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(第18回の3)
ゲームボーイアドバンス・デザイン座談会
その3 制約をクリアしたあと、ニコラさんの手に渡るまで。
任天堂の新作ハードウエア「ゲームボーイアドバンス」の
本体デザインにかかわった、任天堂の杉野さん、
キュリオシティのニコラさん、そしてdarlingらによる
“デザイン座談会”第3回です。
さまざまな可能性を討議して決定された
この「横型デザイン」ですが
じっさいにつくるためには、まだまだ越えなければならない
ハードルがあったようですよ。
社内デザインから、フランス人デザイナーの
ニコラさんに任せることになった経緯などをお届けします。
■出席者
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■グエナエル・ニコラ
フランス出身のデザイナー。デザインスタジオ「キュリオシティ」
http://www.curiosity.co.jp/
代表取締役。
イッセイミヤケの「プリーツプリーズ」のアートディレクションや、
「au」のロゴなども、氏の作品。
ゲームボーイアドバンスは、本体デザインを担当した。
■宮元玲子
デザインスタジオ「キュリオシティ」プロデューサー。
■杉野憲一
任天堂株式会社開発技術部デザイン担当。
ゲームボーイアドバンスの本体デザインの基礎をつくった。
■古庄伸
任天堂株式会社広報室企画部。
■倉恒良彰
任天堂株式会社広報室企画部。
■糸井重里
ほぼ日刊イトイ新聞編集長。
杉野:
ちょっと話しが前後してしまうんですけれど
ニコラさんが参加してくださったあとも
「あと0.5ミリのばさないと
(筐体にハードが)入らない!」
とかって、やってましたよね。
ニコラ:
これ全部スペックぎりぎりだった。
杉野:
ぎりぎりで、やってもらったんです。
ニコラ:
なかなか、形にならなかった。
糸井:
うーん。
ニコラ:
1ミリ1億出す、っていう話もありましたね。
宮元
(笑)。
杉野:
ああ、1ミリのばすと、必要なお金が
1億変わる、って言われていたんです。
糸井:
なるほど……
杉野:
回路を設計する人たちは、
「絶対0.5ミリ、のばさせない!」
いうてがんばってくれてるんですよ。
ぼくらの全然知らないところで
それをやっててくれて、
正直、もうええで、もうええから、
(サイズを)のばしましょか、
て思ったくらい(笑)。
それぐらい、すごかったですよ、回路設計。
それから機構設計の人達もそうでした。
僕はいまはハードデザインですけど、
回路設計や機構設計もかじってますんで、
わかるんですけど、
僕のレベルでは、無理ちゃうんかな、
っていうレベルのことを全部やってくれました。
で、電池の格納場所が決まって、
ある程度レイアウトは完成やと。
糸井:
そこから、お化粧ですよね。
杉野:
ディティールっていうとこに入っていきました。
糸井:
その段階で僕が、見せてもらったんですよね。
杉野:
そうですね。
倉恒:
それからがたいへんやった。
杉野:
ディティールをかなり検討して……
やっぱりしんどかったですね。
あの、一番最初の話しになりますけど、
横型ですから、何を描いていっても、
(ワンダー)スワンに見えるとか、
ネオジオポケットに見えるとか
っていうような意見は多かったですから。
倉恒:
うんうん。
杉野:
うーん。どうやって、
新しさっていうのを出していけばいいのか、
ていうのが、ほんと苦しかった。
今まで僕は、十何種類、
ハードデザインをやってきたんっですけど、
今まで、そんな期待されたことなかったんですよ。
今回のこの商品までは。
糸井:
うーん。
杉野:
ゲームボーイポケットも、ゲームボーイカラーも、
社内的にそんなに、期待されていなかったんです。
糸井:
できましたー、って言ったら、そうかー、
ってなもん?
杉野:
やっぱり、64とか、スーパーファミコンとか、
任天堂は家庭用が主力で来てましたから。
ポケットピカチュウも、売れましたけど、
作ってる時に、これがうちの主力だ、
みたいな話しなんて全然来なくて、
だから結構自分たちとしてはリラックスして(笑)。
ま、言い換えれば、
好きなようにやらせてもらっていた。
ゲームボーイカラーも、このデザインに関しては
(作ってる時に)クレームとか注文とか
なかったですから。
糸井:
レコードで言えばB面作ってたわけだ(笑)。
杉野:
そうです。ずーっと僕はまあ、
パリーグ…、いうたらアカンかな(笑)。
ところが今回のアドバンスになって、
いろいろな……
糸井:
巨人?(笑)
杉野:
会社の事情がからみまして(笑)。
いろんなところから、
これが会社の運命を握る、
みたいな話しが聞こえてくる。
だから今まで意見を言ってこなかった人達からも……
言い換えれば役員会に呼ばれたりとか(笑)。
糸井:
うわぁ。
杉野:
デザインを持って来いと(笑)。
その世界になって、だから外圧が
すごかったですね。
倉恒:
外圧?(笑) 社内やん!
