ニュースのご近所。
あの出来事、近くで見るとこんな感じ。

第77回 ワシントン周辺の緊張感。


こんにちは!

先日のこのコーナーで、
ほぼ日のTシャツが、NHKのニュース番組に
映っていたよ、というメールを紹介しところ、
次のようなメールが到着したので、冒頭に掲載します。







・初めまして。
 育Tを着た読者の方がテレビに映ってた!
 というお話を読んで、何とも
 ほのぼのした気持になったので、私も、
 アメリカでの育Tの反響を
 ぜひお伝えしようと思いメールしました。
 現在アメリカに住んでいる私と友人が
 育Tをこっちで着ていると
 けっこう色んな人に声をかけられたりするんです。
 一番人々が注目するのは何といってもあの逆さ文字です。
 「クール!」「ナイスアイデアメーン!」
 って相手はちょっと、やられた!という感じで。
 大学のクラスメイトには
 「ONLY IS NOT LONELY……なるほど〜。
  それは、いつも自分に思い出させるために
  かいてるんだね?」
 となんだかとても優しい口調で聞かれました。
 逆さ文字なのでかえって何とかいてあるのか
 気になる人が多いようで、道ですれ違う人が
 一生懸命読もうとしてたり。
 これはまさに、この育T自身が人と人とを
 つなぐきっかけになってるってことですね!
 ちょっと誇らしい気持ちになりました。
 どうもありがとうございました!
 ……実は今日ほぼ日ぶくろの方も届いたので、
 今度はこれを連れて出かけます。
 (La.Sak)






なんか、Tシャツ着て元気にやってます!
という感じがうれしかったので、掲載しました。

そして次は、シリアスなメールになりますが、
ワシントン周辺での無差別連続銃撃事件について……。

現在、「ほぼ日」の中では、鳥越さんに向けて
とてもたくさんの、
ワシントン付近の方からのメールを
いただいているのですが、
今日はそのうちのほんの1通を、お届けいたします。

いまのワシントン近郊の雰囲気を、
リアルに伝えてくださる、緊張感に満ちたメールです。







・先週月曜日に発砲事件が起こった
 バージニア州のショッピングセンターまで
 車で10分程のところに在住する者です。

 ワシントン周辺での連続無差別狙撃事件に関し、
 日本でも報道はなされているようですが、
 なかなか緊張感は伝わりにくいと思われます。
 そこで、この事件が実際に私の身の回りに
 影響している事例を列挙致します。

 1.ガソリンスタンドでの事件が多いので、
   セルフサービスの給油の際には、
   ポンプとポンプの間に立っています。
   初めは正直照れくさかったです。
   しかし、周りを見ると皆周囲に気を配りながら、
   ポンプとポンプとの間に立ち、必要最低限
   (窓を拭いたりなどしない)のことを済ませると
   足早に車の中に入っており、
   今では違和感などありません。

 2.昼食は極力外出を避け、出前にしています。

 3.学校での野外活動は禁止状態。
   子供の通う小学校でも、昼休み中の遊び、
   体育の授業も体育館や教室で行うことになっています。
   動物園への遠足も中止になりました。
 
 4.狙撃事件が起きた近辺でのパーティ、歓送迎会、
   野外活動は中止・延期になりました。
 
 5.橋、幹線道路の交差点近辺には
   パトカーが停車しており、また、
   空には警察関係と思われるヘリが飛んでおり、
   緊張感に包まれています。
 
 6.狙撃事件が起こったショッピングセンターに
   昨日行ってきました。駐車場から店まで
   小走りに往復される方が多かったように思えます。

 市民の行動に変化を及ぼしているという点では、
 昨年の9月11日の時よりも
 正直深刻な状況と思われます。
 Anthraxはどちらかというと
 組織を狙ったものが多かったですし、
 その他の化学兵器・生物兵器による
 テロの可能性も指摘されましたが
 実際には起こりませんでした。

 犯人の狙いを推測し易かったため、
 政府機関など一部の危険な施設に
 近づかなければ大丈夫だろうという
 一種の安心感がありました。

 しかし、今回の発砲事件の場合、
 犯人像が明確でない無差別殺人で、かつ、
 ガソリンスタンドや身近なショッピングセンターで
 発生しているため、自分達がいつ狙われても不思議でない
 怖さがあります。また、これで終わりかと思うと、
 必ず毎週発砲事件が起きており、緊張感が解けません。

 日本では滑稽と思われるかもしれませんが、
 ここで暮らす者にとっては、
 恥ずかしいとか恥ずかしくないとかというレベルでなく、
 自分の安全は自分で守るために考えられる行動を
 とらざるを得ない状況です。

 以上、こちらの緊張感が多少なりとも伝われば幸いです。
 (匿名希望)






