糸井 | 現役最後の年、中畑さんは 最後の最後、日本シリーズの第7戦で、 ホームランを打ったじゃないですか。 |
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中畑 | ええ。 |
糸井 | あの印象がすごく強いんですよね。 だから、力は落ちてたとはいえ、 最後には、しっかり活躍してる。 |
中畑 | いやいやいや、あれは、 その機会を与えたっていうことのほうが すごいんですよ。 最後の活躍の場を用意してくれたんです。 |
糸井 | 藤田監督が。 |
中畑 | そう。 そもそもあの年の夏以降、 ぼくはほとんど試合に出てなかったの。 で、まさに、この横浜スタジアムから、 最後の花道がスタートしたんですよ。 あの年、巨人がリーグ優勝したのが ここなんです。 |
糸井 | そうだ。 |
中畑 | あの試合、ぼくは代打で出て、 ライト線にツーベース打って セカンドにヘッドスライディングしたの。 そのとき、ここのスタンドから、 日本のプロ野球ではじめてといわれる 「ウェーブ」が起こったんですよ。 |
糸井 | 俺、その場にいました。 |
一同 | (笑) |
中畑 | あれが、スタートなんですよ。 |
糸井 | そうか、そうか。 |
中畑 | それから、優勝のあとの、 リーグ戦の最後の試合。神宮球場。 そのときも藤田さんは代打で使ってくれて、 俺は宮本投手からホームランを打って、 それであの年のリーグ戦が終わるわけ。 |
糸井 | はー、要するに、あの年の最後に 調子がどんどん上がっていったんだ。 |
中畑 | いや、調子なんかじゃないんですよ。 だって、もう引退するっていう状態なんだから。 そのチャンスをくれたっていうことです。 最後の最後で全部、俺を使ってくれたんですよ。 そういう、演出をしてくれたんです。 |
糸井 | 藤田さんなんだ。 |
中畑 | だって、ほんとに打てる力があるんだったら 引退なんてしてないわけだから。 そういう選手を日本シリーズで使うなんて、 ふつうじゃ考えられない。 いってみれば、もう戦力じゃない選手ですから。 |
糸井 | 最後の打席は、日本シリーズの第7戦ですもんね。 |
中畑 | あのときはね、試合前から、 篠塚が藤田さんに直訴してたんだ。 あいつ、俺を‥‥ いや、それを見て、つい涙しちゃったんだけど、 あいつが藤田さんに言ったんだよ。 「中畑さんを使えるような状況をつくりますから、 中畑さんをつかってください」って。 だから、藤田さんもそれは決めてたんだ。 そういう流れで、あの打席なのよ。 (※6回表、6対2とリードしたところで代打。 見事、中畑さんはソロホームランを放つ) |
糸井 | ああー。 |
中畑 | しかも、あのとき、リハビリから復帰して 勢いのあった吉村に代えての代打だからね。 ふつうの監督だったら、絶対やらない。 |
糸井 | いや、本人ならばこそ、 語ることができるリアリティですね。 |
中畑 | そんな采配ありませんよ。 でもそのチャンスを、私に全部与えてくれて 結果ね、運よく、全部ホームラン打ったり、 ツーベース打ったりして、 最後の絵を演出してくれたことによって、 中畑清の存在がどんどんどんどん グレードアップしたわけですよ。 |
糸井 | そうですよねぇ。 だって、いまでもぼく、 中畑さんの最後はすごかったって、 はっきり憶えてるもの。 |
中畑 | あれが、藤田さんが ぼくに与えてくれた最後の演出。 |
糸井 | それは、最後の年に、 ずっとベンチにいてもらったことに対する、 ねぎらいみたいなこともあったんですかね。 |
中畑 | かも、わかんないね。 で、ぼくはぼくで、それに対して 打って恩返しができたわけだし。 |
糸井 | すごい人ですよね。 なんていうんだろう、藤田さんって、 ほんとに仕えたくなるリーダーじゃないですか。 |
中畑 | そうですね。 だから、指導者としての心得みたいなもの、 人を動かすための心構えっていうのかな、 そういうものは藤田さんからすごく学びました。 どうすれば人が動いてくれるのか? たとえばそれは、先ほど糸井さんが言いましたけど、 「裸になること」。 |
糸井 | そう、裸になってました。 |
中畑 | それって、けっこう、 できそうでできないことだと思うんですよ。 だって、自分をよく見せようとすることって、 人間の性分ですからね。 でも、藤田さんは、裸になることを怖がらない。 それは、あの人が、裸になるしかないっていう 厳しい道を歩んできたからだと思うんです。 |
糸井 | あーー。 |
中畑 | 藤田さん、野球でスターになったあと、 スカウトをやったりして、10年近く、 球団の裏方の仕事をやってるんですよね。 |
糸井 | 巨人のエースだった人が 歩んだ道のりとしては、異色ですよね。 |
中畑 | いわば、野球のエリートとしてずっとやってきて、 そのあと、スポットライトの 当たらないところで何年も働いた。 あの時間があの人をそういうふうに 育てたんじゃないかなっていう気がするんです。 |
糸井 | ああー。 |
中畑 | まぁ、俺なんかが藤田さんをこう言うのは 生意気かもしれないですけどね。 でも、そういう背景があの人のなかにあるから、 魅力があったんじゃないかな。 |
糸井 | だから、誰かに光があたってるとき、 もちろんその明るい部分も見るけど、 同時にその人の影になっているところを 見逃さないんですよね。 |
中畑 | 人の痛みを知っていますよ、藤田さんは。 人の痛み、心の痛みをね。 で、それをかならずキャッチしてくれる。 |
糸井 | そうですね。 |
中畑 | だから、教え方もすごくうまかったし、 オリジナリティもあったし。 |
糸井 | 中畑さんは、それを見て、 そういう人になりたいって。 |
中畑 | それは、もう。ああいうふうに、 人としての魅力を持ったままで、 指導者としてやれたらすてきだろうな っていうふうにずーっと思ってる。 目標にしてる監督さんですね。 |
糸井 | つまり、チームの監督って、 監督としての戦術とか戦略とまた別に、 「人格」っていうのがありますよね。 |
中畑 | はい。だって、「人」だもん。 |
糸井 | どうやって勝たせるかだけじゃなくて。 |
中畑 | そうです。そこはぼく、 自分のなかで最大のテーマですね。 |
糸井 | 藤田さんは 「勝つことより大事なことがある」 っておっしゃってましたからね。 監督でそういうこと言える人って、 なかなかいないですよ。 |
中畑 | ぼくも同じように言いたいんですけど、 あの、なんていうか、そういうことって、 勝ったときに、勝てるチームとして 言わないと意味がないんだよね(笑)。 |
糸井 | ああ、そうか。 |
中畑 | 勝つチームになってから言わなきゃね。 「勝つより大事なことがある」っていうのは。 |
(つづきます) |
2013-12-24-TUE |