Sponsored by Nintendo.
ロゴ
 
01 (第18回の5)
ゲームボーイアドバンス・デザイン座談会
その5 ニコラさんと、杉野さんの共同作業
 
イメージ 3月21日発売予定の任天堂の新作ハードウエア
「ゲームボーイアドバンス」。
本体のデザインにかかわったみなさんによる座談会を
お届けしています。
京都にいる任天堂社内デザイナーである杉野さんから
東京にいるフランス人デザイナーのニコラさんへと
バトンタッチされたGBAの本体デザイン。
じつは、完全に主導権を渡す、という方法ではなく、
二人によるコラボレーションともいえる方法で、
この本体デザインはできあがっていきました。
そのあたりのお話を、どうぞ。
 
■出席者
■グエナエル・ニコラ
フランス出身のデザイナー。デザインスタジオ「キュリオシティ」
http://www.curiosity.co.jp/ 代表取締役。
イッセイミヤケの「プリーツプリーズ」のアートディレクションや、
「au」のロゴなども、氏の作品。
ゲームボーイアドバンスは、本体デザインを担当した。

■宮元玲子
デザインスタジオ「キュリオシティ」プロデューサー。
■杉野憲一
任天堂株式会社開発技術部デザイン担当。
ゲームボーイアドバンスの本体デザインの基礎をつくった。

■古庄伸
任天堂株式会社広報室企画部。
■倉恒良彰
任天堂株式会社広報室企画部。
■糸井重里
ほぼ日刊イトイ新聞編集長。
 
イメージ
 
杉野:
例えばここにグリップがついたんですけれど、

 
糸井:
それいいよね。

 
杉野:
ニコラさんに言われるまでの僕の考えでは、
部品点数が多くなると値段が上がるってことだった(笑)。

 
倉恒:
そこなんですよね。やっぱり安く作らなきゃあ、
安く、安く、っていうところがありましたからね。

 
杉野:
いわば飾りの部品であって、
機能的にはいらないものですからね。
それをつけるのに僕は抵抗があるんですよね。
たとえ、それがデザインとしていいな、と思ったとしても。
デザインやってる中で、たとえば、
こんなガラスを使ったらおもしろいな
っていうような考えは絶えずあるんですよ。
あるんですけど、初期のスケッチで、
それは自分の中で削除していってた。
これは僕が言うべきではない、って。

 
糸井:
極端に言うと、部品の仕入れの値段まで
もうわかっちゃってるとこあるわけですよね。

 
イメージ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イメージ
杉野:
これで、うーん、2円30銭だ、とかね。

 
糸井:
それはだからもうデザインじゃないんですよね(笑)。

 
杉野:
それは本来僕が切り離しちゃいけないとこだったのかも
しれないんですけど、
インハウス(社内)のデザイナーとしては……。

 
糸井:
インハウスってそうですよね、必ず。

 
杉野:
インハウスデザイナーの宿命だと思うんですよ。
でそこで、ニコラさんと仕事を
させていただくことによって、
むしろデザイナーの感覚を、
目覚めさせてもらった、
ゆうところありましたね。

 
糸井:
逆に言うとニコラさんが、ただわがままというか
アーティストだからといって、
理由を説明するよりこのほうがいいんだ、
っていうようなことを押しつけてたら
杉野さんは納得できなかったよね。

 
ニコラ:
たぶん、これ全部、杉野さん、やりたかったんだけど、
ちょっと、でも、
その上にいっぱい「川」(自分ではどうしようもない流れ)、
あったから、わたしもうプール(その流れを止めて、
アイデアをたくわえること)
しかなかった。彼がやりたかったことを。

 
イメージ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イメージ
杉野:
いやいや(笑)。

 
ニコラ:
マジで。そうでしょ。ぼくなにもしてないよ。

 
杉野:
これで同じ年ですよ(笑)。

 
糸井:
ニコラさん大人だねえ!

 
(笑)
 
杉野:
これが日本人とフランス人の違いか(笑)。

 
糸井:
いま、口説かれてるみたいだったね(笑)。

 
ニコラ:
そんなことない!

 
糸井:
うんうん。だから……

 
ニコラ:
例えばね、みんな「薄く見せたい」わけでしょう。
でもボリューム、ちょっと重いかなー、
だからここ(横)に色があれば、薄く見えるとかね。
その時杉野さんと僕、同じ携帯電話を持ってた。

 
杉野:
そうですね。まったく同じ携帯電話を。

 
ニコラ:
それがヒントになった。

 
杉野:
二人で、「これやね」って、
二人で携帯持って話ししてたんです(笑)。

 
ニコラ:
杉野さんとは、すぐ、同じポイントで話しできましたね。
だから早かった。だからどうしようかなーってこと
あまりなかった。

 
イメージ
 
杉野:
そうですね、あの、ニコラさんとやって、
すごく早いレスポンスでものごとが決まるんですよ。
さっき言ったじゃないですか、東京で、
フランスの方だと、レスポンス悪くなるかなって
心配だったと。でも実際は、
逆に早かったですね(笑)。
「ニコラさんこれどうしよう」
「うん、いいよ」
「あそう」
って。
「僕こうなると思うから、
 こっちのほうが言いと思うけどどう思う?」
っていう、メールでやり取りをして。

 
糸井:
日本語で?

