糸井 | 脚本は「あて書き」ですよね、当然。 ※あて書き=演じる役者の特性を想定して脚本を書くこと |
西川 | ぜんぜん違うんです。 |
糸井 | 違うんですか? それはまた、すごい(笑)。 |
西川 | 伊野の役は、標準語でセリフを書いてましたし。 「あて書き」というのを そもそもあんまりやらないんですよ。 |
糸井 | そうだったんですかぁ。 |
西川 | 最初は40代前半くらいの設定で書いてたんです。 まだ人生に迷いがあって、 あともう一回、軌道修正できるんじゃないか っていうような年齢の男性で書いてたんですよ。 標準語で書いてますから、 当然、鶴瓶さんのことは浮かばないんです。 で、誰にやってもらおうかと、 もう本当に、困って困って、困り果てたうえで 出されたキャスティングが‥‥ |
糸井 | 鶴瓶さん。 |
(C)2009『Dear Doctor』製作委員会 |
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西川 | そうですね。 |
糸井 | 鶴瓶さんとは『スジナシ』っていう テレビの番組ですこしお付き合いを 深めた覚えがあるんですけど、 あの人の芝居っていつでも、こう、 「悲しく悲しく」持ってくんですよね。 |
西川 | 『スジナシ』を見ていると、そうですね。 |
糸井 | そうなんですよ。 で、鼻にかかった泣き声になって 盛り上げを作るんですよ。 |
西川 | まったくそのとおり。 もう浮かびますもん、その芝居が今。 |
糸井 | 「こんなことになってもうて 俺かて困っとるやないか、解決できへんし」 っていう状況に持ってって、 相手によって、そこから変わっていくんですよ。 |
西川 | うん、うん、うん。 |
糸井 | だから、困ったら、泣き声になる。 |
西川 | (笑) |
糸井 | いつもそうなんです。 |
西川 | 本当そうですね、言われてみれば(笑)。 |
糸井 | いっつも、そう。 |
西川 | 確かに(笑)。 なんか、ものすごく困ってますよね、いつも。 |
糸井 | 困ってます。 それが鶴瓶さんにとっては いちばん安心できる場所なんでしょうね。 |
西川 | はい、はい。 |
糸井 | ぼくはそういう鶴瓶さんを見てたものだから、 「ずるいよ」っていうか、 「もうひとつメニュー出してよ」 という気持ちがずっとあったんです。 つまり、(明石家)さんまさんの要素だって 出せるはずなんで。 |
西川 | あー、そうですよね。 |
糸井 | 「悪いやつだ」と思われるくらいの 明るいやつ、みたいな。 それはぜったいにできるはずなのに。 |
西川 | はい。 |
糸井 | 実際、世間話のときにはやってるんですよ。 子どもの頃こんなに悪かった、みたいな話は。 |
西川 | そうなんだ(笑)。 |
糸井 | 「こいつ悪いな」ってところを持っているのに、 大勢の視線がワーッと注がれると、 かならず「悲しいところ」に行っちゃう。 「そんなんいうたかて、 しょうがないやないですかぁ」って。 |
西川 | (笑) |
糸井 | これは鶴瓶さん批判じゃなくてね(笑)。 実は、男はみんな、 そういうところがあるんですよ。 「泣き声に決着させる」というのは、 男のひとつのパターンなんです。 |
西川 | ‥‥おもしろいですねえ。 それ、ご本人に言われたことあるんですか。 |
糸井 | ないです。 そんな話をする タイミングないじゃないですか(笑)。 |
西川 | そのままお伝えしてもいいですか、今度。 |
糸井 | はい。 もうね、楽屋とかでは、 しょうもないエロの話をしてるのに。 |
西川 | 喜々としてますよね、そういうときは(笑)。 |
糸井 | もうね‥‥もう、バカ(笑)。 |
西川 | (笑) |
糸井 | そう。 だから、そういう悪いところと、 あの悲しそうなところが両方、 この映画の役では、出てますよね。 だからすばらしいんです。 |
西川 | ありがとうございます。 |
糸井 | この、伊野っていう男は、 大きな嘘をついているから、 告白をしょっちゅうしたがるじゃないですか。 |
西川 | そう。 告白のタイミングを失っている男の話です。 |
糸井 | 鶴瓶さんだよねえ(笑)。 |
西川 | そうやって考えると、おもしろいですね。 どこまでもオープンな感じじゃないですか、 鶴瓶さんって。 |
糸井 | うん、そうですね。 |
西川 | いったいどこまでつっこめば 閉じるのかっていう、 人の挑戦をどこまでも受けて立って、 どんどん開いていくんだけど、 最後の1枚だけは、 どこに扉があるのかわからないままに 終わるっていう‥‥ そういうタイプの人ですよね。 |
糸井 | ああ、それは‥‥ 自分もちょっと、そういうところがあるのかも。 |
西川 | あ、そうなんですか。 |
糸井 | いわば「人生の陽動作戦」みたいな(笑)。 |
西川 | 陽動作戦ですか(笑)。 |
糸井 | どんどん自分を開いて見せてね、 「だいたい脱ぎましたから」って(笑)。 |
西川 | (笑) |
糸井 | 「でも、よく見たら、 なんかちっちゃいの着てるじゃん」って。 |
西川 | それです(笑)。 |
糸井 | 「あ、気がついた?」っていう。 でも、西川さんも小説書いたりなさってるし、 映画もそうだけど、 「作者」をやってるときって、 みんなそうですよね、だいたいが。 最後の扉を開けないでしょ? 鶴瓶さんのことをいろいろ言えないんです。 |
西川 | まあ‥‥そうですねえ、確かに。 (つづきます) |
2009-09-03-THU