2021年から2022年にかけて、
株式会社ほぼ日は「デザイナー」を6名採用しました。
当社比でみれば、過去に例のない極端な採用です。
ほぼ日デザインチームにとっても、
メンバーの数が倍近くになるおおきな変革です。
そんななか、デザインチーム最年長者の廣瀬正木が、
ある日、急に、こんなことを言いました。
「6人の新人デザイナーぜんいんに、
ほぼ日ハラマキのデザインを考えてもらいます」
廣瀬はどういうおもわくで
この企画を思いついたのでしょう?
新人たちのデザインはほんとうに商品になる?
などと気になることもありますが、
そういうあれこれを吹き飛ばして、
ワクワクする企画だと思いました。
新人たち6人のデザインを見てみたい。
6人が悩み、試行錯誤を繰り返し、
商品化される(かもしれない)までの流れを、
ここで追いかけます。
さあ、カモン、6人の新人たち。
自由にのびのびやっちゃってください。
![](./images/chap5/chap5-1-head-sp.jpg)
前章の最後ですこし触れましたが、
予想外のことが起きました。
新人デザイナーが、ひとり増えたのです。
その新人は、先の6人と同期のインターンなのですが、
都合でひとりだけ1年先の入社になるため、
「ニューカマーズの企画には参加できないね」
ということになっていました。
なっていたのですが‥‥正直に述べます。
多くの当事者が参加するこのプロジェクトは、
思っていたよりも進行に時間がかかりました。
あれやこれやとやっているうちに、
気づけば1年遅れの新人デザイナーが入社の時期に‥‥。
「ぎりぎり参加できるならしてもらおう!」
という決定がなされたのは、
前章CHAPTER4の原稿をまとめている最中でした。
急きょ差し込む、CHAPTER5。
その新人に話を聞いた日の夜に、
この記事を一気にまとめました。
途中参加、7人めの新人を紹介しましょう。
カモン、畑唯菜。
![#7 畑唯菜](./images/chap5/chap5-1-sp.jpg)
- ──
- びっくりしました。
- 畑
- わたしもおどろいています。
- ──
- 畑さんは、
きょうが出社の初日?
- 畑
- そうですね。
インターンで通った時期はありますが。
- ──
- で、こうやって話を聞かれている。
- 畑
- はい(笑)。
- ──
- 畑さんは、自分から
このプロジェクトに参加したいと?
- 畑
- いえ、廣瀬さんから突然メールがきまして。
- ──
- プロデューサー・廣瀬から突然のメールが。
- 畑
- はい。
廣瀬さんはわたしのメンターなんですが、
つい先日、
入社前のミーティングがありまして、
それが終わったあとに
廣瀬さんがふらっと振り向いて、
「ニューカマーズ、読んでる?」って。
読んでいたので、
「たのしそうだなと思ってます」と。
![](./images/chap5/chap5-1-1.jpg)
- ──
- 言っちゃった。
- 畑
- 「わたしだったらどうするか考えました」
とも言いました。
- ──
- ああ、それはもう、廣瀬さんは、
「じゃあ、参加して」となりますよね。
- 畑
- はい。
「ほかの6人より入社して日は浅いけど、
いいんじゃない? やろうよ」と。
- ──
- そして今日、ここに居る。
- 畑
- はい。
- ──
- わかりました。
急きょ参戦、7人目のニューカマーズ、
畑唯菜さん。
よろしくお願いします。
- 畑
- よろしくお願いします。
- ──
- 最初に、ほかの6名に聞いたのと
同じことをうかがいます。
そもそも、
なぜデザイナーになったのかを話してください。
- 畑
- はい。
わたしは、ちいさいころから
美術に興味があったという感じではないんです。
何年も前のことでぼんやりしていますが、
さかのぼると、そもそものきっかけは、
高校受験をするときに
受験の申込番号をまちがえたことでした。
- ──
- ‥‥ん? 番号をまちがえた?
