世の中には、「ウワサ」というものがあります。
事実とは違う風説、評判、未確認情報‥‥。
まあ、「ウワサは本当だった!」みたいなことだって
ないことはないですが、
だいたいは事実と違うことがほとんど。
ウワサがやっぱりウワサに過ぎなかった、
とわかったとき、しばしば、私たちはこう言います。
「いやぁ、こういうウワサって、
いったい誰が言い出すんだろうねぇ」
ある日、「ほぼ日」のオフィスのなかを、
あるウワサが駆けめぐりました。
聞いた人は「へーー!」と言い、
ほかの人に「あの話、聞いた?」と伝えました。
そのようにしてウワサはあっという間に広まり、
やがて、本人の耳に届いて、
本人が「違いますよ」とあっさり否定して、
みんなは「なーんだ」と納得しました。
ただそれだけのことだったのですが、
私たちは、ふと、思ったのです‥‥。
この、「ほぼ日」のオフィス限定のウワサは、
出所をたどろうと思ったらたどれるんじゃないか?
時間的にも、空間的にも、外部の人物や情報が
入り込む余地のないケースだから、
「流れたウワサの出所を、
丹念にたどっていけば、
それを誰が言い出してどう広まったかが
はっきりわかるのではないか?」
じゃ、それを、若いお前が調べて来い、
ということで、「ほぼ日」に席を置いている
インターン生のマツザキが任命されました。
さあ、ウワサの出所は、つかめたのでしょうか?
あ、ちなみにそのウワサというのは、
「経理の菊地くんは
日焼けサロンに行ってるらしい」という
まことにもって、とるにたらないウワサです。
じゃ、マツザキくん、調べてみて。
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【前編】
「その話誰から聞きました?」
こんにちは。
ウワサの出所の調査を任命されました、
インターン生のです。
なんだかよくわからないけれど、
がんばります。
さて、調査を始める前に、
「経理の菊地くんは
日焼けサロンに行ってるらしい」
というウワサについて、
もうすこし詳しく紹介しますね。
そのほうが、このコンテンツを
より楽しめると思うんです。
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ウワサの当人である、
ほぼ日の若手経理・菊地さん。
社内では小食で知られていて、
身長と体重は、171cm・51kg。
菊地さん本人の申告によれば、
フィギュアスケートの羽生結弦選手と
ほとんど同じ体型で、かなりの細身です。
ちなみに、菊地さんの
好きな食べものベスト3は、
「かいわれ大根・スイカ・砂肝」。
乗組員にしては珍しく小食で、
ちょっと変わった食の好みを持っていますが、
そういうところも含めてみんなに愛されている
穏やかで静かな先輩です。
そして、7月のはじめ、
「経理の菊地くんは
日焼けサロンに行ってるらしい」
というウワサが社内に広まりました。
日焼けサロンに行きそうもない菊地さんが、
実は日焼けサロンに行っていた、というだけの、
ま、失礼ながら、どうでもいいといえば
どうでもいいウワサなのですが、
ウワサを聞いた乗組員たちは、ざわつきました。
「へーー!
菊地くんが日焼けサロンに!?
日焼けサロンって、もっとこう、
ガッチリとした人が行くとこだと思ってた。」
「意外! 確かに肌は黒いけど。」
ことわっておきますが、
乗組員たちは、日焼けサロンに行く人に
なにか悪いイメージを持っているわけではありません。
菊地さんが日焼けサロンに行くということが、
あまりに菊地さんのイメージとかけ離れていたため、
ウワサに驚き、ウワサをおもしろがりました。
さらに、そのウワサには、
「菊地さんが日焼けサロンに行っているのは、
色黒になって、強そうに見られたいから」という
もっともらしい理由までついていたのです。
結局、ひぐちさんやふじたさんなど
数人の乗組員が菊地さんにウワサの真偽を確かめに行き、
本人によってウワサは否定されました。
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ちょっと長い説明になりましたが、
ここから、ウワサの出所を調査していきます。
7月15日(金)
調査開始
まずは、さんと
さんに話を聞くことにしました。
ウワサの真偽を確かめに行ったこの2人なら、
ウワサについて確実になにか知っているはず。
15時頃、会社の和室で話を聞きました。
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―おふたりは菊地さんのウワサについて
知っていますよね?
「知ってるよー。
『色黒になって強く見られたいから、
日焼けサロンに行ってる』ってやつだよね。」
「菊地くん、前に『太りたい』とか『鍛えたい』って
言ってたから、そのウワサを聞いたときは
すこし信じたなあ(笑)。」
―そうそう、そのウワサです。
おふたりは、いつ、どこで、
初めて菊地さんのウワサを聞いたんですか?
「どこで‥‥。」
「ちょっと前に聞いた気がする。
6月の終わりか7月の初めくらいかな。
私とふじたさんは、一緒にウワサを聞いたよ。」
―あ、一緒に聞いたんですね。
「うん。
杉本さんとさんと私の
3人でランチに行った後、会社への帰り道で、
『菊地さん、日焼けサロンに行ってるらしいよ』って
杉本さんが言い出してさ。」
―へえー、杉本さんが。
その日の正確な日付は思い出せませんか?
「ウワサを聞いた日の前日に
デザインチームの飲み会があったから、
私たちがウワサを聞いたのは7月1日だね。」
「あーっ、そうですね。」
―その、6月30日のデザインチームの飲み会は、
ウワサとなにか関係があるんですか?
「杉本は、デザインチームの飲み会で
菊地くんのウワサを聞いたらしいよ。」
―おっ、じゃあその飲み会がウワサの出所かな?
