糸井 | ぼくは映画の人ではないので そこはよくわからないんですが、 どうすればいいんでしょうね? 世界で流行らせるには(笑)。 |
西川 | どうなんでしょう(笑)。 |
糸井 | たとえば北野武さんが暴力を描くことで 発明をしたじゃないですか。 無表情でぶっとばしちゃったり。 ああいう何か、 媒介になるような発明があれば、 西川さんの武器が もう1個できるのかもしれない‥‥けど‥‥。 うーん、いや、ちがうわ(笑)。 あんまりガツガツ望まないほうが いいんですよ、きっと。 |
西川 | ええ、そうでしょうね。 |
糸井 | それをやると、 マーケティングになっちゃうから。 |
西川 | うん。 |
糸井 | 欲が薄いからいいんですよ。 ぼくが個人的に好きなのはぜんぶそうなんだけど、 えらい人に褒められたいとか、 むやみに儲けたいとか、 どう言ったらいいですかね‥‥。 「夢は大きいほうがいい」と思って 作っている映画は、好きじゃないんです。 |
西川 | そうですか。 |
糸井 | 大型の映画は、意味が違いますよ? 『レッドクリフ』とかは、 ぜんぜんオーケーなんです。 あれは「夢は大きいほうがいい」じゃなくて、 ああいうことがしたかったんです、 っていう小ささを感じるんで(笑)。 |
西川 | (笑) |
糸井 | またそれとは逆で 「低予算なのに頑張んなきゃ」 っていうのが見えてもやっぱりね。 それはそれでつまんないというか、 苦しいんですよね。 |
西川 | ああ‥‥。 |
糸井 | その点、今回の作品も『ゆれる』も『蛇イチゴ』も そういうところではなくて、 やっぱり表現したいって感じがあって、 その感じを出したいから 映画を作っているわけで。 |
西川 | はい。 |
糸井 | そのために長いこと考えに考えて、 脚本を作り込んでいるんですもんね。 |
西川 | そうですね。 |
糸井 | やっぱりかかりますか、時間は。 |
西川 | かかりますねえ。 もっと早くできればいいんだけど、 だいたい3歩進んで4歩さがるみたいな、 そんな生活を繰り返しながら 書いているんで(笑)。 |
糸井 | 田舎に帰って考えるというのは、 本当なんですか。 |
西川 | はい。 田舎がいいってわけじゃないんですけど、 東京にいるとどうしても‥‥ |
糸井 | 田舎にいれば、ご飯のこととか 自分でしなくていいってことですね。 |
西川 | そうなんです。 24時間集中できる環境を作るために。 それでまあ、母親の世話になりながら やってるんですけど。 |
糸井 | 書くときは、大きなシナリオの 骨組みたいなものを作っていくんですか? それとも、メモをしていくみたいに? |
西川 | うーん‥‥実はまだ、 自分の方法論ができてなくて‥‥。 でも最初はやっぱり、 あらすじになるようなプロットを書きますね。 |
糸井 | それはまだシナリオの形じゃなくて、 まずストーリーを文章で? |
西川 | そうです、簡単なストーリーを文章で。 それがいちばん早いんです。 シナリオでやりはじめると、 ワンシーンずつ考えて、 シーンのつながりまで気にしてしまうんです。 それをやってると膨大な時間がかかって、 やってるうちに何がやりたかったのかを 見失っちゃったりするんですよ。 なので最初は、端的な散文でザーッと A4用紙2、3枚で書いてしまいます。 それをプロデューサーとかに見せて、 「おもしろいストーリーラインだね」 と言われれば、それを細かく分解していくという。 だから、A4用紙のペラ数枚が、 おおもとのテキストになります。 次に登場人物ひとりひとりの経歴・性格を、 年表みたいにズラッと書いて、 人物像を作っていきますね。 |
糸井 | どんどん、 「人と人」にしていくんですね。 |
西川 | そうです。 あとは取材をして、 資料がぜんぶ本当にそろったところで シーン1の風景と、 ラストシーンをどう閉めるかをまず固めます。 そしたら、そのあいだをひとつひとつ、 本当に1行1行、 もうジグゾーパズルみたいに ひたすら埋めていくという感じですね。 |
糸井 | そうですか。 それはコンピュータ上で? |
西川 | フリーハンドのほうが自由に構想できるので、 まずはペンで、 絵とかもいっしょに描きながら作ります。 これを昼間にやるんですよ。 それで、だいたいまとまったところで、 夜にパソコンで整理していく。 |
糸井 | それはいかにも、ふたり分の役を、 ひとりでやってる感じがして‥‥ なかなか大変ですね。 |
西川 | まあ、そうですね、大変です(笑)。 脚本がいちばん時間もかかるし、 迷うことも多いですね。 |
糸井 | でも、あとで自分が監督をやるわけだから、 現場で解決できたってことも あるんじゃないでしょうか。 |
西川 | もちろんです。 ただそれは自分で解決というよりは、 現場で助けられて、ですね。 |
糸井 | 自警団とかバットマンに(笑)。 |
西川 | そう。 「俺がなんとかするから!」って(笑)。 (つづきます) |
2009-09-11-FRI