ほぼ日ニュース

「笑えるバレエ」で、
バレエの世界をのぞいてみよう。


(c)Angela Sterling (Pacific Northwest Ballet)

こんにちは。ほぼ日の
タナカもえです。

少し前のこと、ほぼ日宛にこんなメールをいただきました。

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ほぼ日のみなさまにご紹介したい「バレエ」公演があり、
ご連絡させていただきました。

「The Concert(コンサート)」。
『ウェスト・サイド・ストーリー』を手掛けた
伝説の振付家ジェローム・ロビンスによる
“コメディ・バレエ”という珍しいジャンルの傑作です。

1956年の初上演以来、世界中で長く
踊り継がれてきたこの作品を、
今秋スターダンサーズ・バレエ団が、
国内バレエ団としては初めて公演します。

この機会に、ぜひたくさんの方に
ご体験いただけたら嬉しいです。

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「バレエ」の公演。
正直、ちょっと敷居が高そうなイメージがあります。

ですがメールをよく読むと、
おすすめくださっている「コンサート」は、
バレエをよく知らない人でもたのしめそうな、
キャッチーな作品なのだとか。

たとえば海外のバレエ団が上演した
作品の一シーン「ミステイクワルツ」は、
Twitterでの動画再生回数が
なんと1100万回以上!
6人のバレエダンサーが一所懸命踊るけれど
まったく振り付けが揃わない、
コミカルな演目なのだそうです。

またこの作品は
『ウェスト・サイド・ストーリー』や
『王様と私』の演出でも知られる伝説の振付家、
ジェローム・ロビンス氏の手によるもの。
糸井重里も、ちょっと興味がある様子。

▲こちらがその「ミステイクワルツ」。
たしかに見ながらクスクス笑ってしまいます。

なんだか興味が湧いて
「くわしいお話を聞かせてください」とお願いしたら、
「喜んで!」とお返事があり、
さっそくスターダンサーズ・バレエ団の
総監督である小山久美さんと、
宣伝担当の佐々島由佳理さんが来てくださいました。


▲小山久美さん。さすがバレエ界のかた、
座っている姿勢やちょっとした仕草まで美しい。


▲宣伝担当の佐々島さん。
今回の作品の魅力をニコニコと教えてくださいました。

このときのお話が面白かったので、
この場でご紹介させていただこうと思います。
バレエになんとなく興味が湧いたみなさん、
よろしければ、お読みいただけたら嬉しいです。

──:
お越しくださってありがとうございます。
さっそくですが、今回の公演は、
どういったものなのでしょうか?

佐々島さん:
東京のバレエカンパニー
「スターダンサーズ・バレエ団」が、
3つの作品を上演するものですね。
バレエ公演ではよくある
「トリプル・ビル」というスタイルです。

上演するのは「コンサート」(約30分)、
「スコッチ・シンフォニー」(約35分)、
「牧神の午後」(約15分)という3作品。
休憩も入れて、全部で2時間強くらいの公演です。

なかでも目玉が、
今回の公演タイトルにもなっている
「コンサート」という作品。

『ウェスト・サイド・ストーリー』の
センセーショナルな振り付けでも知られる
ジェローム・ロビンスという
すばらしい振付家の方による、
コメディ・バレエの傑作です。


▲「ウェスト・サイド・ストーリー」の振り付けのイメージを
パッとやってみせてくれる小山さん(優しい方です)。

──:
コメディ・バレエって、はじめて聞きました。

小山さん:
「コンサート」すごくたのしい作品ですよ。
バレエってシリアスなものや暗いもの、
観念的なものが多くて、
笑えるような作品は少ないんです。
だけどこの「コンサート」は、
声を出して笑いながら見られるんですね。
わたしが知る限り、笑えるバレエとしては
世界でいちばん有名なものですね。

──:
具体的にはどういった内容なんですか?

小山さん:
実はなにかストーリーがあるわけではなくて、
コンサート会場を舞台に、
さまざまなシーンが連なっていくような作品です。

一台のピアノがあって、
舞台でピアニストが演奏しているところに、
お客さんとしてダンサーたちが入ってきて、
たのしいことがいろいろ起こるんです。
男性10人、女性10人のダンサーたちが、
衣裳もとっかえひっかえで踊ります。


(c)Angela Sterling (Pacific Northwest Ballet)

──:
すごい。

小山さん:
小道具もたくさんあって、たとえば、
こういう葉巻をくわえながら踊るとか。
普通のバレエではありえないんですけど。

──:
かっこよさそう!

