俳優の内田有紀さんはキャンプが大好きで、
忙しいスケジュールの合間をぬって、
キャンプに出かけているそうです。
しかも、つかっているのは
小杉敬さんのつくったテント。
それならば! ということで実現した、
内田有紀さんと小杉敬さんと
糸井重里のスペシャルキャンプトーク。
あ、糸井のキャンプ経験はこれからです。
yozora、サバティカル、ゼインアーツの
合同テント展示会に集まった
たくさんのキャンプファンをまえに、
くり広げられたたっぷりのトークをどうぞ。
内田有紀(うちだ・ゆき)
1992年、TVドラマ「その時、ハートは盗まれた」で
俳優デビュー。 以後、ドラマ・映画を中心に活動。
主な出演作として、
テレビ朝日系「ドクターX~外科医・大門未知子~」シリーズ、NHK連続テレビ小説「まんぷく」、
WOWOW「連続ドラマW フィクサー」など。
4月30日(火)から放送予定のNHK総合ドラマ
『燕は戻ってこない』(毎週火曜22時放送)に出演。
小杉 敬(こすぎ・けい)
1972年新潟県生まれ。
1993年、大手アウトドア用品メーカーに就職、
数々のキャンプ道具の開発を手がける。
2018年に独立、長野県松本市を拠点に
株式会社ゼインアーツを設立した。
機能と芸術の融合をコンセプトに掲げ、
手がけたアウトドア用品は予約時点で多くが完売、
グッドデザイン賞ベスト100にも
選出されるなど人気を博している。
- 糸井
- 小杉さんの発言はどうやら
かなりチェックしている内田さんですが、
せっかくこういう機会ですから、
なにか質問してみたいことはありますか。
どんなに専門的になってもいいから。
- 内田
- はい、じつは一番聞きたかったことは、
昨日お会いしたときに訊いてしまったんですが、
それをぜひ、この場でもう一度、いいでしょうか。
- 糸井
- 昨日、質問してたんだね(笑)。
- 内田
- はい(笑)。さきほども話が出たんですが、
小杉さんは、テントをデザインするときに
スケッチをしないそうなんですよ。
つまり、頭のなかでつくっていくそうなんですが、
それって、どういうふうにやっているのか。
- 糸井
- ああ、それは聞きたい。
- 小杉
- はい。まず、やっぱり、ぱっと見たとき、
キャッチーで、かっこいいじゃんって、
一目惚れするようなフォルムだというのは、
とても重要だと思っています。
けれども、やっぱりテントですから
機能させなければいけない。
ですから、デザインと機能を、
高次元でミックスさせていくこと。
具体的には、それぞれを別に考えていきます。
で、考えながら、ある一定のところまで来たら、
一回、デザインと機能をミックスさせてみる。
それで、まだちょっと合わないなってなったら、
もう一回それぞれを考えて、また合致させて、
というのをくり返して、精度を高めていく。
- 糸井
- それを頭の中だけでやるんですか。
- 小杉
- 頭なんです。頭の中。
- 内田
- そうなんですね。
- 糸井
- はーー、描かないんだ。
- 小杉
- 描くと、そのイメージが固定化されてしまうので。
自分が描いた絵に引っ張られちゃうんですよ。
その絵とか図が印象として
頭の中に強く残ってしまうので、
「もうすこし機能をこうしたい」というときに、
それが邪魔しちゃうんですよね。
- 糸井
- なるほど。
- 内田
- すごいですよね。
- 小杉
- なので、もっとフレキシブルに、
頭の中で、それを動かせる状態に、
ちょっとファジーにしておくっていうんですかね。
でないと、次元の高いことを
やろうとするときに、むずかしいんです。
いきなりスケッチしてしまうと、
もう、遠くまで行き着けないというか、
ミックスされることがなくなってしまう。
だから、機能とデザイン、それぞれを考え続けて、
完全に頭の中でそれが成立したときに、
「よし、描こう」と。
- 糸井
- そのときにはじめて描くんだ。
- 小杉
- 描きます。そのときはもう一発で描いてます。
- 糸井
- なぜなら、「もうできてる」から。
- 小杉
- そうですね。
- 内田
- すごいですよね。
頭の中で、あの形をこう組み合わせて、
ああしてこうしてってやるうちに、
だんだんわかんなくなってこないのかなぁ
と思いますけど(笑)。
- 小杉
- ただ、まったく自由に発想するわけじゃなくて、
セオリーは絶対にあるんです。
決して崩してはいけない、
