あの、踊っていきませんか?
ちょっと待ってください、ねえ‥‥。
ああ、また、通りすぎていってしまった。
こうしてわたしは
いままで何人を見送ってきたのかしら‥‥。
華やかなライトも、
光り輝くミラーボールも、
心震わす音楽も、
きらびやかなものはなにひとつ、ここにはないわ。
でも、踊ってほしいの。
だってわたしは「踊り場」だから。
あ、また、階段から足音が聞こえる。
すみません、踊っていきませんか?
待ってください、ここで踊って‥‥。
ほんとはわたし、わかってる。
ここがダンスフロアなんかじゃないっていうこと。
‥‥でもね、いまみたいに、
スカート姿の女の子が通りすぎたりすると、
どうしても、ときめいてしまうの。
軽快なステップで階段をおりてきて、
わたしの上でクルッと、すてきなターン。
スカートのすそがふわっとふくらんで‥‥。
‥‥ばかなわたし。
あれは、ダンスのターンなんかじゃないのに。
あれはただの、方向転換。
踊り場で、方向転換はあたりまえ‥‥。
──ミュージック・フェードイン。
踊り場が、歌う。
ねえ 踊ってよ
ここはダンスフロア
ああ あなたも
通りすぎる だけの人なのね
踊ってよ 踊ってよ
だってわたしは 踊り場なんだから
I am a place for dancing
ねえ 踊ってよ
ここはダンスフロア
でも わかってる
こんなところで 踊ると危ない
回っても 回っても
それはダンスじゃない 方向転換
I'm not a place for dancing
ダンサーは いない 段差があるだけ
ダンサーは いない 段差があるだけ
──ミュージック・フェードアウト。
踊り場は、がっくりとうなだれ、叫ぶ。
思わせぶりな名前はやめて!
(つぎなる嘆きへつづく)
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