さてお次は、ほぼ日の服関係全般を
担当するにご登場いただきます。
ぼくは以前から、このハリさん、
いや「ハリ先生」をとても尊敬しています。
その理由は「ハリ先生が理系だから」です。
しかも
「大阪大学工学部」という難関大学の出身。
私事で恐縮ですが、わたくし、
高校時代、理系のクラスを選んだのに
物理と数学ができず、
けっきょく大学は文系に行ったという
「理系くずれ」なこともあって
物理や数学や
ドップラー効果やサインやコサインを
理解できる人に
無条件のリスペクトを抱いてしまうのです。
そんなわけで、さっそく
インタビューを進めてまいりましょう。
テーマはもちろん「理系」であります。
それではさっそく、
お話をうかがっていきましょう。
ぼくは高校時代に
物理と数学に挫折したので聞きたいのですが
ハリ先生は、
つまり、あのなんだかわけわからん教科が
お得意だったということですね。
「いや、はじめ、数学は駄目でした。
あんまり駄目なので
近所に頭のいいお兄ちゃんがいるので
見てもらえと、親に言われて。
そのかたは、京都大学医学部にかよう、
コバタさんというかたで」
ははあ。
そのかたに教わって、できるように?
「そうですね、
教えかたもわかりやすかったんですが
なんといっても、カッコ良かった」
‥‥カッコ良い?
「まず、コバタさんはいつも、
ものすご〜く先の尖ったエンピツを
5〜6本、持っているんです。
ナイフで削っていたのだと思うんですが
『円錐』の部分が、
ふつうのエンピツの2倍くらいあって。
で、そのエンピツで
難しい数式を解いていくんですが‥‥
証明終わりのマーク、あるでしょう?」
へ? なんですかそれ。
「あるんですよ。
黒い四角(■)のマークなんですけど
証明が終わったときに、
その四角を
その尖ったエンピツでチョチョッと書く。
その仕草が、ものすごくカッコ良かった」
ははあ。
「そうですね、あれは、
一種の『スタイル』に憧れたと言っても
いいかもしれない‥‥。
ぼくも、あんな尖ったエンピツで
難しい証明問題を解きたいと思ったんです」
‥‥数式の解きっぷりに魅せられた。
「もちろん、証明問題の解法そのものも
すごくエレガントでした。
あんなふうに数学を解ける人になりたい。
そう思って、がんばったんです」
ハリ先生は
「近所のカッコイイお兄さん」に憧れて
数学ができるようになったと。
それじゃあ、物理は?
「そもそもは‥‥中学のときに」
それ、まだ、物理やってない時代ですよね。
「ブルーバックスという
科学の入門書的なシリーズがありますが
あのなかに
都筑卓司さんという先生が書いた
『はたして空間は曲がっているか』
という本があります。
で、その内容に衝撃を受けたんですよ」
はー‥‥どんな衝撃を?
「なにしろ、その本の結論が
『曲がっている』だったんですよ!
衝撃じゃないですか?
だって、僕らの住んでるこの空間が
『曲がっている』っていうんだから」
うん、たしかに。
「まだ中学生でしたから、
むずかしい理論とかはわからなかったけど
でも、そういうことがわかりたいと
とても強く思いました。
憧れたんですよ、わかる人たちに。
そんなきっかけで
物理のことが好きになっていきました。
で、好きになってしまえば、
あるていどは、わかる‥‥とういか
わかるまで、やめないじゃないですか」
好きだから。
「そう」
ちなみにですがハリ先生、
高校時代って、何部だったんですか?
「中学から6年間、卓球部でした。
世界チャンプにもなった
ニッポンの河野満選手に、すごく憧れてね。
プレースタイルも
河野選手の『前陣速攻型』にしたり、
河野選手のラケットの写真を
ためつすがめつ、えんえん眺めたり‥‥。
そんな6年間でした」
卓球とは、意外ですね。
でも現役で阪大の工学部に入るからには
受験勉強もしてたんですよね?
物理も数学も、好きで得意だったわけですし。
「いや、僕はデザイナーになりたくて。
デザイナーに憧れてたんです。
将来はきっとデザイナーになるんだろうな、
くらいに思っていました。
でも、高校3年生に上がってから
美大の受験には
デッサンがあるということ知ったんです。
そんな練習、してなかったんです」
まずいじゃないですか。
「だから、そのことを知ったとたんに
すてばちな気分になりました。
無理じゃん、と。
そこで、毎日毎日、放課後になったら
友だち数人と集まって
エポック社の電動野球盤に耽りました」
それは‥‥逃避行動?
「いま思えば、完全にそうです」
では、どうやってそこから阪大へ?
「将来はデザイナーだと思っていたのに
美大は難しそう。
では、どこの大学なら入れるんだろう‥‥と
自分の成績をよく分析してみたら
ひねった問題は解けないんですけど、
基礎的なことは、
わかっていたみたいなんです。
そこで、あれもこれもと欲張らずに
教科書を中心に勉強しました。
物理や数学が
もともと好きだったってこともあるし
運も良かったんだと思うんですが
なんとか大阪大学工学部の環境工学科に
合格することが出来ました」
ハリ先生の「憧れ力」が役だったわけですね。
でも「環境工学科」とは、なぜその学科に?
