マシンガンズの滝沢秀一さんは、
2023年の「THE SECOND」で準優勝を飾った
現役ばりばりのお笑い芸人である一方、
プロのゴミ清掃員としても活動されています。
SNSではゴミにまつわる情報をほぼ毎日発信し、
ゴミについて考えるイベントを開催したり、
ゴミの実態を学べる本を出したり・・・・。
もはやどっちが本業なのかわからないくらい、
芸人と清掃員という、世にもめずらしい
二足のわらじを履きこなす滝沢さんに、
おもしろくて役に立つお話を
じっくり語っていただきました。
「ゴミはその人自身を表す」という
滝沢さんの「ゴミ観」に触れれば、
毎日のゴミ捨ても、生活そのものも、
ちょっと変わるかもしれません。
滝沢秀一(たきざわしゅういち)
お笑い芸人兼ごみ清掃員 。
1976年、東京都生まれ。太田プロダクション所属。
東京成徳大学在学中の1998年、
西堀亮さんとお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。
2012年、妻の妊娠を機に、
ごみ収集会社で働きはじめる。
ごみ収集の体験をもとにSNSや執筆、
講演会などで発信している。
2018年、エッセイ『このゴミは収集できません』
(白夜書房)を上梓したあと、
漫画『ゴミ清掃員の日常』(講談社)、
『ごみ育』(太田出版)などを出版。
2020年10月、
環境省『サステナビリティ広報大使』に就任。
2023年5月、コンビとしてフジテレビ
『THE SECOND~漫才トーナメント~』
にて準優勝。
著書13冊目の最新刊
『ゴミ清掃員の日常〜ゴミ分別セレクション〜』
(講談社)が発売中。
- よろしくお願いします。
お笑いコンビ「マシンガンズ」の
滝沢といいます。
僕は、芸人として活動しながら、
ゴミ収集の会社にも就職しているという、
ちょっとわけのわからないプロフィールなんですよ。
なので、「この人はどうして、芸人なのに
ゴミに関する活動をしているのか」と
不思議に思う方がたくさんいると思います。
- 僕は今年で芸歴25年になるんですが、
やっぱりお笑いだけで生活していくのは、
なかなか難しいんですね。
それで、11年前に
ゴミ清掃の会社に就職したんです。
出ていたテレビ番組が終了して、
だんだん仕事が減ってきて、
貯金がほぼゼロになったタイミングで
子供の出産費用が必要になったことが
大きなきっかけでした。 - それでアルバイトを探したんですが、
36歳だと、応募できるアルバイトが
見つからなかったんですよ。
当時、ほとんどどれも「35歳まで」って
条件があって。
だから、言ってみたらもう、
面接受ける前に落とされてたんですよね。
こんなこと学校で教わらないじゃないですか、
「35歳超えたらアルバイトないよ!」って。
中学校とかで教えるべきですよ(笑)。
しかたないから年齢不問の職場を9個
なんとか見つけ出して、
片っ端から電話をかけました。 - で、全部落とされたんですよ。全部。
まあ、それはそうですよね。
「お笑い芸人なので、オーディションがあったら
仕事は休ませてもらいます」って言ってくる人なんて
向こうも採用したくないですよ。
そのときは「ああ、もうしょうがないな」
と思いました。
「お笑い芸人辞めるしかないな」と諦めかけたとき、
「そういえば、芸人だったのに
今は別の仕事で働いている知り合いって
いっぱいいるな」と気づきました。
それで、そういう知り合いの1人に相談したら、
たまたまゴミ清掃員のバイトを紹介してもらえて。
芸人を続けながらできるアルバイトが
やっと見つかったんです。
- そういうわけなので、最初の
「なんでゴミに関する活動をやっているのか」
という問いに戻ると、
元々は「ゴミのことを広く知ってもらいたい」
と思って始めたわけじゃないんですよ。
正直、当時は環境問題にも
あまり興味を持っていなかったですし、
ゴミのことを深く考えた経験も
全くなかったんです。 - でも、そのとき知識がゼロだったからこそ、
アルバイトを始めてから
「今、ゴミ問題ってこんなふうになってるんだ」
