粘菌のはなし。
毎週菌曜日に「きのこのはなし。」
連載してくださっている
“きのこ・粘菌写真家”である新井文彦さんが、
またまた書籍を出版されます。
今回はなんとこどもの本。
しかも粘菌の!
タイトルは
『もりの ほうせき ねんきん』です。



うつくしくも不気味な
粘菌の写真が大盤振る舞いの本は、
こどもの本ともいいながら、
まるで粘菌写真集のよう。



これを記念して、またまたちょっとの間、
菌曜日に「粘菌のはなし。」も
短期連載してくれることになりました。



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▶︎新井文彦さんプロフィール
『もりの ほうせき ねんきん』編 その3 タマツノホコリ
人間は、2種類に分けることができます。
美しく、愛らしく、ときにやや気持ち悪い、
この魅力的で不思議な生物の名前を、
「粘菌」と呼ぶ人と「変形菌」と呼ぶ人です。



ちなみに、
この連載タイトルからもわかるように、
ぼくは、粘菌と呼んでいます。
何故か?
単に粘菌という言葉の方が好きだからです(笑)。
(あの知の巨人・南方熊楠も粘菌派です!)



学術的にはどちらを使っても間違いではなく、
ゆえに、おそらく、使われている割合も、
半々くらいではないかと思われます。



粘菌を最近の分類学的に考えてみると、
真核生物(細胞の中に核を持つ)の中の、
アメーバ動物界に属していて、さらに、
原生粘菌、変形菌、細胞性粘菌の3つに分かれています。



ぼくが、通常、粘菌と呼んでいる生きものは、
分類で言うところの変形菌なのですが、
粘菌という言葉の意味としては、
原生粘菌、変形菌、細胞性粘菌の3つを含むんです。



つまり、変形菌と呼ぶ人たちは、
原生粘菌と細胞性粘菌を除外しているわけで。



なぜ、原生粘菌、細胞性粘菌を避けるかというと、
ほとんど、目には見えないくらい小さいんです。
しかも、生物学的に粘菌と言うと、
通常は細胞性粘菌のことを指す場合が多い!



う〜む、粘菌派は、やや分が悪いかも(笑)。



ところが。
原生粘菌の中には、ツノホコリの仲間ってのがいて、
そいつらは変形菌と同じく目に見えるくらい大きく、
しかも野外で頻繁に見ることができるんです。



DNA情報を使った分子生物学的な分類では、
ツノホコリの仲間は他の原生粘菌にくらべて、
変形菌に近縁なグループであることがわかりました。



と、なると、
変形菌に加えて原生粘菌も含む粘菌という言葉の方が、
現状に近いのではないかとも言えるわけで。



粘菌派は、ここでやや勢いを回復(笑)。



じゃあ、変形菌と原生粘菌とでは、
何が同じで、何が違うかというと……。



胞子から粘菌アメーバが生まれること、
変形体を形成して子実体に変化することなど、
そのライフサイクルはほとんど一緒なんです。



しかし、
ツノホコリの仲間は、他の原生粘菌と同じく、
子実体に子嚢(胞子が入ったふくろ)を持たず、
胞子を子実体の外側につくるんです。



そして、変形菌は、子実体をつくるとき、
余計な水分を外に排出して乾燥状態になりますが、
ツノホコリの仲間の子実体(担子体とも言います)は、
水分を含むゼラチン状なんです。



それはそうと、フィールドではおなじみ、
ツノホコリの仲間は、群落をつくることが多いので、
見つけたら、ぞわぞわすること間違いなし!



そして、これが素晴らしく精緻な形状なんです。
ルーペなどで拡大して細部を見ると、
子実体(担子体)の先っぽに胞子をつけているのが、
よくわかります。



今回は、ツノホコリの仲間の中でも、
素晴らしい造形美を誇るタマツノホコリをご紹介します。
どうぞ、ご堪能あれ。
倒木に群生するキイロタマツノホコリ
別の倒木の下側には、タマツノホコリがたくさん
タマツノホコリとキイロタマツノホコリの攻防
キイロタマツノホコリの、若い子実体(上)と成熟した子実体(下)
変形体から形成されつつある、
キイロタマツノホコリの子実体(担子体)
拡大してみると、子実体(担子体)の外側に胞子がびっしり
2018-05-11-FRI