糸井 | もう、次の映画の準備もしてるんですか? |
西川 | まだぜんぜんこれからで、 次から次に生れてくるタイプじゃないので。 1本作ると抜け殻みたいになっちゃって。 |
糸井 | 粘って作るから、 消耗はするでしょうね。 |
西川 | 「次を作らなきゃ」っていうのはあるんですけど、 本当に面白いとか、 本当にこれはヤバい感情だな っていうものを見つけないと、 私の場合は何も始まらないので‥‥。 無駄な時間が必要なんです。 そういう時間に引っかかったことが、 本気でハラハラできるようなものになったら いけるんですよ。 やっぱり核のところが硬ければ どう振っても大丈夫なんです。 そこを見つけるまでは、 ちょっとやっぱり、 焦ったりするといけないなと思って。 今はだから、そうですね、充電中です。 |
糸井 | じゃあ、 けっこうたのしんでる時期なんですか。 |
西川 | ええ、 これからたのしめるかなという感じです。 |
糸井 | そうですか。 ‥‥あ、そうだ、あのことを言っとかないと。 |
西川 | なんでしょう。 |
糸井 | いや、今日お会いするのをたのしみにしてたので、 西川さんが書いたものを ひとつも読まないように気をつけてたんです。 あえて。 |
西川 | はい。 |
糸井 | で、『ディア・ドクター』を 最初に観たときの話に戻るんですけど、 とにかく観てよかったって思ったんですよ。 でも、この細かいニュアンスを 正確に人にすすめるのはむずかしいから、 すごく雑に「よかったよ」っていう文章を サッと書いて「ほぼ日」に掲載したんです。 そのとき、なんだったかな‥‥ 「すてきな曖昧さ」だか「最高の曖昧さ」とか、 なんかそんなふうに、 「曖昧」という言葉を使ったんですよ。 |
西川 | そうなんですか‥‥。 |
糸井 | そしたら、あとになって知ったんですけど、 西川さんの本のタイトルに あったんですよね、曖昧って‥‥ |
西川 | はい、『名作はいつもアイマイ』。 |
糸井 | そうそう、それです。 で、「やっぱりね」って。 ま、それだけのことなんですが(笑)。 |
西川 | へええ‥‥ あ、そうですか‥‥ いや、そんな偶然が。 |
糸井 | いや、偶然というか、 「曖昧」というのは、 わりとぼくもそういうところがあって、 自分のテーマなんですよ。 |
西川 | 曖昧さ。 |
糸井 | うん、曖昧さ。 |
西川 | はい‥‥。 |
糸井 | 「曖昧」という言い方で 出てくるときもあるんだけど、 「どっちつかず」と言うかもしれないし、 「言いようのないもの」と言うかもしれない。 「何かいいもの」っていうのも、 それの一種かもしれないです。 |
西川 | ええ、わかります。 |
糸井 | みんなが言っている因果関係、 「これこれこうだからこうなんだ」 っていうロジックに対抗する曖昧なものを、 もっとテーマにしたいんですよ。 妖怪とかを出さずにね(笑)。 |
西川 | そうですね、 それを出さずに。 |
糸井 | 逃げたり隠れたりしながら、 表現したいことがいっぱいあるもんだから。 |
西川 | 「言いようのないもの」。 |
糸井 | うん、「曖昧な」。 |
西川 | はい。 |
糸井 | だからぼくは、西川さんの映画と、 その本のタイトルを知って、 わぁ、いい援軍ができたなあと、 勝手に思っていたんです。 |
西川 | いやそんな、うれしいです。 |
糸井 | ぐずぐずしてたいんですよね。 |
西川 | ええ。 やっぱりぐずぐずの範囲が 世界にはいちばん広くて、 実はそこがいちばんおもしろいんじゃないかと 思っているので。 ジャッジできるものなんて、 大したことじゃないというか。 |
糸井 | そうなんです。 つまりジャッジができるってことは、 反復できるってことですから。 反復が心もとないもののほうが‥‥ おもしろいですよねえ。 |
西川 | そうですね。 |
糸井 | そこなんですよ。 で、それは「反マニュアル」なんですよね。 |
西川 | ええ、そうですね。 (つづきます) |
2009-09-15-TUE