わがほぼ日刊イトイ新聞が誇る
私大難関大学院卒の
奥野武範先生が
やってまいりました。
忙しいとこ、夏休みの
勉強の悩みにつきあわせてすみません。

「２時間でしょ？」

さすが先生、コマ数的考え方ですね。

わがほぼ日刊イトイ新聞の
知り合いの中で
もっとも学歴のいいすばらしい方、
マガジンハウスにお勤めの
中西剛先生がいらっしゃいました。
いそがしいとこ、
夏休みの勉強の悩みに
つきあわせてすみません。

「息子さんを５年預けてくれれば
　必ず東大に入れてみせます」

と言ってくれているのですが、
中西先生に５年も預ける気はありません、
という素敵でかわいい先生です。

おふたりの先生の得意教科は
国語、ということで
さらりと国語の問題プリントを置いておきました。

そしたら、やっぱり
読んでる読んでる。

「むずかしいですね」

「空欄にあてはまる接続詞、
　ぼくの考えたものが選択肢に
　まず、ない」

大丈夫ですか、先生方。
中１の問題です。

先生方のお名前、
おふたりとも強そうですね。
学歴同様強そうですね。
プロレスに出られてもいいような
強い漢字ですね。
ご両親の願いが
込められている気がします。
名前からIQがあがるのかも
しれないなぁ！

ここで、あるお母さまからの
ご相談をいただきました。
題目は夏休みの宿題
「林間学校の思い出」です。

この作文の特徴としては
・起きた出来事を
　箇条書きにしている
・それぞれについてあまり掘り下げず
　順番に起こった出来事を書いて
　「すごかった」「びっくりした」
　というざっくりした感想でとどまっている
・誤字脱字多発

読みごたえが、まったくありません。

すみません、相談者は
わたくしスガノです。

子どもの作文がいつも
「すごいと思いました」
「これからもがんばりたいと思います」
のパターンなので
いかがなものか、と。

もっとひろがりや深みのある
文章を書くには
どうしたらいいでしょう。

奥野先生
「この、はんごうすいはんを
　スマートフォンで
　調べてあげましょう。
　あ、飯ではさむんですね。
　飯盒炊飯です」

中西先生
「奥野さん、何か
　根本的なところを
　間違っていませんか」

間違っておられます。
よくそれで早稲田政経大学院を。

ふたり
「‥‥‥‥‥‥‥‥」

奥野先生
「はんごうすいさん、っていうのか。
　おれははじめて知りました」

中西先生
「爨って真っ黒じゃないですか、
　スマートフォンで見ると。
　書けなくていいです」

奥野先生
「黒いのは、ひらがなで」

「ま、飯盒炊爨はいいとして、
　本気のことを言っても
　いいですか」

お願いします。

奥野先生は語ります。

「ぼくがちゃんとしたものを書けたのは
　高３のとき。
　それまではひとつもありませんでした。
　それまでは起承転結にのっとった
　型にはまったものを書いていました。
　
　高３のそれは、読書感想文だったのですが、
　はじめておもしろいな、と思うものを
　書くことができたのです。
　
　まず、課題図書がおもしろかったんです。
　その本をおもしろいなと思って
　わくわくして書いたら
　書いたぼくもおもしろくて
　それを読んだ人もおもしろくて
　賞をもらいました。
　そうなったのは高３なので、
　そこまでは、変にテクニックを学ぶより
　熱い想いだけが書いてあれば
　いいんじゃないでしょうか。
　
　この作文は箇条書きになっていて
　読みやすいので
　彼はビジネスマンに向いてますよ」

