- ──
- これまで100年以上、
地球を探検してきたナショジオですけれど、
たとえば武内さんの
心に残っている「成果」って、何ですか?
- 武内
- 沈没船を見つけるような深海探査もすごいけど、
ナショジオには
「人類の起源」を追求する姿勢がずっとあって。
奥野さんが感銘を受けたという
第3の人類デニソワ人の特集しかり‥‥ですが。
- ──
- 最近では「ホモ・ナレディ」だったりとか、
初期人類の研究については
折にふれて特集されている印象があります。
- 武内
- ナショジオが取り組みはじめたころって
「人類の起源はアジア?」
という説のほうが、力を持ってたんです。
- ──
- え、そうなんですか。
- 武内
- そんななか、ナショジオは、
「アフリカ起源説」を唱えていた古人類学者を
支援することに決めました。
ルイス・リーキーという人なんですけど。
- ──
- ええ。
- 武内
- 結果、リーキー博士は
アフリカ・タンザニアのオルドヴァイで
ホモ・ハビリスという、
もっとも初期のヒト属の骨を発見します。
そこから
「やっぱり起源はアフリカかもしれない」
という流れを引き戻したんです。
- ──
- 世界の潮流と反対の説を支援するのって、
なかなか簡単じゃないですよね。
なにせ、研究のお金を出すわけですから。
- 武内
- ええ、そうだと思います。
- ──
- 直感的に「こっちだ!」と感じるものが
あったってことでしょうか。
- 大塚
- ナショジオというのは、
言ってみれば「応援団」なんですよね。
探検家でも研究者でも、
何か先駆的なことをやりたい専門家がいて、
その仮説なり心意気なりに
なにか、感じるところがあったら
「わかりました、支援しましょう」と。
- ──
- 応援団。まさに、そんな感じがします。
- 大塚
- なので、その活動のなかには、
マチュ・ピチュやタイタニック号の発見など
大きな成果もありますし、
逆に、たいしたことのない結果に終わったり、
失敗したりした活動なども、
当然、それなりにあるんですよ。
- ──
- つまり、成功ばかりではないと。
- 大塚
- 地球のことを、もっともっとわかりたい。
そのためにエクスプローラーを支援し、
何らかの新しい知見を得たら
「雑誌の誌面や、
映像番組でシェアしましょう」ってことを
ずっと、やってきたんです。
- ──
- 人類の好奇心を応援してる、みたいな。
- 大塚
- そう、好奇心や探究心を持って、
何か求め、行動する人たちを支援する。
そういうメディアなんです、昔から。
- ──
- ナショジオは、もう100年以上も
使命を持って活動されてきたわけですけど
探検する場所って、
地球上に、まだ残ってるんでしょうか。
- 芳尾
- 物理的な「場所」ということなら、
地球上には
だいぶなくなってきてはいると思います。
でも、たとえば、田邊優貴子さんという
生態学の研究者がいて、
彼女は、これまで何度も南極へ通って
現地の生態系を調べてらっしゃるんです。
- ──
- ええ。南極の、生態。
- 芳尾
- 厚さ4メートルの氷の張った湖に
穴を開けて潜り、
冷たい水底の生態系を調べていたりします。
そんなところ、これまで
ほとんど誰も、行ったことがないんですよ。
- ──
- はー‥‥そうでしょうね。
- 芳尾
- そこで田邊さんの撮影してきた映像を見たら、
本当に、驚きますよ。
1年のうち、ほとんどすべての期間が
氷に閉ざされている湖の底に、
まるで草原かのように、
一面、緑の植物が広がっているんです。
ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年10月号 p146-147 より
- ──
- 南極の湖底に、緑の草原‥‥。
- 大塚
- ナショジオも支援したんですが、
映画『タイタニック』や『アバター』の
ジェームス・キャメロン監督が
一人乗りの潜水艇に乗り込み、
世界で最も深いマリアナ海溝の潜水調査に
挑んだんですけど、
海の中というのは、
これまで、ほとんど探査されてない領域。
ここを、次なるフロンティアとして
探査していくことは、ひとつありますね。
- 武内
- うん。
- 大塚
- あるいは、時代が変われば、
地球の状況も変わっていくじゃないですか。
たとえば「温暖化」なんてことは
ナショジオ創成期、誰も言わなかったこと。
- ──
- ええ。
- 大塚
- どうして、温暖化が起こっているのか?
わたしたちは、
どのように対処していったらいいのか?
