粘菌のはなし。
毎週菌曜日に「きのこのはなし。」
連載してくださっている
“きのこ・粘菌写真家”である新井文彦さんが、
またまた書籍を出版されます。
今回はなんとこどもの本。
しかも粘菌の!
タイトルは
『もりの ほうせき ねんきん』です。



うつくしくも不気味な
粘菌の写真が大盤振る舞いの本は、
こどもの本ともいいながら、
まるで粘菌写真集のよう。



これを記念して、またまたちょっとの間、
菌曜日に「粘菌のはなし。」も
短期連載してくれることになりました。



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▶︎新井文彦さんプロフィール
『もりの ほうせき ねんきん』編 その2 マメホコリ
マメホコリは、忘れもしない、
ぼくが初めて出会った粘菌です。 それもそのはず、阿寒の森を歩いていて、
夏から秋のシーズン中にいちばんよく見つかる粘菌が、
このマメホコリに他なりません。



あるとき、倒木の上に、
珍しい「きのこ」を見つけました。
ピンク色で、すごく小さくて、つぶつぶ!



ホコリタケの仲間など、
傘を持たないまんまるのきのこは、
阿寒湖周辺の森のあちこちで見かけるので、
このピンクのつぶつぶも、疑いもせず、
きのこに違いない、と思ったんです。



ところが、図鑑で調べても出てません。
すわ、新種発見か! と期待に胸を膨らませて、
きのこに詳しい友人に写真を送りました。



「きのこじゃなく、粘菌だよ!」



という返事。



粘菌!
粘菌と言えば、あの南方熊楠が研究していたやつだ!
粘菌という言葉しか知らなかったけど、
まさか実物が拝めるとは!



森はもちろん、街中を歩いていても、
本物のきのこ、あるいは、きのこに形が似たものが、
どんどん目に入ってきてしまう状態を、
きのこファンは「きのこ目」などと言いますが、
ぼくは、この日を境に、
「粘菌目」も併発することになりました(笑)。



いやあ、いるわ、いるわ。
今まで、何故目に入らなかったのか不思議なくらいに、
もう、マメホコリがあちこちにいるんです。



そして、マメホコリが見つかると、
別の多くの粘菌にも気づきはじめ、
ぼくの本格的な粘菌生活がスタートしたのです。



さて。
マメホコリは、阿寒では、
初夏から晩秋までいつでも発生するのですが、
暖かい地方であれば1年中見ることができるようです。



粘菌の子実体としては大きいほうで、
球の直径が15mmくらいになったりします。



未熟な子実体は、ピンク色や朱色系でとても鮮やか。
遠くにあってもすごくよく目立ちます。
外皮には鱗片状のつぶつぶがたくさんついていて、
触るとぷるぷるしています。



木の枝でつっついてみると、外皮が破れ、
ペンキのようなピンク色の液体がぬるりと出てきます。



成熟するにつれて色は暗褐色~黒っぽく変化。
中も乾燥して粉状の胞子になります。



ちなみに、粘菌は、多核単細胞生物。
ひとつの細胞の中で核だけが分裂して、
2倍4倍8倍と、すごい勢いで増えていきます。



直径10mmくらいのマメホコリの中には、
およそ1億個くらいの核があるそうで、
核1個が、ひと粒の胞子になるのだとか。



胞子が風に飛ばされて倒木などに着地し、
いろいろな条件が重なると、やがて胞子の中から、
1匹の粘菌アメーバが生まれます。



なんて不思議な生きもの!



年金生活には不安が多いですが、
粘菌生活には楽しみしかありません。
皆さまも、楽しい粘菌生活をお送りくださいませ。



トドマツの古い倒木からたくさん発生。
ピンク色の小さな粒は見るからにかわいい。
できたてほやほやの子実体を、超拡大で撮影。
まだしっとりしていてとても生々しい。
阿寒川のほとりの倒木で見つけた、
通常のマメホコリよりもややオレンジ色の個体。
東京都内で見つけた、別種と言いたくなるような、
思いっきり黄色いマメホコリ。
まさに宝石のように光り輝いている、
成熟した子実体。
2018-05-04-FRI