テレビ東京のプロデューサー、高橋弘樹さんが
糸井重里のもとを訪ねてくださいました。
人気番組『家、ついて行ってイイですか?』の
プロデューサーをつとめる高橋さんは、
普通の人の、普通の暮らしの中から、
人生ドラマのおもしろさをひき出す仕掛け人です。
高橋さんと糸井の対談ということで、
企画やコンテンツづくりの話になると思いきや、
高橋さんの人生相談の場になりました。
37歳、いわゆる係長の立場にいる高橋さんへの
アドバイスが、働き盛りのみなさんの
お役に立つことがあるかもしれませんよ。
高橋弘樹(たかはし ひろき)
1981年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
2005年テレビ東京入社、入社以来13年、
制作局でドキュメント・バラエティーなどを制作する。
プロデューサー・演出を担当する
『家、ついて行ってイイですか?』では、
ひたすら「市井の人」を取り上げ、
これまでに600人以上の
全くの一般人の「人生ドラマ」を描き続ける。
これまでに『吉木りさに怒られたい』
『ジョージ・ポットマンの平成史』
『パシれ!秘境ヘリコプター』などで
プロデューサー・演出を、
『TVチャンピオン』『空から日本を見てみよう』
『世界ナゼそこに?日本人』
『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』
などでディレクターを務める。
カメラマン、脚本、編集も兼任し、
書いた脚本は約2000ページ、
ロケ本数300回以上、編集500本以上。
7
暗闇の納豆とリアルカワハギ。
- 高橋
- 糸井さんには、
ヒットが出せなくなった時期はないんですか。
ぼく、ついこの間ゴールデン帯の番組で
視聴率3.3%を出しちゃって
いま落ち込んでいるところなんです。
- 糸井
- じぶんとしては低い数字なの?
- 高橋
- メチャメチャ低いですね。
- 糸井
- それでも「3.3%を取った!」と言って、
喜んでいる人もいるんですよ。
ぼくがテレビをレギュラーでやっていた頃には、
1%に行くだけで喜んだこともありましたよ。
- 高橋
- そういう考え方をなさるんですね。
スランプというか、
視聴率が取れない時期は
どうしたらいいのかなと思いまして。
- 糸井
- 普通の番組は、視聴率よくないですよ。
9割5分くらいの番組では
視聴率がよくないわけだから、
普通に作っていれば、よくない。
普通というのは、負けなんです。
それなのに「いいのを作っちゃった!」を
繰り返すなんて、できるはずないんです。
- 高橋
- でも、2連敗、3連敗しちゃったら
へこみませんか。
- 糸井
- ぼくはへこんだ時に、
じぶんがどの場所にいるかを考えます。
ベスト100のランキングがある世界だとしたら、
1位が取れなかった場合へこむじゃないですか。
高橋さんもがっかりするでしょう?
でも、よくおちついてください。
「じぶんは今どこにいるんだろう」と考えたら、
4位かもしれないし、70位かもしれません。
- 高橋
- じぶんの場所を考えるんですね。
- 糸井
- よーく考えてみたら、70位どころか、
90位ということもあるかもしれません。
そうなった時にはもう、
90位から出発するしかないじゃないですか。
- 高橋
- はい、ゼロからやりなおしですね。
- 糸井
- 「ここまで落ちるんだ」とわかれば、
じぶんの上に90人がいるとわかりますよね。
でも、そのぐらいになると
じぶんよりちょっとマシかなっていう
レベルのものがいっぱいいますよ。
その90位の仕事を少し工夫するだけで、
次は80位にできるなら、ぜひやったほうがいい。
- 高橋
- そう思えるなら。
- 糸井
- じぶんが90位にいるとわかっていれば、
何をやれば10位上がるかも、わかるはずです。
ちょっと順位を上げるためだったら、
手を抜いていたところとか、
ダメだった理由もわかってますよね。
- 高橋
- ダメなところがわかっていれば、
ちょっとレベルを上げるだけで
すぐに順位は上がると。
- 糸井
- 何をすれば上がるか下がるかがわかっていれば、
「これ以上わかんないわ」まではいけます。
あとはジャンプできるか、辞めるかです。
何ができるかわかっている人は、
がっかりしている暇はないんじゃない?
- 高橋
- 次にできることを考えてみます。
- 糸井
- まわりと比べてへこむようだったら、
1日ふて寝でもしていればいいんじゃない?
