糸井 | 1989年、中畑さんが引退した年。 藤田さんは、中畑さんの 出場機会を減らしましたよね。 |
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中畑 | うん。 |
糸井 | あれは、怒りましたか? |
中畑 | ぼく? |
糸井 | うん。 |
中畑 | ぜんぜん、怒ったのは一瞬だけ。 |
糸井 | あ、憶えてるんですね。 |
中畑 | 憶えてますよ。 怒ったのはね、あのとき、松原(誠)さんが バッティングコーチをやってて。 |
糸井 | はいはい、そうでしたね。 |
中畑 | 東京ドームの試合で、 俺がファーストを守ってたときに、 たしかトリプルプレーになったと思うんだけど、 ファインプレーをやったんですよ、ぼくが。 ファーストに来た打球を捕って、 キャッチャーに投げて、サード、セカンドって 回ったんじゃなかったかな? とにかく、すごくいいプレーをやった。 |
糸井 | はい。 |
中畑 | で、つぎの回が俺からだったんですよ。 チェンジになって、気分よく帰ってきて、 さあ、自分の打席だ、って。 |
糸井 | 気持ちよく打席に。 |
中畑 | 気持ちいいよ。 だって、ファインプレーのあとだし、 流れ的にも、絶対打てるという、 確信のようなものがあるわけですよ。 もう、100パーセントに近いくらい、 「あ、これはヒットが打てるぞ」っていう流れが。 |
糸井 | うんうん。 |
中畑 | にも関わらず、コーチの松原さんが、 「キヨシ、代打だ」と。 たしか、こういう言い回しだったんですよ、 「相手ピッチャーが 右投手に代わっても、左投手のままでも、 おまえには代打だ」と。 |
糸井 | おお、すごい言い方ですね。 |
中畑 | たしかねぇ、そういう言いまわし。 「代わっても、代わんなくても、 おまえは代わるよ」って言われたの。 で、まぁ、私も、晩年で力が落ちてるから、 代打が送られること自体は理解できる。 ただ、このタイミングで、その言い方かと。 とくに、松原さんって野球を知ってる人だから。 もう、超、野球知ってる人ですよ。 |
糸井 | そうですね。 |
中畑 | その、野球をとことん知ってる人が、 俺みたいな気性の選手に対して、 ファインプレーして帰ってきて、 さあ、いい打席だっていうときに、 そういうことを言う。 その行為を、俺はもう許せなかったわけ。 |
糸井 | はぁ、はぁ。 |
中畑 | 「コノヤロー!」と思って、 俺はもう、ここで、このチームには 戦力として要らない選手になったんだなーって、 なんていうんだろう、 自分に言い聞かせるために、 そっからベンチ裏に行って、 ロッカールームでボコボコに暴れたんですよ。 「コノヤロォー!!!」 「俺をここで使わないってどうなんだー!!!」 って言ってボッコボコに暴れて、 それですっきりして、 3分後には、ベンチに座って応援してた。 |
糸井 | いやぁーーー、そうですかーーー。 |
中畑 | うん。 暴れて、その3分後にはベンチに帰ってきて そこで応援団長をやった。 |
糸井 | その日から応援団長になった。 |
中畑 | そう、その瞬間から。 ロッカールームで大騒ぎして、帰ってきて、 そっからですよ、ぼくがベンチのなかで 応援団長みたいになったのは。 |
糸井 | それまでにも、頭に来て暴れるようなことは? |
中畑 | いや、あんなに怒りを感じたのは、 野球やっててはじめてかもしれない。 |
糸井 | ああー、そうですか。 |
中畑 | だって俺、暴れたことないもん。 いまはほら、選手のために 暴れてみせることはあるけど。 |
糸井 | ああー。 |
中畑 | でも、自分のことでそんなに怒ることはない。 俺、野球大好きだしね。 野球をやってることが好きなわけだから。 だから、あんなに怒り狂った、 っていうのはなかったと思う、それまで。 |
糸井 | 最後の最後に、怒ったんですね。 あの、自分の力の衰えみたいなものは、 自分でわかりますよね。 |
中畑 | いや、もう、わかりますよ。 |
糸井 | わかりますよね。 |
中畑 | すごくわかりますよ。 |
糸井 | ひょっとしたら、怒りのなかには、 そういう自分に対する怒りも‥‥。 |
中畑 | あったのかもしれないね。 |
糸井 | で、そこからは、 ベンチでチームを応援する人になった。 |
中畑 | そう。そういう流れのなかで、 俺を見てくれてたのは、藤田さんだった。 |
糸井 | ぼくは当時、藤田さんから直に、 何回も聞いた記憶があるんですよ。 「中畑がすごいんだよ」って。 |
中畑 | ああー、そうですか。 |
糸井 | その、存在としてのありがたさ、 っていうようなことだったと思うんです。 |
中畑 | ぼくね、あの年の優勝を決めたとき、 藤田監督が全国放送の 優勝監督インタビューの中で 言ってくれた言葉が いまでも忘れられないんだけど、 「今年、監督の期待に いちばん応えてくれた選手は誰ですか?」 っていう質問に対して、開口一番、 「中畑ですね」って言ってくれたんですよ。 |
糸井 | ああーー、いや、 それは普段から言ってたから、 ほんとに思ってたことですよね。 |
中畑 | 俺はあの言葉を聞いてね、 「うわー、すげーなこの人」って思った。 だって俺、なんにもしてない、 応援団長やってきただけだから、その年。 |
糸井 | でも、出場機会がないわけじゃなかったでしょ。 |
中畑 | いや、でも、ほんとに、 シーズンの序盤だけだったから。 |
糸井 | そうか。 |
中畑 | だから、藤田さんのあの言葉は、 忘れられないですね。 |
(つづきます) |
2013-12-23-MON |