なるほど。

さて、質問がまいりました。
さっそく、中西先生と奥野先生に
答えていただきましょう。

---------
うちの小学生の息子のことです
どうやっても「漢字」が苦手

意味はだいたい理解できているようですが
テストになると、
読みはテキトウに思いついたとおり読み
書きはなんとなくこんな形だったかな？
と書く

ついでに、字を書くことをとても面倒がります。
なので、字はとっても汚いです。

どうやったら「書くこと」、
そして「漢字」を好きになってもらえるでしょう
もう何年も母悩んでいます。
---------

先生、どうでしょう？
先生たちはもう、漢字とかバリバリと
スラスラとおぼえちゃったりしたんですかね。

「ぼくの場合は、『野球』です。」
と、中西先生。

おっしゃっている意味がよくわかりませんが。

「すきな野球選手の名前は
　覚えるでしょ？
　篠塚とか。それで。」

はあ。そうすると、漢字の種類が
限定されませんかね‥‥。

「書き順が重要だと思うんですよ。」

はあ。書き順。
「漢字の書き順って、理にかなっているんですよ。
　すごく。
　だから、そのとおりに書いていくと、
　すげえ気持ちいいんですよ。」

お続けください。

「僕、とあるパン屋さんの工場で、
　バナナを延々とケーキのうえに載せる
　というバイトをしたことがあるんですけど、
　単純作業ってそのなかでも、
　工夫をしてうまくなっていったりして、
　恍惚感が出てくるじゃないですか。」

お続けください。

「漢字の書きとりも、そういう感じですよ。
　その行為が好きっていうところに
　持っていくという感じです。」

な、なかなか、マニアックなことを
おっしゃっているような。

「ともかくね、好きな事をからめるとか、
　その行為自体が好きとか、
　そういう気持ちが大切だと思いますよ。」

と、両先生はおっしゃるのです。

中西先生と奥野先生。
スガノさんがもってきた
現国の問題集の1問を解いてみることに。

「基本的に、問題文がつまらないと
　やるきがわかないですよね。」

ものすごい根本的なことを
おっしゃいますね。

「そうそう、僕の経験からすると、
　10文字以内で書きなさいというものは、
　10文字のことが多いです。
　文字数が増えるとその限りではないですが。
　ま、あくまでも経験則ですけど。」

まさに、それは受験テクニック！
中西先生はほかにはないですか？

「簡単な問題から解いていってください。
　選択肢があるやつが最初。
　そのあとが『抜き出せ』です。
　問題文のなかにかならず
　抜き出す場所があるんだから、
　さがせばいいんです。」

さがせばいい‥‥。

「あと、選択肢は、
　まずは、
　一番長いのと短いのを捨ててください。
　これは、スガノさんの息子さんの
　受験の時にも申しましたけど。」

ザ・テクニックですね。

「あと、テストの時は、
　文章はあとで読みなさい、
　というふうに言われましたよね。」

「そうそうそう、思い出しました。
　いま、すっかりそれをわすれてたけど、
　当時は、問題文から読めと
　いわれていましたね。」

ああ、自分が受験生のときに
それ、ききたかったっす。
まじめに解いていました。現国。

文系の中西先生、奥野先生にききたい
相談にのってほしい方から、
メールきましたよ。

ーーーーーー
早速ご相談ですが、
我が家の中学一年生男子が、
ほとんど本を読まないのです。
ゲームやアニメばかりで、
本はよほど面白いと思わないと、
面倒くさがって読みません。
本を読まないので、言葉も知らないし、
モノを考えませんし、
作文は小学生みたいで、大変案じています。
こんな息子に、親として、
何かできることはあるでしょうか？

（悩める母より）
ーーーーーー

「ぶっちゃけ、僕は中学校のときには、
　本は読んでいません。」
と、奥野先生。

「僕も、中学校も高校も
　大学になっても
　本を読んでいません。」
と、中西先生。

「僕の中学の時代は、
　バンドブームでして、
　CD聴くのにいそがしくて、
　本を読む時間は無かったです。」

まじっすか。

「あ、でもオヤジが
　スポーツ紙とってて、
　それを熟読していました。
　文字にふれるなら、
　べつになんでもいいんじゃないですか？
　本じゃなくても。
　マンガもいいと思いますよ。
　１冊本をよむほどに、
　中学生にこらえ性があるとも思えないし。」

先生、ぶっちぎりで
相談してくださった方のお役にたっているか
さっぱりわからないような発言が‥‥。

「あ、軽いやつは読めたかなあ。
　星新一とか？」

だそうです。

みなさまからご質問が届いています。

ーーーーーーー
子どもが机に向かうと
すぐに眠くなるようです。
勉強をやる気にさせるには
どうすればいいですか？
ーーーーーーー

ふたりの先生
「これは永遠の課題ですね」

中西先生
「‥‥ほめごろし、しか
　ないんじゃないでしょうか。
　“机に向かってる、
　集中しているときの顔が
　いちばんかっこいいね”
　これでしょう。
　人間の、負けず嫌いという
　特徴を利用しましょう」