なるほど……。

ほかにも、
「いまは、気晴らしに買いものはせず、
 用事が済んだらすぐに帰ります」
などのリアルなメールが、
ほかにも、とてもたくさん、届いていました。

ラストには、
「アフリカでの犯罪に遭う危険性」について、
アフリカ旅行から帰ってきたかたからのメールです。







・ニュースのご近所、ひったくりなどの
 被害に遭った方の話がたくさん出てましたね。
 私は夜中にひとりで道を歩いたり電車に乗るたびに、
 「日本ってほんと安全でいいよね!」
 と思って嬉しさを噛み締めるのですが、
 それは私がラッキーにも今まで
 ひどい目に遭わなかっただけのことで、
 日本といえどあまりノーテンキなことも
 言ってられないなぁと思います。

 先月1ヶ月、ある意味
 「世界で一番危ないと思われている国」
 南アフリカを旅行してました。
 ひとり旅だったのですが、現地で単独行動はせず、
 南アフリカ人の友人(白人・女性)宅を拠点に、
 主に彼女と2人で車で国内各所を
 転々と気の向くままに旅してまわりました。
 南アフリカにいくまではほんとに悪いウワサしかきかず、
 内心びびっていたのですが、
 結果的には何一つ怖い目には遭わず、
 いいとこばかりを最大限楽しんできたという感じです。
 犯罪に遭いさえしなければ、
 ヨーロッパとアフリカのいいとこばかりを
 集めたような、それはそれは素晴らしい国でした。

 現地人の友人の話では、やはり犯罪は多く、
 強盗ていどはめずらしくないそうです。
 私が滞在してる間、私の友人の親友(やはり白人)が
 急に携帯の番号を変えたのでわけを聞くと、
 2日前に自宅の前で車を降りた途端に
 強盗に遭って財布や携帯などの入ったバッグを
 盗られたので、新しい携帯を購入したとのことでした。
 つい数日前に一緒にご飯を食べたばかりで、
 私はかなりびっくりしたのですが、当人は
 「別に怪我したわけじゃないし」
 と、いたって平然としたようすだったそうです。
 この人は以前ほかの女友達といっしょに
 数名の男性に襲われて自分の車内に監禁されて縛られ、
 目の前でもうひとりがレイプされるのを目撃した、
 という強烈な被害の体験があるそうなのですが、
 「それに比べればなんてことない」という話でした。
 犯罪に遭遇したからといって
 特に注意散漫な人というわけではないのです。
 レイプされた人も今はたちなおり、
 今月幸せな結婚式を挙げる、という話でした。
 私の友人は
 「こんなふうに南アフリカ人は犯罪に対して
  ちょっと慣れ過ぎてるっていうか、
  少しのことじゃ驚かないんだよね。
  それが当たり前だというのは悲しいことだけど」
 と言っていました。
 友人自身はこれまでべつに被害に遭ったことはなく
 ラッキーだ、と言っていましたが、
 それでも車の窓ガラスやドアを
 叩き壊されたことが3回あったそうです。

 人々にはセキュリティ意識がしっかり浸透していました。
 どの家も日本で言うとSECOMみたいな
 警備会社と契約していて、
 厳重な鉄柵やシャッターや
 鉄条網つきの厚い壁に守られていました。
 宝石店などだけでなくふつうのお土産やなども、
 店によっては鉄格子越しに店員に声をかけて
 鍵を開けてもらって
 中に入ったりってことも何度もあるし、
 オシャレなウォーターフロントの喫茶店では
 中に入るのに
 バッグの中身をチェックされたりしました。
 公共交通機関はないに等しく(あっても危ない)、
 完全な車社会なのですが、
 「荷物はかならずトランクに入れ、
  外から見える座席の上には極力置かない」
 「ハンドバッグは足元におく」
 「街中を走るときはぜったいに窓をあけない」
 「なるべく信号で止まらないようにする
  (信号無視するという意味じゃなく)」
 「車間距離をじゅうぶんにあける」
 「うしろの車が追い越したそうなときは
  すぐに路肩に大きく寄ってスペースを譲る」
 「ほかの車を追い越したときなどには
  ライトを点滅して必ず感謝を伝える」
 「日が暮れたら運転しない」
 などの心得を、ごく普通の市民が
 みんなしっかりと守って運転していました。

 また鉄道駅を中心とした街のセンター
 (東京でいうと丸の内や新宿一帯。
  観光名所も多く歴史のあるところ)は
 一般的にとても危険度が高いのですが、
 ノー・バッグ、ノー・カメラ、ノー・ジュエリーで
 昼間なら歩いてもだいじょうぶだろう、との話でした。
 お金のある人はみんな危険を避けて
 郊外へ移住しているので、
 お金のない人が残っているらしいです。
 それでも治安の悪い地域を知って避け、
 なじみの場所へ確実にドアツードアで
 車で移動するようにすれば、
 夜遊びも普通にできました。

 私が南アフリカの人々に感じたのは、
 じつはオープンでホスピタリティに富んだ、
 家族や友人の絆をものすごく大切にする
 人達だということです。
 みんな会話をとても楽しみます。
 この点に日本人はかなわないだろうと思いました。
 素性の知れない人には用心深くせざるを得ないのですが、
 一度信頼関係ができると、たくさんの人が
 外国人で英語のヘタな私にさえ
 家の中をすみずみまで案内し、家族と同じ食卓に招き、
 家族のベッドに寝かせ、友人たちに紹介し、
 腹心なく対等に話をして
 親しみと敬意を持って接してくれました。
 表面的には皆にいい顔を見せながら
 ホンネでは心を閉ざすことの多い
 今の日本人のほうが、よほど孤独だと思いました。