 
杉野:
ローマ字でね。

 
糸井:
ほう。

 
宮元
ローマ字の日本語でね。

 
ニコラ:
他の人がパッとみても、
誰にもわからない(笑)。

 
杉野:
「dodesyou?」(笑)って。
であとは、メールに添付されたイラストを
見て電話で話をして。
でまた宮元さんが間に入って、
僕の、ちょっと日本語で難しくなるようなところは
全部、解釈していただいて。

 

イメージ

糸井:
「ざっくばらん」みたいな(笑)。

 
宮元
そうですね、ざっくばらん(笑)。

 
杉野:
だからね、やってておもしろかったですね。

 
糸井:
二人でチームでやってたのは、
期間はどのくらいですか?

 
杉野:
や、そんなに長くないですよ。
3ヶ月くらいかな?

 
糸井:
へぇー。

 
ニコラ:
3ヶ月毎日メール来てた。

 
杉野:
ニコラさんがこうしたい、じゃ、
それを、イメージをもらって、
僕のほうで設計の人間と実現化するんです。
やばい、ここが入らない、って。

 
糸井:
うん。

 
イメージ
 
杉野:
ここのアール(曲線)、
これぐらい膨らますと思うけど、
どうしよう、っていう…。
で、すごく僕も楽でしたしね。

 
糸井:
ふーん。

 
杉野:
で、デザイナーってひとりで決めないと
ダメじゃないですか。
誰も相談相手がいないじゃないですか(笑)。
それをね、

 
糸井:
藤子不二雄みたいになれたわけだ(笑)。

 
古庄:
(ニコラさんには)ぜんぜんわかんないよね、
藤子不二雄(笑)。

 
宮元
わからないですよ、藤子不二雄は(笑)。

 
糸井:
あのー、二人でチームを組んでる漫画家がいたの。
兄弟…、あ、兄弟じゃなくて。
それは、個性は違うんだけど、二人の名前で
出してたの。

 
イメージ
 
杉野:
ドラえもん知ってる?

 
ニコラ:
ドラえもん!

 
杉野:
それを、作ってる人。

 
ニコラ:
前、フランス人のイラストレーター二人で、
一緒に同じ絵描く人いたけど、そういう感じ。

 
糸井:
最高のコラボレーションだったわけだ。

 
杉野:
そうですね。
で、京都に来ていただいて。

 
ニコラ:
遠かったね。

 
杉野:
遠かったですね(笑)。
で、展示会ではこのシルバーを出展することに
なったんですが、そのシルバーを
どういうシルバーにするかということで悩んで。
(編集部註:発売されるのは、ホワイト、バイオレット、
ミルキーブルーの3色に決定しました)

 
糸井:
うん。

 
杉野:
二人で会議室抜け出して、
悩みながら、駐車場歩いたんですよ。
で、「ゴルフかなー?」(笑)

 
ニコラ:
「アウディかなー?」(笑)

 
イメージ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イメージ
 
倉恒:
車やん!

 
ニコラ:
「トヨタじゃないよね」

 
杉野:
「このシルバーじゃないねー」、
「ホンダ、このシルバーも…」、
で、ゴルフが停まってて。ボックスワゴン。

 
ニコラ:
ん? アウディね。

 
糸井:
あ、アウディのシルバーだったね。

 
ニコラ:
そうそう。深い色だから。

 
杉野:
それが、とてもよかったんです。
で、これでいこうって、決まった。
たぶん、周りの人間、なにしてんねんと
思ったでしょうけど(笑)。
開発中のチップを持ちながら。
駐車場をうろうろ、人の車をじーっと覗きこんでね。

 
ニコラ:
一番楽しかったのは、すぐ、全部決められたこと。
普通ね、「じゃ、考えましょう」、それ多いでしょ。
次のミーティングまでに、
なんかいろいろ持って行って。
そうじゃなくて、ここで今、もう決めましょうって。

 
糸井:
二人でね。

 
ニコラ:
二人で。
それはよかったね。

 
糸井:
それさ、杉野さんにあった
“B面の伝統”がよかったんじゃない?

 

イメージ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イメージ

杉野:
B面(笑)。そうそう。
結構自分で決めれた。
でも、それも、任天堂だと思いますけどね。逆に言えば。
もっと大きな会社だったら、デザイン部もでかくて、
一人の意見で決められるなんてことはないでしょう。
うちの開発技術って、デザインに関する上司いないんですよ。
デザインで一番年上が僕なんです(笑)。
僕の直の上司は設計の課長で、
上に部長がいるんですが、
二人ともデザインに関しては……

 
糸井:
口出さない?

 
杉野:
口は、「僕はこうがいいと思うけど」とは
言いながらも、僕の意見を優先してくれるんですよ。
だから僕とニコラさんで決めたことで、
話しは進むんです。

 
ニコラ:
多分そうじゃなければ、できないですよ。
そんな短い時間で。
じゃちょっと聞いてみようとかだったら、
進めないですよね。

 
杉野:
あとまあ社長とかの一番高いとこに関しては、
古庄さんや倉恒さんに
先に押さえていただいてたんで、

 
古庄:
押さえて(笑)って。

 
糸井:
あばれ馬じゃないんだから(笑)。

 
杉野:
あの、押さえてっていうか(笑)。
まあこの方針で行くことで、大まかな方針は
もう了承もらってるじゃないですか。

 
糸井:
ネゴシエーションがしてあった。

 
杉野:
はい。だから、じゃ、やれるっていうとこが
ありましたね。

 
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 
デザインをほかのひとに渡す、ということについての
わだかまりも消え、チームとなった杉野さんとニコラさん。
次回は、デザインにかかわった「技術的なこと」についても
お聞きしていきます。どうぞお楽しみに!
 
  2001-2-9
 
back