怪録テレコマン! hiromixの次に、 永田ソフトの時代が来るか来ないか?! |
第43回 前橋で昼食を 〜その1〜 懐かしい家の前に立っている。 2年近く前に一度来たきりなのだけれど、 不思議にほっとする気分になる。 前に来たときもこんな天気だった。 雲はあるが晴れていて、 広い場所に吹く乾いた風が電線を揺らす。 街道から少し入るだけで道は意外なほど静かだ。 舗装されていない駐車場や高くない家が続く町並みが、 小学校2年のころまで住んでいた風景に似ている。 呼び鈴を鳴らすと玄関に誰かが駆けてくる。 ガラス越しのシルエットから僕はその人を直感する。 よく聞き取れないが、 その人は玄関を開ける前から歓迎の言葉を口にしている。 ドアが開いて、微笑んでいるのはミーちゃんだ。 お久しぶり! ご無沙汰してます! 小さなミーちゃんはニコニコ笑う。 80代にしてパソコンを学び始めたミーちゃんは、 前と変わらず来客を陽気に出迎える。 2年前に『豆炭とパソコン』という素敵な本が出た。 以前、このほぼ日刊イトイ新聞で掲載されていた 『80代からのインターネット入門』という連載を 一冊の本にまとめたものだ。 簡単に説明すると、 ある日、息子が80代の母にパソコンを送り、 送られた母が頑張ってパソコンを使い始める。 パソコンを教える先生が募集され、 優秀な女性が立候補してパソコンの基礎を教える。 家では授業とお茶会が開かれ、 やがて80代の母は初めてのメールを打つ。 そういう話がじっくりとやんわりと、 ドキュメント形式でつづられていく。 暖かくて、スリリングで、可能性に満ちた、 不思議な魅力がたっぷり詰まった読み物だ。 その主役がミーちゃんである。 いまはその読み物が発展して、 『ミーちゃんの縁側』という連載になっている。 僕は『豆炭とパソコン』が出るときに、 編集者としてお手伝いさせてもらった。 そのときにこの家を訪れたのだ。 たしかあのときも3月だったから、 本当にちょうど2年が経ったことになる。 玄関でミーちゃんと妻が初対面の挨拶を交わしていると、 奥から「よくぞご無事で!」と快活な声。 綺麗な姿勢で微笑むのはノリコさんだ。 お久しぶりです、と僕は頭を下げる。 ノリコさんに会うとなぜだか凛とした気分になる。 家の中は相変わらず清潔で、方々に花が活けてある。 開いた窓から風が四方へ抜けるが、 同じように陽も射しているから寒くはない。 僕と妻はミーちゃんに導かれて奥のコタツへ。 このコタツにはちょっと変わった仕掛けがある。 初めての妻は、ミーちゃんの説明を受ける。 ここは無許可でよし、と勝手に判断した僕は、 すでにテレコのスイッチを入れている。
山田詩子さんという方が描いた素敵なイラストを、 僕は少し懐かしく眺める。 「似てる」と言われてミーちゃんもまんざらでもない様子。 ミーちゃんとiMacが描かれたイラストのそばで ミーちゃんがiMacに向かっているところを想像すると なんだかとても微笑ましい。 ミーちゃんは台所でお茶をいれる。 僕はコタツに深く入ってのんびりする。 まだお昼前だが、早起きしたから少しだけ眠い。 豆炭で暖められたコタツは濃密な暖かさがある。 庭に面して開いたガラス戸から来る外気に触れて 背中が少し冷たい。 そういうのって久しぶりの感覚だ。 じんわりとひんやりを同時に感じながら、 射す陽の中で僕は心地よい。 お茶をどうぞ、とミーちゃんの声がした。 続きはまた明日。 2002/03/24 前橋 |
2002-04-02-TUE
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