奥野先生
「ぼくは、勉強は
　まずしなかったので」

そうなんですか。

奥野先生
「高３の春休みまで、しませんでした。
　親に勉強をしろと言われたことは
　ありません。
　でも、テスト前はやばいなと思って
　やりましたよ。
　テスト前に、できないのはヤだな、と
　本人が思えばいいんじゃないでしょうか」

うしろはゲームで
盛り上がっているのに
我々は地味に勉強の話を
しております。

で、奥野先生。
高３まで勉強しなかった
ということは、
私大難関に入るには
どうやって勉強したのですが？

奥野先生
「起きてるときは
　やってたな」

名言出ました。
起きてるときはやってた。

「そうしないと間に合わなかったので。
　高２の秋の模試で
　自分の位置がわかりまして、
　そこから、計画を立てました。
　人生１度きりです、
　あんなに計画を立てたのは」

奥野先生はこう話します。
「日本史がいちばんわかりやすいので
　それで説明します。
　日本史は、半年で覚えきらなくては
　いけなかった。
　ですから、山川の『日本史』の
　ページ数で６で割る。
　それを絨毯爆撃的に覚えていきました。
　同様に各教科で爆撃をしかけました。
　効率が悪いのでおすすめはできません」

中西先生
「予備校は行きましたか？」

奥野先生
「いえ、家が田舎すぎて無理でした。
　予備校に行くのに２時間かかりましたので」

中西先生
「ぼくも予備校には行かなかったのですが
　夏期講習とか、短いやつに行くだけでも
　出そうなところを教えてもらえるので
　いいですよ」

奥野先生
「白地図を塗れるだけ塗る。
　知らないことを少なくすれば
　受かるだろう、ということです。
　もはや、そんなことは
　いまのぼくにはできないでしょう」

奥野先生の絨毯爆撃的勉強は
かなり時間がかかりますし
この根気というのは
どこからどうやって‥‥？

「当時の彼女がお兄さんを大好きな
　お兄さんっ子だったんですよ。
　その方が早稲田政経に入りました。
　負けたくなかった。
　結局勝てなかったのですが、
　勝てないまでも並ぶことができました」

中西先生は？

中西先生
「ぼくは、高校は寮に入っていまして
　厳しい環境におりました。
　親に、現役で受かったら
　ひとり暮らしをさせてやる、
　と言われてがんばりました。
　最後は、にんじんです。
　にんじんは出し続けると
　効かなくなるのですが
　それでも、自分からほしいものがあって
　それを提示されると人は走ります」

奥野先生
「自分のほしいものがある、
　というところが大事ですね」

　

中西先生
「ぼくはとにかく寮で
　やらざるを得ない状況にいました。
　中高は勉強しかすることがなかった。
　門限が６時で、飯と風呂が６：３０、
　そこからずっと勉強です。
　でも、奥野さんはちがう。
　ぼくも共学に通って
　タッチみたいなことをしたかったです」

奥野先生
「ぼくも男子校でした」

中西先生
「さっき彼女がいたって
　言ってたたじゃないですか。
　意味が違うんです！
　ぼくは真の男子校です。
　女性の姿はいっさい見ませんでした。
　見るのは50歳以上の女の人です。
　真面目な話ですが
　食堂のおばちゃんに中学生が
　本気でラブレターを書いていました」

奥野先生
「ぼくは親がほっといてくれて
　できたタイプです。
　やれって言われたことは
　誰でもいやになりますよ。
　だからやべぇと思ってできたんですね」

読者のみなさまより
メールをいただきました。

ーーーーーー
国語が苦手です。
大学受験に向け、
現代国語、古典が
ネックになっています。

苦手な国語を克服したい。
先生、光明を！！
ーーーーーー

中西先生
「国語の質問が多いですねー。
　まずはお答えしやすい古文から。
　
　ぼくは古文については
　マンガでストーリーを覚えました。
　そうそう、『あさきゆめみし』とかね。
　漢文も、『三国志』のマンガで
　その世界について興味を覚えました」

奥野先生
「ストーリーがわかれば、
　なんとかなりますからね。
　古文は完全に外国語だと思って
　単語と文法を学習するのがいいのでは。
　特に初見の文は語彙力が勝負です。
　外国語だと思ってとりくみましょう」

