お邪魔します、向こう脛です。
あのですね‥‥
私は、「弁慶の」ではありません。
いいですか、
私は「ひろしの」向こう脛です。
‥‥「ひろしって誰だ」って思いますよね。
誰でもありません。
ザ・一般人・ひろしです。
ふつうの会社に勤める30代の「ひろし」です。
平凡な男ですが、
名前が「ひろし」ということははっきりしてます。
なのに、「弁慶の泣き所」はおかしくないですか？
それを言うなら「ひろしの泣き所」でしょう。
もっと言うなら、
「ひろしの泣き所」は、
私（向こう脛）ではないんです。
そりゃぁ、私を何かにぶつけたら、
ひろしはうずくまって痛がりますよ。
でも、本当の「ひろしの泣き所」は私じゃない。
ひろしの泣き所は‥‥
ひろしのいちばんの弱点は‥‥酒。
酒さえ飲まなければ‥‥
酒にさえ呑まれなければ‥‥
ひろしはとてもいいやつなんです。
つい先ごろ「よしえ」に振られたのも、
飲み過ぎが原因でした。
酔ってあんな失態さえ演じなければ‥‥。
取り返しのつかない悪酔いにクヨクヨし、
ひろしは今夜も自宅であびるように酒を飲み、
また涙を流すのであります。
まさしく‥‥酒はひろしの泣き所。
ちなみに、そんなひろしを振った女性、
「よしえの泣き所」は‥‥お金であります。
器量が良くて明るくて、よしえはみんなの人気者。
ああ‥‥なのにお金にだらしがない。
彼女が経営するスナックも、このままでは‥‥。
さて、「スナックよしえ」の常連に、
「とおる」という人物がいます。
とおるもまた、ひろし同様、
よしえに惚れて店に通う未婚男性。
ひろしというライバルが脱落したいま、
チャンス到来のはずなのに、なぜかウジウジ。
そう、「とおるの泣き所」は‥‥臆病。
酒の力をかりてさえ、告白できない意気地無し。
さあさあ、果たして！
「スナックよしえ」が閉店する前に、
とおるは気持ちを伝えることができるのか？！
もしくは、まさかのどんでん返し、
ひろしの復活で三角関係が加速する？！
そんなことよりもなによりも、
夫と子供がいることを
よしえはいつまでふたりに黙っているのか？！
‥‥‥‥えーとですね、
なにが言いたいかというと、
泣き所はひとそれぞれということです。
みんなちがってみんな切ない。
それをぜんぶひとからげにして、
「弁慶の」と言われるのはやるせないなぁと、
ひろしの向こう脛としては、思う次第であります。

あと、嘆きたいことがもうひとつ。
百歩ゆずって、
「弁慶の泣き所」ということばを、
ひとつの比喩として良しとしましょう。
怪力無双で人気者の名前をもらったのだから、
むしろ私は感謝するべきなのかもしれません。
ただ‥‥どうしても‥‥
どうしても、あいつが気になる！
「アキレス腱」が！
同じく「急所」のことを言っているのに、
向こうはギリシャ神話の英雄アキレス。
スマートだなぁ。
それにひきかえこちらは‥‥べんけいさん。
‥‥なんか、もっさい。
私も「ミノタウロスの泣き所」とかがよかった。
しかもアキレス腱って、すぐ近所だよ？
もう、ね、そんな目と鼻の先で、
スマートにやられたらさ、そりゃあスネちゃうよ。
脛だけにね！
っていうダジャレが出るのは酔いはじめたからだ！
もう、酔わなきゃやってられねぇや。
おい、ひろし、酒だ酒！
今夜もとことん飲むぞ、こんちくしょう！
よしえがなんだぁ！　アキレス腱がどうしたぁ！
ウィ〜〜〜〜、ヒック‥‥。

（つぎなる嘆きへつづく）