テレビのリモコンをにぎって
あちこち番組を行き来しているとき、
この人の姿が見えたら手をとめてしまう。
演技に引き込まれたり、
スカッとしたお人柄に感心したり。
三谷幸喜監督の最新映画『記憶にございません!』で
アメリカ大統領を演じる木村佳乃さんの姿に
とどめのように衝撃を受けた「ほぼ日」の菅野は、
お話をうかがいに行ってまいりました。
のびのびとしたお人柄そのままのお話、
どうぞおたのしみください。
木村佳乃(きむら よしの)
1976年イギリス生まれ。
1996年にドラマデビュー。
1997年に森田芳光監督の映画『失楽園』に出演し、
日本アカデミー賞新人賞を受賞。
2010年の映画『告白』では
日本アカデミー賞ならびにブルーリボン賞で
助演女優賞を受賞。
そのほかの映画出演作には『阿修羅のごとく』
『さくらん』『誰も守ってくれない』など。
大河ドラマ「真田丸」や
朝の連続テレビ小説「ひよっこ」、
「あなたには渡さない」「後妻業」など、
テレビドラマの出演も数多い。
写真 小川拓洋
- ほぼ日
- 木村さんは中学時代の3年間、
ニューヨークに住まわれていましたが、
その時期にご自身の変化はありましたか?
- 木村
- 日本が大好きになりました。
というのも、祖父も父も
アメリカに縁があった人たちで、そのふたりから
「アメリカナイズされるな」
「日本のアイデンティをしっかり持て」
と、幼い頃から言われていました。
- ほぼ日
- それは国際派のご家族ならではのことですね。
- 木村
- アメリカに行く前、つまり小学生のときですね、
映画では「E.T.」とか
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
「グレムリン」などが流行ってました。
「そのアメリカに行くんだ。ワァイ!」
なんて思っていたんだけど、
ひとりで異文化に入るということは、
やっぱりそんなに生易しいものでは
ありませんでした。
- ほぼ日
- そうですね、
見かけがまずちがいます。
- 木村
- 当時はバブルで、
ロックフェラー・センターを日本が買収したり、
日本が反感を持たれていた時期でもあったんです。
ニューヨークは人種のるつぼです。
いろんな人がいますけれども、
みんながウェルカムってことはありません。
私はそれをとても敏感に感じていました。
- ほぼ日
- おおらかな性格の木村さんであっても。
- 木村
- 悔しかったんだと思います、たぶん。
自分ではどうしようもできないことで、
その世界に受け入れられないのですから。
- ほぼ日
- おじいさまはアメリカにご縁があった、
というお話が出ましたが、
おばあさまもアメリカに
いらっしゃったんでしょうか。
おそらく大変な経験をなさっていることでしょう。
- 木村
- 「最初、船で行った」と言ってました。
日本からロスに1か月かけて船で行って、
そこから汽車で1週間、
やっとニューヨークに到着したと聞きました。
船ではじめてアメリカの土を踏んだとき、
祖父が迎えに来てくれるはずが、
電報だけが残されていて
「行けなくなった。すまん」と書かれていた。
以来「祖父には頼れない」というのが
口癖みたいになってて(笑)。
- ほぼ日
- そして、いまとうとう孫である佳乃さんが
大統領を演じて‥‥アメリカには縁がありますね。
- 木村
- 本当(笑)、そうですね。
- ほぼ日
- 木村さんは、おばあちゃんっ子だったと
伺いましたが。
- 木村
- そうです。
おしゃれで、すごくハイカラな人でした。
明治生まれで、戦争も経験して、
戦前戦後とアメリカにいて、
とても強い人でした。
怒ったら怖かったですけど(笑)、
でも、大好きでしたね。
- ほぼ日
- いつもおばあちゃんと
どんなふうに過ごしてらっしゃったんですか。
- 木村
- 一緒に相撲を見てました(笑)。
- ほぼ日
- 相撲!
