ほぼ日ニュース

第14回伊丹十三賞は小池一子さんに!
贈呈式の様子をお知らせします。

こんにちは! ほぼ日のかさねです。

先日リカタナカといっしょに
伊丹十三賞の贈呈式に行ってきました。

「ほぼ日」では、
第1回の受賞者が糸井重里であったことから、
毎回贈呈式にお邪魔しています。

「伊丹十三特集」と題して、
伊丹さんに関係するさまざまな人たちに
お話を伺ったこともありました。

さらに今年は、ほぼ日手帳 weeksのラインナップに
「伊丹十三 / mononcle」が登場。
伊丹さんの描いた美しいイラストレーション、
タイポグラフィーが表紙になっています。

伊丹十三賞は、
デザイン、イラストレーション、俳優、映画監督‥‥
伊丹さんの幅広い分野での遺業を記念して創設されました。
毎年、伊丹さんが活躍した分野において、
優秀な実績をあげた人物に贈られます。

第14回となる今回の受賞者は、
クリエイティブ・ディレクターの小池一子さんです。

1960年代から現在まで、
雑誌、広告、ファッション、デザイン、アートなど、
幅広い場でご活躍されてきた小池さん。

田中一光さん、三宅一生さんをはじめとする
日本を代表するようなクリエイターたちと交流を深め、
「無印良品」「PARCO」といった
大きなプロジェクトの立ち上げにも携われてきました。

また、その後はキュレーターとして
さまざまな美術展の企画をしたり、
「佐賀町エキジビット・スペース」という
現代美術家の表現の場をつくられたり、
武蔵野美術大学で教えられたり、
十和田市現代美術館の館長を務められたり。
『美術/中間子 小池一子の現場』
『小池一子 はじまりの種をみつける』
といった小池さんの著書を読むと、
その仕事のすごさや幅広さに
きっと驚かれることと思います。

さて、よく晴れた青空がまぶしい9月の上旬、
贈呈式にうかがってきました。

今回はご時世に鑑みて、
オンライン配信も合わせての開催です。

まずは玉置 泰さん
(公益財団法人ITM伊丹記念財団 理事長)から
受賞者の発表があり、
選考委員の中村好文さんから祝辞が述べられました。

中村好文さん
「このたびは第14回伊丹十三賞の受賞、
おめでとうございます。

伊丹十三賞はこれまでに
13人の受賞者がいらっしゃいました。
小池さんはそのなかではいちばん年上で、
年齢的には伊丹十三さんの妹分にあたります。

いまも現役のクリエイティブ・ディレクターとして
ご活躍されている小池さんにこの賞を贈呈できることを、
選考員のひとりとして、心から喜ばしく、
また誇らしく思います。

受賞にあたり小池さんのお仕事を振り返ってみたところ、
僕自身が大きな刺激を受けて鼓舞されてきた、
雑誌、広告、展覧会、イベント、書物などが
次々と思い浮かびました。

そのひとつひとつを思い出すたび、
あらためて小池さんのお仕事の間口の広さと質の高さ、
影響力の大きさを再認識することになりました。
そして、感心したり感嘆したりすることしきりでした。

と言いつつ、僕が感心したのは
それだけではありません。

三宅一生さん、田中一光さん、石岡瑛子さん、
川久保玲さん、安藤忠雄さん‥‥などなど、
名だたるトップランナーの面々と小池さんの二人三脚で、
素晴らしい仕事をされてきたということに、
人知れず羨望のため息をもらしたのでした。

さて、ここで不思議に思うことがあります。

小池さんはなぜ、そのような、
知識と才能に溢れたクリエイターたちと肩を並べ、
対等に仕事ができたのだろうということです。

もちろん、小池さん自身が才能に恵まれ、
クリエイターが内に秘める可能性や能力を
最大限に引き出す見聞があったからに違いありません。

なによりも、クリエイターたちが
小池さんに絶大な信頼を寄せていたということも、
忘れるわけにはいきません。

でも、本当にそれだけだったのでしょうか。

8年ほど前、僕は、
金沢21世紀美術館で展覧会を開きました。
その会期中に小池さんと対談をしたことがあります。

後々まで僕の印象に残ったのは、
話の合間合間に小池さんが見せてくれた
素敵な笑顔でした。

あっさり言うと、
『なんて笑顔のいい人なんだろう』と思ったのです。
つまり、笑顔に魅了された対談だったわけです。

小池さんが三宅一生さんや田中一光さんたちと
対等に仕事ができたのは、
じつはこの笑顔が一役も二役も買っていたに違いないと、
僕は推察しています。

小池さんの笑顔は、
人の気持ちを明るくし、和ませてくれます。
相手をその気にさせずにはいられない、
特別に魔力と説得力のある笑顔です。

小池さんの本のなかに、
『私を媒介として、
 人と人をつなげることを大切にしていました』
という一節がありました。

小池さんの笑顔が、
人と人の心をつなげる『かすがい』の役割を
果たしていたのだと確信しています。

今回の受賞者を伊丹十三さんに報告したら、
きっと、ぽんっと膝を叩いて
「あ、それはいい人を選んだね」
と喜んでくれたのではないかと思います。

今回の伊丹十三賞を、
小池さんの数々の輝かしい業績に対してだけでなく、
その輝かしい笑顔にも贈りたいと思います。

今後のますますのご活躍に期待して、
いつまでもお元気で、
僕たちの見上げる存在でいてくださるよう
小池さんにお願いして、
この祝辞を締めくくりたいと思います。

小池さん、この度は誠におめでとうございます」

つぎに、平松洋子さんより
記念の盾の贈呈がありました。

つづけて、宮本信子館長より副賞の贈呈です。

そして、小池一子さんより
受賞者のことばをお話しいただきました。

小池一子さん
「この賞のお知らせをいただいたときに、
まず、審査員の方たちのお顔を
はっきりと思い浮かべました。
それから、続けてきた仕事。
あっという間に半世紀以上経ってしまったんですけれども、
一緒に仕事をしてきた人たちの顔。
それがいま、わぁっと浮かんできて。
しばらく呆然とした時間がありました。

