2021年から2022年にかけて、
株式会社ほぼ日は「デザイナー」を6名採用しました。
当社比でみれば、過去に例のない極端な採用です。
ほぼ日デザインチームにとっても、
メンバーの数が倍近くになるおおきな変革です。
そんななか、デザインチーム最年長者の廣瀬正木が、
ある日、急に、こんなことを言いました。
「6人の新人デザイナーぜんいんに、
ほぼ日ハラマキのデザインを考えてもらいます」
廣瀬はどういうおもわくで
この企画を思いついたのでしょう?
新人たちのデザインはほんとうに商品になる?
などと気になることもありますが、
そういうあれこれを吹き飛ばして、
ワクワクする企画だと思いました。
新人たち6人のデザインを見てみたい。
6人が悩み、試行錯誤を繰り返し、
商品化される(かもしれない)までの流れを、
ここで追いかけます。
さあ、カモン、6人の新人たち。
自由にのびのびやっちゃってください。
「ハラマキのデザインを、自由に」。
このミッションを受け取って約1か月後、
6人の新人たちそれぞれに浮かんでいる、
途中経過を見せてもらっています。
(この取材は2022年12月に行いました)
4人めは、
「やりたいようにやっちゃっていいのか、
求められるかわいい柄がいいのか」に迷う、
黒一点の新人デザイナーです。
カモン、千野裕太郎。
- ──
- 4人めに途中経過を見せてもらうのは、
千野さんです。
- 千野
- えっと、はい、緊張してます(笑)。
- 杉本
- メンターの杉本です、
よろしくお願いします。
事前に一度、スケッチは見せてもらっています。
- ──
- そうなんですね。
- 杉本
- スケッチだけ。
そこからどうなったかは想像つかないです。
- ──
- これから見られると思います。
では千野さん、お願いします。
- 千野
- ‥‥ぜんぶ、並べます。
- 杉本
- ああー、こうなったんですね。
はい、はい。
- 千野
- まずはえっと‥‥脚の柄から。
- ──
- たしかに、脚ですね。
- 千野
- 体の曲線で、脚を描きたいなと思って。
杉本さんにラフを見せたときは
人混みの中の脚の絵で。
「これだとちょっと生々しいかも」
と言われたので、こんなふうに
シンクロとかバレリーナっぽい脚で
パターン化して、
生々しさを減らしてみました。
- 杉本
- なるほどー。
こっちの、これは?
- 千野
- これは、人間の顔を描きたくて作りました。
柄っぽくもしたいけど、
自分らしさを出したいと思って、
スープの脂身をモチーフにしました。
- ──
- スープの脂? スープの表面に浮いた?
- 千野
- そうです。脂の動きが、
生き物みたいでおもしろかったので。
- ──
- ほおー‥‥。
これは、赤ちゃん?
- 千野
- 赤ちゃんというか、胎児です。
- ──
- ‥‥胎児ですか。
- 千野
- 最初の考えでは、
子宮をイメージしていたんです。
グラデーションで表現できないかと。
- ──
- ‥‥子宮。
- 杉本
- 見せてもらったスケッチは
子宮にいる赤ちゃんの絵でした。
それを描くのは自由だけど、
ハラマキのデザインとして
グラフィック化するのは、
ややセンシティブではないかなと
話していたんです。
- 千野
- はい。
それでリアルな子宮はやめて、
違う表現にしてみました。
- ──
- それで、脂になった。
- 千野
- はい。
ポップな雰囲気にできたらいいね、
ということも言われていたので、
そこを意識してみました。
- 杉本
- 千野くんは有機的なものをよく描くんです。
人とか、身体の曲線とか、
そういうものにすごく惹かれているのかなと。
- ──
- なるほど。
こちらは?
- 千野
- これは、人の顔をつかって
パターン化されたものを
描いてみたいと思って作りました。
白黒の色分けで、だまし絵風に。
- ──
- ニンゲンを描くのが
ほんとに好きなんだね。
- 千野
- それで、これが最後なんですけど、
人体とかではなくて、
方向性の違う、
やわらかい雰囲気のものも作りました。
- ──
- たしかに、やわらかい。
ほかと比べるとかわいい感じです。
- 千野
- なんか、全体的に、
ラインナップがやばいかもと思って。
- ──
- やばい?(笑)
どう、やばいと思ったの?
- 千野
- それはあの‥‥
ほぼ日っぽい感じではないかもって。
- ──
- ああ、なるほど。
ところでこの動物は何?
- 千野
- え? 犬ですよ。
- ──
- 犬(笑)、そうか犬か。
ネズミとかイノシシにも見えます。
- 千野
- 犬です。
- ──
- 失礼しました、はい、これは犬です。
この犬の柄は、どうやって考えたんですか?
- 千野
- 最初に正面を向いてる犬を描きました。
そのときはまだ、何も考えてないんです。
ただ描きました。
で、両側に2匹を足してみたら、
なんだかピザみたいになって。
- ──
- ピザ!(笑)
- 千野
- お、これはピザの柄っぽい。
いいかもしれないぞ!
そう思いながら描いてたら
3匹の犬が集まっている感じになったんですよ。
集まってるということは、
3匹が食べたい何かがあるんだと思って、
ここに骨を描きました。
- ──
- すごい(笑)。
すばらしい成り行きです。
偶発的にうまれたのを、
そのまま残しているんですね。
- 千野
- はい。
- ──
- 「こういうハラマキをつくりたい」
というのは、最初にありました?