- 畑
- わたしは朝起きるのが苦手なので、
家から近い高校を受験したんです。
その高校の普通科を
受けようと思ってたんですが、
普通科のなかの「美術コース」の
番号を選んでしまいました。
- ──
- つまり、願書をまちがえて書いた。
- 畑
- はい、まちがえました。
気づいたら美術コースの推薦試験を
受けることになっていました。
- ──
- すごいですね。
- 畑
- でも、たまたま試験に通ったんです。
それで美術系に進むことになったんですが、
入学したらまわりは最初から
目指してきている子たちばかりだったので、
どうしようかと‥‥。
そんな感じで、
高校時代を過ごすことになりました。
- ──
- その環境にいても、
美術的なことに興味をもたなかった。
- 畑
- 最初は正直あんまりだったんですが、
2年生のときにちょっと転機があったんです。
- ──
- ほぉ、どんなことが?
- 畑
- わたしは散歩が好きなんですね。
- ──
- ん? 散歩?
- 畑
- はい、散歩です。
ひまさえあれば歩いていたんですが、
あるとき地元の岡山で
変な建物がたくさんある通りを歩いていました。
モルタルとかでできている、
大正から昭和くらいに建てられた
古い洋風の建築がある町で。
そういうのを見るのが好きなんです。
- ──
- はい。
- 畑
- 「看板建築」と呼ばれるものなんですけど、
その通りに家をもっているおじさんと
たまたま仲良くなったんです。
- ──
- ちょっと待ってください。
おじさんと仲良くなった。
- 畑
- はい。
そのおじさんの家も、
モルタルのかわいい建物なんです。
それにすごく惹かれて
しばらく通うようになりました。
- ──
- はあー‥‥おじさんの家に。
- 畑
- はい。
ただ、その家の2階が
ちゃんと整備されていなくて
使えない状態になっていたので、
家を直しはじめました。
- ──
- 家を直す‥‥誰が?
- 畑
- あ、わたしが。
![](./images/chap5/chap5-1-2.jpg)
- ──
- わたしが! おじさんの家を。
- 畑
- はい、自力で。
- ──
- じ、自力で! 高校生だよね?
- 畑
- はい。
それがすごくたのしくて。
直していく様子を写真で記録しはじめたら
近所でちょっと話題になって、
最終的に地域のイベントで
直した民家をお披露目することになりました。
- ──
- はあー。
- 畑
- で、その様子を冊子にまとめて
地域の人に渡したら
すごくよろこんでくださったんです。
自分がたのしんでやったことが
他の人のうれしいことになるのを知って、
なにかをつくって
人にプレゼントするのはいいなと
思いはじめました。
- ──
- でも、それはまだ、
「デザイナーになる」というところには
たどり着いていないですよね。
- 畑
- そうですね。そのころは、
デザインのソフトもよく知らなくて、
無理やりつくったような冊子でしたし。
- ──
- はあー。
そのころまだ高校2年生‥‥。
大学はどこに?
- 畑
- 建物を直すのがたのしかったので、
大学では都市計画を勉強するのも
いいなと思っていました。
あと、おじさんちの民家のような、
大正から昭和初期の建築に囲まれて
生活するのもいいなと思いはじめていて。
- ──
- なるほど。
- 畑
- 友だちから広島の尾道市というところに、
古い建物を直したり
空き家再生に取り組んでいる地区がある
と聞いたので、
尾道にある美術系の大学に進むことにしました。
- ──
- そこでは、自分の興味で進みましたね。
今度は願書もまちがえずに書いて。
- 畑
- はい(笑)。
- ──
- 大学の講義はたのしかったですか?
