糸井重里が1975年からいまも所属している
コピーライターやCMプランナーの団体、
「東京コピーライターズクラブ(TCC)」。
その60周年を記念したトークイベントの
ゲストとして招待いただきました。
TCC会長の谷山雅計さんが進行役で、
2022年に新人賞を受賞した
若手コピーライターのみなさんから
糸井重里に聞いてみたいことをぶつけ、
なんでも答えるという90分間でした。
広告の世界からは離れている糸井ですが、
根本には、広告で培った考え方をもとに
アイデアを考え続けています。
若いつくり手のみなさんに届けたい、
エールのような読みものです。

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(3)残るものと一瞬だけ盛り上がるもの。作り手としての感覚の違いは?

谷山
では次の質問にいきましょうか。
電通関西の花田くんから。
花田
人の心に残って長く影響するものと、
一瞬の盛り上がりを作って忘れられてしまうもの、
作り手としての達成感やたのしさは
どんなふうに違いますか。
ぼく、広告がすごく好きで、
広告を作るのも今のところすごく好きで
たのしくやっているんです。
その一方で広告って短期消費なところがあって、
作ったものがオンエアされて、パッと盛り上がって、
またすぐ忘れられてしまいます。
音楽、映画、ゲーム、小説とかって、
うまくいけば、人生レベルで
忘れられない大切なものにもなりますよね。
そういうものを作る人のことが、
ちょっとうらやましくなることがありまして。
糸井さんは歌詞やゲームも作られていますが、
『MOTHER』みたいに何年経っても、
思い出として大切にしてくれている人がいるものは、
広告との感覚って違うものですか。

糸井
まずは、一瞬の盛り上がりを作って
忘れられてしまわれそうだなというものは、
なるべくやめとこうと思ったんです。
だけど、一瞬の盛り上がりが
必要なときっていうのもあるんですよね。
自分がやった仕事の中で、
そういう批判を受けたものもあるんですが、
三菱自動車の広告で
エリマキトカゲが走るコマーシャルがありました。
自動車会社はいくつもありますよね。
トヨタがあって、日産があって、ホンダがあって、
スバルがあって、いろいろありました。
「今度の土日はディーラーへ!」みたいな
コマーシャルがよくあったけれど、
新車を見に来てくださいねって言っても
大手の2社ぐらいのところ以外は、
あまり来てくれないらしいんです。
そのときにぼくが担当したのは
ミラージュという小っちゃいクルマで、
それなりに人気はきている状態でした。
二本足で歩くエリマキトカゲの映像は
動物番組で見たことがあって、
あれなら人は来ると思ったんですよね。
ですから、永遠に心に残るものを
作りたいっていう気持ちとはちがって、
大きなチラシを作るみたいな意味で
コマーシャルを作ることはときどきありました。
同時に、人気のあるタレントさんの
キャスティングを頼まれたときには、
瞬間風速でその人が消えるようなやり方もあって、
そのやり方はしたらダメだなとも思います。
ぼくが仕事を頼まれたときには、
あとで掘り返したときに「あれよかったよね」と
言われるようにしたいなと、
自己チェックのところでは考えていますね。
で、『MOTHER』みたいなゲームは
大勢で作るものなので
時間もかかるし、手間も大変だし、
かけた思いの分だけ「塵も積もれば」のものですから、
それはもう、当然残ると思って作っています。
広告とゲームの間にあるのは歌ですね。
後になって自分が歌っても恥ずかしくないか、
ということは考えていました。
そういう気分は、作るときにすでにありますね。
谷山
糸井さんの『TOKIO』は、
いま歌ってもまったく恥ずかしくないです。

糸井
『TOKIO』はコンセプトがあったんですよ。
最初に「TOKIO」ってことばを知ったのは、
何かの仕事でフランスに行ったときだったんです。
空港に「TOKIO」と書いてあって、
東京行きのことを表してるわけです。
「そうか、フランス語ではTOKIOっていうのか」
と思って、ものすごくうれしかったんですよね。
「TYO」や「TOKYO」って書く表現もあるけど、
「TOKIO」って書かれたときに、
いままで東京に感じていたイメージと
違うものが見えたんです。
「TOKIO」なら新しい東京を
見せられるんじゃないかなと思った覚えがあります。
それはぼくの、
言ってみれば心のノートに書いておきました。
ぼくは東京という街が好きだったんで、
東京の文化がいよいよこれから
国際的に注目されるようになるぞっていうのが、
あのアルバムを作る時期だったんですよ。
まだナメられていたかもしれないけど、
ニューヨーク、ロンドン、パリっていうなかに
東京が入っても恥ずかしくない時代が
来るんじゃないかなって期待を込めたんです。
東京というのをもっと外の人に向けて
打ち出したいなと思っていたことと重なりました。
そこに『TOKIO』っていう歌を作るチャンスがきて、
そこに乗せてやれって思ったんですよね。
そこにはもう、さっきの質問にあった
問いと答えが入ってるんですよね。
東京がテーマの歌にもいろいろあって、
国の中で歌われている「東京」は
てっぺんという意味で歌われていたけど、
世界から見ると何でもない存在に
見えていたんですよね。
だから、東京が世界からでも
見えるものにしたいなという
コンセプトがあったんです。
それがぼくからの問いかけでした。
そこにちょうど、大勢に届けられるような
沢田研二さんという歌手の仕事がきたんで、
『TOKIO』というメディアにして
コンセプトを乗せたかったんです。
この歌については、
後まで残ってほしいと強く思っていましたね。
そういう風に考えていたものでも
失敗はあるかもしれないですけど、
どんな仕事であっても、
ずっと残るって思っていたほうが
いいんじゃないでしょうか。
谷山
ちなみにコピーでも、
糸井さんが手掛けた
新潮文庫の「想像力と数百円」は
いまではもう使われていませんが、
ぼくがコピーを教える学校の生徒に
「好きなコピーは?」って聞いてみると、
ものすごくたくさんの人が選んできます。
ここ2、3年のコピーを書く人もいますけど、
「想像力と数百円」と書く人の割合はすごい。
糸井
「想像力と数百円」は、
キャッチフレーズを別に作るつもりで書いた
スローガンコピーみたいなものだから、
不朽の名作っぽいものを作る必要があったんです。

谷山
最初からそれを狙っていたんですね。
糸井
そうです、そうです。
「糸井重里が作った」というよりは、
「新潮社が作ったようなことば」にしたかったんで、
あれは、文字の画数も多いんですよね。
本当は、「円」なんて字も、
昔の字で書いてもいいくらいだったんです。
谷山
昔の漢字で「圓」と入れたら、
新潮社が作ったようになります。
糸井
活字で押してもいいようなことばを作って、
その都度、
「インテリげんちゃんの、夏やすみ。」とか、
別のメインコピーを作ればいいと思ったんです。
ただ最近は、文庫本が数百円じゃ
買えなくなったんで、もうダメだよね。
谷山
1000円突破の文庫本もありますもんね。
いやでもやっぱり、しびれるなあ。
全部が電子書籍になったり、
電子決済だけで全部が済むようになったら、
その「数百円」は伝わらなくなるかもしれませんが、
広告の中で「想像力と数百円」は、
みんなが不朽の名作だと思っています。
糸井
広告って花火と同じなんですよね。
「きれいだな」と言われて
忘れられていいっていう考えも、
ぼくの中にはもちろんあるんですけど、
やっぱり「あの花火は忘れられないよね」と
言ってほしいみたいなところもありますよね。

(つづきます)

2023-02-05-SUN

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