捨てる気ですか。
ぼくを、捨てる気ですか。
仮にもね、印鑑を押すんですよ?
大事な大事な書類にね、
大切な大切な印鑑を押すんですよ?
なんでそう、役立たずな感じで呼ばれるんですか。
ひどい扱いじゃありませんか。
ほかの印鑑は、ものすごく大切にされてますよ?
押すときも、書面をしっかりチェックして、
何度も内容を確認して見直して、
「よし!」と気合を入れて、
立派な朱肉で色を十二分に補充して、
しかるべき場所へ、ぎゅうと押されてますよ?
ああ、それなのに! ぼくの扱いときたら!
「あ、捨て印も、お願いします」って!
「捨て印も」って! 「も」って!
「欄外に、捨て印も」って!
捨てる気ですか? はなから捨てる気ですか?
ぼくの居る場所は、いつだって欄外ですか?
ねぇ、居させてくださいよ、ぼくも大事な場所に。
文言のそばに寄り添わせてくださいよ。
署名の末尾あたりにぎゅうと押してくださいよ。
そんな、ボールペンの試し書きみたいな、
義理チョコみたいな、滑り止め受験みたいな、
サッカーのワールドカップにおける
3人目のゴールキーパーみたいな、
そんな中途半端な扱いにはもう、
うんざりしてるんですよ、ぼくは!
で、とどめに、名前が「捨て印」ですよ?
モチベーション、下がりまくりですよ。
せめて、「スーパーサブ印」とか、
呼んでくれるがいいじゃありませんか。
「捨て印」って! 捨てるわけでもないのに!
そんな、ちょっと英語っぽく
「ステイン」なんて発音してもごまかされませんよ!
だいたい、なんのために存在するんですか、ぼくは!
‥‥え? じつはけっこう大事な存在?
軽微な訂正や文言の加除に使われる大切な存在?
修正が自由になるから軽はずみに押しちゃいけない?
じゃ、「捨て印」なんて言わないでくださいよ。
いま、ここで、約束してください!
ぼくを「捨て印」なんて呼ばないってことを!
はい、じゃあ、ここに署名して。捺印して。
あと、欄外に捨て印もお願いします。
(つぎなる嘆きへつづく)
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