『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
第9回 脚本は、ジグソーパズルを埋めるように。
糸井 ぼくは映画の人ではないので
そこはよくわからないんですが、
どうすればいいんでしょうね?
世界で流行らせるには(笑)。
西川 どうなんでしょう(笑)。
糸井 たとえば北野武さんが暴力を描くことで
発明をしたじゃないですか。
無表情でぶっとばしちゃったり。
ああいう何か、
媒介になるような発明があれば、
西川さんの武器が
もう1個できるのかもしれない‥‥けど‥‥。
うーん、いや、ちがうわ(笑)。
あんまりガツガツ望まないほうが
いいんですよ、きっと。
西川 ええ、そうでしょうね。
糸井 それをやると、
マーケティングになっちゃうから。
西川 うん。
糸井 欲が薄いからいいんですよ。
ぼくが個人的に好きなのはぜんぶそうなんだけど、
えらい人に褒められたいとか、
むやみに儲けたいとか、
どう言ったらいいですかね‥‥。
「夢は大きいほうがいい」と思って
作っている映画は、好きじゃないんです。
西川 そうですか。
糸井 大型の映画は、意味が違いますよ?
『レッドクリフ』とかは、
ぜんぜんオーケーなんです。
あれは「夢は大きいほうがいい」じゃなくて、
ああいうことがしたかったんです、
っていう小ささを感じるんで(笑)。
西川 (笑)
糸井 またそれとは逆で
「低予算なのに頑張んなきゃ」
っていうのが見えてもやっぱりね。
それはそれでつまんないというか、
苦しいんですよね。
西川 ああ‥‥。
糸井 その点、今回の作品も『ゆれる』も『蛇イチゴ』も
そういうところではなくて、
やっぱり表現したいって感じがあって、
その感じを出したいから
映画を作っているわけで。
西川 はい。
糸井 そのために長いこと考えに考えて、
脚本を作り込んでいるんですもんね。
西川 そうですね。
糸井 やっぱりかかりますか、時間は。
西川 かかりますねえ。
もっと早くできればいいんだけど、
だいたい3歩進んで4歩さがるみたいな、
そんな生活を繰り返しながら
書いているんで(笑)。
糸井 田舎に帰って考えるというのは、
本当なんですか。
西川 はい。
田舎がいいってわけじゃないんですけど、
東京にいるとどうしても‥‥
糸井 田舎にいれば、ご飯のこととか
自分でしなくていいってことですね。
西川 そうなんです。
24時間集中できる環境を作るために。
それでまあ、母親の世話になりながら
やってるんですけど。
糸井 書くときは、大きなシナリオの
骨組みたいなものを作っていくんですか?
それとも、メモをしていくみたいに?
西川 うーん‥‥実はまだ、
自分の方法論ができてなくて‥‥。
でも最初はやっぱり、
あらすじになるようなプロットを書きますね。
糸井 それはまだシナリオの形じゃなくて、
まずストーリーを文章で?
西川 そうです、簡単なストーリーを文章で。
それがいちばん早いんです。
シナリオでやりはじめると、
ワンシーンずつ考えて、
シーンのつながりまで気にしてしまうんです。
それをやってると膨大な時間がかかって、
やってるうちに何がやりたかったのかを
見失っちゃったりするんですよ。
なので最初は、端的な散文でザーッと
A4用紙2、3枚で書いてしまいます。
それをプロデューサーとかに見せて、
「おもしろいストーリーラインだね」
と言われれば、それを細かく分解していくという。
だから、A4用紙のペラ数枚が、
おおもとのテキストになります。
次に登場人物ひとりひとりの経歴・性格を、
年表みたいにズラッと書いて、
人物像を作っていきますね。
糸井 どんどん、
「人と人」にしていくんですね。
西川 そうです。
あとは取材をして、
資料がぜんぶ本当にそろったところで
シーン1の風景と、
ラストシーンをどう閉めるかをまず固めます。
そしたら、そのあいだをひとつひとつ、
本当に1行1行、
もうジグゾーパズルみたいに
ひたすら埋めていくという感じですね。
糸井 そうですか。
それはコンピュータ上で?
西川 フリーハンドのほうが自由に構想できるので、
まずはペンで、
絵とかもいっしょに描きながら作ります。
これを昼間にやるんですよ。
それで、だいたいまとまったところで、
夜にパソコンで整理していく。
糸井 それはいかにも、ふたり分の役を、
ひとりでやってる感じがして‥‥
なかなか大変ですね。
西川 まあ、そうですね、大変です(笑)。
脚本がいちばん時間もかかるし、
迷うことも多いですね。
糸井 でも、あとで自分が監督をやるわけだから、
現場で解決できたってことも
あるんじゃないでしょうか。
西川 もちろんです。
ただそれは自分で解決というよりは、
現場で助けられて、ですね。
糸井 自警団とかバットマンに(笑)。
西川 そう。
「俺がなんとかするから!」って(笑)。

(つづきます)

2009-09-11-FRI


まえへ
このコンテンツのトップへ
つぎへ