バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


名称 魔法瓶(まほうびん)
分野 容器・調理器具
意味 中に入れたお湯やなどを
長時間保温できるよう
構造上工夫された容器。
内層と外層の
二重構造による工夫が
その代表的なもの。
嘆きその29 まほうびん

さぁ、さぁ、みなさま、お立ち会い。
私のなかに入っておりますのは、
3時間前に沸かしたお湯でございます。
なにしろ3時間前ですから、すっかり冷めて、
ぬるま湯どころか水になっているかもしれません。
と・こ・ろ・が!
不思議な魔法を唱えますと、あら不思議!
お湯がまったく冷めず、
熱々の状態で出てくるのです!
それでは、精神を集中させて‥‥。
アブラカタブラ、ビビデバビデブ、
バフンドクダミハメゴロシ〜ええええぃっ!
さぁ、ご注目くださいませ!
「コポコポコポコポ‥‥」
「うわぁ、湯気が出てる!」
「あちちちち、熱湯だ! ほんとに熱湯だ!」
「すげーーっ!! 魔法だ!」
「魔法だ! 魔法だ!」
「魔法瓶! 魔法瓶!」
ふふふふふ、いかがでしたか?
それでは、また、どこかでお会いしましょう。
マホーーービーーーン!
「パチパチパチパチ!」
「パチパチパチパチ!」
「ひゅーー! ひゅーー!」
「すごいぞ、魔法瓶!」

<楽屋裏>

ふぅーーーー。
「いや、おつかれおつかれ。
 今日も大盛況でしたなーー」
ああ、どうも、山岸さん。
「夜の部もよろしゅうお願いします。
 頼りにしてまっせ、魔法瓶さん」
しかし、山岸さん、どうなんでしょう?
このままショーを続けていいものでしょうか?
「な、なにを言うてはるんですか。
 お客さん、めちゃめちゃ
 びっくりしてたじゃないですか。
 魔法や、魔法や、言うて‥‥」
こんなの魔法でもなんでもない!
ただの二重構造じゃないですか。
それを、大げさに、魔法だなんて‥‥。
「お客さんが喜んではるんやから
 なんでもええんとちゃいまっか」
しかし、良心の呵責が‥‥
ただの二重構造による
保温の工夫を魔法瓶だなんて!
「その気持ち‥‥わしにもわかるで」
あ、あなたは、マジックハンド師匠!
「わしなんて、伸びるだけや。
 なんでマジックやねん。
 どこがマジックやねん。
 こんなんで40年、ようやってきたわ」
なにをおっしゃるんですか、
マジックハンド師匠!
師匠の芸はマジックそのものですよ!
私のようなものの魔法とは
娯楽性がまったく違います!
「せやろか。けどなあ、ときどき、
 じぶんがむなしくなってなぁ‥‥」
師匠、元気を出してください!
「コラーーー、あんたら!
 なにをしょうむないことで
 ぐだぐだぐだぐだ嘆いてんねん!
 もっとバリバリはたらかんかい!」
マジックテープ姐さん!
「魔法でもマジックでもなんでもかめへん。
 お客さんが喜んでくれたらそれでええ。
 バリバリいくで、バリバリと。
 バリバリバリバリバリバリーー!」
おお、見事なマジックテープ芸!
なんだか、私も元気が出てきたぞ!
「わしもや。嘆いてる場合やないわ。
 行くで、マジーーックハンドーー!」
よーーし、私も、がんばるぞ!
マホーーービーーーン!
「ほな、夜の部もよろしゅうお願いします。
 弁当、ここに置いときまっせ」
マジーーックハンドーー!
バリバリバリバリーー!
マホーーービーーーン!


(つぎなる嘆きへつづく)

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2010-07-20-TUE