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(第18回の7)
ゲームボーイアドバンス・デザイン座談会
その7 ハードウエアをデザインする、ということについて。
任天堂の新作ハードウエア
「ゲームボーイアドバンス」の
デザイン座談会、その7回目をお届けまします。
ハードウエアをデザインするということは
いったいどういうことなのか?
ニコラさん、杉野さんは
どんな気持ちでデザインをしたのかについて
お聞きしましたよ。
■出席者
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■グエナエル・ニコラ
フランス出身のデザイナー。デザインスタジオ「キュリオシティ」
http://www.curiosity.co.jp/
代表取締役。
イッセイミヤケの「プリーツプリーズ」のアートディレクションや、
「au」のロゴなども、氏の作品。
ゲームボーイアドバンスは、本体デザインを担当した。
■宮元玲子
デザインスタジオ「キュリオシティ」プロデューサー。
■杉野憲一
任天堂株式会社開発技術部デザイン担当。
ゲームボーイアドバンスの本体デザインの基礎をつくった。
■古庄伸
任天堂株式会社広報室企画部。
■倉恒良彰
任天堂株式会社広報室企画部。
■糸井重里
ほぼ日刊イトイ新聞編集長。
糸井:
工業製品のデザインって
どういう考え方がベースにあるのかっていうのを、
二人の意見、聞きたいです。
デザインする時に一番大事だと思うこと、
デザインってなあに?
何のためにするの? というようなこと。
真四角なもの売っちゃって別にいいわけだよね。
だけど、そのデザインが、
人になにを与えてるのっていうのを
考えてると思うんだよ、
デザイナーのひとたちは。
ニコラ:
たぶん、昔のデザインをそのまま、
機能をすばらしいものに変えただけで
マーケットに出しても大丈夫だけど、
(同じ機能のものが)今すごいいっぱいあるでしょ。
コンペティショナル(競争がはげしい)だから、
もう機能だけじゃ、選ばれない。
ソフト、どんなにすばらしくても、
ぱっと見た印象、大事です。
やっぱり携帯(電話)を買う時もそうでしょ。
機能的には同じだけど、
どうしてこれが出てくるの? ということ、
それ(デザインで選ばれる、ということ)も、
商品のパワーだね。
糸井:
商品のパワーそのもので。
ニコラ:
商品のパワー。そう思わない?
わたしたちが作った時、ちょうど、
タイランドに行きました。休みで。
ホテルのプールサイドに、
ゲームボーイで遊んでいる子供がいました。
びっくりした。
糸井:
へぇーっ。
ニコラ:
だからそういう時やっぱり、次の、
ゲームボーイアドバンス、
これは大事なものね、と思った。
糸井:
カッコイイのつくんなきゃあ! って。
ニコラ:
そうそうそう。
宮元:
そうですね。
ニコラ:
それから、ゲームボーイがあっての
ゲームボーイアドバンスだから、
同じもの作ると絶対ダメ。
この商品が出される世の中は
どういう世界になるのかとか、
子供に買うのだから、子供たちが、
どっかでデザインのことで勉強ができるとか……
ものの美しさとか、もののクオリティとか、
色とか、そういう勉強ね。
それも(デザインの)「力」ですね。
だからこのゲームのすばらしさだけじゃなくて、
どこまで安いものができるだとか、
子供が買う時、「わ、この色カワイイよね」
と言ってくれたら、それだけ、もう、サクセス。
糸井:
もともと考えてみれば、フランスって
ファッションがとっても大きな輸出産業じゃない。
でその意味では、ファッションて、
材質同じでも、デザイン変わったら
価値が変わるじゃない?
そういうところに育ってたっていうのは
やっぱり、大きい影響ありますかね。
ニコラ:
うん。
あと、まあ例えばこれ買う時って、
「ものが大事になる」って感じでしょ。
ソフトじゃなく、もの、だけ。
糸井:
あー。
ニコラ:
いま、ソフトすごいよね。
でも、あんまりハード買いたくない。
日本、そういうふうになってる。
外国とかね、ジャーマニーとか、
フランスもそうだけど、
もの自体がすごい大事になってるよ。
でもそれ日本で、あまりないよね。
この時代だから。
糸井:
うーん。
ニコラ:
どうでもいいでしょ、ハードって。
古庄:
すぐモデルチェンジする。
ニコラ:
それがちょっと、ちょっとやな感じ。
宮元:
だからその「もの」が、すごい大事だということを
デザインに反映させたかった。
ニコラ:
だから、シルバーのイメージもそうだけど、ちょっと、
なんか大事なもの、というふうにしたんです。
プラスチックの世界だけど、ね。
宮元
同じような発想で、
携帯電話もデザインしてるんです。
ニコラ:
例えばね、これ。最近デザインしました。
(写真を見せる。日本の携帯電話にはない印象のもの)
糸井:
携帯電話作ったんだ。
ニコラ:
うん。作った。
糸井:
これいいね。
ニコラ:
だけど、チャージャー(充電器)は、
今までの、びんぼ臭いよね。
糸井:
うんうん、チャージャーね。
ニコラ:
だけどこれは、
光と、チャージャー、同じ。ライト。
宮元:
照明にもなっているんです。
糸井:
ああ!
