仲谷 見た目が変わってるサメの代表格といえば
シュモクザメです。

ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 
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和名:ヒラシュモクザメ
目 :メジロザメ目
科 :シュモクザメ科
英名:Great hammerhead
ほぼ日 なんでこんなカタチしてんのか‥‥と
誰もが思いますよね。
仲谷 シュモクザメは漢字で書くと「撞木鮫」で、
鐘を鳴らすときに使う
木槌やトンカチのことなんです。
ほぼ日 そっくりですね。
仲谷 英語では「ハンマーヘッド・シャーク」と
呼ばれているんですが、
このヒラシュモクザメは、なかでも最大種。
ほぼ日 だから「グレート・ハンマーヘッド」と。
仲谷 頭が平たくつぶれていますけど、
その両端に、目がついてます。
鼻の穴も、
右と左で、かなり離れてついている。
ほぼ日 ええ、ええ。おかしいですよね。
仲谷 こういうカタチに進化したからには、
絶対に、合理的な理由があるはずなんです。
ほぼ日 そうなんでしょうか。
仲谷 そのことについて
論文を書いたりもしてるんですが、
ちゃんと説明するには、
古生代までさかのぼらなければならないんです。
なので、わかりやすい話にしてみましょう。
ほぼ日 お願いします。
仲谷 大昔のサメは、
エサの食べかたがヘタクソだったんですよ。

時間とともに
エサとなる魚が進化して優秀になってくると、
いよいよエサを捕まえられなくなってきた。
そこで、サメのほうも
エサの捕まえかたを変える必要があった。
ほぼ日 なるほど。
仲谷 このことが、
シュモクザメの「ご先祖さま」が出現する
きっかけとなったんです。
ほぼ日 つまり‥‥。
仲谷 そのご先祖さまが
いろいろな「得意ワザ」を身につけながら進化したら
今のシュモクザメになったんです。
ほぼ日 ようするに、あのヘンなカタチには
その「得意ワザの秘密」が
隠されているというわけですか。
仲谷 そうです。

ひとつには、
ふつうのサメよりも鼻の穴が離れていることで、
獲物のニオイがやってくる方向を
より正確に、嗅ぎわけられるみたいなんです。

ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 
ほぼ日 なるほど、生きていく上で
やっぱり役に立っているんですね。
仲谷 また、サメの頭には
「ゼリー状の物質」が詰まった小さな穴が、
たくさん開いていてるんですね。
一種の感覚器なんですが。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 これをロレンチーニびんというんですけど、
微弱な電流を感じることができる器官。
たとえば、獲物が泥や砂のなかにかくれていても、
そのわずかな生物電流を感知できちゃう。
ほぼ日 なるほど。いわゆる「第六感」的なものですか。
仲谷 このシュモクザメの「ハンマーヘッド」には
そのロレンチーニびんが、特にたくさんあるんです。
ふつうのサメとくらべても、
広い頭のぶんだけ
たくさんのスペースがありますからね。
ほぼ日 そういう意味もあるんですか。
仲谷 だから、他のサメより「第六感」がかなり鋭い。
ほぼ日 なるほど、なるほど。
仲谷 同じような意味ではオナガザメの類も
おもしろいですよ。
ほぼ日 ああ、あのサメもふしぎですよね!
なんで、あんなに尾びれが長いのか。
仲谷 そうでしょ。

世界には3種類のオナガザメがいますが、
そのなかのひとつのニタリという‥‥これ、これ。
ちょっとヘンな名前ですけどね。

和名:ニタリ
目 :ネズミザメ目
科 :オナガザメ科
英名:Pelagic thresher
ほぼ日 長い!
仲谷 ふつうのサメの尾びれが、
せいぜい体長の5分の1くらいなのにくらべ、
ニタリの尾びれは
全長の半分くらいあるんですね。

つまり、成魚で3メートル以上になるので、
尾びれの長さは
少なくとも1.5メートルくらいにはなる。
ほぼ日 これまた、ヘンです。
仲谷 うん。でも、身体にはムダなものはないから、
絶対に何か意味があるわけ。
ほぼ日 それは、何なんでしょうか。
仲谷 いろいろ調べてみると、
ほかのサメと違い、オナガザメの尾びれの付け根は
がっちりと太くて、
尾びれを動かしやすくするための「凹み」も、
ほかのサメより、とても大きいんです。
ほぼ日 はぁ。
仲谷 また、この魚が実際に海で釣れたときには
必ずと言っていいほど、
この尾びれに針がかかってるんです。
ほぼ日 ははぁ。‥‥口じゃなくて?
仲谷 このふたつのことから類推できるのは‥‥。
ほぼ日 のは‥‥。
仲谷 オナガザメは、長い尾びれをムチのように使って
獲物を叩くんじゃないかと。
ほぼ日 なるほど!
仲谷 かなり正確に獲物をヒットできるみたいで、
コントロールがいい。

