どうして墜落の危険もかえりみず、
難しい岩場や高い壁を、
疲れた手足で、登っていくのか。
ときに、壁の途中で何泊もして。
日本における
フリークライミングのパイオニア、
世界大会を２度も制覇した
平山ユージさんに、取材しました。
それは目の前に現れる「状況」に
立ち向かい、試行錯誤し、
最後は乗り越えていく過程でした。
人生の道程みたいだと思いました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

＞平山ユージさんのプロフィール

平山ユージ プロフィール画像

平山ユージ（ひらやま・ゆーじ）

15歳でクライミングに出会い、
10代の若さで国内トップに。
その後、渡仏、
欧州でトップクライマーとして30年以上活躍。
世界一美しいと評されるクライミングスタイルで
「世界のヒラヤマ」として知られる。
1998年のワールドカップでは
日本人初の総合優勝を達成し、
世界の頂点に登り詰める。
２度目のワールドカップ総合優勝を飾った
2000年は、年間ランキング１位にも輝く。
アメリカのクライミングの聖地ヨセミテでは
サラテルートワンデーフリーや
スペインのワホイトゾンビを成功させ、
2008年にはアメリカ・ヨセミテの
ノーズルートスピードアッセントで
当時の世界記録樹立するなど、
長年にわたり数々の輝かしい成果を挙げている。
2010年には長年の夢でもあったクライミングジム、
Climb Park Base Camp を設立。
近年では
ワールドカップなどで解説等も務める傍ら、
公益社団法人日本山岳・
スポーツクライミング協会副会長として
競技普及・発展の活動も行う。

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第３回 高さより、難しさ。

──
より高い場所を求めていくことが、
平山さんの挑戦なのでしょうか。
平山
いや、高さじゃなく、難しさです。
高さはさほど関係なくて、
「この難しい壁を、
ぼくは、登り切れるんだろうか？」
というところに、
おもしろさがあると思っています。
──
難しさ。
平山
岩登りって、一手一手‥‥
次の一手を取りにいこうとしたら、
バーンと
岩に跳ね返されたりするんですね。
──
ええ‥‥跳ね返される。
平山
そういうときは、
身体の位置を変えたりしながら
いろいろ工夫して、
身体の各部位の連動性、協調性を
高めていきながら、
取れなかった「次の一手」を
取りにいくんです。
──
身体の連続性、協調性。
平山
それが、おもしろいんです（笑）。
──
なるほど。
平山
挑んで、失敗して、試行錯誤して、
でも、最後まで登りきる。
数学の難問を解き明かしたときの
よころびに似ているのかなあ。
──
達成感とか、到達感‥‥ですかね。
そのよろこびの正体って。
平山
そうですね、そうだと思います。

──
ロッククライミングのムービーを
見ていると、
垂直の岩壁を登っている最中に
日が暮れちゃったら、
垂直の岩壁に
テントを吊って寝たりしますよね。
平山
ええ、１０００メートルの壁を、
２～３泊しながら、
頂上を目指すようなときですね。
──
あれが信じられないんですが‥‥。
平山
ははは（笑）。
──
１日じゃ登れない高さとはいえ、
どうして、
あんなところで寝られるのかと。
平山
まあ、そうですよね。わかります。
はじめは、ぼくも
「あんなところで寝れるのか？」
って不安だったんですが、
実際やってみると、寝られますよ。
──
えええ‥‥。
平山
ただ、ぼくは、
ああいう登り方は好きじゃなくて。
──
あ、そうですか。
平山
大掛かりな荷物は、
なるべく持って行きたくないので。
──
身軽でいたい。
平山
壁の中で、自由に羽ばたきたいんです。
──
おお。壁の中で、羽ばたく‥‥。
平山
荷物が少なかったら、それだけ
壁の中での自由度が上がって、
やれることも多くなりますから。
──
なるほど。
平山
荷物は徹底して軽くしています。
２日かかるところでも、
１０キロくらいにまとめてます。
──
その中にテントも含まれる？
平山
テントは、持って行かないです。

──
じゃ、どうやって寝るんですか。
２日間かかるのに。
平山
まず、前提として、天気予報で
晴れの日を狙うんですね。
で‥‥寝るときは、机くらいの
平らなスペースを見つけて、
ベルトで身体を固定して寝ます。
──
机ほどのスペースに、寝転ぶ？
それに「見つけて」といっても、
そういう場所がなかったら‥‥。
平山
デコボコした岩場でも、
必ず、平らな場所はあるんです。
初日の夜はそこで寝て、
次の日のうちに、
何があっても登りきるんですよ。
──
はあ‥‥。
平山
１日行動して疲れていますから、
ぐっすり眠れますけどね。
──
はぁ‥‥！
平山
思った以上に快適です（笑）。
──
ホントですか（笑）。
平山
太陽が沈むのと同時に寝て、
太陽が昇るとともに起きるんです。
これが、すごく気持ちいいですし。
──
むしろ快眠、とか？
平山
そうかもしれないですね（笑）。
はじめて岩壁で寝たときのことは、
いまだに、忘れません。
そのときは
５００メートルくらいの高さで
寝たんですけど。
──
そんな高いところで‥‥寝る‥‥。
平山
やってみると、いろいろ、わかる。
やらないうちに想像するだけだと、
よっぽど怖いだろうだなんて、
つい、思ってしまうんですけどね。
──
平山さんご自身も、
そこで寝るのが気持ちいいなんて。
平山
思いもよりませんでしたから。
──
登っているときって、
どんなことを考えているんですか。
平山
瞑想の世界みたいな感じ‥‥かな。
ここはこうしよう、
その先はああしよう‥‥とかって、
ずっと自問自答しています。
──
１０代のころに
ロッククライミングと出会って、
どんどんレベルを上げていったと
思うんですけど
やっぱり「向いてた」んですかね。
平山
うーん、どうでしょうね‥‥。
ハマったことは、間違いないです。
さっき初日に７～８本登ったって
お話しましたが、
最後の１本が、
どうしても登れなかったんですね。
──
へえ‥‥。
平山
何度挑んでも登れなかったんです。
そのことが、本当に悔しくて。
帰り道、
日和田山を教えてくれた方に
「腕が張っちゃって、ダメでした」
といったら、
「じゃあ、トレーニングしたら？」
と言われまして。
──
シンプルなアドバイス。
平山
それから、
電車の自動扉の真上についている
ちいさな取っ掛かりに指をかけて、
懸垂するようになって（笑）。
──
ああ、ついてますね（笑）。
あれを利用して、懸垂訓練。
平山
自宅でも、
中二階のはりに木片を打ち付けて、
懸垂をしたり‥‥
自分なりに
トレーニングを続けていきました。

（つづきます）

2020-09-09-WED

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  • 連続インタビュー 挑む人たち。