次は杉本さんをあたってみます。
ありがとうございました。
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ふじたさんとひぐちさんは、
ウワサをさんから聞いたそうです。
こんなふうに丁寧にウワサの出所をたどっていけば、
いつかウワサの生まれたポイントにたどりつくはずです。
続いて、16時半ごろ、
会社のミーティングスペースで
杉本さんに話を聞きました。
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―ふじたさんとひぐちさんが、
「菊地さんのウワサを杉本さんから聞いた」って
言ってたんですけど。
「うん、私が話したよ。」
―なんでも、杉本さんはそのウワサを
6月30日のデザインチームの飲み会で聞いたとか。
「そうだよ。」
―誰からウワサを聞いたか、覚えてますか?
「あー、うーーん‥‥。
ちょっと待って‥‥。
思い出せないなあ。」
―ええと、じゃあ、ウワサを聞いたときの
飲み会の雰囲気は覚えてませんか?
「たしか、最初に聞いたときは、
私も他のデザイナーたちも、
ウワサをあんまり信じてなかったんだよね。
でも、その飲み会でちょうど、
『菊地さんはパーマをかけている』という話と、
『菊地さんはヒゲを整えている』という話も
話題になってたの。」
―え? なんですか、その話。
「菊地さんって、髪にパーマをかけてて、
ヒゲも整えてるんだって。
これは本当の話。」
―へえー。
「まあヒゲは、最近生やしてるって
なんとなく知っていたけど、
パーマの話はちょっと意外だよね。」
―そうですね。
髪がくるくるしているわけじゃないし、
パーマをかけてそうには見えないです。
「そう、それで、パーマもかけてて
ひげも整えているんだから、
日焼けサロンに行っててもおかしくないかもって
みんなで盛り上がって、
ウワサにリアリティを感じたんだよね。
まあ、当人のいないところで
失礼な話ではありますが。」
―なるほど(笑)。
「なんとなくわかるでしょ?(笑)
パーマ・ヒゲ・色黒の3つで、
菊地さんはもっとワイルドな感じに
なりたいんだろうなあって勝手に納得しちゃった。」
―現場の雰囲気は、わかる気がします。
「‥‥あ! 思い出してきた。
ウワサはオカムラさんから聞いた気がする。
しかもオカムラさんは、ウワサの話を
菊地さん本人から直接聞いたって言ってたなあ。
『前に菊地くんと一緒に飲んだときに、
本人から日焼けサロンに行ってるって聞いた』って。」
―えっ! じゃあ、オカムラさんが
最初にウワサを流した人になりますね。
しかもウソの話なのに、
なぜか菊地さん本人が言った話になってる。
「そうだね。
ちょっと不思議だよね。
とりあえず、オカムラさんにも
聞いてみたらいいんじゃないかな?」
―わかりました。聞いてみます。
ありがとうございました。
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どうやら、ウワサを最初に流した乗組員は
デザイナーのさんのようです。
オカムラさんは、どうして、
ウソのウワサを流したのでしょうか。
それとも、なにかのかんちがい?
18時頃、会社の自席で仕事をしていた
オカムラさんを突撃取材しました。
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―オカムラさん。
菊地さんのウワサについて知っていますよね。
「あはは、あの日焼けサロンのウワサね。」
―そうです、そのウワサなんですけど、
出所をたどっていくと、
どうやらオカムラさんが発信元みたいなんですけど。
「え、違う、違う。」
―オカムラさんじゃないんですか!?
「じゃないよー。
だってまず、僕の頭のなかに
『菊地くんが日焼けサロンに行く』って
発想がないもの。」
―でも、杉本さんが、
「6月30日のデザインチームの飲み会で、
オカムラさんから菊地さんのウワサを聞いた。
オカムラさんは、その話について
菊地さんから直接聞いたらしい。」って
言ってましたよ。
「えー、そうなの?
それ、なんかのまちがいじゃないかな?
だって、まず、
デザインチームの飲み会では
みんな酔っ払っちゃってたから、
僕も他のデザイナーも
記憶がはっきりしていないと思うよ。
だから、細かい話については、
そのときの記憶を当てにしちゃダメなんじゃない?」
―えー、そんなあ。
「しかも、飲み会のとき、
僕と杉本さんは離れて座ってたから、
あんまり話してないと思うんだよ。
だから仮に、僕がウワサを流していたとしても、
その話は杉本さんに聞こえていないはずだよ。
ていうか、そもそも流してないけど。」
―むー。じゃあオカムラさんは、
本当にウワサを流していないんですね。
「うん、流してない。」
―それじゃあ、どうして、
「オカムラさんは、菊地さんから直接
『日焼けサロンに行っている』と聞いた」と、
杉本さんは言ってるんですか?
「うーん、それはわかんないや。
でも本当に、僕はウワサを流してません。」
―そっかあ、そうですか‥‥。
お仕事中に失礼しました。
ありがとうございました。
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オカムラさんからは有力な手がかりを得られず、
しかも、なぜかオカムラさんがウワサを
流したことになっているという新たな謎も出現。
さらには、ウワサの出所をたどることも
できなくなってしまいました‥‥。
次の展開を見つけられぬまま、
7月15日の調査は終了です。
せっかくですから、
ちょっともったいをつけて、
2回に分けて掲載します。
次回、解決編。
3連休が空けた7月19日の調査で、
ウワサがどのように生まれ、
どのように広まっていったのか、
明らかになる、はず、です。
(明日へつづきます。)