海鳥をたたき落として食べるのを見た‥‥という
目撃談もあるくらいです。
ほぼ日 すごい!
仲谷 もっとすごい話もある。

尾びれで
漁師の首を切り落としたとか‥‥。
ほぼ日 ホ、ホントですか?
仲谷 まぁ、ぼくが見たわけじゃないから、
真偽のほどは定かではないですが、そんな話もある。

とにかく、あの長い尾びれは
オナガザメにとっての、大切な狩猟道具なんですよ。
ほぼ日 長いといえば先生、ノコギリザメというのも
何であんなに、鼻が長いんでしょうか。

ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ノコギリザメ
目 :ノコギリザメ目
科 :ノコギリザメ科
英名:Japanese sawshark
仲谷 鼻じゃなくて「ふん部」という
頭の先っぽなんだけど、
ノコギリザメは、
この「ふん部」が細長い板のように伸びていて、
その両側に鋭いトゲが生えています。
ほぼ日 不便じゃないんですかね。
仲谷 じつはこのトゲトゲ、変形したウロコなんです。

で、魚の群れや海底の泥のなかに
このノコギリ部分を突っ込んで左右に振り回し、
獲物を突き刺したり、
隠れてるやつを、掻きだしたりするんですね。

つまり刀やフォーク、クシみたいな役割なんです。
ほぼ日 なるほど、不便どころか
エサを食べるときに、役立ってるんだ。
仲谷 敵から身を守るのにも、使ってるみたいですね。

あと「食べる」という観点からおもしろいのが
ダルマザメかな。

ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ダルマザメ
目 :ツノザメ目
科 :ツノザメ科
英名:Cookie-cutter shark
ほぼ日 ダルマザメ? ダルマさんのようにまん丸のサメ?
仲谷 丸くはないですね。
英名で言うと「クッキーカッターシャーク」。

せいぜい体長50cmくらいにしかならない
細長いサメなんですが、
こいつに襲われると、こんな傷口になっちゃう。
ほぼ日 ‥‥なんか、スプーンですくったような、
丸い穴が開いてますね。痛そう‥‥。
仲谷 こんなふうになってしまう理由は
ダルマザメの「歯」と、食事法にあるんです。
ほぼ日 あ、上と下で、歯のカタチがちがってますね。
仲谷 そう。上の歯は「刺す」ためのトゲ状の歯で、
下の歯は「切る」ための、ノコギリ状の歯。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 彼らの食事風景を、再現してみましょうか。

ダルマザメは、
自分より大きなマグロやカジキ、イルカなどに
近づいていくと、まずキスをするんです。
ほぼ日 キス?
仲谷 つまり、刺すための「トゲ状の歯」と
切るための「ノコギリ状歯」を
マグロのからだにブスッと突き刺すんですね。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 その後、ぎゅーっと厚い唇をマグロに押しつけて
吸盤みたいに吸い付きます。
ほぼ日 吸い付く?
仲谷 そうです。

キスをしている最中に、腹筋などを使って
大きな舌を一気にうしろに引くんです。
ほぼ日 そうすると、さらにガッチリくっつきますね。
仲谷 そして、最後にダンスでフィニッシュ。

つまり、刺すための「トゲ状の歯」を軸にしつつ、
グルッと身体を回転させながら、
口を閉じていくんです。そうすると‥‥。
ほぼ日 ああ!
仲谷 切るための「ノコギリ状の歯」が
まるでアイスをスプーンですくったような感じで
マグロの肉片を、切り取るんです。
ほぼ日 ははー‥‥。
仲谷 あとは、ゴックンと飲み込むだけ。
ほぼ日 ははー‥‥。
仲谷 キスして、吸い付き、ダンスする。
これが、ダルマザメの食事の作法。

つまり「クッキーカッター」というのは
「クッキーの型抜き」のことなんです。
ほぼ日 おもしろーい! 痛そうですけど‥‥。
仲谷 痛いでしょうね。

でも、マグロなど大きな魚にとってみたら
蚊に刺されたようなもので、死ぬことはない。
傷口が治れば、もとどおり元気になる。
ほぼ日 な、なるほど‥‥。
仲谷 ‥‥とまぁ、変わったサメを
いろいろとご紹介してきましたけど、
やっぱりカタチには、
それぞれ「意味」があるんですよ。

たとえ、どんなにヘンな格好をしていても。
ほぼ日 はい、そのことが、よーくわかりました。
仲谷 とくにサメなんかは、実際に観察するのが難しい。

メガマウスザメが
風船のようにプクーっと膨らんで食事をしてたり、
ダルマザメが
キスして、吸い付いて、ダンスするところなんか、
ぼく、見たことないですからね。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 だから、カタチからあるていど想像していく。
そういうところも、
おもしろさのひとつなんですよ、サメって。

<つづきます!>



2010-07-28-WED