小山さん:
かっこいいですよ。
黒縁メガネで踊る人がいたり、
いろんな小道具が登場します。

あと小道具は‥‥(なにかをとりだして)
こういうものとか。

──:
‥‥え? ええ?? わぁー(大笑)。

小山さん:
どう使われるかは秘密ですが(笑)、
いろんな仕掛けもあり、みんなで楽しめる作品です。

「コンサート」には有名なシーンが
いくつかあって、ひとつがこの傘のシーン。
これも実はおかしいんですよね。
「全身タイツにネクタイ」ですから(笑)。


(c)Angela Sterling (Pacific Northwest Ballet)

小山さん:
そしてもうひとつの有名なシーンが
「ミステイクワルツ」。
6人のダンサーたちが一所懸命踊るけれど、
なぜか全然揃わない、というものですね。

バレエってみんなきれいに揃って
踊るのがきまりですけど、
そこにとんちんかんがひとりいると、
踊りながら困っちゃうんです。
でもそれ、見ている側はすごく面白い。
そういう要素をとりいれたものだと思いますね。


(c)Angela Sterling (Pacific Northwest Ballet)

──:
この演目をやることが決まったとき、
ダンサーのみなさんの反応はいかがでしたか?

小山さん:
ダンサーたちもきっと嬉しかったと思いますよ。
世界的に知られる作品でもありますから。

ただ、うちはダンサーが50人くらいいるんですが、
この作品は20人しか出られないんですね。
だから団内でオーディションがあって、
そのときはやっぱり、涙もありました。

──:
わぁ。みんな出たいんですね。

小山さん:
また私自身もこの「コンサート」は、
ずっと胸にあたためていた企画だったので、
ようやっとできるのが本当に嬉しいですね。


(c)Angela Sterling (Pacific Northwest Ballet)

──:
今回、「コンサート」以外の2作品は、
どういったものですか?

小山さん:
最初の「スコッチ・シンフォニー」は、
いちばんバレエらしいバレエです。
チュチュと呼ばれる衣装で踊ります。


(c) Hidemi Seto


(c) Hidemi Seto

──:
わぁ、きれい!

小山さん:
これまた20世紀の偉大な振付家のひとり、
ジョージ・バランシンが手がけた作品です。
メンデルスゾーンの「スコットランド交響曲」の
オーケストラの演奏に合わせて、
音楽をからだで表現するバレエで、
こちらもストーリーは無くて、
音楽と空気感をたのしむものですね。

バランシンがスコットランドを訪れたときに
着想したという作品で、
スカート姿の男性が登場したり、
妖精のような女性が出てきたりします。


(c) Takeshi Shioya A.I Co.,Ltd.

──:
では「牧神の午後」はいかがでしょう?

小山さん:
「牧神の午後」は、官能の世界。
なんともしっとりとした作品です。
「コンサート」と同じ振付家の
ジェローム・ロビンスが、またぜんぜん
違う世界を作り出しているんです。

登場するダンサーは、実はふたりだけ。
男ひとり、女ひとり。

昼下がりのバレエスタジオが舞台で、
鏡を前に、男女がただ本能のままに、
人間の本質的な官能の部分を、
音楽と動きであらわす、すごくきれいな作品です。


(c) Takeshi Shioya A.I Co.,Ltd.

──:
やっぱりどの演目も、ダンサーの方の、
すごい身体能力があってこそ‥‥?

小山さん:
そうですね。身体能力をもとにした動きも、
たのしんでいただけると思います。

ただ、身体能力を見せつけるように踊ると
バレエではなくなるので、そこは結果として、
自然に感じていただけたらいいなと
思ってはいますね。

もちろんトゥシューズで自在に踊りますし、
「ほんとは難しいんですよ」とは、
こっそりは言いたいですけど(笑)。

──:
(笑)

小山さん:
またバレエの魅力って、
「音楽を身体でどう表現するか」もあるんです。

ですからたとえば「コンサート」なら、
ショパンの曲から、まったく別の景色が
見えてくるところも面白いと思います。

佐々島さん:
あとはその場にオーケストラがいて
生演奏をするので、その音楽と
ダンサーたちの身体の動きがあいまって
視覚と聴覚を刺激してくる感じも、
バレエならではの醍醐味だと思います。

