バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


俗称 捨て印(すていん)
分野 法律
嘆きその25 捨て印(すていん)

捨てる気ですか。
ぼくを、捨てる気ですか。
仮にもね、印鑑を押すんですよ?
大事な大事な書類にね、
大切な大切な印鑑を押すんですよ?
なんでそう、役立たずな感じで呼ばれるんですか。
ひどい扱いじゃありませんか。
ほかの印鑑は、ものすごく大切にされてますよ?
押すときも、書面をしっかりチェックして、
何度も内容を確認して見直して、
「よし!」と気合を入れて、
立派な朱肉で色を十二分に補充して、
しかるべき場所へ、ぎゅうと押されてますよ?
ああ、それなのに! ぼくの扱いときたら!
「あ、捨て印も、お願いします」って!
「捨て印も」って! 「も」って!
「欄外に、捨て印も」って!
捨てる気ですか? はなから捨てる気ですか?
ぼくの居る場所は、いつだって欄外ですか?
ねぇ、居させてくださいよ、ぼくも大事な場所に。
文言のそばに寄り添わせてくださいよ。
署名の末尾あたりにぎゅうと押してくださいよ。
そんな、ボールペンの試し書きみたいな、
義理チョコみたいな、滑り止め受験みたいな、
サッカーのワールドカップにおける
3人目のゴールキーパーみたいな、
そんな中途半端な扱いにはもう、
うんざりしてるんですよ、ぼくは!
で、とどめに、名前が「捨て印」ですよ?
モチベーション、下がりまくりですよ。
せめて、「スーパーサブ印」とか、
呼んでくれるがいいじゃありませんか。
「捨て印」って! 捨てるわけでもないのに!
そんな、ちょっと英語っぽく
「ステイン」なんて発音してもごまかされませんよ!
だいたい、なんのために存在するんですか、ぼくは!
‥‥え? じつはけっこう大事な存在?
軽微な訂正や文言の加除に使われる大切な存在?
修正が自由になるから軽はずみに押しちゃいけない?
じゃ、「捨て印」なんて言わないでくださいよ。
いま、ここで、約束してください! 
ぼくを「捨て印」なんて呼ばないってことを!
はい、じゃあ、ここに署名して。捺印して。
あと、欄外に捨て印もお願いします。

(つぎなる嘆きへつづく)

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2010-06-22-TUE