杉野:
今までの僕からしたら外圧に感じたんですよ。
糸井:
その時代に、ある程度これかなっていうふうに
収まった段階で、みんなが、こう、
ほんとによくするにはどうしたらいいかって、
初めて仕上げのことを
考え始めたんですよね。
杉野:
そうですね。はい。
糸井:
で、僕、任天堂さんに呼ばれてった時に、
古庄さんが言ったのかな?
もう、理屈としてはこれで完全なんですよと。
これ以上やりようがないのはわかるんですけど、
このまんまじゃないような気もするんですよ、
って言って、見ますか、って言われて、見たんです。
まだ内部のスペックが
外付けで形があった時代ですよね。
で、しょうがないってことはわかるんだけど、
えーっと俺が言ったのは、
「何に似てる」だとか、
「あだ名がつけようがない」ものだっていうのが
すごく気になる、っていうことだった。
杉野:
糸井さんからのメール、転送されて来ましたから。
上司二人くらい経由して、僕のところに来ました(笑)。
糸井:
そうですか。
杉野:
あのー、ま、いろんな意見が出てる、
こういう話しある、で、お前どうする?
っていうふうに来まして(笑)。
で、どう思う? って。
さあ、そこからですよ。
糸井:
で、すぐにニコラさんに行く前に、
またねぇ、物語があるんだよね(笑)。
宮元
あと半年くらいかかっているんですよね。
杉野:
そう。ニコラさんに行くまでには。
糸井:
うん。で、今度は古庄さんたちに行くんだ。話しは。
倉恒:
そこからですよね。
古庄:
「なんとかしないといけないね」
っていうのがあったんですが、日程的に、
切羽詰ってたことは間違いない。
糸井:
あ、言われてた言われてた。
古庄:
それでまあ、次のことはかなり、時間もない、
どうしてくれんねやみたいなことになってて、
(笑)まあまあまあまあみたいな感じで。
でとりあえず、なんとかしないといけないと。
それで僕が中心になって、
デザインを、新たに考え始めたんです。
まず、このアドバンスを、最終的な形にまで
作ってもらうための
人を探しましょうということになりました。
それでまあいろいろな人を
探し始めたわけですけど、
なかなか、大巨匠とかね、
そんな時期だから、あんまりそんな人には
依頼できないだろうと。
基盤の制約もあって、もう自由が効かない状態なんで、
その中で一番いい人選ばないといけないっていうんで、
そこが一番苦労しましたね。
糸井:
思い出すねえ。
古庄:
すごくやる気があって、
将来性がある感性が切れてる人ていうのを、
選びましょうということになった。
ニコラさんの名前は、
何気なくデザインの本を読んでた時に
目にとまっていたんです。それにあとまあ何人か
いろいろとを選びまして、その中で
ニコラさんと、あともうひとりの人が…。
杉野:
最終的に10名ぐらいの中から2名選ばせてもらって。
倉恒:
その選考会には糸井さんにも入っていただいたんですよね。
古庄:
最終、その2人でいいでしょうということに
なって。
糸井:
「見たことあるようなすばらしいもの」じゃなくって、
「キャラクターがあるデザイナーとやりたい」
っていうことを僕は言ってた覚えがありますね。
だからいろんな見本のものを見せられた時に、
ああ、この人がデザインしたら
きっとこうなるんだろうなって予測のつくものは、
たとえそれがどんなによくっても、
あんまりうれしくないな、と。
だから「初めて見た」ようなものにしたいっていうので、
ニコラさんが急にいいんじゃないのって
みんな、一致し始めたんですよ。
これ(イッセイミヤケの香水
「ル・フードゥ・イッセイ」)、
見ましたよね。ニコラさんのデザインの、見本としてね。
古庄:
やっぱり、ゲームボーイに、
フランス人の感性が加わったらどうなるんだろう
っていう興味はすごくありました。
糸井:
「家電じゃないんだから」っていうのは、
強く言ってたことで、
これ自体に“おまじない性”がなければ
いけない、みたいな話しを軸にして、
よくできてるっていうところを越えた何か、が欲しかった。
でも、とりあえずあった形は理屈としては
これ以上直しようがないっていうところから
また行ったわけだから、
頼まれた人も相当苦しかったはずですよね。
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さまざまな制約がありながら
「キャラクターのあるデザイン」をする、
というのは、やっぱり、とてもたいへんなことなのだろうと
思います。そのなかで、ニコラさんがどう戦ったか、
次回はそのあたりのお話を中心にお届けします。
どうぞお楽しみに!
2001-01-26