「当時、ロキシー・ミュージックの
ブライアン・イーノなどが
環境音楽というジャンルをやっていて
すごく新しく見えて、好きだったんです。
環境音楽というのは
たとえば空港に流したらマッチする音楽、
みたいなものですが、
つまり、作者のメッセージが前に出るより
ある空間のためにつくる音楽です」
はあ。ここでも「好き」がきっかけですか。
「環境工学部ってどんなことをやってるのか
ぜんぜん知りませんでしたが、
そういう、自分じゃなくて空間のために‥‥
みたいな新しい考えかたに
触れられるかもしれないなあと思って」
なるほど。「環境」とついてれば。
「あとはまあ、他の学科に
ピンとこなかったというのもあります。
『冶金』みたいな学科もあったんですが
本当はぜんぜん違うんでしょうけど
当時の僕には
完全に鍛冶屋のイメージしか沸かなくて」
ハリ先生、ひとつ質問なのですが、
こんなこと聞いても
仕方ないかなとは思うんですが、
ぼく、数学の問題を解くとか、
何がおもしろいんだか
まったくわからなかったんです。
ハリ先生は、あの単純な計算問題なども
「ああ、おもしろい」と‥‥?
「いや」
おもしろくない?
「先ほど、都築卓司さんの
『はたして空間は曲がっているか』に
衝撃を受けたと言いましたが‥‥」
はい、聞きました。
「だって、空間は曲がっているんですよ?
そんな話にくらべたら、
教科書に書いてある計算の問題なんて
まるで『屁』のように感じました」
教科書は、屁‥‥。
「ですから、
都築先生の考えてることのレベルに
達するためには
こんな、問1とか問2みたいな
つまんないところで
つっかかっているわけにはいかない。
そう思って、
どんどん先に進んでいったんです。
そういうところは、ありましたね」
なるほど‥‥。
それではそろそろ、
読者のみなさんからの質問コーナーに
参りたいと思います。
理系の質問が来ているので
いくつか、お答えいただきましょう。
────────────────────
センター試験で、
理系の教科を伸ばすコツはありますか?
(匿名希望)
───────────────────
「これは、具体的に切羽詰まっていた
僕がやったことなんですけど
やはり、あれこれ手を出さずに
教科書をちゃんと勉強する。
これに、尽きるのではないでしょうか。
基本のところを押さえておけば
なんとかなる問題って、案外あります。
そのあと、難しすぎない問題集を
一冊とおして、最後まで解いてみるんです。
そして、解き終えたら、
もういちど、最初からやってみる。
基礎が身につきますし、
これだけはやったという自信にもなるし」
なるほど。
「ああ、目の前には
大海原が広がってるなあと思っちゃうと
不安な気持ちになりますよね。
でも、ひとつこれと決めて
それだけはやったと思うことができれば
大海原だって、意外に何とかなるかもと
思えるんじゃないでしょうか」
────────────────────
高1の女子です。
数学嫌いではないのに、数学ができません
(点数が‥‥)
親からもから「数学嫌いでしょ?」と
言われ続けています。
どうしたら数学と
うまく付きあっていけるのでしょうか。
また、点数が悪いので
行きたいと思っていた理系に進むことも
止められています。
夢ももういっそ諦めるしかないのかな、
とも思います‥‥
どうすりゃいいんでしょうか?
───────────────────
「難しい問題ですが、自分の経験からして
『嫌いではない』という部分を
『好き』にまでもっていけたら
きっとわかるようになるし、
テストの点数も上がってくると思います。
なので、こういうのは、どうでしょうか。
数学の分野には
何人もの数学者が360年もかけて解いた
フェルマーの定理とか
おもしろい話が、たくさんあるんです。
そういう物語や
数学に関する読み物をもっと知って、
自分の中の『好き度』を上げていくんです。
教科書の問題を解くより
回り道になるような気がするかも
しれませんけど
でも、自分の中の『好き度』を上げていけば
きっと、成績も上がると思う。
好きこそものの上手なれと昔から言いますし」
ハリ先生のお話を聞いていると
要所要所を
「何かに、強烈に憧れる力」で
突破してきている、
そのような感じがいたします。
そう、こんなことも言っておられました。
「好きになれたら、
そのことにたいして根気が出てくる。
好きになれないのに、
問題集を解こうとしたって続かない。
だから、まずは
何が好きかを見つけるのがいいのでは
ないでしょうか。
そこがすべての出発点じゃないかなと
思います」
興味を持って「好き」になったものが
思いもかけないところで
ちょっと姿を変えて
「好きになってくれた人」を助けてくれる。
そんなふうに、思いました。
なお、ハリ先生の取材では、
他にも、おもしろい話がたくさん出て
「大学卒業までに8年かかった話」
とか
「民族舞踊を研究していた時期があり
コサックダンスも踊れた」
とか
「エッチな映画館を借りきって
フェリーニ映画の
自主配給をしていた時期がある」
とか
時間の関係で
残念ながら割愛させていただいた話が
たくさんあることを
ここにお知らせしておきますね。
ハリ先生、ありがとうございました!
たのしかったです。