ニコラ:
照明。だからうちに帰って、
ぴっとチャージすると、照明にもなるの。
そうすると、その「もの」が、大事になるでしょ。
だからこの電話、使っていって、
「ちょっと古いけど、この携帯好きだから、
替えません」というふうになってほしい。
杉野:
デザイナーだなあ(笑)(笑)。
倉恒:
これいつ出るんですか?
宮元:
これはねえ、コンセプトなんですよ。
倉恒:
コンセプト。うんうん。
糸井:
まだ商品化されない?
ニコラ:
まだちょっと。
糸井:
されたいねえ。
糸井:
携帯じゃんじゃん出るけど、
買い替える気ないもんね。
杉野:
たしかに携帯電話おもしろくない…ですね。
糸井:
あのー、やっぱり便利のための道具だっていう
気持ちがまだあるから、携帯を愛せないよね。
しょうがないからストラップつけたりして
みんなが自分のキャラクターを足してるじゃない。
学生服と同じだと思わない?(笑)
学生服ってみんな同じで格好悪いけど、
なんか短くしたり長くしたり。
杉野:
ちょっと後ろに刺繍を入れたり。
衿を高くして(笑)。
糸井:
やっぱり制服で育ちすぎたっていうのは
結構大きいかもね。
宮元
それ、あるかもしれないですよね。
杉野:
カラーを取るのがファッションていうのも、
おかしな世界でしたけどね(笑)。
僕はデザインする時に、特にこれをやる時に
思ったのは、バランスですけどね。
糸井:
ふんふん。
杉野:
ニコラさんと違って
僕インハウス(社内デザイナー)ですから、
どうしてもその商品、
任天堂の商品としての作り方っていう
バランスを考えましたね。
だからよく言うのんですけど、
「コントローラーを作ってるんじゃない」。
コントローラーを作る、という発想なら、
例えばちょっとグリップつけたり、
大きくしても構わないし、
やっぱり十字キーはもっと大きくして、
ボタンも大きくして、持ちやすいものを、
となりますよね。
でもゲームボーイアドバンスは、
コントローラーに画面がついたものじゃなくて
やっぱりこれは携帯機だから
ちっちゃくないといけない。ちっちゃくて薄い、
持ち運びしやすいっていうのがポイントでしたね。
でも、それを裏返すと、やっぱり、
これはコントローラーなんですよ。
画面のついたコントローラー。
どちらもとれるんですよ。
画面のついたコントローラーでもあり、
小型の携帯機でもある、っていうそこをすごく、
ポイントにしましたね。
倉恒:
大きくして、持ちやすいコントローラーを
作ってるんじゃない、
でも、薄すぎると逆に使いにくい。
杉野:
例えばあの、電卓って一時期、
カードまでいきましたよね(笑)。
糸井:
いったねえ(笑)。
杉野:
で、あれって、名刺サイズにまでなって、
でも押しにくいかった。結局、
事務でみんな使うのは、いまや、
これぐらいでかい(システム手帳大)の
買ってきますよね。
もう、1センチ角ぐらいのボタンの。
でも、それをゲームボーイアドバンスに応用すると
携帯機じゃなくなってしまう。
っていうその、間を取る、
そのバランスですよね。
糸井:
ゲームソフト作ってる時もさ、
なんか新しい機能が付加されると、
それに合わせたアイデア考えたりするじゃない。
あれってやっぱり、ほんとは遅れてますよね。
杉野:
そうですね。それに合わせたっていうのも
ちょっとおかしいんでしょうけどね。
糸井:
うーん。
だから携帯にしても、入らない機能は
どんどんどんどんついてくじゃない?
なにが本当に一番その人の心に
お金を出させるところまで魅力あったんだろうって
考えたら、あれ今ある機能ほとんど
要らないですよね。
杉野:
ですね。まだ使いきれてないのに、
そろそろ買い替えようかなって
平気で思ってしまうでしょ? 新しいものに。
僕はもうそういうバランスとか、
やっぱり操作感とか、持った時の
感触とかっていうのをずーっとやっていきながら、
ニコラさんのファッション的な考えを取り入れたから
すごくいい感じで出来上がったんかなあという
気がしているんです。
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ニコラさんのデザイン観と
杉野さんのデザイン観、
どっちが欠けても、ゲームボーイアドバンスの
デザインは、できなかったんだなあ。
いよいよ3月21日の発売日まで
一ヶ月を切りました。
ますます、実際に手に持つ日が、
楽しみになってきたよ!!
2001-03-02