みなさんへの感謝は本当に表現しきれないくらい、
これまでも、いまも、
いろんな時間を過ごさせていただいています。

私は子どものとき『自分は絵が描けない』という
トラウマを持った子だったんです。
姉たちはすごくうまく描けるのに、
私は自分でうまいと思えるような絵が描けない。
でも、絵とかアートとかデザインとかのビジュアルな表現、
芸術のすごいものとかには憧れていました。

中学のとき、素敵な日本画の先生がいらして、
その方とお話をするのがすごく好きだったんです。
みんなは絵を描いてるんだけど、私は描かないでいて。
先生もよく話してくださって、
『うんうん』って返事をしてくださるし。

あるとき、明治神宮に
素晴らしい菖蒲が咲きそうだったから、
『みんなでスケッチ旅行にいきたいんですけど』
って先生に言ったら、
『いいんじゃない?』っておっしゃって、
スケッチ旅行を企画しました。

それで、女学校のみんなでスケッチをしたんです。
そのとき私はみんなの切符とかを用意したけど、
絵は描けなかった。

でも、期末の成績簿の美術の項目には『5』って。
『わぁ!』って思いました。
私は、憧れてる世界に
私なりのアプローチをしてもいいってことかなって。

憧れてるものに近づく方法っていうのは
色々あるんだなと思いました。

アーティスト、アートディレクター、デザイナー。
ビジュアル表現をなさる方への憧れは、
もう、世界中で自分が一番強いと思うんです。
そういう方たちと仕事ができたことが、
ここまで来れたひとつの理由だと思います。

アーティストやデザイナーが太陽だとしたら、
私は昼間の空に白く浮かぶ月みたいなものだな、
なんて思っています。

ただ、太陽はひとりぼっちです。
月は星が周りにいっぱいいるんですよね。
私は月もいいなぁ、なんて思っています。

私のまわりの星の何人かの方たち。
まだ一緒に仕事をしている人たち。
みんなここに来てくださって、本当にありがたいです。
支えていただいてありがとうございました。

‥‥と、ここまでは紙に書いてあるんです。

控室で平松洋子さんとお話ししているとき、
この服の話になりまして。

黒は、私の太陽だった
三宅一生さんが亡くなってしまったことへの
喪の意味もあるんです。

コロナで人と会えなくなって、
三宅さんとも電話で話すばかりで。
だから、他界されたっていう実感があんまりないんです。
いまも地上のどこかにいる気がするから、
『また電話で話すよ』なんて
思うようにしているんですけど。

この服は、
三宅一生さんのところの
一番若手のチームの方たちがくれた
素敵な贈り物なんです。
この前のコレクションで発表されたもので、
セパレーツだから下にジーンズを履いてもいいんですよ。

いま、ちょっと思い出したんですけど。

私の大好きなSFの作家のカート・ヴォネガットが、
東京アートディレクターズクラブの招待で
日本に来たことがあります。

そしたら彼は、
大きな声で天に向かって言ったんです。

『お父さん!
 僕は日本のデザイナーたちに招かれて、
 東京まで来ちゃったよ!』

だから私もちょっと、
そんな風に天に向かって。

『一生さん! 
 こんなに若い人たちの仕事を
 残していただいているから、私は大丈夫!』

ということを言いたいなあ、なんて思いました。

本当にありがとうございました。
言葉が足りないくらいです」

さいごに、宮本信子館長から
ごあいさつです。

宮本信子さん
「小池さん、本当におめでとうございます。

昔々『感性時代』という雑誌で、
伊丹さんと小池さんが対談をしていらっしゃって。
先日それを読ませていただいたら、
丁々発止、打てば響く、そういう対談で。

ふたりの楽しい会話がすごいリズムをつくっていて、
うわぁ、すごいなぁ! って、感動しました。
それは、私としては本当にうれしかったです。

小池さん、これからもどうぞお身体を大切になさって、
そして、もっともっと、月に向かって活躍していただいて、
私たちを導いていただけたら、
どんなにいいことだろうと思っております。

本当に今日はおめでとうございます!」

式の終わりには、
来場したみなさんと記念写真を撮影をしました。

小池さんや審査委員のみなさんの笑顔に溢れ、
こちらもうれしい気持ちになるような、
あたたかい贈呈式となりました。

小池一子さん、
あらためて受賞おめでとうございます。

ちなみに「ほぼ日」では先日、
「ほぼ日の學校」で
小池一子さんの授業を公開したばかりです。

糸井重里とほぼ日の乗組員たちで展覧会にうかがい、
いろんなお話を聞かせていただきました。
やさしい笑顔と迷いのない言葉で、
いい仕事とはなにか、若い世代に対して
どんなことを思うかなどを教えてくださいました。
そっと背中を押してくれるような言葉がたくさんあります。
よければどうぞ、ご覧ください。

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