それも、ひとつの「探求」だと思います。
NATIONAL GEOGRAPHIC プレミアムフォトコレクション p171-173 より
- ──
- 物理的な場所ではないけれど、
探求すべき「領域」なら、まだまだあると。
- 大塚
- 周囲の状況に対する探究心や冒険心さえ、
われわれ人類が失わなければ、
テーマは尽きることはないと思っています。
で、それは、失われないと思うんです。
- ──
- ナショジオって
やると決めたら徹底的にやる感じですから
それこそ徹底して
新しいテーマを追い求めるんでしょうね。
- 武内
- 徹底的といえば‥‥2013年9月号、
気候変動についての特集が、あったんです。
- ──
- はい。
- 武内
- その号の付録がすごくて‥‥
「世界の氷がすべて融けたらどうなるか」の
ワールドマップなんですが。
- ──
- つまり、水位がどれくらい上がるかの地図?
- 武内
- そう、地球上の氷がすべて融けてしまうと、
アマゾン川流域もだいぶ水没するし、
東アジアだって
北京のあたりまで、海になっちゃうんです。
- ──
- うわあ、そうなんですか。
ナショナル ジオグラフィック日本版 2013年9月号付録
- 武内
- それはいいんですけど、
いや、ようするに何が言いたいかというと、
「世界の氷すべてが融けたときの
海面上昇を示すマップ」
って、突き抜けてると思うんです、考えが。
単純に、つくるのも大変でしょうし。
- ──
- ‥‥たしかに。
- 武内
- ナショジオには、よく、
いろんな地図が付録としてついていますが、
それらは、
地図制作の専門部署がつくってるんですね。
海面上昇マップについては
外部のスペシャリストの研究成果をふまえて
描いてるんでしょうけど、
「何も、すべての氷を融かさなくても‥‥?」
という気がすごくするんですよ。
- ──
- なるほど(笑)。この世界に
氷がひとつも存在しない状況を想定するのは
極端すぎないか、と。
- 武内
- 知的には、すごくおもしろいとは思います。
でも、ふつうは
これくらい地球の平均気温が上昇したら
これだけ氷が融けて、
結果これだけ海面が上昇する、で十分でしょう。
- ──
- でも、その徹底ぶりが
ナショジオらしいところなんでしょうね。
- 大塚
- ちょっと、お茶目な感じすらして‥‥(笑)。
- ──
- しますね。すごいします。
当然、真面目にやってらっしゃるんですが、
一歩引くと「やりすぎでしょ!」みたいな。
- 武内
- その感じ、あるね‥‥(笑)。
- 大塚
- 氷、ぜんぶ融かしてみたかったんだろうね。
- 武内
- そう言えば、DVDの企画で
「海の水をぜんぶ抜いてみました」という
特集もありましたね、以前。
- ──
- また「ぜんぶ」ですか(笑)。
- 武内
- どうやって海水を抜くんだろうなあ‥‥。
でも、あれ、ウケたんだよ。
- 大塚
- 売れましたね。
- ──
- ‥‥どうなるんですか? 抜くと。
- 武内
- たとえば、世界でいちばん標高つまり
「海面からの高さ」の高い山は
エベレストですよね、言うまでもなく。
でも、海の水をぜんぶ抜いたら、
「ハワイ島のマウナ・ケア」のほうが、
はるかに高い山になるんです。
- ──
- どういう理屈で?
- 武内
- つまり、海の底から測ると
「標高9966メートル」になるんだって、
マウナ・ケアって。
- ──
- おもしろい‥‥。海の水をすべて抜いたら、
そんな巨大なカタマリが姿を現すんですね。
- 芳尾
- それって、ナショジオが、
海底の地図を持ってるからできることでも
あるんですよ。
- ──
- あ、なるほど。
- 大塚
- 科学的なデータがきちんとそろっていて
かつ、それをどう見せれば、
おもしろがってもらえるかを考えているんです。
- ──
- そこは、編集の力ですね。
- 芳尾
- そのアイディア自体は考えついたとしても
「お金が」とか「データが」とか、
ふつうは諦めるところを、
ナショジオの人たちは、諦めないんです。
- 武内
- 人とお金というリソースをフルに駆使して
読者を驚かせようとしてるよね。
- 大塚
- だから、アイディアがきちんと形になって、
読者を驚かせることができるんです。
- ──
- 大人が、真剣になって
地球を遊び場にしている感じがする‥‥。
- 武内
- ああ、そうですね。そんな感じ。
『ナショナル ジオグラフィック』って、
そういう雑誌かもしれない。昔から。
-
<おわります>