生理はじぶんの身体のことを知る
大切な機会だと、甲賀先生は話します。
中学の保健体育で習って以来、
生理について学んでいない人も多いはず。
あらためて知ることで、
毎日を心地よく過ごせるヒントが
隠されているかもしれません。
東京大学医学部付属病院で、
子宮内膜症外来などを担当されている
産婦人科医の甲賀かをり先生に
「生理の基本」を教えていただきました。
大事なお話がたくさんつまっています。

>甲賀かをり先生のプロフィール

甲賀かをり(こうが・かをり)

東京大学医学部附属病院産婦人科准教授。
千葉大学医学部を卒業。三井記念病院産婦人科、
国立霞ヶ浦病院産婦人科、
武蔵野赤十字病院産婦人科を経て、
豪州プリンスヘンリー研究所・米国イエール大学へ留学。
現職に就かれています。

前へ目次ページへ次へ

第5回 更年期障害とホルモンバランス。

一時期、生理周期が
乱れてしまったことがあって。
病気のせいなんじゃないかと、
怖くなったことがありました。
甲賀
生理周期が長くなったり短くなったりする
原因の多くは「ホルモンバランス」ですね。
病気ではなくて、ホルモンバランス。
甲賀
はい。
「ホルモンバランス」が
周期のコントロールをつかさどっているんです。
一ヶ月に1度だった生理が
一ヶ月に2度あったり、
2ヶ月ごとにしかこなかったり、
周期乱れの原因はホルモンですね。
先ほど話に出てきた、
黄体ホルモンとエストロゲンですか?
甲賀
そうです。
このふたつのバランスのことです。
40代以降というのは、
病気の罹患率も高くなりますし
ホルモンバランスも乱れがちになってくる。
「生理がぐちゃぐちゃになる」ことが
よくあるんです。
一番大変な時かもしれませんね。
甲賀
そうですね。
不調の原因がホルモンなのか病気なのか
判断がつかなくなってきますし、
精神的にもつらいと思います。
考えるだけで憂鬱です。
更年期障害や閉経の原因は
ホルモンバランスにあるんでしょうか?
甲賀
まさに、そうです。
閉経に近づいてくると
身体が妊娠の準備をしなくなるので、
PMSというのはなくなっていきます。
だから、PMSで苦しんでいた人は
よくなっていきます。
ですが、時を同じくして、
更年期障害がやってくる。
理由は「エストロゲンの減少」によるものです。

甲賀
閉経に向かってエストロゲンが、
いちばんダイナミックに変化します。
20-30代から同じスピードで減っていくのではなくて、
40代後半にかけてググッと減っていく。
そうして生理が止まるわけです。
グラフをみると急降下ですね。
甲賀
この、ダイナミックに変化するときに、
更年期というものが起こります。
現在の平均閉経年齢が51歳くらいで、
変化が大きいのも50歳あたり。
ほてりや肩こりなど
自覚症状のある更年期の症状は
この、前後あわせて
10年くらい続く可能性があります。
閉経に向けて、
身体が変化しているんですね。
甲賀
そうです。閉経というのは、
突然「はい、終わり!」となる人はすごく少ないんです。
生理の間隔がつまったと思ったら、また間隔があいて、
10月1日、12月1日、2月1日‥‥あれ? みたいな。
気づいたら終わっていた。
甲賀
生理周期が乱れてきて、
次第に黄体ホルモンも出なくなって、
だんだん止まります。
目に見えないのでわかりにくいですが、
これは、女性の身体にとって大きな変化ですよね。
そうですね。
甲賀
エストロゲンというのは、
女性の自律神経を健康に保ち
血圧が上がりすぎないようにしたり、
体温を一定に整えてくれたり、
間接的に女性の身体を支える働きをしてくれています。
そんな大事なエストロゲンが、
減ってしまうなんて。
甲賀
減ってくるから、身体がうまくいかなくなる。
暑くもないのにほてったり、
逆に手足がすごく冷えてしまったりするのは、
エストロゲンが急激に減ってしまうからです。
ただ、更年期はずっと続くものではありません。
急激な変化に身体が対応できなくて
いつもと違う症状が出てしまうだけで、
エストロゲンが少ないことに
身体は慣れていきます。
ピルを飲んでいると生理が止まりますよね?
それなら、ピルを飲んでいれば
更年期障害を感じずに済むと思ったのですが、
どうなんでしょうか。
甲賀
ピルはエストロゲンと黄体ホルモンの合剤ですから、
仕組みとしては、そうなりますね。
ただ、40歳以上の人は
血栓など、リスクが考えられるため
慎重投与になります。
50代以上の人は使用禁止されています。
そうなんですね。
甲賀
更年期障害がひどい方は、
ホルモン補充療法がおすすめです。
ホルモン補充療法って、なんですか?
甲賀
え、知りませんか?
勉強不足でした。
甲賀
これは押さえておいたほうがいいですよ。
女性の体内に発生する
黄体ホルモンとエストロゲンを
補充する治療のことです。
ピルも同じ仕組みですが、
ピルは本来卵巣から出ているホルモンより
すこし多い量を摂取します。
一方ホルモン補充は、
本来卵巣から出ているホルモンと
同じかすこし少ない量を摂取することで、
自覚症状を緩和させる治療です。
更年期障害は打つ手がないと思っていたので、
すこし安心しました。
甲賀
患者さんが多いから、
常識かと思っていました(笑)。
ずいぶん楽になるんですか?
甲賀
楽になる方は多いですね。
最近は、女性の方でも
管理職や大きなお仕事を
任されている方が増えています。
50代で働かれている方もたくさんいますし。
そういう方々が、更年期障害によって
パフォーマンスが下がってしまう
ことを防ぐためにも、
ホルモン補充は有益だと思います。
ただ、これも下手にやってしまうと
治りそうだった子宮内膜症が悪くなったり、
閉経したのに不正出血があったり、
思わぬことが起こる可能性もあります。
きちんと医者に相談しながら、
治療を受けてください。

(つづきます。  次回は甲賀先生イチオシの  「セルフモニタリング」について。)

2020-11-10-TUE

前へ目次ページへ次へ