──:
バレエをほとんど見たことがないので、
「自分にわかるかな?」というのが、
やや不安なのですが。

小山さん:
そうですよね。私たちとしても、
そこが日本でバレエが敬遠されやすい
理由のひとつだと思うんです。

日本では芸術が「理解したかどうか」で
語られてしまうことが多くて、
バレエについても「理解しなければダメ」と
思っていらっしゃる人が、すごく多い印象があるんです。
本当は「わかる」必要なんてなくて、
ただ見て、感じてもらえたら大丈夫なんですけど。

‥‥でも、だからといっていきなり
「じゃあ感じてください!」と言われても、
「うーん、それが難しいんですよ」
となりますよね。

──:
なります、なります。

小山さん:
なので私たちもそれをなんとかしたくて、
いま、多くの公演で、開演20分前に
「プレトーク」の時間を設けて、
「今日はこんな作品ですよ」といった
お話をしているんです。

──:
あ、それがあると入りやすいですね。

小山さん:
私たちとしても、作品について
全部を説明をしたいわけではないのですが、
「見やすくなる」とおっしゃる方がとても多いので、
「少しでも安心できるなら‥‥」と思って
やっているんですね。

ですから、今回もそういった時間があるので、
不安な方は20分前に来て、
聞いていただくといいかもしれません。
もちろん、聞きたくない場合は
聞かなければいいので。

──:
あとバレエって「クラシック」とか
「コンテンポラリー」という言葉を
聞いたことがあるのですが、
今回の演目はどういう位置づけなのでしょうか?

小山さん:
すこし難しい話題になりますが、
今回のものは20世紀の振付家による作品で、
あえて呼ぶ場合には「20世紀バレエ」や
「ネオクラシック」などと言ったりしますね。

日本で一般の方が「バレエを観る」と言って
イメージされるのは、19世紀の作品が多いんです。
「くるみ割り人形」とか「眠れる森の美女」とか。
形式やストーリーがしっかりあって、
一晩でストーリーをすべて見ていくというか。

──:
ええ。

小山さん:
そして、芸術ってどんなものでも
「そういう形式を壊していく」という流れがあるんですね。

ですから、19世紀のバレエは
しっかりと形式を重んじる世界なんですが、
ですから20世紀のバレエ作品は、
その形式を壊していく過程のなかにあるんです。
「形式じゃないんだ。余分なものを削いで
純粋に動きだけを見せるんだ」
というスタンス。
ストーリーがなかったり、
衣装や舞台もシンプルなものが多かったり。
肉体の表現をそのまま見られるような
作品が多いですね。 

──:
へぇー。

小山さん:
でも、言ってしまうと、この20世紀のバレエって、
実は日本では
「一番人気がない」と言われている分野なんです。

──:
あ、そうなんですか。

小山さん:
日本だと「バレエはストーリーを見るもの」と
思われているところが大きくて、
お客さんが集まりにくいんですね。
だからどこのバレエ団もなかなかやらなくて、
遠ざけられてきちゃった。

海外だと新しい作品を上演する割合も多いし、
「こういうのこそ面白いよね」と言う人は
けっこういるんですけど。

だから今回は、
「あえて日本でそういうバレエをご紹介する」
という公演ではありますね。

──:
はい。

小山さん:
だけど、形式やストーリーがしっかりとある
19世紀のバレエって、はじめて見るような方だと、
実は楽しみづらいんじゃないかとも思うんです。

形式は知らないとわからないし、
ストーリーは「そこはもうわかるよね?」
みたいに演じられることも多いので。

だから、今回のような作品って、
実はたのしんでいただきやすいんじゃない?
という期待もしているんですけどね。
さて、実際どうでしょう‥‥(笑)。

──:
いまお話を聞いていて、
小山さんやスターダンサーズ・バレエ団は
「はじめての方にも届けたい」という意識が
すごく高いような気がしたのですが。

小山さん:
やっぱりみんながバレエをたのしむ文化を
日本でももっと育てていけたら、
という思いはすごくありますね。

たとえば昔のバレエって
「退屈しながら見る人もいる」のが
前提の文化だったんです。
「白鳥の湖」も当時のまま正式に演じると
4時間くらいかかりますし。

ーー:
へぇー!