みたいな衝撃をどんどん受けることができました。
だから、そのときにゴミ清掃を始めたことについては
「ラッキーだったな」と思ってるんです。 - もちろん、「これでお笑いが続けられる」
という意味でのラッキーでもありました。
今思えば、「お笑いで一発当てて
お金持ちになってやろう!」
と思って芸人になったはずが、
「お金さえあればお笑いができる」という意識に
変わっていたんですよね。
それくらい、お笑いにすがりついていた。
アルバイトをしてでも、お笑いを続けられることが
嬉しかったんです。 - だから、ゴミ清掃について
「最初は嫌だったでしょう」とか
「テレビの世界にいたのに、急に肉体労働をする
ことになって大変だっただろう」と
思われるかもしれないですけど、
僕自身は結構「ラッキー!」なんて
思っていたわけです。 - でもね、贅沢な話ですが、
アルバイトを始めて3年くらい経った頃に、
「俺いつまでこんなことやってるんだ」って
思うようになった時期があったんですね。
それというのも、ゴミ清掃をやっていると、
腹が立つことが結構あったからなんです。
若い芸人がどんどん出てきて、
自分がテレビに出るチャンスはなく、
「本当はお笑いがやりたい」と思いながら
ずっとアルバイトの感覚で働いていた。
そんな状況だったから、
分別してくれない人とかがいると
無性に腹が立ってしまったんですよ。
- たとえば、歩いているだけで
熱中症になりそうな炎天下に
走ってゴミを回収して、
分別されていないものがあったら
ゴミ袋を開けて分別して置いていく。
これがとても大変で。
分別しない人が
1人や2人だったらいいんですけど、
1日何十人もいたりすると
だんだん怒りが溜まってくるんです。
「なんでこの人たち分別してくれないんだろうなあ、
ああ、もうほんとにお笑いだけでご飯食べられたら
いいなあ」なんて思って。
ゴミ清掃を辞めたくなってくるわけです。 - なかには、でっち上げのウソで
クレームをつけてくる人もいるんですよ。
「朝ゴミを出したのになんで取りに来ないんだ!
お前たちは仕事をしているのか!」と。
でもね、僕もゴミのプロですから、
集積所の場所も覚えていますし、
一緒に作業する相棒や運転手も「回収した」
と言っていたんです。
おそらく、その人は
収集に間に合うようにゴミを出せなかったから、
もう一度取りに来させたくて
「回収されていない」とウソをついたんですね。
一応、現場に向かったら、
ゴミを見た瞬間に「あ、やっぱりウソだった!」
とわかったんです。 - それは、ゴミが「濡れてなかった」からです。
その日は朝から雨が降っていて、
止んだのは、クレームが届いた「午後」
だったんです。
だから、本当にゴミが朝から集積所に
出されていたなら、
雨に濡れていないとおかしいですよね。
そういう経験から、人間はウソをつくことがあるけど、
ゴミっていうものはウソをつかないんだなって
考えるようになったわけです。
- そんなふうに腹を立てながら働くのには
やっぱり限界があって、
ゴミを集める仕事に対して
「もうやっていられないな」という
気持ちにもなったんですよね。
でも、そうやって半端に働くのはよくないと
思うようになったきっかけがありました。 - 僕はやっぱりお笑いをやりたかったから、
当時もお笑いの番組をいっぱい見ていたんですけど、
あるとき、同期のサンドウィッチマンが、
ひな壇の、司会者から一番遠い席に座っていたんです。 - サンドウィッチマンって、
M-1のチャンピオンですよ? - それを目の当たりにして、
「M-1チャンピオンでも、一番端の席なのか」と
気づいたとき、
「どう考えても自分が座る場所はないな」って
急に冷静になりました。 - 「そうか、じゃあ本当に今目の前にあることを
一所懸命やらなきゃいけないな」と思って、
考え方を変えたんです。
「俺の目の前にあることってなんだ」といったら、
まあ、それは、ゴミですよね。
サンドウィッチマンが
漫才日本一になってるんだから、
俺はゴミ清掃員の日本一になろうかな、と
思ったんです。
(つづきます)
2023-06-21-WED