- 千野
- ちょっと変なものを作りたい、
というのはありました。
- ──
- 無機的なものがまったくないですよね。
有機物だらけ。
- 千野
- その‥‥柄としてかわいいのがいいか、
自分の描きたいようにやるのがいいのか、
どっちに振ろうか悩んだんです。
- 杉本
- うん。
- 千野
- やっぱり、自分はストレートな表現に
あんまり惹かれなくて。
どこか変なところがある物を、
自分では買っちゃうというか。
- 杉本
- ちょっと引っかかるものが好きなんだよね。
- 千野
- そうですね。
なのでこの途中経過では、
自分が描きたい絵のハラマキと、
あと、こう言うとあれですが、
守りでかわいい犬を出しました。
- ──
- 守り!(笑)
- 千野
- え?
- ──
- この犬の絵は「攻め」でしょう。
- 千野
- いや、自分では守りのつもりで‥‥。
そうか‥‥守ってないのか‥‥。
- 杉本
- 何を描いても
千野くんのタッチですからね。
- ──
- 千野ワールドです。
- 杉本
- 千野くんはスケッチブックに
こういうイラストを、
ほんとに思うままに描いているんです。
今、あります?
- 千野
- ‥‥あ、家に置いてきました。
- 杉本
- なんでー、見せたかったのに(笑)。
- ──
- ということで、
千野さんの途中経過を見ました。
メンターさん、
ここからどういうアドバイスを
彼に渡しますでしょうか。
- 杉本
- ねえ‥‥どうしましょう(笑)。
- ──
- よろしくお願いします。
- 杉本
- そうですね‥‥(長考)‥‥。
千野くん、赤ちゃんのモチーフは、
あんまりうまくいかなかったでしょ?
- 千野
- ‥‥そうですね。
やっぱりどうしても生っぽくなっちゃって。
もっと簡略化した方が
可能性はあるかなとは思うのですが‥‥。
- 杉本
- なんだろうな‥‥
デザインに落とし込んでいくのを考えるとき、
千野くんはすこし、
観念が先にある感じがするんです。
- 千野
- ああ‥‥はい。
- 杉本
- 観念はあるんだけど、
こういう説明が求められる場では、
その観念に足し算をしてる感じがします。
「言葉にしなきゃ」という。
- 千野
- はい。
- 杉本
- で、いざ言葉にしよう思うと、
整理できていないことに気づくような。
自分でも、わからなくなってないですか?
- 千野
- たぶん、そうですね‥‥。
- 杉本
- 描きたいものはあるけど、やや混乱みたいな。
- 千野
- はい。
- 杉本
- それと‥‥この赤ちゃんについては‥‥
(進行者に)どう思います?
- ──
- え、ぼくですか?
- 杉本
- 何人かの感想を聞きたいです。
- ──
- そうですね‥‥
千野さん、いちばんやりたいのは
赤ちゃんのデザインじゃないかと
思うんですが、どうでしょう。
- 千野
- 最初に思いついて
やりたいと思ったのが
「お腹のところに胎児がいる」
だったので、
そうですね、いちばんはこれです。
- ──
- 動機が強いなら、
表現の方法をもっと考えて
がんばってみていいと思います。
ただ、なんというか、
「なんとなく赤ちゃんがおもしろい」
くらいの考えだと、足りないし、
たどりつけないと思います、
みんながうれしいハラマキまで。
- 千野
- はい。
お腹のところに命があるっていうのは、
すごいことだと思ったんです。
- ──
- そういう動機が伝わるといいですよね。
簡略化して隠すだけが方法じゃなくて、
逆にはっきりと表したほうが
誠実かもしれないし。
- 杉本
- そうですね。
このデザインを入稿して、
それが工場に行って、製品になって、
パッケージされて、誰かが身につける。
そういうシーンを
もっとイメージしたほうがいいと思う。
それぞれの段階に居る人が、
自分のデザインで、どううれしくなるのか。
そこを考えるのはすごく大事だから。
- 千野
- ありがとうございます。
もっと考えます。
- ──
- イラスト描きとしての自分の個性を
こうして出すのは勇気がいることです。
その勇気に拍手をしたいです。
- 千野
- 悩んだんですけど‥‥
やっぱりまずは、ほんとうにやりたいように
やってみようと思いました。
ダメだったら方向転換しようと思ってて。
- ──
- なるほど。
- 千野
- ‥‥正直ほんとに怖かったです。
- ──
- 怖かった(笑)。
- 千野
- 自分を出しすぎることに
直前まで迷ってました。
でも、あの‥‥赤ちゃんのデザインは
まだ続けてもいいですか。
- 杉本
- もちろん。
- 千野
- 他の柄は、追加できないんでしょうか。
- ──
- いくらでも追加してください。
描き直してもいいし、
自分でぜんぶボツにしてもいいし、
この先も自由です。
- 千野
- わかりました。
‥‥ちょっと見えてきたというか、
トライしてみたいものが何個かできました。
- ──
- おお、もう、いま!
- 杉本
- いろいろ言ったけど、
すごく伝わるものがありました。
ここからの変化をたのしみにしています。
- 千野
- はい、ありがとうございます。
千野裕太郎の途中経過は以上です)