- 畑
-
やっぱり美術をやりたいというよりは
空き家再生に興味があったので、
大学の勉強に身が入らなくて、
ちょっと逃げるような気持ちで、
尾道でも地域の人たちと
建物を直したりしていました。
- ──
- 場所を変えても続いてますね。
- 畑
- でも、地域の人と建物を直しているときに
「美術科の大学に行ってるなら、
チラシとかつくれない?」と
頼まれるようになって。
デザインをやらざるを得なくなったんです。
- ──
- ああ、そういうかたちで、
「デザイン」をやりはじめた。
- 畑
- はい。
最初はつらいなと思いながら
やっていたんですが、
がんばってつくって渡したときに
よろこんでくれるのがうれしくて、
だんだんのめりこんでいきました。
- ──
- 高校生のときとおなじだ。
- 畑
- そうですね。
街の人の反応が
ダイレクトに返ってくるのが好きでした。
- ──
- 大学での課題よりも、
実践が好きだったんだね。
- 畑
- はい。
そのあとしばらく大学を休学したんですが、
休学中は地域の人つながりで
ビールのラベルをデザインしてみたり。
- ──
- 卒業はできたんですよね。
- 畑
- はい、先週の金曜日が卒業式でした。
- ──
- ほぼ日とのご縁は、どういう流れで?
![](./images/chap5/chap5-1-3.jpg)
- 畑
- 大学に復学してから、
美術系の就活サイトを通して、
ほぼ日という会社でインターンをしませんか?
という連絡をいただきました。
- ──
- じゃあ、ほぼ日をよく知っていたわけではなく。
- 畑
- そうですね。
でもあとになって、
自分が読んでいたおもしろい記事の
いくつもがほぼ日のだと気づきました。
- ──
- なるほどー。
ほぼ日のインターンはどうでした?
- 畑
- たのしかったです。
大学生活と並行してやっていました。
大学は広島なので、
内定後のインターンは
オンラインの期間が長かったです。
- ──
- ほぼ日の第一印象はどうでした?
- 畑
- インターンの選考のときに
何度か面接を受けたんですが、
なんていうか、その‥‥
話なんか聞いてもらえないと思ってたんです。
- ──
- え? どうして?
- 畑
- その‥‥東京の会社の面接って、
あまり話を聞いてもらえないんだろうな、と。
こう‥‥わーっと質問がきて、答えて、
システマチックに終わり、みたいな。
- ──
- そんな(笑)。
- 畑
- ずっと岡山か広島にいたので
けっこう怖くて、
勝手にそんなふうに思っていたら、
面接してくださったデザイナーの先輩方が
とても人間味があって‥‥。
- ──
- 人間味(笑)。
ロボットではなかった。
- 畑
- 想像していたのとぜんぜんちがいました。
ていねいに話を聞いてくださって。
- ──
- はあー。
もう、ずっと「はあー」って言ってますけど、
おもしろいです。
すごいですよね、なんだろう‥‥
「散歩してたらほぼ日についた」みたいな。
- 畑
- (笑)
- ──
- しかも、入社初日にこんなところで、
「ハラマキのデザインを」と言われている。
- 畑
- ちょっと頭を抱えています。
- ──
- ですよね(笑)。
なにかプランはありますか?
- 畑
-
ぼやっとした考えですが、
ほぼ日ハラマキって
着けていると安心感があって、
チラ見せできるかわいさもあるところが
いいなと思うので、
コミュニケーションがとれるデザインが
いいなと思っています。
- ──
- お、ふんわりとアイデアが。
でも、あのですね‥‥時間がありません。
この企画のページをつくる都合で、
今週の金曜日にデザインを
見せてもらわないといけないんです。
いま月曜だから4日しかない。
‥‥大丈夫でしょうか?
- 畑
- 大丈夫です。
- ──
- くれぐれも無理をしないように。
3つあればいいです。
「ここまでできました」
という途中のアイデアでもいい。
- 畑
- わかりました。
- ──
-
では、金曜日にまた。
はあー、おもしろかった‥‥。
「犬も歩けばおじさんに当たる」。
当たった先に、ほぼ日があった。
7人目の新人デザイナー、
畑さんのデザインをたのしみにしています。
- 畑
- はい。
畑さんの途中経過を見せてもらいます)
![](./images/chap5-date1.png)