暗闇で納豆でもかき混ぜてさ。
- 高橋
- 急に納豆ですか(笑)。
- 糸井
- やればできることで、いいんだよ。
納豆をかき混ぜることなんて、
やれば確実にできることですから。
希望とかと無縁になりましょう、一回。
- 高橋
- ちょっと禅の世界に近いですね。
結果が出ることをやれば、自信がつきそうです。
あの、もうひとつ聞いてもいいですか。
- 糸井
- どうぞ。
- 高橋
- じぶんが絶対におもしろいと思って作ったものが
世間とずれてくる恐怖があるんです。
ずれるのが一回こっきりなこともあるし、
だんだん大きくずれることもある気がしていて、
どうしたらいいのか悩んでいます。
- 糸井
- それはもう微調整の世界ですよね。
この間、釣り雑誌を作っている知り合いが来ていて、
「カワハギの釣りはおもしろいね」
という話をしていたんですよ。
カワハギはアサリで釣るんだけど、
針に付いてない端っこだけを食べて
針の形を残して逃げちゃうから、
「エサ取り名人」と呼ばれてるんです。
- 高橋
- 上手に食べるんですねえ。
- 糸井
- 「カワハギを極めたら、カッコいいよね」
と話題に挙がる魚で、
あれこれテクニックを語る人もいるんです。
そんなカワハギの話をしていたら、
その知り合いは釣り雑誌の専門家だから、
「海底にカメラを入れたんですよ」と言うんです。
- 高橋
- 水中からカワハギを撮ったんですね。
- 糸井
- カメラを入れた結果、
技術に関係なく、名人でも素人でも、
釣れたのは運だとわかったそうです。
- 高橋
- へぇー!
- 糸井
- 腕や技術をどうこう言うよりも、
じぶんがどこにいるかのほうが
圧倒的に重要だったんです。
- 高橋
- カワハギのいるところに
行けばいいんだと。
- 糸井
- みんなが「当たりだ!」「はずれだ!」って
騒いでいることのかなりの部分は、
リアルカワハギなんじゃないかな。
- 高橋
- うちの編成にも聞かせたいですね、それ。
- 糸井
- もっと言えば、
ぼくがやってきたことも同じだと思います。
「俺の感覚がずれている」と思って
落ち込んだことはありません。
「いつか来てくれるだろうな」って、
その時を待っていたんです。
- 高橋
- 糸井さんと同じ好みを持った方が
やってくるのを待つんですね。
- 糸井
- じぶんが好きでやっていることは、
何かのかたちで役に立つんだよ。
「誰でもいいからおいで」よりも、
好きで遊びにきてくれる人に会いたいよね。
じぶんでやってたのしいのは、
駅前でやっている八百屋さんよりも、
駅から離れた住宅街の真ん中にあって、
わざわざお客さんが買いにきてくれるような
八百屋さんのほうがうれしいと思うんです。
- 高橋
- わざわざ見てもらえる番組を
作ればいいんですね。励まされます。
- 糸井
- あとは、じぶんが編成になった気になって、
「お前、それ辞めちゃったら?
お前だったら、もっといいの考えられるよ」
とじぶんをおだてればいいんです。
- 高橋
- 辞めちゃってもいいんですか。
- 糸井
- 辞めてもいいと思ってからは、強いぞー。
会社を辞めてもいい、番組を辞めてもいい、
なんでも辞めたっていい。
負けて当たり前だっていう人は
強いんだよ、やっぱり。
- 高橋
- 背水の陣みたいな感じですかね。
- 糸井
- 命知らずとは違って、
生きていくための行動だから強いんです。
そういう爽快さを持っている
プロデューサーに人はついて来ますから。
- 高橋
- 1回1回へこまないで、
考えこまないほうがいいですかね。
- 糸井
- ぼくはそう思うんだけどね。
あとは、番組に出演してもらった人に
失礼のないように考えればいいんじゃない?
- 高橋
- それは大事ですね。
- 糸井
- 出てくれた人を大事にしないと、
じぶんに自信が持てなくなるんです。
「俺はいろんな汚いことしてきたけどな」
と思いながら積極的に動けませんよね。
ざっくり言っちゃうと、
いい人がいい番組を作っているって
自信を持っていれば数字は後からついてくる。
- 高橋
- そのくらいの心で考えておいたほうが
いいんでしょうね、作り手は。
- 糸井
- 山ほど失敗するけど、忘れるから。
- 高橋
- 忘れられますか?
- 糸井
- 忘れるよ。
他人にした悪いことにはツケが来るから、
過去に悪いことをした相手が現れた時には、
じぶんでツケを払えばいいんですよ。
そうしたら、忘れていいから。
(つづきます)
2019-05-29-WED
-
高橋弘樹さんの著書
『1秒でつかむ』が発売中!『家、ついて行ってイイですか?』など
ありえないほど低予算の番組なのに
みんながハマって毎週観てくれている、
高橋弘樹さんの企画づくりの術が
520ページの分厚い本に込められています。
とことんわかるまで伝えようとする
高橋さんの情熱を感じさせる一冊です。 -
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