 犯罪が多い社会に生きるためには、
 親しみを積極的に表現して身近な人とのつながりを
 大切にすることが、安全を保障する
 一種の方策であるのかもしれないとも思いました。
 私が
 「南アフリカは世界一あぶないってことで有名ですよ。
  私もそう信じてました」
 というと、誰でも顔を曇らせて
 「たしかに犯罪は多い。
  でも犯罪は世界のどこに行ってもあるじゃない。
  よそとおなじく基本的な注意をすれば
  被害にはあわないで済むもの。
  わたしたちだってこうやって現に安全に生活してる。
  そういう先入観でこの国の素晴らしさを知るチャンスを
  逃す人が多いのはとてもかなしい」
 と言っていました。そして
 「あなたが見たこの国の素敵な自然や
  人々の暮らしのことを、ぜひあなたの口から
  あなたの家族や友達にたくさん伝えてほしい」
 と多くの人に言われました。

 アパルトヘイトが廃止された今も、
 貧富の差は非常に大きく、
 黒人の大半は考えられないほど貧乏で
 識字率も恐ろしく低い(50%ぐらいらしい)です。
 貧困と教育が普及してないことも
 やはり犯罪が多発する要因なのだろうと思います。
 黒人は車を持たない人がほとんどなので、
 よくヒッチハイクをしているのを見かけましたが、
 白人はぜったいに拾わないのである人に
 それは差別によるものなのか聞いてみたら、
 「彼らはとても貧しいから、ほんとうに
  困っていて乗せて欲しいという人が
  99%だと思うしほんとは協力したい。
  でも中には犯罪目的の人がいるのも事実だから、
  悲しいけどそのリスクをとることはできない。
  困っている人を助けてあげられないのは
  ほんとうに心苦しい」
 と言っていました。
 多くの白人は、ごく普通の家庭でも
 かならずカラードや黒人のメイドや
 掃除夫を雇って家事を分担していました。
 その素性の知れた人たちとは良好な人間関係をむすび、
 彼らの仕事ぶりに敬意を表し、
 お金を喜んで払う、というのが
 一般的な白人の“反差別的表現”のようでした。

 それからチップの習慣があるのですが、これも
 「少ない報酬できつい仕事をしてくれる人に対する
  敬意と、持つものが持たざるものに与えることで
  少しでも格差を縮めたいという意志の表現」
 というような意味合いがあるようでした。
 たとえば、私の友人はガソリンスタンドで
 対応してくれた人には、
 「ガソリンスタンドの仕事って
  どんな車が来るかわからないから危険も多いし、
  寒いし、きついし、たいへんな仕事なんだよ。
  だからそのたいへんさに対して払うのは当然」
 と私に説明していつもチップをはずんでいました。
 路駐スペースにもメーターのあるなしにかかわらず、
 かならず黒人の
 “ボランティアで車を見守る人”が立っていて、
 車を停めた人はみんなあっさりと5-10ランドぐらい
 (60-120円ぐらい)を言い値で払っていました。
 だれも「なんであんたが金をとる!」とは言いません。
 べつに彼らがいるから車の無事が保障されるって
 わけでもなんでもないのですが。
 車を持っている人は払える人なのです。
 お金を払う、という行為には、
 社会的な意味や役割も含まれているのだ、
 と知ったことは私にとってとても新鮮でした。
 これまではチップのことを
 「もったいない。なるべく少なくすませたほうがトク」
 と思っていましたから。

 白人の多くは広くて立派なうちに住み、
 日本人よりよっぽど豊かな生活をしていて、
 そういう既得権益をどこまで失う覚悟があるかは
 疑問でしたが、多くの白人が
 アパルトヘイトの廃止を喜び、
 個人個人の出来る範囲で貧乏な人を助け、
 平等を望む気持ちを強く持っているのは確かでした。
 すくなくとも’94以降、経済的に着実な勢いで
 延びている国らしく、問題は多いけど
 希望もまた多いと感じられました。
 
 そしてその希望はやはり白人達のモラルと
 行動にかかっていると思います。
 搾取されっぱなしでプライドもチャンスも奪われてきた
 黒人の貧困層が自力ではいあがることだけを
 期待していては、
 いつまでたっても状況はかわらないでしょう。(後略)
 (shoko)






南アフリカで、このshokoさんが、
どういう人たちと会って、どう思ったのかが、
とてもよく理解できるなぁと思って掲載しました。
短いあいだだけれども、南アフリカの文化を
じっと見つめて暮らしていたのでしょうね。

では、次回のこのコーナーで、またお会いしましょう。


さまざまな、日本国内や海外からの
ニュースのご近所のおたよりは、
件名を「ご近所ばなし」として、
postman@1101.comまで、ぜひどうぞー!!!

2002-10-25-FRI

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