ラインとか線とか高さとか、
テントをつくるうえでの基準がいろいろと。
たとえばフレームを考えるときに、
これはやっちゃいけないっていう
制約とかセオリーがある。
テントとかプロダクトをデザインするときは、
まずそこを理解しなくちゃいけないんです。
自分で崩して変えていい部分と、
変えちゃいけないセオリーがある。
そこを理解するのにけっこう時間がかかります。
5年くらいやらないとわからない。
- 内田
- そんなに。
- 小杉
- そうですね、完全に理解するまでには。
私は、変えちゃいけない部分をわかってるから、
変えていい部分だけを考えてるわけです。
逆に、変えちゃいけない部分をわかってないと、
すべてをいじれちゃうから、
解決しないんですよ、いつまでも。
- 糸井
- 永遠にできなくなっちゃう。
- 小杉
- そうなんです、そうなんです。
何度も何度もサンプルを出すことになる。
- 糸井
- はい、はい。
- 小杉
- だから、まずはしっかり機能させるのが前提。
機能させるためにはやっぱり
セオリーは絶対いじらない。
耐風性、強度、といった
必須条件というのは絶対あるんで。
あと、立てやすさ、設営のしやすさ。
- 内田
- そう、小杉さんのテントは、
どれも立てやすいんですよ。
そこはやっぱり大事にされてるんですね。
- 小杉
- あの、たぶん、このアウトドアの業界って、
まだそんなに歴史が長くないと私は思っていて。
自然の中に入っていくことはある程度リスクがあって、
知識のある人じゃないとやっちゃいけないよ、
みたいな、そういう雰囲気が、
すこしまえまであったと思うんですね。
- 内田
- はい、ありましたね。
- 糸井
- それは、ぼくなんかも感じます。
- 小杉
- たとえば、道具を買おうと思ってお店に行くと、
オーナーの人がドンと構えてて、
「‥‥なにしにきた?」みたいな。
そういう雰囲気が最近まであったと思うんです。
- 糸井
- まあ、建て前というか、理由としては、
「危ないぞ」っていうことがありますからね。
- 内田
- そうですね、自然と対峙するんだから。
- 小杉
- はい、だから、それはもちろん間違ってはない。
ただ、そういう雰囲気になった理由というのは、
日本のアウトドアの歴史というのが、
登山からはじまったからだと思うんです。
- 糸井
- あーー、なるほど。
- 小杉
- 登山はたしかに命の危険性がありますから、
どうしても厳しくなるんですね。
たとえばテントの設営でも、
立て方をしっかり覚えて当たり前というか、
それは立てられないおまえがダメだ、
というような。
- 糸井
- 命にかかわることだから、そうですよね。
- 小杉
- いや、そうなんです。
その意味では、さまざまなことを
個人のスキルに委ねていたというのが、
たぶんいままでのキャンプ業界だったと思います。
でも、アウトドアに興味を持つ人が増えてきて、
はじめての方とか、非力な方とか、
いろんな人が参加する市場になってきたときに、
設営しづらいテントを出して、
個人のスキル任せにするというのは、
いまのアウトドアの市場を冷静に見ると、
いいことじゃないと思うんです。
だから、やっぱりテントの設営は
簡単にしなければって思ったんです。
- 糸井
- それは、自動車がマニュアル車からオートマになって、
免許にオートマ限定ができたことと似てますね。
- 小杉
- ああ、はい、はい。
- 糸井
- マニュアルができなきゃダメで、
オートマはいい加減なんだよ、
みたいに思われてた時代がありましたよね。
- 内田
- ありました。
- 小杉
- まさに、そうかもしれないですね。
だから、アウトドアの業界も、
まずは登山とキャンプを
しっかり分けたほうがいいと思うんですけど、
いま、たとえば、お店の売り場を見ても、
両方が同じ場所で売ってたりするんですよね。
- 糸井
- ああ、そういうふうに説明されると、
よくわかりますね。
(つづきます)
2024-03-27-WED
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撮影:ami
衣装協力
ジレ・スカート/共に、DoCLASSE(0120-178-788)
リング/スキャット(ロードス03-6416-1995)
ピアス/faveur.jewelry(ロードス03-6416-1995)