それで、問題は
現代国語ですよ。

奥野先生
「そうなんですよ。
　国語は大海原です。
　何と答えればいいのか‥‥
　まずはマンガを読め」

またマンガですか。

奥野先生
「ゼロよりいいでしょう。
　ゼロより0.1、
　多少は足しになる」

急に答えが頼りなくなってきましたね。

中西先生
「交換日記は？」

奥野先生
「交換日記はいいですね」

やってたんですか？

奥野先生
「やってないけど、やりたい」

願望は聞いてません。

中西先生
「ブログを書くのは？」

奥野先生
「いいですね」

中西先生
「ぼくは、毎日４行日記書いてますよ」

見せてください。
‥‥‥‥‥怖い。

中西先生
「これを読み返したりして、
　今日ここに来るときも
　去年の今日何をやってたかな、
　とか思ってね（にやにや）」

怖い。
（みなさん、２枚目と３枚目の写真を
　参照してください）

中西先生
「国語はね、問題文がすべてなんですよ。
　この紙のなかにこたえがすべてあります。
　逆にいえば、まぁ『ここだけかい』。
　そこを執念深くやればいい」

奥野先生
「国語の問題は
　意地悪だよ、って思ってればいい。
　意地が悪いです、現代文は。
　ひっかけようとしてますから。
　慣れる、解きまくる。
　それがいいでしょう」

中西先生
「ですから、
　はいはいはい、例のやつね、
　そのパターン知ってます、
　というところまでいきましょう。
　くじけさせるトラップが
　かずかず用意してありますからね。
　とにかく、国語は執念です」

執念です。

ちなみに、国語力を上げるには
新聞の社説を読むといいと
よく聞きますが、
ふたりとも社説は読んでないそうです。

国語の質問が多いのですが
ふたりの得意科目は英語だそうです。
英語の質問が来ましたよ。

ーーーーー
英語が苦手で
伸び悩んでいます。
なかなか覚えられません。
ーーーーー

中西先生（すばやく）
「英語は単語！
　ぜったいそう」

どうやって単語を覚えればいいのですか。

「毎日テストして覚えます。
　ひたすら覚えてくりかえします。
　単語にも例文にも
　ルールがあるのですが、
　まずはまるっと覚えましょう。
　いっぱい覚えていくと
　おのずとルールがわかってきます。
　それは英語の地力になります。
　
　たとえば、こちらのメールの誤解答に
　“Do you a doctor？”とありますが、
　正味の話、doctorがわかっていればいいんです！
　doctorが出てくれば通じる。
　doctorがわかってなければ
　Are youもDo youも意味を成さない」

英語は単語！

最後に、奥野先生の
びっくりな青春の日々を
お伝えいたします。

奥野先生
「そうです、中西さんの仰るとおり
　英語は単語です。
　ぼくは、高３のとき
　毎朝、旺文社『ターゲット1900』
　『熟語1400』『豆単』
　この３冊を
　朝起きて毎日全部読んでました。
（答えを隠して答えながら読む）」

毎日、全部？　３冊。

「はい。３時間くらいかかります。
　そこから階段を降りて
　めしです。
　９時になってます
　完全に遅刻です」

中西先生
「すごい集中力ですね」

奥野先生
「だからいまは集中力が
　ゼロになってしまいました。
　会議中に手遊びをして
　叱られる日々です。
（スガノ註：ホントです）
　いま、あのときの力を
　取り戻したい気持ちでいっぱいです」

素晴らしいお話をありがとうございました。

中西先生。

東大入って１年目で
塾講師の試験に落とされた
中西先生。
ひらがなを教える塾で
２歳の女の子に
指を刺されて泣きじゃくられた
中西先生。
ありがとうございました。
あなたに息子は預けません。
あの青春があって
いまの先生があります。
いそがしいお時間に
ほんとうにありがとうございました。
次号の「BRUTUS」を楽しみにしています。
尊敬しています。ほんとですよ。

奥野先生。

これまでよく知らずに同僚でいた
奥野先生。
あんなにすごい集中力で
高３の１年間をすごされていたとは
知りませんでした。
いま、会議で落書きをしている
奥野先生を叱るばかりの日々です。
とんでもない底抜けのおもしろさです。
あなたが「ほぼ日」に
いてくれてよかった。宝です。
ありがとうございました。