立ち上がってました。
    「12時になったら勉強しよう」と思ってても、
    12時までにやる気が充電されるわけじゃないので。
    「とりあえず、やり始める。飽きたら、好きなことしよう。
    飽きるまでは、嫌でもやろう!」って。
    そうやって、すべてをすべての息抜きにしたんです。
    たとえば、苦手な文系教科の勉強をします。
    息抜きに理系の勉強をする。
    数学ちょっと疲れてきたな、まぁ仕方ない。
    文系の勉強でもするか、みたいな感じで。
    相互に息抜きをしてました。
    ほぼ日
    どうして、がんばれる力がそんなに
    いっぱい湧いてくるんですか?
    松本
    自分が見つけた問題点って、もしかしたらそれは
    自分にしか見えない問題点かもしれないから、
    見つけたからには責任をとって
    絶対に解決しなければならないって昔から思っています。
    結局、大学受験もそうでした。
    絶対に解決したいことがあって、
    それを目指し達成するための手段のひとつに、
    たまたま大学進学があった。
    なので私は、「大学、行けたらいいな。
    でも、全部落ちても全然大丈夫」
    っていうメンタリティだったんです。
    「救いたい人がいる。救う義務があるのは私だけ」
    そんな感じの、謎の使命感に駆られて。
    自分からわざと「背水の陣」を作っていったんです。
    「私は絶対に、こういう人を救います!」って
    わざと最初に、みんなに公言して。
    それが嘘にならないように、動いてきました。

    日常の中からどんどん問題意識が生まれる

    ほぼ日
    その問題意識は、
    どういう時にうまれるんですか?
    松本
    わりと日常生活の中で、うまれることが多くて。
    ジェンダーギャップの問題も、そうなんですけど。
    日常を生きてて、高1の時までは
    何を言われても何も思わなかったけど
    高2になったら「女子は数学が苦手だから」とか
    そういう発言に対して「それはおかしい」
    と言えるようになった。
    問題意識を見つけに行ったとか、
    わざわざ特殊な環境に見に行ったとか、
    そういうわけじゃなくて。
    そんなふうに日常生活でまわりを見渡す中で、
    どんどん問題を見つけ出していった、という感じですね。
    ほぼ日
    いま、解決したいと思ってる
    問題について教えてください。
    松本
    もともと言語で表現するのが苦手で、
    小さい頃からずっと絵を描いていたんです。
    自分のことがうまく言葉で表現できないと、
    癇癪をおこしちゃう人でした。
    そんな自分の発散先として絵を選んでたんです。
    絵って言語を必要としないものだから、
    使う言語がまったく違う人々とも
    意思疎通ができるんじゃないかって。
    高校時代は、社会問題の意識啓発を絵に描いて、
    いろんな所で展示したりしてたんです。
    そんな時にハッと気づいたんです。
    「あれ? 絵って目が見える人にしか
    見えないんじゃないか」って。
    絵は、目が見える人にしか伝わらない。
    音楽は、耳が聞こえる人にしか伝わらない。
    じゃあ、目が見えなくて、耳が聞こえない人には
    どうやって伝えたらいいの?
    そこで、盲ろう者の方とか、
    視覚や聴覚を使わないコミュニケーションに
    興味を持ち始めて。
    しかも、そこに新型コロナウイルス。
    もともと、盲ろう者の方は、指で触れて、
    指点字という方法で意思疎通するんですけど、
    それがコロナの影響で、人とは距離をとって、
    触っちゃいけない状況になってしまった。
    そんな状態の代替手段として、
    タイプライターとかキーボードとかが
    あると思うんですけど、
    そうなると盲ろう者の方が、指点字とは違う、
    新たなその技法を習得しないといけないわけです。
    それはすごくナンセンスだと思う。
    「人間が、技術のために、
    新たに何かを習得しなければならない」
    ということに問題を感じて、
    「技術が、人間に合わせにいくようにしたい」
    って思うんです。
    それで今は、触覚を通じて、
    相互の疎通を可能にするハードウェアデバイスの
    開発をしたいなって思っています。
    問題意識、こんな感じで見つけてます。

    松本杏奈さんの授業のすべては、
    「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


    「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
    あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
    授業(動画)の視聴はスマートフォンアプリ
    もしくはWEBサイトから。
    月額680円、はじめの1ヶ月は無料体験いただけます。