小山さん:
だけど時代も変わってきて、
いまは人々の芸術への関わり方が
大きく変化していますから。

同じ作品でも
「スピーディーな展開で飽きさせないように」
とか、いまの人にきちんと届く表現をするのは、
すごく意識しているところではありますね。
本来4時間くらいあった「白鳥の湖」を、
あえて40分に縮めて上演したり。

ーー:
あ、なるほど。

小山さん:
またいま、文化庁と一緒に全国の小学校を回る活動を
させていただいているんですが、それもみんな、
すごくやりがいを感じながらやってますね。
ここで「つまんない」と思われたらおしまいですから、
振付家もダンサーも
「絶対につまらないと言わせないぞ」という思いで
作っているんです。

たとえば誰もがわかる「シンデレラ」を題材に、
こどもたちが途中で飽きないように
テンポの良いバレエにしたり。
そうすると、こどもたちでもみんな、わかるんです。


(c)Kiyonori Hasegawa

ーー:
おぉー。

小山さん:
あとは、長年愛されているものとして、
『ドラゴンクエスト』のバレエがありますね。

これは作曲家のすぎやまこういち先生が
もともとバレエを大好きで、
先生にバレエ愛があったからできたものなんです。
1995年にスタートしたものですが、
男性のお客さまもすごく来てくださっていて、
海外で公演をしたり、パリのジャパンエキスポに
参加したりしています。


(C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Right Reserved
Photo:Kiyonori Hasegawa

ーー:
素朴な疑問ですが、バレエの公演って、
どんな服装で行けば良いんでしょう?

小山さん:
ドレスコードもないですから、
どんな格好でも大丈夫ですよ。
その方が心地よい服装がいちばん。

「バレエに行く」ということで、
ちょっといつもと違う装いをたのしんでもいいし、
普段どおりのTシャツとジーパンでも。

わたしなんかはラフな格好の方を見ると、
「気軽に来てくださったんだな」と
なんだか嬉しい気持ちになりますね。

──:
座席の選び方のコツってあるのでしょうか?

小山さん:
「前の席が好き」とおっしゃる方は多いですね。
たしかに前は近くて、よく見えますから。
でもわたしは個人的には、
舞台全体が見える後ろ側の席が好きですし。
あとは端や後ろの席は値段が安いので、
そういった場所で気軽に見ていただくのも
いいと思います。

今回池袋の芸術劇場のプレイハウスは、
ほんとにどの席でも見やすくて、
音もしっかりと聞こえますから、
どこでも安心していただいて大丈夫だと思います。

ーー:
ちょっとずつ、自分でも
見られそうな気がしてきました(笑)。

小山さん:
はい。身構えなくて大丈夫ですので、
ぜひ安心していらしてください。
とりあえず今回は、
「笑いにきてください」というか(笑)。

ぜひ思い切り声を出して笑ってください。
バレエの公演で
「客席で声を出して笑う」というのは
めったにできる経験ではないので、
新鮮だと思います。

ーー:
バレエの紹介で「笑いに来てください」って、
はじめて聞きました。

おふたり:
(笑)

小山さん:
バレエって、見てみないと感じがわからないので、
ご紹介がどうしても難しいのですが、
日ごろと違うものを見る刺激もありますし、
またすごくエネルギーも発していて、
そのエネルギーを感じることで、
なんらか心がきっと動くと思いますから。

興味をおもちくださったら、
ぜひ足をお運びいただけたら嬉しく思います。

ーー:
ありがとうございました。
では、9月23日か24日のどこか、
ほぼ日のメンバーもお邪魔させていただきますね。

おふたり:
はい、たのしみにしていてください。
お待ちしています!

‥‥と、いうことで、バレエになんだか
興味がわいてきたみなさん、
スターダンサーズ・バレエ団「コンサート」、
いかがでしょうか?
公演はもう、すぐです。
よければぜひチェックしてみてくださいね。

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スターダンサーズ・バレエ団公演
「The Concert」

2022年9月23日(金・祝)・24日(土)
13:15開場 14:00開演
(13:40~ 総監督 小山久美のプレトークを予定)

東京芸術劇場(東京/池袋)

▶詳細はこちら(外部サイト)

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