- 木村
- 祖母は体育の先生だったらしくて、
マラソンも大好きでした。
おやつを食べて
一緒にテレビでマラソン見たり。
- ほぼ日
- そうなんですか。
- 木村
- しかも身長が160cmくらいあって、
当時としては大きい人だったらしいです。
- ほぼ日
- もしかして、木村さんと、
ちょっと似てらっしゃるのでしょうか。
- 木村
- あ、顔がそっくりです、祖母と(笑)。
祖母はよくいろんな話をしてくれました。
戦争の話もありましたし、
祖父とどうやって知り合ったとか、
そういう話(笑)。
女の子ってそういうの好きじゃないですか、
「どうやって結婚したんだ」みたいなね、
そういう他愛のない話をたくさんしました。
だから私は、
学校から帰ると祖母の所へ行って、
おやつ食べて、いっつもゴロゴロしてました(笑)。
- ほぼ日
- 役柄として、
木村さんはこれまでいろんな時代の人を
演じてこられたと思いますが、
「こんな時代のこんな人になってみたいな」
と思ったことはありますか?
- 木村
- えぇっ? 考えたこともなかったなぁ。
でも‥‥生まれ変わったら
男の子になってみたいとは、つねに思ってます。
夏に高校野球にハマったりしてて、
ああいうふうに夢中になって、
スポーツに打ち込んだりしてみたいです。
男の子の気持ちってよくわからないですよね、
だから興味がある。
- ほぼ日
- お子さんはふたりとも、女の子ですよね。
- 木村
- はい。自分自身も、きょうだいは姉です。
しかも祖母の家に入りびたって、
女ばっかりの環境で育ってきちゃった。
- ほぼ日
- お父さんとはどうでしょう?
なかがよかったですか?
- 木村
- いいです、いいです、
すごくいいです。
- ほぼ日
- そろそろ時間もなくなってきたので、
最後にお父さまのことをうかがっていいでしょうか。
個人的な話で恐縮なのですが、
私の父はわりと、格言めいたことを
言うタイプだったんです。
木村さんがお父さまから言われたこと、ありますか?
- 木村
- 「酒は飲んでも飲まれるな」
って言われてました。
- ほぼ日
- (笑)
- 木村
- あとは
「人に何か話をするときは、多少盛れ」
です。
- ほぼ日
- すごい名言。そのふたつ。
- 木村
- お話するときは人をたのしませたほうがいいから、
事実とちょっとくらい離れても、
おもしろいほうがいいんだぞ、って。
父と私が話をしていると、たまに母が横から、
「そんなに大げさなことじゃなかったじゃない」
なんて言うんです。
「ママはああいうふうに言っているけどな、
ちょっとおおげさに話したほうが
盛りあがるじゃないか」
みたいなことを、父はいつもいいます。
「事実を事実として話すとき、ちょっと盛れ」
これです。
- ほぼ日
- 「飲んでも飲まれるな」ということは、
お父さん、酒のうえの失敗が
あったのかもしれないですね。
- 木村
- あるんじゃないですか、いっぱい。
- ほぼ日
- 木村さんはないですか。
- 木村
- あると思う。
- ほぼ日
- ああ(笑)、もっとお話を伺いたいですが、
ほんとうに時間が来ました。
本日はありがとうございました。
『記憶にございません!』の大統領姿、
もういちどスクリーンで味わいます。
- 木村
- はい、こちらこそ、
ありがとうございました。
(おわります)
2019-09-14-SAT
-
脚本家、演出家、映画監督として
これまでたくさんの笑いと感動を届けてきた
三谷幸喜さんの、映画監督作品8作目となる
待望の最新作。
構想13年の三谷さんのオリジナルストーリーです。
主演は「記憶喪失の総理大臣」を演じる
中井貴一さん。
木村佳乃さんはアメリカの大統領を演じます。
そのほかディーン・フジオカさん、小池栄子さん、
石田ゆり子さん、草刈正雄さん、佐藤浩市さん、
斉藤由貴さん、吉田羊さん、宮澤エマさん、
有働由美子さんなど、豪華なメンバーが
三谷監督のメガホンで
どのようなキャラクターを演じたのか!
1シーンずつがたのしい現代劇です。9月13日(金)より全国東宝系にて公開。
上映スケジュールなど、くわしくは
映画の公式サイトをごらんください。